変わる時



しどろもどろになりながら、僕とローズさんが会話を続けていると、ローズさんが不意に僕の手
の中にあるノートを指差した。
「ヒグラシくん、さっきから気になっていたんだけどそれは何?」
「これですか?これは思いついたフレーズとかメロディーを書き溜めておいてるノートなんです
けど……やっぱりいろんな人の音楽を聞くと、刺激になっていろいろ浮かび上がりますね」
「ふーん……」
ローズさんは何かを考えるように僕を見ると、ひょいっとノートを突然摘み上げた。
「あっ、ちょ、ちょっと?!」
慌てる僕に気がつかないふりでもしてるのか、ローズさんは気にせずノートをめくる。
ほ、本当にメモをとってまとめてるだけだから人に見せられるものでもないんだけど……。
ローズさんが時々うなづくように微笑んだりしながら真剣なまなざしで一枚一枚ノートをめくっ
て行く。
やがて今書いてある最後のページまでノートをめくり、ローズさんが一つ息を吐いた。
「……ローズさん?」
「あ、ごめんねいきなりもってちゃって、はい」
ローズさんが僕にノートを手渡す。
僕はドキドキしつつもノートを受け取った。
「……やっぱり思った通りの子だ」
「え?」
ローズさんの言葉の意味を取りかねて僕は首をかしげた。
ローズさんはにっこりと微笑むと僕の頭に手をおいた。
「うわっ?!」
「君は、とても美しい言葉をつむぐんだね」
ローズさんが言葉を続ける。
「ステージで君を見たときから思ってたんだけど、君の言葉は純粋で、綺麗で、どこからこんな
綺麗な言葉がでてくるんだろうと思ったんだけど……君が純粋で綺麗なんだ」
ローズさんが頭に乗せた手を今度は僕の心臓辺りにあてる。
僕は、ドキドキしてるのを気づかれるんじゃないかと思ってさらに心臓をドキドキさせてしまう。
「そ、そんな、僕なんか……」
「ううん、君は綺麗だよ。最初はたんなる興味だったけど、君と話してわかった。君は……とて
も純粋で綺麗で、まっすぐな心を持っている」
ローズさんはちらりと壁にかかっていた時計をみると、また僕の頭をぽんぽんと叩いた。
「本当はもっと君と話したいんだけど……そろそろステージの準備をしなきゃ」
残念そうにローズさんが小さく肩をすくめる。
そんなローズさんを見て、僕ももっとローズさんと話してみたいと思った。
いままで憧れで、雲の上の存在だったローズさんがこんなに近くにいる。
せっかくの夢ならばもっともっとローズさんの近くに寄りたい。
「あ、あの」
そう思った瞬間、僕の口は勝手に開き、言葉を発していた。
「そ、それでは、パーティが終わった後にお食事でも一緒にいかがですか?」
ローズさんが驚いたように僕を見る。
「あ、ええと、その僕も憧れのローズさんに会えて、その、もっといろいろ勉強したいんです」
勉強したいのは本当のことだし、ローズさんともっとお話したいのも本当のことなんだけど僕の
心ははじけてしまいそうなぐらいドキドキしていた。
「本当に?それじゃあ、ちょっと日本を案内してもらおうかな」
「ぼ、僕でよければ、ぜひ!」
ローズさんが困ったように笑う。
何か失礼でもしてしまっただろうかと僕の頭は混乱してしまう。
そんな僕の様子を察してか、ローズさんが僕の肩をぽんと叩く。
「ふふ、君は本当に謙虚だね……僕は、ヒグラシくんともっと話したいんだよ?君は自分が思っ
てるよりもずっとずっと素晴らしい人なんだから、もっと自信持って、ね?」
「あ……」
僕はまた恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じた。
「それじゃあ、また後でねヒグラシくん」
「は、はい!」
ローズさんが僕に手を振ってその場を立ち去る。
僕は、ローズさんがその場を立ち去った後もしばらくそこを動けなかった。


『ウィリアム・ブレイク・ローズさんです!どうぞー!』
司会のウサギの女の子と猫の女の子がローズさんの名前を呼び、ステージが開く。
そこには僕の憧れだったローズさんが立っている。
さっきのことがまだ夢のように思えるけど、頭と肩に残った感触が現実を物語っている。
うん?憧れだった?
……そうかもしれない。
僕自身、まだわからないし戸惑ってるし、どうなるかわからないけど。
僕もローズさんも男だし、パーティのドキドキ感と錯覚しているのかもしれないけど。
きっと、今日、この日この時に名前をつけるならば。


……憧れが恋に変わる時。


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