はあ・・・お父様の顔を立てるってのもあったし
半ば意地でお見合いなんかうけちゃったけど
なんか憂鬱・・・
大した男じゃないのはわかってるから
適当にあしらって蹴るつもりだけど
相手に気に入られちゃうのはどうしようもないわよね・・・
それでつきまとわれたりしたら、ウザイなぁ。
かと言ってわざと気に入られないような行動をとるわけにもいかないし。
だいたい、空也のヤツがもっと・・・
ヤダ、なんであんなイカのことなんか考えてるんだろ。
アタシが見合いするってのに止めもしない
いい加減で薄情な男のことなんて考えたって・・・
考えたって仕方がないのに
アタシさっきからイカのことばっか考えてる。
・・・アタシ、止めてほしかったの?
追いかけてきて欲しかったの?
そんなはずない、あんなイカに。
もう止めたって無駄。追いかけてきたって許さない。
そうだ、精一杯相手に気に入られてやろう。
相手を気に入った・・・振りをしてやろう。
アタシが他の男になびいてるところを見て
ちょっとはジリジリすればいいんだわ。
「うむ、もう先様はお待ちのようだ。
 心の準備はよいか、高嶺?」
「ええ、大丈夫よ、雛乃姉さん・・・
 覚悟はできてるから」
ええ、そうよ。覚悟しなさい空也。
せいぜいハラハラさせてあげる。
それでアタシがいかにアンタにとって
大事な存在だか改めて思い知りなさい。
「うむ、良い返事だ。
 ・・・では、参ろうか」


写真で見た女の子が、付き添いらしい人とこちらにやってくる。
さっきまで重ねられていた乙女さんの手がスッと離れていく。
不安よりも、寂しさを感じた。
写真を見せられて結構美人だったから
ガールフレンド候補に会うぐらいに軽く考えていたけれど
ホントに俺、ガールフレンドなんか欲しかったのか?
見合いなんてできっこないなんて皆に冷やかされて
ただムキになっていたけれど
よくよく考えれば、俺の周りってたくさん女の子いるじゃん。
カニ。生徒会執行部の皆。2ーCの仲間。
恋人ではないけれど、それなりに親しくしてるし・・・
それに、乙女さんがいる。
一緒に暮らして、姉のような間柄で・・・でも、姉じゃない。
厳しくて、ちょっと荒っぽくて、いつもお姉さん風を吹かせていて
機械類には全然弱くて、料理できなくて食事はおにぎりばかりで・・・
だけど・・・いつも俺のこと考えていてくれて。
何かと面倒を見てくれる、優しい乙女さんが
いつも、俺のそばにいてくれる。今も。
それなのに・・・
今、手は離れていった。
急に、お見合いなんてどうでもよくなってきた。
今さら帰るわけにはいかないけど
適当に話をして、それで終わりにしよう。
そしたら・・・
今離れてしまった手をつなぎ直そう。
もう少し、そばにいたい。いてほしい。
「ほら、立って。
 ちゃんと挨拶するんだぞ?」
乙女さんに促されて立ち上がり
軽く会釈をして相手をちら、と見る。
俺の視線に気づいた彼女が
ニコリと微笑みかけた。


型どおりの挨拶を済ませると
「後は当の二人に任せましょう」とか言って
雛乃姉さんは相手の付き添いの人と離れていってしまった。
はあ・・・いざとなると気が重いわね。
何から話せばいいのか考えを巡らせていると
不意に相手の男の子が喋り出す。
「いや〜、写真で見たよりずっと綺麗なんで驚きましたよ」
それはどうも。
「親父の話だったんで出てきたけど
 これなら出てきた甲斐がありましたね」
あら、そちらも?
「ま、柊さんのところもウチと縁ができるのは
 決して悪い話じゃないでしょうしね」
お父様はそこまで情けないことは考えてないと思うけど。
「まあ将来的にはボクが家を継ぐわけですし
 ボクらが結ばれるようなら
 勢力拡大には大いに役立ちますよ。お互いにね」
・・・なにコイツ。アタシを道具扱い?
「ま、そんなわけで
 多少は我慢するつもりで出てきたんですけどね。
 そんな必要はなさそうだ、アハハハ」
・・・アタシはアンタに我慢ができなくなってきてるんだけど?
「それに成績も優秀だ。
 ボクをサポートしてくれるなら
 これぐらいの人でないとね」
はぁ?何言ってんのコイツ・・・
「で、どうします、これから?
 ・・・一応、ナイショでここの部屋とってあるんだけど。
 もう少し、お互いよく知り合ってみるのも悪くな・・・」
「・・・ざけんな・・・」
「・・・は?」
「ふざけんじゃないわよ、このウジ虫野郎!!」


乙女さんが相手の付き添いの人と行ってしまい
俺と彼女だけ残される。
・・・何を言えばいいんだ?
趣味は何ですかとか聞くのか、やっぱり。
すると俺も趣味を聞かれるから、ボトルシップ制作ですって言わなきゃ・・・
「あ〜あ、堅苦しかった」
そう言って目の前で大きく伸びをする。
「ね、キミもやっぱ家の誰かの言いつけできたわけ?
 この若さでさー、お見合いなんて信じらんないわよね」
そりゃまあ・・・
「ま、父さんの会社にとっては良い話しみたいだし
 私もまあ考えてもいいかなー、なんてね」
何、これっていわゆる政略結婚前提?
「私も今んとこフリーだしね。
 ・・・ね、ひょっとして・・・まだ童貞クン?」
はぁ!?いきなり何を・・・
「あー、その顔からするとまだっぽいわね・・・
 ま、その辺は仕込んであげてもいいわよ。
 下手なら下手なりに楽しむから」
まだヤってもないのに下手とか決めるなよぅ。
「それにしても・・・竜鳴館かぁ。
 いまいち、パッとしないわね」
・・・なに?
「私とつきあうんなら、それなりのレベルんとこでないとねー。
 当然進学よね?東応ぐらい狙える?
 って、無理かな、竜鳴館レベルじゃ、アハハハ」
なんだおい。俺一人で竜鳴館全体を判断すんなよ。
そりゃ今の俺には東応は無理だけど・・・
「あの・・・ちょっと?」
「あ、竜鳴館から転校しちゃえばいいんじゃない?
 もうちょっとマシな学校にさ」」
「・・・っ!ざけんなこのバカ女ぁっ!」


立ち上がってグラスをひっ掴むと
相手の顔に水をぶちまける。
「なっ!?」
「ずいぶん安く見てくれたものね・・・このアタシを!?」
「いや、ちょっと・・・」
「アンタそういうセリフ吐けるほどの男!?
 バカにしないでほしいわね!
 アンタごときがアタシにそんなセリフ、1億年早いわ!」
ああ、ぶち壊し。けど、言わずにはいられない。
思いっきり睨み付ける。
「ひっ!?」
「ハ!だらしのない!
 強気なのはこっちが大人しくしてるときだけね。
 とんだ腰抜け!これなら・・・」
これなら。そう、こんなヤツにくらべたら。
空也のほうが全然マシ。
「・・・これなら、アンタよりよっぽどマシなやつがもういるわよ!
 アンタはせいぜい、言いなりになるバカ女でも探しなさい!
 アタシはご免だから、これで失礼するわね!」
そのまま椅子を蹴ってテーブルを離れる。
少し離れた席で、同じように怒鳴ってる男の子がいる。
あっちもお見合いかしら?
まあいいや。それより・・・
ああ、やっぱり雛乃姉さんコッチ睨んでる!
思いっきりぶち壊しちゃったもんなぁ。
やりすぎたかしら。どこかでほとぼりを冷ますほうがいいかも。
あたりを見回すと・・・テラスに出られる窓があるみたい。
あそこなら皆や姉さんのそばを通らずに外に行けるわね。
さっさと退散した方が良さそう。
早足で出口へ向かうアタシに
ドンッ!
不意に誰かがぶつかってきた。


「黙ってりゃずいぶん好き放題言ってくれるよな!」
「な・・・何よ急に切れたりして」
これが切れずにいられるか。
「アンタに竜鳴館の何がわかるってんだ!?
 テストの成績もそりゃ大事だろうけど
 そこでしか人間の価値を判断できねーのかよ?」
相手もムッとしてるがコッチはそれ以上に頭に来てるぜ。
「学歴とか家柄とか資産とか・・・
 そんなものでしか人間を判断できないなんて
 呆れて物が言えねーよ!」
いや、言ってるか。いいけど。 
「フン・・・これだからガキは・・・」
「あー、ガキで結構だね。けど、どんなに大人になったって
 そんな打算だけで選ばれて、喜ぶようなヤツにはならないぜ?」
親父も親父だ。よりによってこんなのを紹介するなんて・・・!
「アンタはせいぜい上っ面だけのつき合いで
 満足してくれるヤツでも探すんだね。
 けど・・・俺はまっぴらご免被るぜ!」
バン!とテーブルに両手の掌をたたきつけてから席を立つ。
ああ、スッとした。
ん、なんか別の席でも女の子が怒鳴ってるな。
アッチもお見合いか?
今日はどうもお日柄が悪かったらしいね。
さて、こんなところとはさっさとおさらば・・・
う、乙女さんが・・・俺を見つめて・・・笑っている。
ヤバイ。あれは怒ったときの笑い方じゃなかろうか。
よく考えりゃお見合いぶち壊してるんだから怒って当然だし。
あたりを見回すと・・・テラスに出られる窓がある。
逃げるか、一時的にでも。
そうと決まれば急がなければ。出口に向かって走り出して・・・
ドンッ!
ヤベ、誰かにぶつかっちまった。


「イタタタタ・・・ちょっと、気をつけてよね!」
「あ、すいません急いでたから・・・」
「アタシだって急いでるわよ・・・あら?・・・」
「あれ・・・?あっちで怒鳴ってた人?」
「キミも・・・怒鳴ってたわね」
「ひょっとして・・・お見合い?」
「ええ・・・まったく、どうしようもないヤツで呆れちゃったわ」
「アハハ、俺と同じだ・・・って、ノンビリしてる場合じゃなかったぁ!」
「ちょ、転んだレディに手ぐらい貸しなさいよっ!」
「ああ、もう!・・・あれ、何か落ちてるよ?」
「何これ・・・マイクと小型カメラ!?・・・海の仕業ね!」
「どうでもいいから逃げるんなら早くしてよ!」
「もたついてるのはそっちが転ばせたからでしょ!」
「悪かったから!ていうか、何で俺待ってなきゃなんないんだよ!」
「一度待ったんだから最後まで待ってなさいって!」
「どういう理屈だよ!」

「はぁ・・・はぁ・・・なんとか・・・逃げ切れたかしら・・・」
「どうかな・・・はぁ・・・
 こっちの追っ手には人間離れした人がいるから・・・」
「あー・・・ウチにもいるわ、一人・・・」
「結構・・・似た境遇かもね、俺たち」
「そうねー・・・お見合い相手に恵まれなかったとことか」
「俺なんか、親父に言われて無理矢理見合いさせられたんだぜ」
「あら、アタシも似たようなもんよ」
「ふ〜ん・・・」
「何よ、人の顔ジロジロ見て」
「いや・・・お姉さんがお見合いの相手だったら
 いいお見合いができたかも、ってね」
「それは・・・どうかしら?
 そんなにキミの相手ってひどかったの?」
「えっとね・・・」


「そりゃヒドイわねー。
 そんなバカ女、蹴って正解よ」
「いやぁ、お姉さんの相手よりマシっすよ。
 俺だったらそんな野郎、ぶん殴ってるね」
「・・・さっき、キミが言ったとおりかもね」
「ん?さっきって?」
「キミみたいな人がお見合い相手だったら
 もうちょっとうまくやれたのに、ってこと」
「あ、ひょっとして惚れちゃった?」
「ザーンネンでした・・・もう、先約あり、だから」
「ちぇ、ガッカリ」
「全然残念そうには見えないけどなー。
 キミもいい人、いるんじゃないの?」
「んー・・・まだ、わかんないんだけど、ね」
「頑張りなさいよ、キミ結構いい線いってるんだから」
「そりゃどうも・・・さて、もう追いかけてこないみたいだし・・・
 どうしよっか?ここでお別れ?」
「ん・・・名前ぐらいは、聞いといてあげよっか?」
「そりゃ光栄だ。俺、対馬レオ」
「柊高嶺よ。じゃね、レオ君。
 縁があったら・・・また会うかも、ね」
「その時には、高嶺さんにはもう彼氏ができてるんじゃないの?」
「キミこそ、意中の人を射止めてるかもよ?」
「だったらいいねぇ。
 今日はお見合いは最低だったけど・・・」
「・・・キミとの時間は、悪くなかったわよ」
「ああ、俺が言おうと思ったのに」
「フフン、アタシの先を行くには
 もうちょっと修行しないとね。
 じゃ、お互い頑張りましょ!バイバイ♪」
「うん・・・なんか、また会えそうな気もするけど・・・
 バイバイ、高嶺さん・・・またね!」


(作者・Seena◆Rion/soCys氏[2005/10/08])


※前  姉しよSS「Boy meets Girl」」
※前  つよきすSS「Girl meets Boy」」


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