時刻はすでに午後九時を回っている。
 仕事はすでに終わったのだけれど、
今日は空也に十一時過ぎまで家に帰らないという約束をしてしまったので、
事務所で時間つぶしにみんとあいすをほおばる。
 なんでも巴を家に一人にしてそれを観察するから帰って来るなと言うのだ。
 約束の時間まであと三時間。
 いるかは今田舎から弟が来ているらしく
 「ごめんなさいお姉様。いつもなら摩周さんが帰った後に二人っきり・・・
だったんですが、今日は健太が来ているもので、お先に失礼します。
健太ー!お姉ちゃん、今帰るからねー!」
と言って帰ってしまったし、
摩周君は裁判に必要な資料集めの為に、今朝から山梨くんだりまで出張している。
 それにしても思ったよりヒマね。
 好物とはいえ、みんとあいすに釣られた自分が憎い。
 これは空也からもっと何か搾り取らないと、気がすまないわ。
 とぅるるるるるるるるるる!
 電話が鳴る。
 液晶画面に出ているのは「公衆電話」の文字。
 「はい・・・?」
 『かなめか?我だ。雛乃だ。』
 「ああ、姉さん。どうしたんですか?姉さんも空也たちの実験に?」
 『いや、我は今ばいとが終わったのだがな、
その実験のために帰れなくて、少々時間をもてあましているのだ。
どうだ?久しぶりに二人で、どこかで時間をつぶさぬか?』
 「そうですね・・・。じゃあ私、今から姉さんのところに向かいます。
神社ですよね?」
 『うむ!待っているぞ。』
 早速事務所を閉めて、車に乗り込む。
 姉さんのバイト先の神社まで、そう時間はかからない。
 ・・・


 神社に着くと、ヘッドライトの中に姉さんが見えた。
 姉さんは自分で車に乗り込み、ちょこんと私の隣に座った。
 かわいらしいと思うけど、そんなことを言っては姉さんは機嫌を悪くしてしまう。
 「我から誘っておいてなんなのだが、どこかいい場所を知らぬか?」
 「はい、近所に、みんとあいすのおいしい喫茶店が。」
 「うむ、ならそこへ行こう。」
 ・・・

 この喫茶店はいつも人があまりいない。
 みんなここのオリジナルみんとあいすのおいしさを知らないのだろう。
 席に着くと、ウェイトレスがメニューを持って来て、また奥に引っ込んでいった。
 「姉さん、何か食べますか?」
 「いや、我はここはでは食べぬ。どうせともえは、
一人なのにいつもと同じ量の食事を作って困っているだろうしな。」
 「・・・そうかもしれませんね。では、私はみんとあいすだけにしておきます。」
 「我は・・・ふふふ、このあめりかんこーひーと言うのを試してみよう。」
 ウェイトレスを呼びつけ、みんとあいすとコーヒーを頼む。
 しばらくすると、ウェイトレスが注文した二つを持ってやってきた。
 「お待たせいたしました。はい、お嬢ちゃんはアイスだよね?」
 「ぬぬぬぬ!たわけが!我はあだるとにこーひーを頼んだのだ!
あいすはこやつが頼んだのだ!」
 「えっ!あ、ああ、すみません。」
 「粛清・・・淘汰・・・弾圧・・・重税・・・。」
 フフフ、こうやって怒ってる姉さんも可愛い。
 抱きしめてしまいたくなる。
 気を取り直したのか、姉さんはコーヒーカップを手に取り、一口飲んでいる。
 「むぅ。こーひーと言うのは、お茶とは違った苦がさなのだな。」
 ・・・


 「それにしても、巴が一人になったところを観察して、何をするのでしょうね?」
 「ん?お前、くうや達から聞いてはおらぬのか?」
 「はい。私はただ、そういうことをするから帰ってこないでくれと頼まれました。」
 「何でも、たかねの学校のれぽーとのために、くうやとうみも協力しているらしいぞ。」
 「へぇ・・・そうなんですか。」
 おそらく姉さんは騙されているのだろうけど、それをあえて口には出さない。
 フフフ、これで空也を脅す材料が出来た。
 「それにしてもほんにあの三人は仲がよいな。」
 「・・・そうですね。」
 「ん?なぜそんな沈んだ表情をするのだ?」
 「いえ、私は別に。」
 「たわけが!他のものはごまかせても、我をごまかすことは出来ぬぞ。
・・・お前は意地っ張りよな。辛くなったら他の妹達のように、
我に身を任せ息抜きをしてもいいのだぞ。
お前が家計を支えてくれているのには感謝しているが、
何よりかなめ、おまえ自身が一番大事なのだからな。」
 さすが姉さんだ。見抜かれている。
 私は妹たちが仲良くしているのを見たり聞いたりすると、なぜか寂しくなることがある。
 何か自分だけが姉さんや妹達と違うことをしていて、
輪には入れていないような不安に駆られる事がある。
 ・・・多分私が勝手に病弱だった姉さんを心配し、
妹達の面倒を見てきたつもりになっているせいもあるのだろう。
 何だかんだ言って、姉さんは私たちのことをよく見てくれてる。
 やはり一番大人なのは姉さんなのかも知れない。
 「・・・はい。本当に辛くなったら、考えます。」
 「うむ!よい返事だな。飴をやろう。」
 「ありがとうございます。」
 姉さんから飴をもらうと、頭を撫でられたみたいで心地が良い。
 「では、ちと早いが行くか?」
 「はい。そうですね。時間まで後三十分ほどですし。」
 「ここは我がおごってやろう。なんと言っても我はお前のお姉さんだからな。」 
 ・・・


 「「ただいま。」」
 家に着き玄関を開けると、夜も更けているというのに、
居間からにぎやかな声と料理の匂いが漂ってきた。
 巴がトタトタと廊下を走ってくる。
 「お帰り。ね、姉さん達も一緒だったんだね。二人とも、何か夕飯食べた?」
 「いえ、私はみんとあいす、姉さんはコーヒーしか飲んでないわ。」
 「よかった。きょ、今日私家に一人だったんだけど、いつもの人数分作っちゃって。
いま、他の皆も食べ始めたところだよ。」
 「ほれ、かなめ。我の言う通りではないか。
我はお前達のことなら何でもお見通しなのだ。」
 えへん!と胸を張る姉さん。
 そんな姉さんがちょっとだけいつもより大きく見えた。

 食卓は、今日は少し時間が遅いが、いつものように騒がしい。
 私はこの騒がしさが好きだ。
 騒いでる妹達や空也も、私のように姉さんの元で、仲良くやっている。
 みんな、やはり姉さんに心のどこかで、悪い意味ではなく、甘えているのかもしれない。
 だから安心してこの家に帰ってこれる。
 姉さんは頼りになる、だから私も今までがんばることが出来た。
 姉さんの顔をチラッと見る。
 姉さん、私はまだまだ姉さんに及びません。
 もう少し、頼りにしてもいいですか?
 「これかなめ!刺身ばかり食べてないで野菜も食べよ!」
 「・・・姉さん、厳しいんですね。」
 ・・・やはり、姉さんにはかなわない。


(作者・SSD氏[2005/10/01])


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