月曜日の放課後。俺は生徒会室でデスクワークをしていた。
今日はメンバーが揃っており、後期に移り引退した乙女さんも様子を見に来ていた。
ガチャ
「姫はいるべかー?」
生徒会室に入ってきたイガグリ。何の用だか。
「ハァイ。ここにいるわよ?」
奥からエリカ出てきた。
すると突然、イガグリが土下座した。
「頼むべ! みんなの力を貸して欲しいんだべ!」
「ちょ、ちょっと! 何よ!?」

……

イガグリの陳情の中身はこうだった。

竜鳴館は秋季県大会ベスト16入りの快挙を達成したそうだ。
先日、その甲斐あってか、関東大会に出場する予定の陸堂学園が練習試合を申し込んできた。
陸堂学園は秋季県大会準優勝チームで、最近強くなったチームであるらしい。


試合を一週間後の日曜に控えた竜鳴館野球部は昨日、マネージャーの差し入れを食べたところ、
イガグリを除く選手全員、監督、マネージャーが食中毒で入院。
1週間の療養が必要であると診断された。
ちなみにイガグリはその日偶然高熱を出して欠席してたとか。
せっかくの試合を無駄にしたくないイガグリは助っ人を集めて挑戦しようとしてるらしい。
だが、経験者等をあたったが、助っ人は一向に集まらず、こうして生徒会に頼みに来たわけだ。

「そういえばそんな話聞いたね」
佐藤さんが思い出したように言った。
「体育武道祭のみんなの活躍を思い出して来たんだべ」
「あ、なるほど。そういうわけね。だけどパス」
エリカは即座に依頼を蹴った。俺もパスだが。実は日曜に俺とデートの約束をしていたりする。当然だろう。
「姫、タダとは言わねえべ」
と、イガグリは目をキラリと光らせ、どこに持っていたのか包装された大きな箱を取り出した。
「コレは?」
「そっちで見てみるといいべ」
エリカはこっちに背を向けて箱をそっと開けた。すると、
「是非、試合に出させてもらうわ!」
態度一変! 何を貰ったんだ!? デートは!!?
エリカの背後に妙な形をした芸術作品みたいなのがあった。まさかあの人形じゃないだろな。


「みんな! 頑張って勝つわよ!」
「おい姫! 何を貰ったんだかしらねーけどボクたちはメンドいから出ないからな!」
みんなもウンウンと頷く。
「まあ、蟹沢さん、コレを貰って欲しいべ」
カニの手には「高級焼肉食い放題券」が渡された。買収だ……
「おうよ! 陸堂のヤツらを皆殺しにするぜ!」
カニも寝返った。
「おい! イガグリ! 今週は新作が出るから週末は引きこもらなきゃならねえんだよ!」
「……」
そして無言でイガグリはフカヒレに紙袋を渡した。
「こ……これは。うおぉぉぉ!」
フカヒレはスーパー○イヤ人に変身。
「未だにオークションでも入手困難な数量限定プレミアム初回限定版だと!?」
ギャルゲーらしきモノを貰ってフカヒレも陥落。イガグリの怒涛の攻撃が続く。
椰子は新品の調理器具セット、スバルは母子相姦モノとブルマモノのAVのセットを貰って撃墜。
(ふっ、オラの情報網をなめんじゃねえべ!)
顧問代行を頼まれた祈先生も駄菓子セットで陥落。
残るは乙女さんと佐藤さんか……。まともな2人だ。買収なんかに応じるわけが……
「スマン、レオ」
「何だって!? 乙女さん、何を…?」


おそるおそる乙女さんの手を見てみると、お米券が。家計を考えてくれてるのかなあ。
ええい、最後の砦の佐藤さんは―――
「佐藤さんにはコレをあげるべ」
「ええっ!? わたしはいらないよぅ」
とか言いつつ袋の中身を見る佐藤さん。
「……。うん、わかったよ! 協力するね!」
「ええ!? 何を貰ったの!?」
ちょっと間があったし。俺が中身を見ようとしたら、
「中身は見ちゃダメだよ?」
「だけどさ」
「見ちゃダメだよ?」
かなり怖かった。
残りは俺だけか……
俺なんとしても切り抜けたい。エリカとのデートのために!
「対馬、これやるべ」
「俺は何を貰っても――」
袋の中身をちらっと見た。

……なんで、どうして……お前がそれを知って――



「プレミアムボトルシップセット」を手に入れた俺も協力する事になった。

(オラの活躍でマネージャーは惚れ惚れだべ! マルガリの悔しがる顔が拝めるべ!)

……

日曜の試合に向けて早速、俺たちは練習を開始。
「どうしてお前がいるんだ?」
何故か村田がいたりする。
「ああ、鉄先輩の頼みでな、助っ人として入ることになったんだ」
「乙女さんが?」
「そうだ、9人ピッタリだと交代要員がいないからな」
乙女さんが登場。
「それで? 他には助っ人はいないの?」
すると乙女さんはバツが悪そうな顔をした。
「昨日、久々に後輩の指導に行ったらだらけていてな。しごいたら全員怪我させてしまった。
 とても野球できる状態じゃない」
さすが熱血さわやか拳法部。でも村田にはケガは無い。
「なんでお前はケガしなかったんだ?」


「僕は親戚の法事に出かけていたからな。今、部は開店休業状態だ」
村田はハァとため息をついた。
「だがやるからには(鉄先輩と姫の)役に立って見せるさ」
頼もしい助っ人だった。
ちなみに村田はファミレスのファミリー50%割引券を貰ったらしい。

……

1時間ほどでキャッチボール、50m走、遠投、イガグリによる軽いノックをこなした。
基礎能力をテストするためらしい。
テスト結果も合わせ、全員で守備位置を考えた結果、
ピッチャーにはエリカ。速球の速さもあって選抜。
イガグリが投げようとしたが、エリカは強引にピッチャーになった。
経緯はこうだ。

「ではオラがピッチャー……」
「じゃ、わたしがエースってことで」
「姫、ピッチャーの座は譲れねえべ!」
イガグリが食い下がった。本気らしい。
「オラはマルガリの控えでもフォークを武器に相手打線を打ち取ってきたべ!」


「しょーがないわ。レオ! ボールを受けてくれる?」
「うん。わかった」
俺は座り、エリカとイガグリはマウンドへ。
「じゃあ、オラから行くべ!」
イガグリは振りかぶって投げた。
シュッ、パーン!
なかなかいい球だった。
「次行くベー!」
シュッ、
「!?」
ストン
なんだ!? 今のは…フォーク? なんとか捕れたのはいいけど、いきなり変化球とは……。
「ふーん。なかなかいいキレね。じゃ次は私ね」
武道祭の時はかなり速かったけど、今回も速いだろうな。
エリカは振りかぶって投げた。
シュッ、スバ――ン!!
「おわ!!?」
俺のキャッチャーミットは吹っ飛んでしまった。なんか威力が前より増してるんだけど…。
「ごめんねレオ。それじゃ次行くねー」


シュッ、
速い! ストレートだ!
ククッ
「!!??」
ボールは右にスライドした。そして俺はパスボールしてしまった。
「こ、高速スライダー……だべか」
そしてイガグリは膝をついてうなだれてしまった。

こういうわけでエリカがエースになった。
キャッチャーには俺。武道祭の時にもバッテリーを組んだのでみんなが俺を選んだ。
逆だが女房役として頑張らねば。野球経験が少ないのが欠点だけど。
ファーストはフカヒレ。まあなんとか大丈夫だと思う。
ショートには村田、セカンドにカニが入る。
武道祭の時はこの2人は逆の守備位置だったが、村田の方が肩が強いのでこういう風に。
サードはイガグリ。現役なのでホットコーナーを任せられる。
レフトに運動神経が良い椰子が入り、センターに広い守備範囲を持ったスバル、
ライトに超人的運動能力を持つ乙女さんが入った。
佐藤さんは控え選手兼マネージャー。
この日は守備位置を決めたところで解散となった。


……

次の日、守備位置に入って練習を開始。したのだが――
「おい、そこはお前が二塁に入るんだろうが!」
「うっせー糸目! オメーがチンタラボールを追っかけてっからボクが捕りにいったんだろうが!」
二塁ベースの前に転がった打球をカニが無理に捕りに行って村田と危うく接触しそうになったのがキッカケで、
カニと村田がケンカに。この場合は村田が捕りに言った方が早いのだが。
カニは基本的に自分勝手なので、セオリーを無視する事が多いのが欠点。
やっぱり素人なのか内野の連携はゴタゴタだった。
素人なんだから多少はしょうがないとは思うが。
反面、外野はあまり心配は無かったのだが――

ビュゥゥッ!!

「うわっ!」
「ぎょえぇぇ!!」
ライトに入っている乙女さんの「レーザービーム」が恐ろしく、誰も捕れない。
だって閃光がはしってるんだもん。捕れません。ピッチャーやらせなくて正解。
能力テストのときはボールはネットを越えてどっかに消える程のボールを投げてたし。


その日、街中で自動車のフロントガラスに野球ボールが突っ込んで割れた事件があったことを
乙女さんは知らなかった。運転手は全治2週間だとか。
「乙女さん! 頼むから手加減してくれ!」
「何? これくらい捕らんか! この根性無しが!」
んな無茶な。
「捕れないボール投げたらチームに迷惑かけちゃうでしょ?」
「ん、まあ、そうか。では手加減して投げよう」
説得成功。迷惑をかけるのが嫌いな人だから説得しやすい。
だが――
ビュン!
パ――ン!
痛え……。
他のみんなもなんとか捕れる程度に乙女さんは手加減してくれているようだが、やっぱり痛い。
なんかTVで見たメジャーリーグのレーザービームより早いような。

……

それから数日、守備練習を中心としたメニューに加え、バッティング練習もやった。
なんとか守備の連携はとれるようになってきた。
そして練習最終日。


乙女さんのボールに比べたらエリカの直球は全然痛くなかった。捕り方も上手くなったお陰だろうか。
変化球とのコンビネーションの確認をし、調整は順調に進んでいく。
直球を活かすためのカーブとチェンジアップも覚えた。すぐに使いこなすのがエリカの器用なところだ。
秘密兵器の高速スライダーもある。
「レオ――! どうかしら!?」
「OK! ナイスボール!」
やっぱり速い。変化球もキレる。これなら現役の野球部でも簡単には打てないと思うし、
もしかしたら勝てるんじゃないかと期待する俺がいた。

「それじゃ、明日のオーダーを発表するわよ」
エリカがメモを片手にみんなを見渡した。キャプテンはイガグリのはずだがエリカが仕切っていた。
明日もエリカが仕切るんだろうな。
「1番センター、伊達君」
「あいよ」
「2番セカンド、カニっち」
「よっしゃきた!」
「3番ピッチャーは私ね。4番ライト、乙女さん」
「うむ、任せろ」
意外だ。エリカはてっきり4番に入るかと思ったけど。確かに乙女さんの方がすごいもんな。
バッティング練習の時に打球でフェンスに穴あけたもん。捕りに行ったら死ぬね。


「5番レフト、なごみん」
「はい」
「6番ショート、谷村君」
「 村 田 です」
「7番キャッチャー、レオ。8番サード、イガグリ君」
「どうしてオラが8番なんだべか?」
珍しい。イガグリが抗議とは。現役のプライドだろうな。
「打てないから8番なんじゃなくて、”打てるから”8番なのよ?」
「?」
「6番の村田君?が出て、7番のレオが送る。そして8番のイガグリ君がランナーを返すのよ?
 クリーンアップが2つあると思っていいわ」
なるほど。下位打線も切れ目無く強くするためか。野球部より野球部らしい発言だな。
(下位打線の打順は何も考えてなかったんだけど。まっいいか)
「なんで僕の名前が疑問系なんだ……?」
「そして9番ファースト、フカヒレ君ね」
「俺の活躍で一気にハーレムルートに突入だ!」
「補欠はよっぴーね。出番が回ってくる事はないと思うけど」
「うん、私は(対馬君の)応援してるね!」


フカヒレはスルー。
そして、メンバー発表が終わったところで解散した。

そして次の日――

無謀な闘いに挑む野球部部員1名と他素人多数。
一見無謀に見える挑戦だが、この試合が限界を超えた激闘となることを誰も知るはずがなかった――


(作者・TAC氏[2006/08/07])


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