ドタドタドタドタ・・・・・・・・・
ものすごい勢いで降りてくるその足音に目の前のアーロンがピクッて青筋を立てる。
毎度毎度の事ながら、あいつも懲りずによくやる・・・そして・・・
「うわあ〜〜!!」
ドタンドタンと足を滑らせて金髪が地面に仰向けになる。
「っはははは!毎度毎度よく転ぶなあ!」
「うっせえぞクソオヤジ・・・っあいってぇ・・・」
左腕を押さえてティーダはうめいた。
「・・・・・・階段を走るなとあれほど言ってもまだわからんのか・・・」
「ごめんごめん。じゃあ行ってきまーす!!」
押さえた腕はそのままに、ティーダはこれ以上時間をつぶしてなるものかと玄関に急ぐ。
「いってらっしゃい」
ブラスカがヒラヒラと手を振り、俺も手を振ってやる。
そうすると、ティーダはうれしそうにニカって笑うんだ。
バタンと閉じられたドアにはあ、と嬉しそうなため息をついて、ブラスカはズズッと茶を飲む。
「ティーダ君は本当に可愛いねぇ・・・朝からあんな笑顔を向けられると一日が幸せな気分だよ」
「ったりめぇだ!なんてったって俺様のガキだからよv」
「ええ・・・本当に君に似ないでよかったですねぇ・・・」
ズズズズズ・・・・・
「・・・・・オイ」
「なんですか?」
「朝っぱらから俺を怒らせて何が楽しいんだ?」
「別に怒らせてなんていませんよ。ねえアーロン?」
「・・・・・・俺に話を振るな・・・」
どうやらブラスカは、ユウナちゃんと俺のガキをダブらせて見ているらしい。
歳だって同じだし、そりゃあユウナちゃんはすっげえ可愛かったし、10年後のユウナちゃんったら
見違える程きれいに美人に育っちゃってよ。
きっと今のユウナちゃんの姿みたら、ブラスカは大泣きだろうな・・・・なんて思いながらリビングで
一人でタバコふかしてTVでも見ようかとリモコンのスイッチを押す。
「おいジェクト」
アーロンが2階から駆け下りてきた。
「俺はこれからブラスカの仕事に付いて行く。留守番頼むぞ」
「おいさ」
「じゃあ、よろしく頼むよ」
「おう」
バタン・・・
ティーダに引導をくれてやってブリッツを引退した俺は昼間は一番暇で、いつも留守番をさせられる。
他にしたい事もないし、監督は俺が引退する前に決まってたからなれねーし、ティーダにブリッツ
でも教えようとしたら『オヤジから教えてもらうなんてゴメンだね』って言われちまって。
けっ。暇でたまんねえっつーの。
つまらないTVの画面をずっとながめていたら。
急に電話が鳴って。
「はい」
『あ、オヤジ?アーロンいる?』
めずらしくティーダからで。今日は練習に行ったはずだけど・・・
「アーロンならいねえよ。なんだ?どうしたんだ?」
『・・・じゃあ、オヤジでもいいや。あのさ、俺の部屋の机の上に茶色い封筒があるから
それをエイブスの練習場まで持ってきてくれない?急いでねじゃあね』
「あ、ちょっと・・・」
早口すぎてわからん・・・と叫んでみたがすでに切れたあとで。
「あのクソガキが・・・なんだって?茶色い・・・?」
2階の奴の部屋の机の上に置いてあった、茶色い封筒を見つけ、仕方なしにちゃんと鍵をかけて
車に飛び乗る。
エイブスの練習場までは軽く飛ばして20分くらい・・・
エンジンをかけ、アクセルを踏み、髪を流れる風を感じながら、家をあとにした。
俺が練習場についた頃には、休憩時間になっていたらしくて。
車から降りた俺にいち早く気づき、ティーダは駆け寄ってきた。
「オヤジ、悪い、ありがとうな」
俺から封筒を受け取ると、向こうで立っている監督らしき人にそれを渡していた。
「ジェクトじゃないか」
ふいに肩を叩かれ、振り向くとそこには昔のチームメイトであった、アンヘルがいた。
「久しいな、お前がブリッツやめてから会うのは久しぶりだ」
なつかしさが込み上げてくる。
この異界は、夢のザナルカンドとスピラが合体したようなところで、昔の仲間がそのままの姿で
存在していた。もちろん、エイブスも。チームのメンバーはティーダがスピラに来る前のメンバー
だったから、俺の知っているプレイヤーは少ししかいなかったが。
それでも、昔の友の息子だったり娘だったりがメンバーなところは、エイブスが愛されている
証拠だな・・・と感じる。
俺の目の前にいるこいつも、息子はエイブスのディフェンダーだ。
「ジェクトは今日は何の用で来たんだい?」
「ガキの忘れモンを届けに来たんだ」
「・・・・・・実は俺もだ」
2人で声を上げて笑う。
「オヤジ、なにやってんだよ」
「そうッスよ。こんなとこで大笑いなんかしちゃって」
駆け寄ってきた息子達が訝しげな表情で見つめてくる。
終いにゃ監督まで駆け寄ってきて、監督も俺達のメンバーだったもんだから、3人で話が弾む。
「もう一度・・・このメンバーでやりたいな、ブリッツ」
「・・・ああ・・・」
「いっそOB対現役っての、考えちまおうか?」
「じゃあ、俺の監督のコネでなんとかしてやろうか?」
なんて、冗談みたいな会話をずっと続けていると、どうやら休憩時間の終わりのようだ。
遠くでティーダが俺達に向かって手を振っている。
「おっと。もう休憩は終わりだな・・・」
「そうか・・・じゃあそろそろおいとまするかな」
腰を上げた俺の顔をみて、監督が、あ!と声をあげる。
「お前たち、練習に参加しねえか?」
「本日の紅白試合に、特別にエイブスのOBの方が参加する事になった。
ティーダのお父さんのジェクトと、アイクのお父さんのアンヘルだ」
うおー!と盛り上がるメンバーたちをよそに、ティーダの野郎は浮かない顔をしていた。
俺とやるのがそんなにおっかねえってか?
ハンデって事で、俺達にはベンチの人間が入ったけど、まあそれでも負ける気なんざ、毛頭ねえぜ。
俺様の実力ってのをはっきりと思い知らせてやるぜ。
プールに入って、久しぶりの水の感触に体を預ける。
気持ちいい。
それはアンヘルも同じだったらしく、両手で水を掻き分けながらゆっくりとスフィアプールを一週していた。
ティーダ達が入ってくる。すんごい形相だな、オイ。
昔から俺にあんな顔してたよな、ティーダは。
まだ直接対決はした事なかったか。んなら、丁度いい機会だ。
「キングオブブリッツがどれほどのもんなのか、お前達に見せてやるぜ」
水の中で叫んで、センターフォワードの位置につく。
ティーダも、自分の位置につく。
ブリッツボールが高く上がった瞬間、俺とティーダはボールに向かって跳ね上がった。
「やっぱかなわねーな、ジェクトさんはすっげえぜ」
シャワーを浴びていると、背後でエイブスの若い連中が騒ぐのが聞こえた。
「俺ティーダより水の中で速く動ける人初めて見たぜ!」
「ジェクトさんも遠慮がないよな。ティーダの事何回もぶっ飛ばしてたぜ」
「でもよ、やっぱティーダもあの人の息子だな。俺達完璧置いてけぼりくらったもんな」
練習試合は俺達ので8対4で俺達の勝利。俺は6点決めて、あいつは3点をあげた。
ティーダはさすがは俺様の息子なだけあって手強い相手だった。
でも、俺は容赦なんかしなかった。
得意のタックルでティーダの体を何度もぶっ飛ばした。
それでも何度でも立ち向かってくるティーダは、すでに完全なエース。
俺様みてえになるまでにはまだまだ時間が必要だろうけど、いずれ俺に負けず劣らずの
エースになるだろうな。
シャワールームで俺はご機嫌で熱いお湯を頭からかぶっていた。
「お、ティーダ。傷大丈夫か?」
保健室から帰ってきたらしいティーダにチームメイトが話し掛けた。
「ん。大丈夫だよ」
「な・・・・・・お前、それのどこが大丈夫だよ!やべえじゃん!」
「先生、ティーダの具合はどうなんですか?」
「骨に小さいけどヒビが入っていたから固定させといたよ。少なくとも1週間は試合には
出させないでくださいね、監督」
ヒビ?俺そんなに強くタックルしたか?!
慌ててシャワー室から飛び出す。
ティーダの左腕には腕にあう幅の木の板と包帯がぐるぐる巻きにしてあった。
「ジェクト、こりゃちとやりすぎだぞ」
「・・・すまん・・・」
ティーダはなぜか俺の顔を見ると申し訳なさそうな顔して。
「わりぃな・・・ティーダ。ちょっとやりすぎたわ・・・」
「別に・・・いいし。避けられなかった俺が悪いんだし」
おかしい。いつもなら突っかかってくるはずなんだけどなあ・・・。
「・・・アーロンに電話してくるよ」
頭に浮かぶ疑問を跳ね除けながら携帯で家に電話をかけた。
「まったく、君がついていながらティーダ君に怪我させるとはね」
「だからわりいって言っただろうが」
食後の紅茶を飲みながら嫌味ったらしくいうブラスカのセリフは、俺達が帰ってからもう7回目。
もううんざりだ。
「君の大事な息子だろう?もっと可愛がったらどうなんだい?」
ティーダがいないのをいい事にネチネチと・・・うるせえ姑みたいだ。
「まったくだ・・・。もう少し加減してやったらよかったのに」
アーロンまでそういう始末。コーヒーに手を伸ばして、アーロンに言ってやった。
「俺が手ェ抜いたらそっちの方が、あいつ怒るだろうがよ・・・」
「・・・・・・ま、そうだな」
アーロンが頷いてキッチンに消えると2階からティーダが降りてくる音。
朝と違って一段一段ゆっくりと。
「ティーダ君、お風呂かい?」
「あ、うん」
「その腕じゃ洗えないだろう?私が一緒に入ってあげるよ」
「え、ええ?!」
仰け反るティーダと同時に俺は思わず口に含んだコーヒーをものの見事に噴出したわけで・・・。
「なーんてね。冗談だよ。ジェクト。ちゃんと手伝うんだよ」
「そうだジェクト。お前のせいなんだからな」
「・・・つーわけだ。入るぞ」
何か口ごもるティーダの首根っこをつかんで風呂場へと運ぶ。
→next 小説置場に戻る