5回表、エリカは手の豆のせいでコントロールに苦しみ、ノーアウト満塁の大ピンチを迎えた。
相手も本気だ。先頭バッターのセーフティーバント、次のバッターのバスターでセンター前ヒット、
ライト前ヒットと続き、エリカに襲いかかった。
俺はマウンドに向かった。エリカの表情は険しかった。
「レオ! 全員三振に取るわよ!」
「あ、ああ」
俺は返事しか出来なかった。
次のバッターは何とか三振に取った。だがまだワンアウト。
 カキーン!
初球を叩かれ、打球はレフトへ。
椰子が追いかけグラブに収まった―――様に見えた。
椰子はグラブにはじいて落としてしまった。その間にランナーは2人還ってしまい4−2となってしまった。
「チッ」
そしてエリカはマウンドを踏みつけた。椰子は帽子を取って頭を下げていた。
ワンアウト1,2塁。結構ピンチだ。
……
なんとか今のバッターをカウント2−2とし、俺はスライダーのサインを出した。
5球目――
「!」
エリカはサインを無視しカーブを投げてきた。コントロールを乱しショートバウンド。
しかも俺は後ろに逸らしてしまい、ランナーは2,3塁となってしまった。ピンチが広がり、内野が皆マウンドに集まった。
「すまない、エリカ」
「フン、あれぐらい止めなさいよ!」
「そういうエリカだって俺のサインを無視したでしょ!」
「おいおい、ケンカしてる場合じゃねーだろ?」
カニに制止されてしまった。ちょっと興奮しすぎたみたいだ。俺は深呼吸した。
「エリカ、自分の仲間を信用してくれ。それが上に立つ者の心構えってもんだろ?」
少し冷静になった俺はエリカを刺激しないように注意した。
「そーそー。レオの言う通りだぜ? このシャーク様にお任せだぜ!」
「バックはオラ達に任せるべ!」
「姫、僕たちが死んでも守り抜いてやりますよ」
頼もしい奴らだ。


「エリカ、指に豆が出来ている以上、力押しは無理だ。コーナーを突いて打たせ行こう!」
「……わかったわ。バックはみんなに任せるわ!」
そしてみんなはそれぞれ散っていった。
「ちょっと、レオ」
エリカに呼び止められた。
「いちいち部下の失敗に腹を立ててたらとても上は務まらないわね」
笑顔で言うエリカ。俺は何も言わず笑顔を返し、持ち場へと戻った。カウントは2−3。右バッターに対し外角低めのストレート。
 カキン!
打球はファーストへ。
「んな―――!!」
フカヒレはライトに抜けそうな打球に飛びついた。
が、打球はイレギュラーし、グラブではなく顔面にボールが飛び込んだ!
「ぶべらっ!?」
ボールは前に転がり、ベースカバーに入ったエリカがボールを拾って一塁を踏んでアウト。
その間に三塁ランナーがホームインし、4−3と一点差になってしまった。
「ごべんばばい、ひべ(ごめんなさい、ひめ)」
フカヒレは鼻血を垂れ流しながら姫に謝った。
「ナイスガッツよ、フカヒレ君」
エリカはポンとフカヒレの肩に手を置いた。てっきり怒るのかと思ったけど。落ち着いたみたいだな。
次は3番。クリーンアップだ。相手は左バッター。体格からして強打者と見ていいだろう。
まずはカーブで1ストライクを取り、インハイのストレートで2ストライク。そして高めのストレートで1球外して2−1とした。
(よし、ここで決め球…)
速度差を利用したチェンジアップを要求。5球目―――
((しまっ――))
エリカはコントロールミスで真ん中寄りにボールが。
 カキン!!
思いっきり引っ張られた打球はファーストへ!
「へ?」
 ボゴッ!
打球はフカヒレの顔面にライナーで直撃。多分目の前にはボールしか映ってなかったろうな。
ボールは空に舞い上がり、村田がキャッチしてアウト。3アウトチェンジとなった。
フカヒレは気絶し、村田にベンチへ引きずられてきた。


「大丈夫かな? フカヒレ君」
佐藤さんは心配そうにフカヒレを見ていた。
「鮫氷! 起きろ!」
乙女さんはフカヒレに往復ビンタをしたが起きる気配がない。
「しょうがない……」
乙女さんは仰向けに寝ているフカヒレの鳩尾に拳を打ち込んだ。
 ドスッ!!
うわー。重い音。
「うっひょ―――!!」
「あ、起きた」
「うおぉぉ……」
起きたフカヒレは苦悶の表情をしていた。
『9番ファースト、フカヒレ君』
「次はフカヒレの番だぞ?」
俺はフカヒレにバットを渡した。
「やったる!」
気合十分? そしてバッターボックスに向かうフカヒレ。
(大丈夫か? アイツ)
すぐに2ストライクに追い詰められた。
「くっそー! ここで打って専用ルートに!」
フカヒレがスイングに入った。
(ありゃ?)
 カキーン!
打球は右中間へ。そして2ベース。
「よし! さっきは無様な姿を見せたが今の俺の活躍でハーレムルートに…」
なんかほざいてるけど気にしないでおこう。多分マグレだろうし。
「(ヘルメットがずれて何も見えなかった事は言わないでおこうっと)見てたかい!? 女の子達!」
 シーン
だれも声援を送ってはいない。見てはいたんだろうけど。
「くそっ! 俺の活躍に黄色い声が上がってないだと!? かくなれば…!」
『1番センター、伊達君』
スバルが打席に入った時、ある事に気付いた。フカヒレのリードがでかい。まさか――


「走りやがった!」
フカヒレはインパラのごとく俊足を見せ、三塁に滑り込む。
キャッチャーからは矢のような送球が――
 チ―――ン!
矢のような送球はフカヒレの股間に「ストライク」していた。
「〜〜〜」
声にならない声で股間を押さえながらピョンピョンするフカヒレ。
「死(アウト)だね、ありゃ」
カニがそんな事言っていた。
その間にベースを離れたせいでタッチされて1アウト。
ピョンピョン跳ねながらベンチに戻ってきたフカヒレ。
 シュ〜
手当てのためかフカヒレの股間にコールドスプレーをかける佐藤さん。
「よっぴーが俺の股間に…ハアハア……グハァ!?」
そして皆にボコられるフカヒレ。
「いや、そこは冷やしてもダメだと思うけど」
「え? そうなの?」
女の子にこの痛みはわかるまい。
さて次のバッターは―――
「しぎゃあぁぁ!??」
股間を押さえ、突然フカヒレが叫びだした。コールドスプレーかけただけだろ?
と、思ったが佐藤さんの手には「エアー○ロンパス」が握られていた。
「ぐおぉ!? ね、粘膜に、粘膜に染みるうぅぅ〜!!!?」
フカヒレ、成仏してくれ。
その後、スバルとカニが出塁したが、
「ウソっ!?」
「な!? バカな!?」
姫と乙女さんがまさかの連続三振を喫し、無得点に終わった。さすが本職というべきか。
投球タイミングと変化球、直球のコンビネーション、
キャッチャーのリードがなければあの2人を抑える事は難しいだろう。

6回表、ツーアウト三塁。


(やばいな……)
同点のピンチだ。カウント1−2とし、第4球――
 カキーン!
やばい! エリカの右脇を抜ける――!?
「同点になんか、させないっ!」
エリカは素手である右手でセンター前に抜けるボールを弾いた。
こぼれたボールをイガグリが拾い、一塁に送球して3アウトチェンジ。
「エリカ! 大丈夫か!?」
エリカは右手を押さえながらベンチに戻ってきた。
「エリー、手を出して!」
佐藤さんがエリカの右手をつかみ、応急措置を始めた。
エリカの手は、人差し指が腫れ、豆が潰れていた。中指も突き指していた。
とてもじゃないがこれ以上は投げられないだろう。
この回の攻撃は椰子が三振、村田が内野安打で出塁し、俺が送って得点圏にランナーを進めたが、
イガグリがフォアボール、フカヒレが三振で無得点。あと一打が出ない。

エリカはこれ以上続投させる事は出来ない。こうなると――
「私はピッチャーやるのはこれ以上無理だけど、軽い送球はできるわ。攻撃力を落とさないために私をファーストに入れてくれる?」
まさかのエリカからの降板の申し出だ。
「わかった。エリカはファーストに。サードにフカヒレが入って、ピッチャーは……イガグリ」
「オラに任せるべ!!」
7回表の守りはイガグリのフォークが冴え、ランナーを出しながら無得点に抑えた。
(やっとオラの活躍を見せ付けることが出来るべ!)
この回の攻撃は先頭のスバルがセンター前ヒットで出塁。カニが進塁打を打ち、エリカが犠牲フライを打ち上げ、
ツーアウト三塁。バッターは乙女さん。
「やっと本来の調子が出てきた」
乙女さんはそういいながら首をコキコキ鳴らしながら打席に入った。
「さっきは三振となったが、この雪辱は晴らさせてもらう!」
 カッキ――ン!!
そして2ランホームラン。エースからの初得点だ。


6−3の3点リードとし、5番の椰子は三振。椰子の奴、三振ばっかだな。

相手ベンチでは――
「追加点とられちまった。なんなんだあの女……」
「あのピッチャー、結構切れのいいフォーク投げやがる」
「だけど"アイツ"ほどじゃないけどな」
「俺、わかったぜ。あのピッチャーの癖が」
「お? マジで?」
「癖っていうのは――」

8回表。あと2回逃げ切れば俺たちの勝ち――
そのはずだった。
7回表を無得点に抑えたイガグリだったが、この回打ち込まれ、あっという間に逆転されてしまった。
連続タイムリーに加え、2本塁打を打たれ6−10となった。
あわやホームランになる打球を乙女さんが10mジャンプでキャッチし、やっとチェンジとなった。
イガグリが打たれただけじゃない。細かい連携ミス、俺たちの野球経験不足からくるミスが大量失点を招いたんだろう。
俺もキャッチャーとして盗塁を1回も刺せなかった。
この回だけで7点を取られ、ベンチの中は沈んでいた。みんなドロドロで、へたばっていた。だが、
「みんなあきらめるな! まだ4点差だ!」
乙女さんはあきらめていなかった。
「だけどさ、1回に7点もとってくるような連中だぜ? 素人の俺たちがどう戦うんだよ?」
フカヒレの意見はもっともだった。
「気合でなんとかしろ!!」
やっぱり根性論か。
イガグリはものすごくドス黒いオーラを出して落ち込んでいた。
これが実力の差なのだろうか。
この回の攻撃は村田がなんとか出塁したものの、俺も含め後が続かず無得点。
諦めムードが漂っている。

次が最終回。動こうとしないイガグリに佐藤さんが寄って行った。
「あのね、イガグリ君。さっき気付いたんだけど、変化球を投げる時、長く握り直してない?
 多分それがバレたんだと思うんだけど」


「マジだべか?!」
気付かなかった……。
そういえば、結構落差のあるフォークは見逃されて比較的打ちやすいストレートがよく打たれていたなあ。
 ワーワーワー
すると、こっち側のスタンドから声が聞こえてきた。
ベンチから出て見てみると、竜鳴館の生徒が沢山いた。
「はっはっは! 皆よくやるのう!」
か、館長!?
「自分より強いものに立ち向かうお前らのためと思って、ちと遅かったが応援団を連れて来たぞ!」
 ワ―――!!!!
すごい声援だ。
「キャー、伊達クーン!」
「姫――っ!!」
「くー! よーへ――!!」
 カシャ! カシャ!
「鉄ちゃ――ん!!」
「蟹沢さ――ん!」
「よっぴ――!」
霧夜エリカファンクラブの連中もいるな。スバルは相変わらず人気あるなあ。
「よっぴー言わないでよぅ」
1年から3年まで男女とも結構数がいるな。100人以上いるな。
「鉄先輩!! ファイト!」
げ……あのツインテールは、近衛!
「ふっ、こうして皆が応援に来てくれると気合の入り方が違う。力も100%に戻りつつあるしな。いけそうだ」
乙女さんは手を振って観衆に答えた。
俺もすごく気合が入ってきた!
「よっしゃ! もう1回頑張るべ!!」
イガグリ復活。俺もやらなきゃな!
癖を直したイガグリの粘りのピッチングでなんとか2アウトまでもってきたものの、1,3塁とかなりのピンチだ。
イガグリも疲労の色を隠せない。
そして投げたフォークは少し甘く入った。
 カキン!


打たれたボールはライト前へ。三塁ランナーはホームインし、一塁ランナーは二塁を蹴って三塁へ――
「乙女さん!! サードへ!」
俺は出来る限り大声で指示を出した。
「行 か せ る か ! !」
 バチバチバチ……
へ? なんか持ってるボールが火花出してるような……(思考時間0.01秒)
そしてそれは閃光となって光線のごとく飛んでいった。
「あれ、走馬灯が……」
その"砲弾"は竜巻のようになってサードを守っていたフカヒレを吹き飛ばした。危うく三塁審を巻き込みそうになっていた。
断末魔の叫びも聞こえなかった。文字通りレーザービーム。練習の時あんなの投げてなかったぞ!? アレが本気…?
射線上にいた選手はなんとか逃げ延びて無事だったが、
フカヒレは球場の壁にめり込んで張り付けになった形で泡を吹いて気絶していた。
そのボールは腹にめり込んでいた。
「馬鹿者! 気合で捕れ! この根性無しが!」
気合とか根性で捕れる代物じゃないだろ。
相手ランナーは腰を抜かして座り込んでいる。無理もないか。
オマケにグラウンドがえぐれていて試合続行できないし。
 タッタッタ
レフトの椰子がフカヒレにめり込んでいたボールを取り、ランナーにタッチした。
「ア……アウト! チェンジ!」

その後、30分間両チーム総出でグラウンド整備が行われた。なんとか試合続行できるようだ。
そして、9回裏最後の攻撃。フカヒレは当然ながら医務室行き。
6−11で5点差。攻撃は1番からだ!
『1番センター、伊達君』
 キャ――!!
やっぱ女子に人気あるねえ。
 カキーン!!
打球はセンター方向へ大きく伸びたがフェンス際で捕られアウト。
「ちっ、申し訳ねえな」
「まあドンマイ」
スバルはため息をついてベンチに腰掛けた。


『2番セカンド、蟹沢君』
「カニち――!!」
「カニっち、打ってや――」
カニは10球ほどファールで粘ってフォアボールで出塁。
体が小さいからストライクが入りづらいんだよな。
すると、相手ベンチに動きがあった。
「ピッチャー交代!!」
『ピッチャー、佐々本君』
「6点差で"太魔神"が出てきたべ!」
「太魔神?」
イガグリの話によれば、陸堂学園のストッパーらしい。
スピード、コントロールは申し分なく、何よりも落差何十センチもあるフォークが武器らしい。
ただ、体格が太いためかスタミナが無く、フィールディングも悪いのが欠点なのでエースじゃなく控えなんだそうだ。
ブタ鼻で、腹は中年のようにデップリしてる。確かに太い。
『3番ファースト、霧夜君』
 ワア―――!!
すげえ声援。
「エリカ、頑張れ!」
エリカは親指をたてて答えてくれた。
「プヒヒ、俺様のボールを打てるかな?」
「うっさいわね! 早く投げなさいよ、このデブチン!」
「プヒ――! 黙らせてやる!」
なんか口ゲンカしてるような。
 ズバン!
「ストライーック!」
(なかなか速いわね)
さっきのよりちょっと速いかな?
2球目は――
 ヒュッ!
 ストン
「!?」
空振り。


「ストライクツー!」
「プヒヒ、打てやしまい! 俺様のフォークを!」
あの落差、イガグリより数段上だ! 打てるのか?
「プヒー、とどめだ!」
 ヒュッ!
またフォークだ!
 スコン
「プヒ?」
セーフティーバント! ボールはサード線よりややピッチャー前へ。
 ドタドタ
奴は足が遅くて一塁に投げようとした時には既にエリカは一塁を駆け抜けていた。
「頭も使わなきゃ野球できないわよ?」
エリカは佐々本に向かって親指を下に向けた。
「プヒ! むかつくぜ!」
見事、さすがは知将のエリカだ。エリカの動体視力が無かったらバントも決まらなかっただろうけど。
『4番ライト、鉄君』
「キャー、鉄センパーイ!」
「鉄っちゃーん!」
こっちも声援がすごい。
「乙女さん、あのフォーク打てるの?」
「なあに、落ちる前に打てばいいんだろ?」
そう言って乙女さんはバッターボックスに向かった。
(それが難しいんだけどな)
「プヒッ。さっきは油断したが今度はそうはいかない!」
佐々本はバッターに向かってボールを見せてきた。フォークの握りだ。予告か?
「お前をこのフォークで仕留める!」
「ほう? なかなか漢らしいな。ならば、私も全力でそれに向かっていこうではないか!」
乙女さんは研ぎ澄まされた気を放っていた。
「これでも喰らえっ!」
「来い!」
ピッチャー振りかぶって―――
バッターも振りかぶって―――


え!?
「せいや――――!!!」
乙女さんは片手で思いっきりバットを槍投げのように投擲し、落ちる寸前のボールを捉えていた。
○ンギヌスみたいだなあ。
 ギュオ――ン!!
そして打球はバックスクリーンへ突き刺さった。
 ……
シーンと静まった球場内。
そしてガッツポーズをしながら静かに走り出した乙女さん。
 ……
ワアアァァァ!! 
一気に歓声が上がった。佐々本は呆然としている。
「さっすが鉄先輩!! 乙女の鏡!!」
3ランホームランで2点差。9−11。
今日の乙女さん3ホーマー、タイムリー3ベース1回の……5打数4安打9打点!?
「ありえね――!!」
カニが叫ぶ。そりゃそうだ。
「人間技じゃないわね……」
さすがのエリカも脱帽。
「ふっこれが可憐な乙女のなせる技だ」
違います。可憐な乙女は絶対にそんな事出来ません。
「あれは反則じゃないのか!?」
相手側の監督が出てきた。
「ルールブックにはボールめがけてバットを投げてはいけないというルールはございませんわ」
いつの間にかベンチからルールブックを片手に出てきた祈先生は初めて監督らしい仕事をした。
「そんな、バカな…」
さて、次は――
『5番レフト、椰子君』
「なーごみ――ん!!」
お? ファンクラブなんかいたのか? 
「チッ」
椰子は舌打ちしてるし。


「おい椰子」
「なんですか?」
「お前さ、今日メガネかけてないよな?」
椰子はピクっと肩を動かした。
「だから今日全部三振だし、ボールは落とすし、それのせいだろ?」
「…わかりました。かけてやりますよ」
そう言って面倒くさそうに椰子はバッグの中からメガネを取り出してかけた。
そして打席に入った。
「プヒー! これ以上打たせん!」
 カキン!
打球はレフト前に。やっぱり視力が関係してたか。練習の時はかけてたのに。
『6番ショート、村西君』
「よーへー!」
スタンドを見ると西崎さんがカメラを構えて村田を撮っていた。
「よし、僕が一発打って同点に追いついてやる!」
……
「ストライク! バッターアウト!」
「なんか言ったか?」
「う、うるさい!」
『7番キャッチャー、ナイト君』
スタンドからは笑い声の混じった歓声が聞こえてきた。
なんで俺ばっかり。
「レオー!! 頼むわよ!!」
「対馬くーん、ファイト―!!」
さて、あと1人か。俺が最後のバッターかもしれないけど。だけど絶対打ってやる。
どうせなら勝ってやろうじゃん。
「プヒーッ、これはどうだ!」
 ギュン!
「うわ!」
内角にえぐりこむようなシュートを投げてきやがった! 判定はボールだった。
フォーク以外にもあんな変化球もってたなんて……
こりゃ打てそうにないな……。どうしたら……。あ、そうだ!


「プヒ?」
「? 対馬君が左に入って予告ホームランしてる…」
俺は打席を左に変え、バットを天に向かって突き出した。
「プヒッ、やれるもんならやってみろ」
2球目――
「おりゃあ!!」
フルスイング。空振り。これでいい。サード、ファーストはやや後ろに下がってくれたみたいだ。
3球目――
「うお――、りゃ」
 スコン
「セコ――!!」
アイツの脚の遅さを利用してセーフティバント。左に入ったのはこれのためだ!
「うおおりゃあぁ!!」
気合のヘッドスライディング! そしてセーフ!
武道祭の時のフカヒレと同じ技を使ってしまった。人生の汚点だ。
だけど勝つためにはしょうがないんだ!(泣)
「漢らしくないぞ!」
乙女さん、勝てなかったらどうしようもないでしょ?
これで2アウト1、2塁。
『8番ピッチャー、イガグリ君』
「オラが決めてやるべ!」
1球目――
 ドスッ
「痛――!」
奴のシュートが内角に入りすぎてイガグリの肘に当たったようだ。
これで2アウト満塁だ。よし、大チャンス! バッターは――
「いねぇ――!!」
9番に入ってたフカヒレは医務室行き。と、なると……
「よっぴー、代打ですわ」
「えぇっ!? 私が!!?」
佐藤さんはベンチで目をまん丸にしてあたふたしてる。
「私には無理だよぅ!」


「いや、だって控えはよっぴーだけでしょ?」
エリカは佐藤さんにバットとメットを渡している。
佐藤さんには何とか頑張ってもらうしかない。
ベンチでてんやわんややってる間に祈先生は代打を審判に告げていた。
『フカヒレ君に代わりまして、佐藤君』
 よっぴ―――!!
おわっ! 更にすごい声援。さすが人気者。
「よっぴー言わないでよぅ」
 ガクガク
佐藤さんは緊張のためか内股になって震えていた。
「審判、タイム!」
するとイガグリがタイムを告げて一塁からバッターボックスにやってきた。
「佐藤さん、ちょっと耳貸すべ」
イガグリは佐藤さんに耳打ちしていた。何か弱点でも見つけたのかな?
少し時間が経ってプレイ再開。
何か佐藤さんの様子が変わっていた。
何か黒いオーラのようなものが見えるし、妙な殺気のようなモノを感じる。
 キュピ――ン!
そして佐藤さんの眼がなんか光ってる! 獲物を狙い澄ましたような眼で!
ちょっと今、眼が合ったし。嫌な予感。
第1球――
 ズバン!
「ストライク!」
佐藤さんは見逃した。
「フフフ……」
何故か笑ってますよ、あの娘!
2球目――
まずい! あの握りはフォーク!
 カァッキ―――ン!!!
「え?」
そして打球はバックスクリーンへ。
「エヘ☆」


 カラーン
バットを投げ捨てた佐藤さん。
 ワアアァァ―――!!
まさかの逆転サヨナラ満塁ホームラン。佐藤さんはとびっきりの笑顔でホームイン。
みんなはお祭り騒ぎで佐藤さんを胴上げ。俺たちの勝利だ!
それにしてもイガグリの奴、佐藤さんに何を吹き込んだんだろう?

試合結果

陸堂  000 030 071  11
竜鳴館 202 000 207x  13

勝 イガグリ
負 佐々本

本塁打(数字は点数)
(陸)谷口3、山田1
(竜)鉄2、鉄2、鉄3、佐藤4

……

これは練習試合であって公式とはならない記録。
野球部1名と素人集団(一部超人含む)が挑んだこの試合はスコアブック上でしか記録されていない。
だが、その熱い戦いは球場にいた皆の記憶に刻み込まれている。

……

陸堂学園の選手らが引き上げていく。


そんな中、あの佐々本はこっちのベンチに走ってやってきた。
「お前らホントすげえぜ。こっちは県大会準優勝したくらいでいい気になってたみたいだ」
「いいえ、途中ではもう負けるかと思ったわ。さすが本職ね」
エリカはくたびれた顔をして言った。
「女の子に負けたと思うとカッコ悪いが、コレをバネにまた修行し直しだ」
「関東大会頑張ってね。絶対に春の全国に行ってね」
佐藤さんは笑顔で佐々本を激励した。

その後、陸堂学園は関東大会で優勝し、春の全国大会の切符を手にした。
春の全国のTV中継では見違えるほどにスリムになった佐々本がエースとして投げることになる。
それはもう少し後のお話。

そして俺たちも竜鳴館に戻って道具の片付けをして解散となった。
みんなクタクタになりながらその顔は満足そうだった。
時間も結構経ってたようで、日が暮れてもう夜になりそうだった。

「レオ、私は買い物してから帰るから先に帰っててくれ」
「ん、わかった」
乙女さんは多分、切れそうになった米を買いにいったのだろう。お米券で。
それじゃエリカと帰ろうかな。
「レオ! ちょっと急用で出かけなきゃならないから一緒に帰れないわ。
 それと、よっぴーを送ってあげて。日が暮れてるし」
「そうか。わかった」
お嬢様は何かと忙しいな。


「それじゃあ、一緒に帰ろうか? 佐藤さ……」
 ガシッ!!
俺は腕をガッチリとつかまれた。
「フフフ……」
 キュピ――ン!
なんか眼が光ってる――!?
その時俺は見た。佐藤さんの手に「対馬レオ・1日レンタル優待券」と手書きで書かれた紙切れを。
イガグリの仕業か!?
助けを呼ぼうにも周りに誰もいない。
万力のようにものすごい握力でつかまれているため脱出不可能!

「ちょっ!? 佐藤さん! う、うわあぁぁぁ………」

〜つよきすBaseballers・飛翔編 完〜

「結局オラはあんまり活躍できなかったべ……」


(作者・TAC氏[2006/08/210])


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