ビバ! 人魚 - プレゼント

【2.たてこもり】

 次の朝、お父さんとお母さんが仕事に行ってからも、私は部屋から出ようとしなかった。

 海人に、会うのがイヤだったから。

 お腹が空いてきたら、台所からパンを持ってきて、自分の部屋で食べたし、テレビだって見に行ったりしなかった。

 やることもないし、たまっていた冬休みの宿題を、やっつけてた。あんまり気分がのらなかったけど。

 そうやって、私がわざわざ海人のことを避けていたのに、海人はなんだか、私に構ってこようとしてきて。

「あの……おひるごはん、たべよう?」

 ふすまの向こうでそんなことを言う海人に、

「宿題やってるの、じゃましないで」

 って言って追い払った。

 それからも何度も、海人は構おうとしてきたけど、私は夕ごはんのときまでずっと、海人とは会わずに過ごした。

 お母さんが帰ってきて(お父さんは、今日は遅くなるって言ってた)、夕ごはんは私の好きなイカフライ弁当だったけど、私は「食べない」って言って、お母さんは困ってた。

「じゃあ、食べたくなったら言ってね」

 絶対言うもんか、って思ったけど、しばらくして寝ようと思っても、おなかがすいて眠れなかったから。

 仕方なく、部屋から出て、リビングに向かったの。

「あら智、やっと食べる気になってくれた? 私も海人も、待ってたのよ」

 そう言って、お母さんは三人分のお弁当を温めはじめた。

 余計なこと、しなくてもいいのに。お母さんのせいで、私は海人と一緒にごはんを食べることになっちゃって。

 海人はちらちらっとこっちの方を見てきたけど、私はわざと目をそらしたりした。お母さんはまた、困った顔をしてた。

 その夜。やっぱりなかなか眠れないで、でも布団の中でじっとしていた、リビングから話し声が聞こえた。

「やっぱり、智は海人とは気が合わないみたいだな」

「そうねぇ。いきなり弟ができて、戸惑っているだけだったらいいのだけど……」

「とりあえず、予定通り、一週間様子を見て、それでも馴染めないようなら……」

「そうね、その時は仕方ないわね……」

 どきどきした。

 そっか、仲悪くしていればいいんだ。そうすれば、海人は出ていくんだ。元にもどるんだ。

 もうダメだ、って思ってたけど、ダメじゃないかもしれないんだ。

 余計に眠れなくなったけど、でも、私は、明日からどうやって仲の悪さを見せつけようかって、布団の中でずっと考えた。

(c)Kanata Tohno

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