「あら、瀬芦里も今家を出るのかしら?」
 「うん、今日は友達とツーリング行く約束してるから。」
 朝ご飯を食べ終わって玄関に向かうと、要芽姉と鉢合わせた。
 気の会う女友達と、久しぶりのツーリング。
 もともと夜遅くまで帰る気はないが、クーヤ達がモエでなんか実験するから、
遅くまで帰ってくるなと言われている。
 私も今日の約束がなければクーヤ達の実験に付き合ったけど、
久しぶりの友達との約束を蹴るわけには行かない。
 靴の紐を締め愛車にまたがると、要芽姉が車の窓を開けて、
 「瀬芦里、気をつけて行ってらっしゃい、ね。」
と声をかけてくれたので、笑顔で手を振って返す。
 ヘルメットをかぶりアクセルを吹かす。
 ブォオオオオン!ドッドッドッドッド・・・
 ヘヘヘ、アイツに会うの、久しぶりだな・・・。
 ・・・

 待ち合わせ場所に少し遅刻した。
 あれ?でもアイツがいない。
 時間に几帳面なアイツらしくない。
 いつもなら私が遅れてアイツを怒らせるのに。
 おかしーなー。
 携帯の着信履歴には待ち合わせ時間ちょっと前に、
アイツからの着信の記録があった。
 一応かけてみようか。
 とぅるるるるるるる・・・
 「あー!もしもし?うん。瀬芦里ちゃんでーす。
・・・・・・え?なんで?・・・・・・・えー、話が違うじゃん。
・・・・うん、そっか。じゃ、しょうがないかもね。
・・・あいよ。うん、ジャネ。」
 ピッ。


 昔の仲間たちがだんだん変わってきている。
 今日のアイツも、久しぶりに休みらしい休みが取れたって言ってたから
今日約束したのに、急な仕事が入った、だって。
 アイツ昔はは仲間内では一番控えめで、将来は普通に誰かと結婚して専業主婦、
とか言ってたのに、今じゃ土壇場の根性を買われて、バリバリのきゃりあうーまん。
 ・・・なーんかツマンナイノ。
 このまま家に帰っ・・・ってダメだった。
 私も流石に約束した事をそう簡単に破る気はない。
 だからと言ってクーヤたちに混じってモエを観察・・・っていうのも今の気分じゃない。
 もっとはしゃぎたいな。
 ・・・せっかくだから、このまま一人で流そうか。
 ・・・

 一人で流すのも嫌いじゃないけど、やはり今日はあまり乗り気がしない。
 少し走って、でっかい船のある公園にバイクを止めた。
 そのまま駅までぶらぶらする。
 なんか面白そうな、おいしそうなものないかにゃー。
 ふと目をやると、休日だからか、駅前には昼間なのにストリートミュージシャンが大勢居た。
 一番近いところでギター弾いてる眼鏡の兄ちゃん、クーヤと同い年ぐらいかな。
 下手ではないが、特別上手いってワケでもなさそうだね。
 曲が一段落付いたところで、リクエストをする。
 「あのさー、少年!」
 「うわっ!金髪美女!ゴホン・・・何か御用ですか?」
 「リクエストいいー?」
 「ハイ!それは勿論!あなたのような美女のためなら、俺、何だって弾っちゃいますよ!」
 「じゃあさー、何か激しいの弾って!洋楽のロックとか。」
 「えっ、でっ、でも俺のギター、エレキじゃないし、俺が激しいのはベットの上だけ・・・
なーんちゃって。アハハハハハ。」
 「・・・ツマンナイ。じゃね。」
 「ああ!やっぱり!ちくしょー!ギャルゲーのようには行かないかぁ!
で、でもいつかこうやって努力している俺の姿に惚れた女の子が・・・」
 ・・・


 ギター少年に見切りをつけて、辺りを見回す。
 もう駅前に面白そうなものはない・・・かな?
 と、ここからあまり離れていない、比較的陰になるベンチ。
 そこにこれまたクーヤと同じぐらいの年の女の子がすわってる。
 長い黒髪が要芽姉のようだ。
 ・・・なんか親近感覚えるな。
 話しかけてみようっと。旅の恥はかき揚げっていうしね。
 「ねーねー、こんな昼真っからこんなところでボーっとして、ヒマなの?」
 「うるさい、つぶs・・・」
 私のことをナンパだと思ったのか、その子は顔を上げながら凄んだが、
私の顔を見た途端言葉が止まった。
 「・・・あなたには関係ありません。帰ってください。」
 「なんか私さー、親近感沸くんだよねー。キミに。」
 「あたしには全く沸きません。それにあたし、そういう趣味はないですから。」
 「んー?そういうシュミ?・・・あー、私もレズじゃないよ。」
 「っ!そういうことを昼まっから大声で言わないでください!・・・キモイ。」
 「私さ、今、ヒマなんだよね。ね、なんかしてあそぼ、ね、ねー?」
 「あたしは今、忙しいんです。」
 「私はヒマなんだー。」
 「・・・」
 「にっひひひー。」
 すくっと彼女が立ち上がり、どこかへ歩いていく。
 おっ、どこに連れて行ってくれるのかな?
 「ちょ、ちょっと、ついて来ないでください。」
 「これもなんかの縁だと思ってさ、ね。」
 彼女は明らかに嫌そうな表情をしたけど、そこで負ける瀬芦里ちゃんではないですよ。
 自慢の笑顔で返す。
 「・・・もう勝手にして下さい。」
 ぷいっとむこうを向いて歩き出した。
 「にゃは♪ありがと。」
 でも本当に彼女に感じるこの妙な親近感は、なんなんだろう?
 ・・・


 彼女が向かったのは匂いからしてカレー屋さん。
 店内に一歩踏み込むと、元気のいい声が聞こえてきた。
 「いらっしゃいま・・・ってなんだ。ココナッツかよ。」
 「客としてきたんだ。ちゃんと仕事をしろよ。カニ。」
 「へーいへい、じゃこちら・・・ってココナッツが人を連れてきてる!?」
 「連れて来たんじゃない。ついて来たんだ。」
 「ドモ!」
 「おおおお・・・しかも金髪。今日の天気は鹿か鯨でも降ってんのかぁ!?」
 「五月蝿いやつ・・・。超辛スペシャルカレー、チャレンジね。」
 「テンチョー!またタダ食いされるよー!」
 「カニサワサーン!インドの男は、いちど言った約束はやぶりまセーン!
何度でもチャレンジオッケーなのは変わりまセンヨ!」
 「ちぇっ、分かったよ。インド人じゃないくせに。で、お姉さんは?」
 「そのタダって言うのも魅力だけど、私辛いのダメだから、辛くないおすすめの奴ね。」
 「それでは少々お待ちください!」
 ・・・
 カレーが来るまではお互いに無言。
 彼女は私からずっと視線をはずしたまんま、なんか考えてる。
 それにしてもなんなんだろうナァ。親近感。
 綺麗な長い黒髪が、要芽姉を連想させるのかな?
 それとも・・・んー、悩みが一緒、とかかな?
 「あのさー。」
 「・・・なんですか?」
 話しかけたらいきなり面倒くさそうな顔された。
 「キミも親で悩んでるたち?」
 私がそう言った瞬間、彼女の大きく見開かれて、すぐに戻った。
 「・・・そんなこと、あなたには関係ありませんから。」
 「んっふふ〜ん。否定しないところを見ると、あたってるね〜?」
 「!」
 さっすが私、一時期本気で探偵になろうかと思ったことがあるのは伊達じゃないね。
 しかも今日はすごく冴えてる。


 よーし、ここは年上として、年頃の乙女の悩みを聞いちゃろう!
 「お姉さんがその悩み聞いてあげるよ。
どうせお互い今日一日の付き合いなんだから、話しちゃいなよ。
旅の恥はかき揚げって言うじゃん。」
 「干渉すんじゃねえよ!!」
と彼女が声を荒げ立ち上がったけど、こんなんでびっくりしたら柊家では生きていけない。
 「・・・それに『旅の恥はかき捨て』です。合ってたとしても使い方、微妙に違います。」
 一瞬間があって、座りながら彼女はそう言った。
 「にゃは♪今日で一番長くしゃべってくれたね。」
 「うっ・・・。」
 「じゃあ、まずは私から悩み打ち明けるよ。」
 私は自分がショウの浮気相手の子であること、母親は死んでしまっているかもしれない事、
ショウが私を引き取ったものの、微妙な付き合い方されて、未だ気まずい事なんかを話した。
 「だからねー、私も出来れば仲良く・・・したいのかな?
あはは、そんなことも分からないんだけどね。いつまでもこのままはダメだと思うのよ。」
 「・・・大変なんですね。」
 「まぁ、そこまで大変ってワケじゃないんだけどね。
仲のいい姉達が居るし、妹達も弟も居るから。」
 「でも、あなたが悩みを打ち明けたからって、
あたしが打ち明けなきゃいけない訳ではないので。」
 「むー!ケチ!いーじゃん!」
 「嫌です。ほら、カレー来ましたよ。」
 「お待たせしましたー!こちら海軍カレー甘口です。
で、ほれ、こっちは辛い奴ね。」
 なぜかウェイトレスは彼女に冷たかった。
 「「いただきます。」」
 ぱくり
 「おお!うまい!程よい辛さがうまうま!」


 「・・・」
 彼女は黙々と食べている。
 ぜんぜん平気そうだけど、激辛なんちゃらカレー、本当に辛いのかな? 
 彼女は私が見ているのに気が付いたらしい。
 「一口、食べてみます?」
 「えぇ!いいの?」
と皿をこっちに寄せてくれた。
 ぱくり
 「ふぎゃーーーーーーー!くぁwせdrftgyふじこlp!」
 「くっくっくっく。」
 卑屈な笑が聞こえる。 
 「水ー!」
 ウェイトレスが水を持ってきてくれて、そのまま彼女に話しかける。
 「はーはっはっはー!ココナッツ!お前今、この人にカレー分けただろ!?」
 「分けたけど?」
 「馬鹿が!カレー少しでも他の人に分けたら、チャレンジ失敗なんだよ!」
 「くっ・・・しまった。」
 「んぐんぐんぐ・・・ぷはぁー!死ぬかと思った。
何?チャレンジ失敗?いいよいいよ。私が払うから。」
 「困ります。奢って貰う義理もないですし。」
 「いーのいーの!難しく考えずにおごってもらうがいいよ。
この私が人に物おごるなんて、宝くじに当たるより確立少ないんだから。」
 「・・・じゃあ、お言葉に甘えて。」
 ・・・

 カレー屋の外に並んで出る。
 「これからどーすんの?」
 「どうもしません。元の場所に帰ります。」
 「えー、つまんない。」
 「何なら帰ってもいいですよ。あたしはここにお昼食べに来ただけですから。」
 「でもさ、カレー臭い女が二人、駅前に居たらどうよ?」
 「・・・」


 彼女はクンクンと無言で自分の匂いを嗅いでいる。
 「そうだ!私とバイク、二人乗りしてちょっと出かけようよ!
海辺りに出てさ、そしたら臭いも吹き飛ぶかもよ。」
 「・・・」
 「ハイ!決まりね!」
 彼女の手を引っ張り、さっきの公園のほうへ向かう。
 「ちょっ、あたしはまだ行くとは・・・」
 ・・・

 「はい、メットかぶってね。」
 「あなたは被らなくていいんですか?」
 「私は車と正面衝突しても大丈夫だもん。もとより、事故らないけどね。」
 バイクにまたがると、彼女がお腹に手を回してきた。
 背中に胸が当たる。
 けっ、結構大きいじゃん・・・私だって、負けてないもんねー!
 ブオォォォォン!ドッドッドッドッドッド・・・。
 「さぁ!行くよ!しっかりつかまっててね!」
 とりあえず、南に向かってみようかな。
 バォォォーン・・・

 日も沈みかけたころ、私たちは海岸にいた。
 海辺は風が出ていて、少し寒い。
 彼女が浜辺に座っている間、私は自販機で飲み物を買う。
 彼女の隣まで戻って座ると、夕日がよく整った彼女の顔を照らしていた。
 「はい、コーヒー牛乳でよかった?」
 「・・・ありがとうございます。」
 「いいっていいって。私なんか今日一日キミを連れまわしてるんだから。」
 「ほんとう、それは迷惑でした。
おかげで待ち伏せしてた奴は、あたしの家に行ってしまったと思います。」 
 「きっついねー。言いたい事はバシバシ言うタイプでしょ?」
 「・・・・・・あたしの母さん、再婚しようとしてるんです。」
 「・・・へぇ。」


 「相手の男、人のいい母さんに付け入って騙そうと・・・。
あたしの本当の父さんは・・・・・・もういないし、
あたしがが何とか母さんを守らなきゃって思ってるんです。
・・・あたしの悩みはそれだけです。」
 「・・・難しい話だけどさ、お互い、親には心配かけないようにしようね。」
 「そうですね。」
 「やっぱり思ってたんだけどさ、私たち、似てるのかもね。」
 「・・・。」
 「うー、風が冷たい!これ飲んだら、帰ろうか。」
 「・・・はい。」
 そう言った彼女の口元が少し緩んで、微笑んでいるように見えた。
 流石の瀬芦理さんも、この笑顔には・・・いやいや!負けてないもんね!
 ・・・

 その人は私を駅前まで連れ帰ってくれた。
 もうすでに日はとっぷりと暮れている。
 「本当にココでいいの?」
 「はい。」
 「うん、そっか。じゃ、またいつか会えるかもね。」
 「嫌です。」
 「うにゃー、相変わらずきついなー。でもなんかそこがいいね。」
 「冗談ですよ。あたしも幾らなんでもそんなことは言いません。
今日一日、退屈はしませんでした。」
 「よかった。じゃ、またね。」
 その人はまぶしい笑顔を残して、猛スピードで消えていった。
 親にだけは心配をかけるな、か。
 ・・・母さんに電話しておこう。
 とぅるるるるるる・・・
 「あ、母さん?・・・・・うん、安全なところに居るよ。
あのさ、天王寺は?・・・・・・うん、そう、もう帰ったの?
・・・うん、あたしも今帰ろうと思ってた所・・・」
 ・・・


 家の玄関をガラガラと開ける。
 「たっだいまー!」
 玄関に座って靴紐を解いていると、こっちに向かって誰か走ってくる音が聞こえる。
 「お帰り、瀬芦里姉さん。あの・・・こっ、この服、どうかな?」
 この声はモエだね。
 「モエ、ただい・・・って何その格好!アハハハハハ!」
 振り向くと、なぜかモエはゴスロリファッションに身を包んでいた。
 「あぅ・・・やっぱり笑われた。」
 しょんぼりしてモエは部屋に引っ込んでいった。
 「モエはかっこいいんだから、ビシッとした格好すればいいのにな〜。
・・・あれ、何でこんなところにメカタカネ?
あっ!そういえば・・・ごめんね!うみゃ、クーヤ、タカ。」
 玄関脇に居た気持ち悪い柄のメカタカネに手を合わせて謝った。
 ・・・

 モエが何だか料理を作りすぎてあまったらしく、
夕飯まだ食べてないからちょうどいいと食べていると、
クーヤやうみゃタカ、ひなのんに要芽姉も後から加わって、結局皆で夕飯。
 タカの料理を適当に盗み食いしてからかう。
 やっぱりタカは反応が面白いにゃー。
 にぎやかな食卓を見回すと、私にはこんなに味方が居ると思わせてくれる。
 こんなに味方がいるんだから、いつかは助けを借りて、
少しずつでいいから、ショウと仲良くできるといいな。
 昼間の、結局お互いに名前聞かなかったけど、彼女にもこんな味方がいるといいな。
 ・・・そうだ!ひなのんと要芽姉はモエのあのことをまだ知らないはず!
 「そうそう、そういえば私が帰って来た時、モエはね〜」
 「あぅ!それは言わないで!瀬芦里姉さん!」
 こんな私だけど、がんばるからさ、これからも味方でいてよね。みんな。


(作者・SSD氏[2005/10/02])


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