ビバ! 人魚 - プレゼント

【3.いやがらせ】

 そして、私の「海人追い出し作戦」はスタートした。

 作戦その1。いつもより早起きをして、チャンスを待った。

 お母さんとお父さんが出かけてすぐ、私は急いでリビングに向かった。お母さんが用意してくれた朝ごはんがテーブルの上に、昼ごはんが冷蔵庫の中に、あるはず。

 海人と私、二人ぶんのごはん。一人で食べるにはちょっと多いけど、ガマン、ガマン。

 まずはテーブルの上のほうから。両手に持って、ゆっくりと、自分の部屋に運ぶ。

 海人が起きてくる前に、朝ごはんも、昼ごはんも、私の部屋にかくさなきゃ。

 そして、海人はおなかがすいて、もうイヤだって家を出ていって……。

「あれ、おねえちゃん、おはよう。なにしてるの?」

 作戦失敗。

 だって、海人があんなに早起きだとは思わなかったんだもの。

 そのあと、作戦その2その3その4も、あんまりうまくいかなかった。

 海人の見てるテレビを消したり、なんだかよく分からないヘタな絵を描いてるところをじゃましたり、ぶつかったふりして、わざとたたいたりもしたけど、ちょっとだけイヤな顔をして、すぐに普通の顔にもどっちゃって。

 夕方、お母さんが帰ってきたときには、もうにこにこしちゃってるんだもの。

 私は最後の作戦をためしてみようと思った。これなら、ぜったい、海人も平気じゃいられないから。

 夕ごはんの時間。今日はカレー。絶好のチャンスだ、って思った。

 支度が終わって、お母さんが海人を呼びに行っているすきに、海人のカレーに、こしょうを、たっぷりとふりかけた。

「……くしゅん!」

「あら、智。大丈夫? 風邪かしら?」

「ううん、なんともないよ、だいじょうぶ」

 こしょうのビンをあわてて隠した。

 ……よかった、見つからなかったみたい。

 そしてついにその時が来た。

「いただきます」の後、私は自分のカレーを食べながら、海人の様子をちらちらと見ていた。

 海人は、一口食べて、固まった。そして、あわてて水を飲んだ。

「あら。辛かったかしら?」

「……あ、うん、だいじょうぶ」

 そう言ってるけど、顔はひきつっていて全然だいじょうぶじゃない。

「もしかして、間違って智の中辛をそっちに入れちゃったかしら?」

 うちのレトルトカレーは、お父さんが辛口、私とお母さんが中辛。で、海人はもちろん甘口。これまでもたまに、私のにお父さんの辛口がかかってたことがあった。

 だからお母さんは、また間違ったと思ってるみたい。

 お母さんは海人のお皿に手を伸ばして……。

「あっ……」

 私が止める前に、お母さんはこしょうカレーを味見しちゃって。

「!? これ、こしょう?」

 私が海人のことを嫌いなのは、お母さんも気づいていたから、犯人が私だっていうのはすぐにばれた。

「智! なんでこんないじわるするの!?」

「……」

「あとでお父さんと3人で、詳しく話を聞かせてもらうからね!」

「……」

 そう言って、私を食卓から追い出した。

「ごめんね、海人。今、なんか他のものを作るから……」

 お母さんの優しい声が、海人に向けられている。

 一人ぼっちになっちゃった。そんな気がした。

 夜、たっぷりと怒られて、自分の部屋に戻って。ものすごく、イヤな予感、というか予想が、頭に浮かんだ。

 もしかして、もしかすると。

 海人がこの家に残って、私が追い出されるかもしれない。

 お母さんも、お父さんも、もう私のこと、嫌いになったはずだもの。

 ……それとも、逆かな。

 嫌いになったから、代わりに海人をもらってきたのかな。

 すごく怖かった。

 追い出されらどうしようって、そればっかり考えて。眠れなくて。

 追い出さないで、なんていまさら言えない。だって、私、海人を追い出そうとしたんだもの。

 ばちが当たったんだ。

 次の日。リュックに、おこづかいと、着替え少しと、食べ物を入れて。

 私は、家を出た。

(c)Kanata Tohno

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