「ぬぅぅ・・・。このアタシがゲームとは言え、
『柿鉄』で借金を背負うとはね・・・。」
 「何ぶつくさ言ってるの?姉貴の番だよ。」
 俺たちは今、海お姉ちゃんが昼間買って来た『柿太郎電鉄』で遊んでいる。
 海お姉ちゃんがダントツでトップ、俺は海お姉ちゃんの支援で2位、
姉貴は運が悪いのか、最下位でしかも借金を背負っている。
 夕飯を食べ終わった後に三人で始めたが熱中してしまい、
気が付くともう夜中の十二時を過ぎている。
 勿論他のみんなはもう寝てしまっている。
 「うるさいわね、分かってるわよ!黙れこのイカゲソ!」
 姉貴がコントローラーのボタンを割れんばかりの迫力で押す。
 テレビ画面の上のルーレットが回り、3で止まった。
 「3マスね・・・いち、に、さんっと!ほら、プラスのマスよ!フフン!
しかも季節は夏だから、借金が帳消しになるぐらい稼げたわ!」
 「じゃあ〜、次は私の番だね〜。私はコレを使うよ!
スキャンダルカード〜!」
 画面に姉貴に対しての死の宣告が映し出される。
 『おやおや、タカネ社長にスキャンダルが持ち上がりました!
これで評判の悪くなったタカネ社長の会社は128億円の損害!
悪いことは出来ませんね・・・。』
 「何でアタシにそんなもの使うのよ!
せっかく借金地獄から抜け出したのに、また借金背負っちゃったじゃないのよ!」
 「普段の行いが悪いんだよ〜(・ε・)」
 「ほら、姉貴もさ、もう皆寝てるんだから静かにしないと。」
 「それもそうね・・・ぬぅぅ、イカ!まずはアンタから引き摺り下ろしてやるわ。」
 姉貴の刺すような視線が怖いが、お姉ちゃんがいるので今は安心だ。
 さてと、俺の番だな。
 と、そこへ居間の障子戸がスッと開いた。


 「あは、まだ皆起きてたんだな。」
 「ともねえ!ごめん、起こしちゃった?」
 「ほら〜、高嶺お姉ちゃんが五月蝿くするから、巴お姉ちゃん起こしちゃったじゃない。」
 「何でアタシのせいなのよ!」
 「姉貴が大声出すから。」
 「高嶺お姉ちゃんのせいだよ〜。」
 「ぬうぅぅぅ・・・。」
 「あは、良いんだよ。私、自分でふと目が覚めただけだから。
そしたら、居間から楽しそうな声が聞こえたから・・・。」
と言いつつ、ともねえの目線は俺たちの顔と、
余ったもう一つのコントローラーとを行き来している。
 「・・・ともねえもやる?」
 「えっ、でも、と、途中参加なんかできるのか?」
 「出来ないわよ。でも巴姉さんがどぉーしても一緒にやりたいって言うなら、
一度ゲームをリセットしないとダメね。」
 「なんか姉貴、ゲームをリセットしようと必死じゃない?」
 「必死だよね〜。」
 「必死じゃないわよ!・・・で、どうするのよ?」
 「私はいいよ〜。リセットしてもすぐに同じ状態に持っていけるし〜。」
 「そうだね。じゃあ、ともねえ、一緒にやろう。」
 それを聞いたともねえの顔が、ぱあっと明るくなり
 「い、いいのか!?ありがとう。」
と、とても嬉しそうだった。
 ・・・

 結局そのゲームは海お姉ちゃんトップ、俺2位、姉貴3位にともねえが最下位という結果になった。
 ともねえは
 「あぅ・・・最下位。難しいんだな。」
と残念そうな顔をしながら、明日も早いからと早々に部屋に戻ってしまった。


 「なんとか最下位は脱出したけど、釈然としないわね。」
 「姉貴が弱いだけでしょ?」
 「しかも巴お姉ちゃんの足引っ張ってまで勝とうという姿勢が
見苦しかったよね〜。」
 「海に助けてもらってる分際で、イカにとやかく言われる筋合いはないわよ!
・・・それにしても巴姉さん、相変わらず寂しがり屋って言うか・・・。」
 「そうだね〜。居間で巴お姉ちゃん以外が騒いでると、絶対来るもんね〜。
今だって、こんな夜中なのにわざわざゲームやりに来たもんね。」
 「って言う事はさ、ともねえって、一人で留守番してる時とか、どうなっちゃうんだろう?」
 「「・・・」」
 「確かに、それは気になるわね・・・。寂しくて泣いちゃったりして。
でもこの家は人数多いし、家の中で一人になることなんてめったにないわよ。」
 「よし!お姉ちゃん、決めたよ!」
 「えっ?」
 「お姉ちゃんが空也に、巴お姉ちゃんが誰もいない時どうなるのか、見せてあげる〜。」
 突然の海お姉ちゃんの決意表明に俺も姉貴もポカンとしたが、今日はもう遅いので、
とりあえず詳しい話は後日聞くことにした。
 ・・・
 翌日の昼間、俺と姉貴は海お姉ちゃんの部屋に集まっていた。 
 「で、具体的にはどうするの?」
 「巴お姉ちゃんを一日お留守番させて、それを観察するよ〜。
私たちはお隣の犬神さんちの部屋から、メカタカネMK−Uで映像を受信するんだよ。」
 「でも、そのためには他の姉さん達にも家をあけてもらわないと。」
 「ねぇねぇは協力してくれそうだし、姉様もみんとあいすで何とか協力してくれるかもしれない。
でも、雛乃姉さんは訳を言っても簡単には協力してくれなさそうだよ。」
 「そこで高嶺お姉ちゃんの協力がいるんだよ〜。」
 「???」
 ・・・


 打ち合わせの後、ねぇねぇに計画を話すと
 「それ面白そうだねー。いつやるの?」
とノリノリだったので、決行日時を告げると、
 「あー、私、その日は友達と遊びに行くから、ダメだわ。
しっかり何が起こるか記録しておいてよね!」
 姉様にも協力要請する。
 勿論、仕事のある姉様には、実行日に家に帰るのを遅くしてもらうように頼むだけ。
 「嫌よ。私は帰りたい時に帰るわ。そんな下らないことの為に・・・。
あなたもヒマなのね。空也。」
と言うので、ここでミントアイスを差し出す。
 「みんとあいす・・・私がこんなものにっ、つられると思うのかしら?」
 ここでさらにもう二つ、ミントアイスを無言でお姉様に渡す。
 「・・・そういえば、たまたまその日は、遅くまで事務所に居なきゃいけないんだったわ。」
 姉様は三つのミントアイスで協力に応じてくれた。
 ・・・

 「イカ、首尾はどうだったの?」
 「うん、ねぇねぇはその日は朝から居ないって。
姉様もミントアイス三つ渡したら協力してくれるって言った。」
 「さすがくーや!後は雛乃お姉ちゃんだけだね!」
 「で、アタシの出番なんでしょ?」
 ・・・

 「で、なぜ我がそのような実験に協力せねばいかんのだ?」
 いぶかしげな顔で俺たちを見つめる雛乃姉さん。
 そんな姉さんの前に正座する俺たち三人。
 「それがね、雛姉さん。今度のアタシの大学でのレポートのテーマが、
『長時間の孤独状態における人間の心理と行動について』なの。
で、身近で一番良い実験対象が、巴姉さんってワケ。」
 「私もね、高嶺お姉ちゃんから聞いた時は、
高嶺お姉ちゃんの血も涙もない選択に、巴お姉ちゃんが可哀相って反対したんだ〜。
でも、高嶺お姉ちゃんの更なる飛躍の為に、私も涙を飲んで協力することにしたの。」


 「(海!こんのぉ〜!自分だけいい子ぶりやがって!)
と、兎に角、雛姉さんの許可が降りなかったら、この実験はしないことにしたの。
なんていったって、雛姉さんはアタシたちのまとめ役だもの。
意見を仰ぐべきだとすぐに思ったわ。」
 姉貴の最後の一押しに、雛乃姉さんの眉毛がぴくっと跳ね上がる。
 「ふむ、まぁ、アレだな。
巴はちと可哀相であるが、妹の勉学のためとあるならば、許してくれるだろう。
それにお前達、我の許可をもらいに来たのはなんとも殊勝な心がけであるぞ。
思いっきりその実験とやらをやるがいい!」
 「「やった!」」
 ・・・

 決行当日。
 朝食の時点で、皆が個々の用事で今日は遅くまで帰らないから、
夕飯はいらないとともねえに伝えた。
 「って言うことは、私、今日家に一人かな?
あぅ・・・寂しいなぁ・・・。
歩笑ちゃんのところに、遊びに行こうかな。」
 だが、ねーたんにもすでに部屋を本部として使わせてくれという協力要請はしてある。
 ちなみにねーたんには「ともねえが一人であぅあぅ言う可愛い姿が見れるよ」と言ったら、
「是非とも」と快く即答してくれた。
 「ねーたんは明日が締め切りで、にっちもさっちもいかないって。」
 「あぅ・・・そうなんだ。」
と、朝からともねえのテンションはダダ下がりだ。

 朝食後すぐにお姉様とねぇねぇは出かけ、昼前に雛乃姉さんがバイトへ。
午後に入ってまず海お姉ちゃんが犬神家へ機材のセッティングに出て行き、
時間を置いて姉貴、俺という順番で家を出た。
 この時点で、家に残っているのはともねえだけということになる。


 ねーたんから貰った犬神家の合鍵で中へ。
 ねーたんの部屋に行くと、海お姉ちゃんがすでに機材をセットし終わっていた。
 お姉ちゃんの機材を横で観察していたねーたんは、俺の姿を見るなり表情を明るくする。
 「くーくん、おかえり。」
 「ただいま、ねーたん。」
 「やっと来たわね、イカ。
それにしても本格的な機材ね。海はこう言うのに関しては器用なんだから。」
 「えへへ〜。結構高かったんだよ、これ。」
 言いながら、海お姉ちゃんがトランクから木目柄の茶筒を取り出す。
 「やだっ!何これ気持ち悪い。」
 「高嶺お姉ちゃん、自分の分身を気持ち悪いって言っちゃダメだよ〜。」
 海お姉ちゃんが茶筒をカチッとやると、手足が生えて、ツインテールも生えてきた。
 「メカタカネMK−U、木目迷彩バージョン!
前バージョンのメカタカネより、性能UP!
オイル漏れもしなくなったし、複雑な動きも出来るよ〜。」
 「確かにこれなら、純和風のウチの中でなら、見つかってもばれにくいかもね。」
 「手足は分かるけど、ツインテールはいらないでしょうがっ!」
 「本物の高嶺さんは、もっと可愛いよ。・・・くすり。」
 「ぬぅぅぅ・・・。褒められてるのか貶されてるのか、微妙だわ。」
 「ともあれ、メカタカネ、発進!」
 「ヤキソバ、ヤキソバ」
 奇妙な声を発し、トコトコと部屋を出て行くメカタカネ。
 ・・・

 間もなくすると、柊家でともねえを見つけたメカタカネから、
設置されたモニターに映像が届けられる。
 「どうやら巴お姉ちゃんは、庭に居るみたいだね〜。」
 洗濯物を取り込んでいるともねえの、後姿が映し出される。
 ピンと張ったジーンズ越しのともねえの足とお尻が、妙にセクシーだ。
 「洗濯物を取り込んでる巴さんの後姿・・・ハァハァ。」
 「・・・ねーたん?」


 洗濯物を取り込み終わったらしいともねえは、ガーデニングセット一式を持って
庭の隅の花壇の前にしゃがみこんだ。
 「何だか、いつもやってる様な事しかやらないわね。」
 「ツインテールは気が短いなぁ。釣りは忍耐だよ〜。」
 「しっ、ほら、ともねえが何か言ってるよ。海お姉ちゃん、ボリューム。」
 海お姉ちゃんがボリュームを上げると、スピーカーからともねえの声が響く。
 『マルシア。きょ、今日も元気かな?
いつまでも元気で、また綺麗なお花、見せてね。』
 「・・・ともねえって、ガーデニングの時は花に話しかけるの?」
 「アタシは巴姉さんが花に話しかけてるのを見たことあるけど、
巴姉さん、私が見てるのに気が付くと、急に黙っちゃって。」
 「でもまさか、花にまで名前が付いてて、
しかも話しかけてるとはね〜。重症メモメモ〆(._.)と。」
 急にともねえが肩を震わせうつむきながら、何かを始めた。
 「巴さん、泣いてる。何で泣いてるんだろう?」
 何でだろう?と思った瞬間、一つの推理が頭の中をかすめた。
 そういえばともねえ、誰もいないと思って指輪関係の証拠を出してはしまわないだろうか?
 と言うか今泣いているのも、自分のジガとしての運命を思い出し悲しんで泣いているのかも。
 ともねえが何かキーワードを言ってしまうのではないか!?
 ヤバイ、今すぐ計画を中止しなくては!
 「あ、あのさ、もうなんかともねえ一人にしておくの、可哀相だからやめない?」
 「ハァ!?何言ってんのイカ?巴姉さんは寂しくて泣いているわけじゃないわよ。
よく見なさい。」
 スピーカーから嗚咽交じりの声が聞こえる。
 『ひっく、うぐぅ・・・ご、ごめんねぇ・・・。』
 よく見ると、ともねえは泣きながら雑草を抜いている。
 「巴さん・・・優しすぎる。」
 ・・・心配して損した。
 ともねえは抜いた雑草に手を合わせ線香を上げた後、家の中に入っていった。


 その後ともねえは自室で人形相手に遊んでいた。
 俺達見てる側からすればともねえの声しか聞こえないのに、
人形との会話が成立してるっぽい不思議空間に改めて度肝を抜かれた。
 ともねえからすればそれは普通のことなんだろう。
 心配していた指輪関連の発言もなく、無事に計画は進行していった。
 少しすると、ともねえはおもむろに立ち上がり、バイクに乗って柊家を出て行った。
 「買い物じゃないの〜?巴お姉ちゃん、マメだからね〜。」
 「巴姉さんが帰ってくるまで、休憩しましょ。」
 姉貴の提案に、おもむろにダラダラする俺と海お姉ちゃん。
 そこにねーたんが冷たい麦茶を持ってきてくれた。

 一時間半後
 日はとっぷりと暮れたが、ともねえはまだ帰って来ていない。
 「なんかさ、ともねえ、遅くない?」
 クロウが出たのかもしれないと不安になったが、それなら俺にも信号が聞こえるはずだ。
 「もしかして、巴さんにばれたのかも。」
 「まさか〜。それはないよ。巴お姉ちゃん、ヌけてるもん。」
 「どこかでこの計画のことを聞きつけたともねえが、部屋に乗り込んできたりして。」
 「そんなわけないじゃない。」
 その時コンコン、とドアがノックされる。
 部屋に一瞬、緊張が走り抜ける。
 「・・・今日、姉さんは仕事で居ないはずなんだけど。」
 「まさか、本当にともねえが!?」
 「ちょっ、ぽ、歩笑、開けなさいよ!」
 ねーたんがゴクリと喉を鳴らし、ドアノブに手をかける。
 ガチャ・・・
 ドアの外には、ともねえの姿が!
 「とっ、ともねえ!」
 「みんな、ひ、ひどいよ・・・。私を笑いものにして・・・。」
 「とっ、とっ、巴姉さん、これはね、ち、違うのよ!」
 「ぐすっ、う、うぇぇぇぇん!」


 「・・・姉さん、くーくんや高嶺さんを騙せても、私には分かるよ。」
 ねーたんが落ち着き払った声で言うと、ともねえの頭に手をかけて、
ビッと下に引っ張った。
 仮面がはがれて、
 「あん☆ばれちゃったわね。さすが歩笑ちゃん。」
 「なんだぁ、ねぇやか。・・・あせったぁ。」
 「ちょっと、本気でびっくりしたじゃないのよ!」
 「ちょっと空也ちゃん、なんだって何よ。二人ともつれないのね。」
 「姉さん、仕事は?」
 「昨日歩笑ちゃんから聞いた話が面白そうだったから、
打ち上げ出ないで帰ってきちゃった。
 それにしても若い男女が集まって、カーテン締め切った部屋で
熱気ムンムンなんて、いやらしいわね。」
 「そういう発想をするねぇやが一番いやらしいと思う。」
 一部始終を傍観していた海お姉ちゃんが、急に声を上げた。
 「メカタカネから入電、帰ってきたみたいだよ。
メカタカネを玄関に移動させるね。」
 早速メカタカネから玄関の映像が届けられる。
 ガラガラと音を立てて玄関から入って来るともねえ。
 『ただいまー!・・・・・・・・・あぅ、まだ誰もいないのか。』
 ショボーンとうなだれるともねえ。
 「あのさ、今日ともねえ、なんか荷物多くない?」
 「そうなの?いつもあんなもんじゃない?」
 「姉貴は買い物行った事ないから分からないだろうけど、ちょっとだけいつもより多いな。」
 「なんだろね〜。あの手提げの紙袋なんか怪しいね〜。
とりあえず、このまま巴お姉ちゃんを尾行るよ。」
 部屋に荷物を置いてから台所に向かうともねえに、メカタカネが着いて行く。
 ・・・


 ともねえは普段通りに料理をはじめ、料理を何品か完成させた。
 お盆に出来た大量の料理の皿を乗せて、居間に持っていこうとするともねえ。
 「巴さん、あれ全部一人で食べるのかな?」
 「巴ちゃんも、結構な大食いなのね。」
 「いや、ともねえは結構量食べるけど、あんなには・・・」
 「巴お姉ちゃん、一人だって事忘れてるんじゃない?」
 『あっ!そういえば今日は私一人だったんだ・・・。』
 画面の向こうで気が付いて、またしょぼくれるともねえ。
 それでもとりあえず出来た料理を居間へ運ぶようだ。
 居間のテーブル一面に料理を並べていき、その前にちょこんと座るともねえ。
 『あぅ・・・やっぱり寂しいなぁ・・・。』
 寂しいせいか、箸の進み方が少し遅い。
 『そうだ!みんなと一緒に食べよう!』
 「・・・なんか今、ともねえ問題発言しなかった?みんなって・・・?」
 「まぁ、大体予想は付くけどね。」
 一旦居間に待機しているメカタカネの視界から消えたともねえが、
ぬいぐるみをいくつか抱えて戻ってきた。
 そのままぬいぐるみを、テーブルの脇に配置し始めた。
 『あは。みんな、今日はとっ、特別だからな。』
 そう言って、配置されたぬいぐるみを一瞥して
 『いただきます。』
とさっきより速いペースで食べ始めた。
 「やっぱり・・・。巴姉さんの考えそうなことだわ。」
 「でも、巴ちゃん以外はみんなお人形さんでしょ?食べられないじゃないの。」
 「姉さん。巴さんは心の中でみんなと食事している。
そこを突っ込んだらダメ。」
 「ふーん、私にはよく分からないわね☆」
 「分からないほうが正常なんだよ〜(・ε・)」
 ・・・


 食事を終え、片づけを済ませたともねえは、居間で一人頬杖を付いていた。
 「巴姉さんって、いつもこのぐらいの時間は部屋にいるわよね?」
 「巴さん、寂しくて、誰か帰ってくるのを待ってるんだと思う。可哀相。」
 すくっと立ち上がり、部屋を出て行くともねえ。
 「メカタカネを追跡にむかわせるよ〜。」
 どうやら、ともねえは部屋にこもってしまったらしい。
 メカタカネがばれないように慎重に部屋に侵入する。
 ともねえは買い物から帰ってきた時に持っていた、大きな手提げ紙袋を開けていた。
 「そういえばあの紙袋は荷物と一緒に部屋においてきてたね。
何が入ってるんだろう?」
 ガサゴソと音を立てる紙袋から出てきたのは・・・
 「えっ、ゴスロリの服?」
 「アレはゴスロリね。」
 「ゴスロリだね〜。」
 「ゴスロリね♪」
 「巴さん・・・。」
 ねーたんは顔を赤らめて嬉しそうにしている。
 「多分、これを選んでたから今日は買い物遅かったんじゃないかしら?」
 ねーたんちっくなゴスロリの服を持って、
ともねえはいそいそと部屋の大鏡の前で着替え始めた。
 ともねえの下着姿を見れるのは嬉しいが、
 「巴姉さん・・・(ハァハァ」
 「巴さん・・・(ゴクリ」
姉貴とねーたんが喉を鳴らして画面を凝視していた姿が恐ろしかった。
 着替えを追え、すっかりゴスロリファッションに身を包んだともねえが、
大鏡の前でくるっと一回転して、最後に笑顔を決める。
 回転した際に短めのスカートの裾がふわりと上がったのが、なんともいえない。
 『あは、この服、やっぱり可愛いな。』
 「確かに可愛いけどね。巴姉さんには似合わないわね。」
 「ちょっとやっちゃった感があるよね〜。」
 「私は似合ってると思う。」
 「巴ちゃんって、ああいう服が趣味なの?私の衣装から貸してあげるのに。」


 俺の正直な感想は、可哀相だけど似合わないと思った。
 ともねえ、かっこいい服のほうが似合うんだけどなぁ・・・
と、そこへスピーカーから
 『(ガラガラガラ)たっだいまー!』
 「ん?この声は、瀬芦里お姉ちゃんだね〜?」
 「ったくあの馬鹿!いいところで!
まだ予定より一時間早いじゃないの!」
 「おっ、俺はちゃんと十一時過ぎまで帰ってこないでって伝えたよぅ。」
 画面の中でねぇねぇをこのまま迎えに出るか、ちゃんと着替えてから迎えに出るか
おろおろと迷うともねえ。
 一瞬後に、おろおろするのを止め、そのままの格好で玄関に向かう。
 「メカタカネ、もう見つかってもいいから追跡〜!」 
 玄関で靴紐を解いているねぇねぇを、ゴスロリともねえが向かい入れる。
 『お帰り、瀬芦里姉さん。あの・・・こっ、この服、どうかな?』
 『モエ、ただい・・・って何その格好!アハハハハハ!』
 『あぅ・・・やっぱり笑われた。』
 ともねえはしょんぼりしながら部屋に戻っていった。
 『モエはかっこいいんだから、ビシッとした格好すればいいのにな〜。
・・・あれ、何でこんなところにメカタカネ?
あっ!そういえば・・・ごめんね!うみゃ、クーヤ、タカ。』
 画面越しにねぇねぇが謝ってる。
 「ったく、ドラ猫のせいでもう今日は終わりね。」
 「まぁ、でもともねえがもうそろそろ可哀相になってきたから、ちょうどいいかも。」
 「私は満足したよ〜。面白いものたくさん見れたしね〜。」 
 「うん、じゃあくーくん、巴さんに、寂しかったらいつでも遊びに来てって伝えて。」
 「じゃあ、私明日ヒマだからお世話になるわね、歩笑ちゃん。」
 「姉さんはダメ。」
 「あん、冷たいのね。」
 ・・・


 「「ただいまー!」」
 三人で玄関をくぐると、普段の格好に戻ったともねえが、嬉しそうに駆けて来る。
 「あは、お帰り。三人とも一緒だったのか?」
 「う、うん、たまたまそこであってね。」
 「みんな、遅くまで大変なんだな。」
 「ところでさ、ともねえ。まだ今晩は何も食べてないんだ。なんか食べるものある?」
 実は俺たち三人は、ともねえが作りすぎてあまった料理を見て
流石に可哀相に思い、ねーたんが作ってくれると言った夕飯を食べないで来たのだ。
 「う、うん!たまたま、私夕飯作りすぎちゃって。あ、あまりものでよければ。
今、瀬芦里姉さんも食べてるよ。」
 ぱあっと表情が明るくなるともねえ。
 本当に嬉しそうだ。よほど寂しかったんだろうな。

 居間ではねぇねぇが先に食べ始めていた。
 ごめんと、ともねえにばれないようにジェスチャーでねぇねぇが謝る。
 追加分のあまりものをともねえが運んでくると同時に、玄関から
 「「ただいま。」」
と雛乃姉さんと姉様の声が聞こえた。

 結局二人もたいしたものは食べてないらしく、皆で遅めの夕食。
 ねぇねぇが姉貴の分の料理を横取りして、それに抗議する姉貴。
 いつものようにお気に入りのものだけを食べる姉様に、それを怒る雛乃姉さん。
 料理を食べやすいように、俺の口元まで運んでくれる海お姉ちゃん。
 すでに食べてしまったともねえは、それをただニコニコしながら見つめている。
 「どうしたのともねえ?なんか嬉しいことでもあったの?」
 「うん、家族がそろっての食事って、や、やっぱりいいな、って思って。」
 笑顔で言ったともねえの目じりに、うっすらと涙が浮かんでいた。
 ともねえの困ってる顔も可愛いけど、やっぱり笑顔が一番だな。
 ごめんねともねえ、と心の中でつぶやく。
 「そうそう、そういえば私が帰って来た時、モエはね〜」
 「あぅ!それは言わないで!瀬芦里姉さん!」
 と慌てながらも、ともねえはどこか楽しそうだった。


(作者・SSD氏[2005/10/01])


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