変わる時



僕の好きな物、それは中古CD屋さんのワゴンセール。
目をつぶって、適当に何枚かのCDを手に取る。
名前も知らない、新しい音楽に出会えるのが楽しみでついついやってしまう僕の趣味。

そうやって一枚のCDに出会ったのが2年前の話。
そのCDの人が海外で有名なアーティストさんだと知ったのはもうちょっと後の話。
そして、その本人が今僕の前にいるのは……何の冗談ですか、神様?


−変わる時−


第6回ポップンパーティ。
名前だけは前々から知っていたけど、自分が招待されることになるなんて夢にも思っていなかった。
そこは音楽を生業にしてる人から世界中、いや宇宙にもその名を轟かせる大スターの人までたくさん
の人がいて、僕みたいな一般人がここにいるのが恥ずかしくなってしまった。
けど、ここにこなければきっと一生知り合うことのなかったであろう人たちといっぱい言葉をかわす
ことが出来たのはとてもいい勉強になったし、思い出にもなったと思う。
そんなことを考えながら、椅子に座ってぼんやりとステージを僕は眺めていた。
手には愛用のノートと鉛筆が握られている。
ここにいると心地よい刺激が、僕の頭から次々とフレーズを浮かばせてくれる。
僕は浮かんだフレーズを忘れないうちノートにメモしていった。
「こんにちは」
ふいに、僕の頭上から落とされたその言葉に顔を上げるとそこには一人の男の人が立っていた。
いつのまに近づいてきたのだろう、全然気がつかなかった。
僕はその男の人を見た。
スラリとした長身、三色に塗り分けられた綺麗な髪の毛、なんというか露出度の高い派手な服。
「隣、いいかな?」
心地よく響く低温の声。
僕は、直接会ったことはないが確かに、この人を知っていた。
「え、あ、どうぞ」
「失礼するよ」
その人が椅子を引いて僕の隣に座る。
そのしぐさでさえ、どこか優雅な雰囲気を漂わせていた。
「あ、あの」
「なんだい?」
僕は心臓をドキドキさせながらその人に尋ねた。
「……ウィリアム・ブレイク・ローズさんですよね?」
僕が尋ねると、その人は一瞬驚いたような顔をしてふわりと微笑んだ。
「ボクのこと、知ってるの?嬉しいなぁ」
「え、えっと、昔、偶然CDショップで見かけて……」


2年前、バイト代を手にした僕はいつものように中古CDショップに向かった。
お目当てのCDを何枚か手にした後、ワゴンの中を覗く。
僕にとってワゴンの中に無造作に詰め込まれたCDは宝の山だった。
まだ聞いたことのない未知の音楽がこのワゴンには詰め込まれている、僕は何枚かのCDを無作為に
選び取って会計へと持っていった。
そのなかにあった一枚のCD。
シンプルな伴奏に、日本語と英語の入り混じった歌詞、そして何よりもその特徴のある声。
その歌声に、僕は即座に心を奪われた。
その歌い手がウィリアム・ブレイク・ローズさんというイギリスで人気のあるアーティストだと知っ
たのはこのCDを買ってからもう少し後の話で、その日から僕はこの人のファンになった。


素直にファンだということを伝えると、彼は嬉しそうな顔をして「ありがとう」と一言僕に言った。
「改めましてこんにちは、ウィリアム・ブレイク・ローズ…ローズでいいよ」
そういってローズさんが改めて僕に自己紹介をすると、僕はまだ自分が自己紹介をしていないのに気
がついた。
いけないいけない、舞い上がってるのかな、僕。
「は、はじめまして、僕は……」
「ヒグラシくんでしょう?」
自己紹介をしようとする僕の言葉をさえぎり、ローズさんが僕の名前を呼ぶ。
「え、なんで名前……」
「ステージ見たよ、素敵だった」
僕は、緊張で頭が真っ白になっていたさっきの自分のステージを思い出す。
すごい人に見られてしまったんだと思うと、恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じた。
「す、素敵だなんて、そんな……恐縮です」
「ふふふ、恥ずかしがらなくてもいいのに」
ローズさんがくすくすと笑う。
その姿は名前の通り、薔薇が咲いているように僕の目に映った。
「でもやっぱり恥ずかしいです……そういえば、日本語お上手ですね」
「うん?ああ、これね、ボクは日本が大好きでね」
そういえばローズさんの歌詞には日本語が混じってるものをたくさんあったっけ。
「大好きで独学で習得しちゃったんだけど……なんかおかしいところでもあるかな?」
「い、いいえ!とてもお上手です、はい」
「ふふ、ありがとう」
ローズさんがまた、ふわりと微笑む。
僕はその顔に思わず見とれてしまう。
僕は憧れの人に出会えて、胸がいっぱいで、ドキドキして、何を話していいのかわからなくなってし
まった。


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