あの日



「やった、ヒグラシさん、うち寄ってくの?!」
「うん、久々にあったんだしじっくり話でもしたいなぁって思ってね」
「ヒグラシさん久しぶりにゲームでもしようぜ!」
「あはは……」
「こら、ヒグラシは俺の客だぞ、わがまま言うんじゃない」
「ちぇー」
「やれやれ、サイバーのいつものわがままがでたウパ」
「あっ、こんにゃろ!さり気に俺の悪口いいやがったな!」
「ワルグチじゃないウパ!ホントのことウパ!」
パーティが終わったあとのにぎやかな帰り道。
真っ暗な道を僕と、サイバー君、それと新しい家族になったという宇宙人のパル君、そしてマコト先輩とで歩く。
なんとなく見慣れた道を歩いていると、見覚えのあるお店が見えてくる。
「……変わってませんね」
「そりゃ、4年程度じゃ変わらないさ」
『カットハウスサイバ』と書かれた看板のある店内を通り抜け、居住区へと入る。
「ただいま」
「ただいまー!」
「ただいまウパー」
「おじゃまします」
靴を脱いでそろえると奥から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「おかえりなさい、お風呂沸いてるわよって……あら!」
「お久しぶりです、おばさま」
「ヒグラシさんじゃないの!久しぶりねー、どうしたの?」
「パーティで偶然会ってさ、色々話したいこともあるからつれてきたんだ」
「あらあら、もう家のマコトったらヒグラシさんが遊びに来なくなってからすごいへこみようでねぇ」
「母さん、余計なこと言わないでくれよ!ヒグラシ、俺の部屋行こう」
マコト先輩が僕の手をひっぱって階段へと進んでいく。
マコト先輩の頬にほんのりと朱色が混じっているのが見えた。



マコト先輩の部屋は、物が増えているくらいであまり変わっていなかった。
「変わってないだろ?」
僕が部屋を見回してると、ジュースとお菓子の乗ったお盆を持ったマコト先輩が戻ってきた。
「ええ……そうですね」
「案外変わらないもんだよ、4年程度じゃ」
お盆をテーブルの上に置き、マコト先輩が僕の隣に腰を下ろす。
二人っきりだということを意識するとなんだか照れてしまう。
さっきは無意識で言ってたけど意外と大胆なことを言ってしまったのでは……?
「何か、夢みたいだな」
マコト先輩が言葉をもらす。
「俺とヒグラシがまた二人でこの部屋にいるんだ……」
「そうですね……」
沈黙が続く。
そっと部屋の中を見回すとベッドの下に何かがあるのが見えた。
「……これ、まだここに隠してるんですか」
「あっ!」
それは一本のビデオテープ。
まぎれもない、『あの日』の出来事の発端となったビデオテープだった。
「物持ちいいですね……」
「……なんとなく捨てられなくてさ、一応思い出の品だし」
マコト先輩が頭をかきながら照れた表情を見せる。
「……見るか?」
「……遠慮しておきます」
僕はベッドの下にテープを戻した。



気がつくとマコト先輩がそっと体を寄せてきていて、僕の唇に口づけを落とした。
「4年ぐらいじゃ意外と変わらないもんだよな、物も、景色も……そして気持ちも」
「……そうですね」
どちらからといわずベッドになだれ込む。
マコト先輩が僕の上に覆いかぶさってそっと髪の毛に唇を寄せる。
「……髪の毛ずいぶんと伸びたな」
「そうですね、もう半年ぐらい切ってないでしょうか」
「今度また、切ってやるよ」
マコト先輩が僕の肩に手を乗せる。
「ヒグラシ、好きだ」
「……僕もです、マコト先輩」
何かを確認するように呟いたマコト先輩の言葉に僕は続けた。
マコト先輩が僕のシャツに手をかける。
「……今度は忘れないでくれよ?」
マコト先輩が心配そうな目で僕を見る。
「忘れませんよ……絶対に」



そうだ、やり直しじゃない。
これが僕とマコト先輩の新しい恋の始まり。
4年越しの恋は、やっと今スタートラインに立った。


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