梅雨の湿気が徐々に初夏の陽気に変わり始めた七月のある晩。
 今晩は珍しく親父も会社から帰ってきて一緒に夕食。
 目の前で壮絶な食物の取り合いが繰り広げられている最中、
雛乃姉さんがふと口を開いた。
 「かなめよ。確か明日だったな。お前が温泉旅行に行くと言うのは」
 言った瞬間、親父が姉様に詰め寄る。
 「なにぃ!? 要芽、お前温泉旅行に行くのか!?
 何でパパに言っておいてくれなかったんだ? ワシも同行するぞ!」
 「雛乃姉さん、正確には明日の晩からです。
 それからお父様、一応社員旅行なので、事務所の者以外は参加できません」
 「くっ……せっかく仕事も一段落着いたから要芽とたくさん遊ぼうと
三日も休み取ったのに…!」
 「それにしても姉様、社員旅行って毎年行ってるの?」
 「いいえ、今年度が初めてよ。
 いるかがどうしても行きたいといって聞かないものだから。
 そうだ、空也、貴方もいらっしゃいな」
 「えっ…俺も!?」
 姉様が俺を誘ったのを聞き、親父がすかさず、
 「何でピーナッツが行けるのに、ワシが行っちゃいけないの?」
と、涙目で突っ込んだ。…キモイ。
 「空也は以前に短期間でしたけど私の事務所で働いた事がありますから」
 「くぅぅぅ…、じゃ、じゃあ行き先だけ教えてくれ!
 ワシは一般旅行者として悪魔で、偶然、お前とおんなじところに泊まるから!」
 「…ったく、ショウは要芽姉のことになると必死だよね……」
 「お父さん、いい加減キモイよ〜」
 「親父殿、先ほどから行儀が悪いぞ」
 「くそー! もう良いもん! ワシ、寝る!」
 他の姉さんたちに怒られてやさぐれた親父は、
お茶碗に残っていたご飯をかっ込んで、泣きながら二階に上がって行った。
 「お父さん、ちょっと、か、かわいそうだったね」
 「いいのよ、巴。あれぐらい」


 「ところで姉様」
 「何かしら?」
 「出発、明日なんでしょ? 俺、明日…」
 「『明日』、なんなのかしら?」
 俺がやんわりと断ろうとすると、姉様が鋭い目つきで俺を睨んだ。
 「明日ぁ…………からちょうど暇だったんで、是非ともお供させてください」
 「あら、そうなの。ちょうど良かったわね。」
 鋭い目つきが一変、やさしい柔らかなまなざしに変わった。
 …まぁ、明日の午後に沖縄から団長が出て来るだけだから、団長は無視で良いか。
 「と、いうことで明日の夜から明々後日の夜まで家事を一人で頼むわよ。巴」
 「あは、大丈夫だよ。まかせて」
 ・・・

 翌夕方。
 この日の仕事が終わり次第、そのまま車で某県の山の中の温泉地まで行くからと、
夕方になったら事務所に来るように言われた。
 さっきから俺の携帯に『変態』から着信が入っているが、
姉様に温泉に誘われた以上徹底的に無視だ。
 
 姉様の事務所に入ると、姉様といるかちゃんと摩周さんが支度を終え、
ソファーでお茶を囲んでおしゃべりしていた。
 「…そしたらですねー、健太が…あっ、空也さん、来ましたねー」
 「空也さん、お久しぶりです」
 「あれ、俺、遅かったですか?」
 「いえ、貴方が遅刻したわけじゃあないわよ。思ったより仕事が速く片付いただけ」
 何だかんだ言って優秀な人間ばかりだからな。仕事が終わるのも早いわけだ。
 「それじゃあ私、下に車出してきますねー」
 いるかちゃんが車の準備をするために、事務所を先に出て行った。
 「あれ、今回はいるかちゃんが運転するんですか?」
 いつも姉様を迎えに二人が来る時は、摩周さんが車を運転をしている。
 「いるかが行きたいと言い出したのだから、当然じゃない」
 「秋山さんは今回の旅行、旅館の手配からすべて、一人でやったんですよ」


 いるかちゃんの運転する車に摩周さんが助手席に、俺と姉様が後部座席に座った。
 「秋山さん、疲れたらいつでも言ってください。交代します」
 などと摩周さんが言うと、
 「いやですねー、摩周さん。私、ぜんぜん疲れてませんから安心して寝ててください!」
と、いるかちゃんは大見得を切って返した。
 しかし街を抜けた頃になって、結局いるかちゃんは摩周さんと運転を交代してもらった。
 暫くすると、いるかちゃんと姉様が寝てしまったため、車内が一気に静かになった。
 姉様が俺の肩に寄りかかって寝息を立てている。
 その姉様の髪からいい匂いが漂ってきて、肩に姉様の温かみを感じつつ、
俺もいつの間にか眠ってしまった。
 ・・・

 「要芽様、秋山さん、空也さん、着きましたよ」
 摩周さんに起こされて車の中で目がさめた。
 俺に寄りかかって寝ている姉様を起こす為に、優しく揺さぶりながら声をかけると
 「いやぁ……まだ寝てたいんだもん……」
 この返事になぜか摩周さんが顔を赤くしていた。
 なかなか起きない姉様といるかちゃんを何とか起こし、車の外に出てみると、
朝霧と深緑の中に、ずっしりとした、由緒正しそうな旅館が浮かんでいた。
 「何だかずいぶん立派な旅館ですね」
 「ふわぁ〜あ、そりゃあそうですよー。なんて言ったって旅行の費用はすべて
摩周さん持ちですからねー。私、奮発しちゃいました」
 眠そうながらも声のトーンが高いいるかちゃん。
 「えっ、摩周さん持ちなんですか…なんかすいません」
 「いえ、私は要芽様の旅行にお供できるだけで幸せですので」
 この人のこう言うところは死んでも直らないだろうな…
 気が付くと姉様が旅館の入り口に向かって、危なっかしい足取りでふらふらと近づいていく。
 荷物を持ってあわてて姉様の後をついて行く俺達を、朝も早いと言うのに若い女将さんが迎えてくれた。
 部屋に通され荷物を置いた後、軽い朝食を済ませ、いるかちゃんが
 「はいー、じゃあ早速今回の旅のしおりを配りますよ」
と、わら半紙で作られた小冊子を配り始めた。
 しおりには「柊法律事務所社員旅行〜一泊三日の旅〜」と書かれていた。


 旅の日程と書かれた項を見てみると、どうやら今日はこの後、
ぶどう狩りに行った後、アイス工場見学、と書かれている。
 「ねぇ、いるかちゃん。このアイス工場見学って何ですか?」
 「コレはですねー、お姉様の為に組み込んだ見学なんですけどね、
この工場はみんとあいすが美味しいメーカーの工場なんですよ。
 勿論見学が終わった後はアイスを好きなだけ試食できます」
 なるほど、全体的に姉様にダルい思いをさせないような日程になってるんだな。
 ・・・

 ブドウ畑ではお姉様が
 「空也、この房のブドウが美味しいから、食べて御覧なさい」
と、言うから近寄っていくと、姉様はうれしそうに目を細めて、ブドウを一粒口に含み、
いつかの飴玉のように俺に口移しでブドウを一粒食べさせてくれた。
 摩周さんやいるかちゃんに見られていないか、というスリルで姉様の唾液がより甘く感じた。
 「フフフ…どうだったかしら? 甘くて美味しかったでしょう?」
 「う、…うん」
 いたずらっぽく笑う姉様に、思わず頷いてしまった。
 農家の人が取ったブドウをジャムにしてくれると言うからと、いるかちゃんは取ったブドウを
すべてジャムにしてしまったようだ。
 両腕いっぱいにジャムビンを抱えて
 「こんなにたくさんあるなら、一生ジャムには困りませんねー」

 アイス工場に行くと、姉様はミントアイスの製造ラインに釘付けだった。
 「みんとあいす……」
と、見学用の窓ガラスに張り付き呟いているのを見て、さすがにヤバイなと思った。
 案内のお姉さんが美少女だったせいもあって、姉様が
 「困った事があったらいつでも私に連絡しなさい。力になるわ……フフフ」
とナンパをして、いるかちゃんに咎められているお姉様も新鮮だった。
見学後のアイスの試食で、姉様はミントアイスを五つも食べた。
 あの細い体のどこにそんなにアイスが入るんだろうな…?

 そんなこんなで二日目の日程を終わり、宿に帰ってきた。


 宿についてしばらくすると、男子部屋にお姉様といるかちゃんがやってきた。
 いるかちゃんは一日の疲れも見せずにニコニコと、
 「さてさて、これからが今日のメインイベントですよー!」
 「えっ? また何かするの? 夕飯まで休憩にしようよ」
 「そうですね…私もさすがに少し疲れてしまいました」
 昨日の夜から運転しっぱなしであまり寝ていない摩周さんが、めずらしく疲労を訴える。
 「嫌ですねー、お2人とも。これからのメインイベントは、温泉ですよ。露天温泉」
 「温泉!?」
 「そうですよー。温泉に入れば、疲れも吹っ飛ぶと言うものです!」
 「それは良いですね。私も温泉は好きですよ」
 「そういえばいるか。あなたずいぶんとここの温泉が良いって言っていたけれど…」
 「そうなんですよー。この旅館から少し歩いたところにある温泉はですね、
効能も勿論良いんですけど……ゴニョゴニョ……」
 途中からいるかちゃんは姉様に耳打ちをし始めた。
 いるかちゃんから何かしらの情報を得た姉様は、
 「あら、そうなの。フフフフフフ……それは面白そうね」
と、何かを企んでいる時の目つきで男性人二人に笑いかける。
 「姉様、あの顔何かたくらんでますね。恐ろしい…」
 「いずれにせよ、覚悟していきましょう。空也さん」
 摩周さんとの間に、少しだけ、今までにない連帯感が生まれた。
 ・・・

 それぞれの部屋で浴衣に着替え、旅館の外へ。
 外はもうすでに真っ暗で、街灯も少ないから温泉まで必要でしょうと、
旅館の人が提灯を貸してくれた。
 なぜこの時代に提灯なのかと思ったが、暗い山道を提灯一本と
夜空に瞬く星と月明かりで進むのは、なかなかにいい雰囲気だ。
 近くを流れている川の水音と、フクロウやら鈴虫やらの大合唱が
おまけについている。


 「なんか幻想的で良いですねー」
 早速この雰囲気に酔ったいるかちゃんが、
提灯を持った摩周さんの周りをピョンピョン跳ね回っている。
 「そうね、悪くないわ……いるか、あなたはウザったいけれど」
 「秋山さん、そんなに跳ね回っては、石につまずいてしまいますよ」
 「大丈夫ですよ。私、田舎の山道でも一回も転んだ事……っと、ハワワワワワ!」
 そんな事を言いながら早速石につまずき、バランスを崩したいるかちゃんだが、
 「……っと、ね! 大丈夫でしたでしょう?」
腕をぐるぐる回し、すんでの所で態勢をピタッと持ち直した。
 何だか本当にいい意味で騒がしい人だな…。
  
 間も無く暗闇の中の川原に、東屋のような脱衣所が見えてきた。
 どうやらコレが例の温泉らしい。
 「ここの露天温泉は穴場なんですよー。
 元々あの旅館の宿泊客しか使わないですし、その上あの旅館お高いですからねー、
人もこの時間なら私たちだけでしょう。
 では、早速入りましょう!」

 摩周さんと脱衣所で服を脱ぎ、外の露天温泉へ。
 温泉は川原に掘られた穴から湧き出しており、湯面からは湯気がもうもうと出ている。
 目の前を流れる川が、さっきここに向かう途中に聞こえたせせらぎの正体だろう。
 「思ったより温泉自体が広いんですね」
 「そうですね…」
 素直に感動している摩周さんをよそに、俺はある事が気になっている。
 この温泉、男湯と女湯の仕切りが見当たらない。
 「空也さん、どうしたんですか? 入らないんですか?」
 摩周さんが先に温泉に浸かって、温泉に入らずに立っている俺を不思議そうに見ている。
 「…摩周さん、ここ、もしかすると混…」
 俺がここまで言うと、後ろからキィと木戸が開く音がして、
 「あら、空也。どうしてそんなところに突っ立っているのかしら?
 せっかくなのだから温泉に入りなさいな」


 恐る恐る振り向くと、姉様といるかちゃんが白いタオルを前掛けのように胸から垂らして、
大事なところがぎりぎり見えないように立っていた。
 「くぁwせdrftgyふじこlp;」
 正面に向き直って急いで温泉の中に飛び込む。
 「フフ…何を驚いているのかしら? 
 姉が弟と一緒にお風呂に入ろうとしているだけなのに、何故そんなに慌てているの?」
 「そうですよー。空也さんとお姉様はご姉弟じゃないですかー」
 いやですね、確かにお姉様と家でお風呂に入らないこともないですけど、
摩周さんやいるかちゃんの前ではさすがに恥ずかしい……というか空太郎も大きくなっちゃってるし、
何よりいるかちゃん……あなた何故平気なんですか?
 「こっこっ混浴だなんて、聞いてないもん!」
 背後に立っている二人に、幼児退行して抗議する。
 「あれー? 私言ってなかったですかねー?」
 いるかちゃんがわざとらしく言って見せた。
 姉様がクスクス笑っているのが聞こえる。
 くそー、部屋で耳打ちしてたのはこう言うことか。
 ふと隣を見ると、摩周さんが温泉の中で座禅を組み、
目をしっかり閉じてお経らしきものを唱えていた。
 「いつまでもこのままでは寒いから、私たちも入るわよ」
 姉様が温泉に入ったんだろう、ちゃぷ…と音がいやに耳に残る。
 しばらく温泉に浸かった姉様といるかちゃんは、温泉から上がりお互いの体を洗い始めたようだ。
 「あっ…お姉様、そんなところ、ダメですよ…空也さんたちに聞こえちゃいます」
 「フフフ、だからこそ良いんじゃないの」
 って何始めてますの!?
 摩周さんの読経のボリュームが大きくなる。
 ああっ、もう!沈まれ空太郎!このままでは姉様たちの思う壺だ!
 湯船に戻った姉様たちが、こっちに誘いをかける。
 「空也! 摩周君! こっちへいらっしゃいな」
 「ナムナムナムナムナムナムナムナムナムナムナムナム……」
 「無理ですってば! この状況じゃ!」
 「空也さんも摩周さんも、シャイですねー。大丈夫ですよ。とって食ったりはしませんから」
 何でいるかちゃんはあんなに飄々としてるんだ?


 「さっきから摩周君が返事しないわね」
 「ですねー」
 向こうはどうやらターゲットを摩周さんに絞ったらしい。
 当の本人は顔を真っ赤にして未だに読経を、目をぎゅっと瞑って続けている。
 「摩周君? あなた、いつから私を無視できるようになったのかしら?」
 うわぁ、姉様、その一言は今の摩周さんにとってはキツイよ…
 「ナムナムナムナムナムナムナムナム………はっ…はい。なんでしょうか? 要芽様」
 摩周さんは振り返らずに背を向けたまま返事をした。
 「あら、摩周家では、話をする時は人の目を見る、という基本的な礼儀を教えないのかしら?」
 「そうですよ、摩周さん。人の目を見るのは接客でも重要ですよ」
 二人の台詞にハッとした摩周さんは、目を開けて首をゆっくりと、ぎこちなく回し始め、
 「…………っっっっ! ぐはぁっ!」
耐え切れなくなったのか、途中で摩周さんは自壊した。
 「…少し摩周君で遊びすぎたかもしれないわね」
 いつの間にか俺たちの近くまで来ていた姉様といるかちゃんが、
顔を紫色にして浮かんでいる摩周さんの顔を覗き込んでいる。
 「もう何だか飽きてしまったわね。いるか、あがりましょう」
 「そうですねー。あがりましょうか」
 「空也、私たちは先に宿に帰っているから、摩周君の事をよろしく頼むわね」
 「えっ、ちょっ…!」
 俺が引きとめようとするのを聞かずに、姉様といるかちゃんは脱衣所に消えていった。
 ふと浮かんでいる摩周さんの股間を見ると、摩周さんの息子は元気にはなっていない。
 ……多分必死になって耐えたんだろうな。アンタ英雄だよ。
 ・・・

 温泉から宿までの道を、提灯無しで摩周さんを担いで戻るのは結構骨が折れた。
 宿に帰ると男子部屋でお姉様といるかちゃんが、
 「もう、遅いですよ空也さん。私、お腹ペコペコです」
と、俺達が帰るまで夕飯を待っていてくれた。
 気絶したままの摩周さんを布団に寝かせて、三人で夕飯を食べる。
 食べ終わると明日も早いからと、お姉様達は寝ると言って部屋に帰っていってしまった。
 摩周さんも気絶してるし、やる事ないから寝るか…


 布団にもぐって一時間ほどたったろうか。
 就寝時間が早かったため、疲れてはいるが目が冴えて寝れない。
 その時、ふと誰かが部屋の戸を叩いた。
 「空也? もう寝てしまったのかしら?」
 この声は、姉様?
 部屋の戸を開ける。
 「どうしたの姉様? もうすっかり寝たのかと思ったよ」
 「寝つきは良いほうなのだけれど、どうも今夜は目が冴えて眠れないのよ。
 それで少し外を散歩しようと思うのだけれど、一緒にどうかしら?」
 「うん!行く行く!」

 旅館の外に出ると、この暗さにもなれたせいか、月明かりで思いのほか外が明るく感じた。
 山のひんやりとさわやかな夜風が、体に溜まったダルさを吹き飛ばしてくれる。
 開放感から思わず伸びをした。
 「う〜ん…!なんか昨日から今日一日、あっという間だったね、姉様」
 「そうね」
 「あー、もう明日午前中動物園行ったら帰るのかぁ」
 明日は午前中、山の中にある動物園に行って、名物のヤマペンギンのお散歩を見て
神奈川に帰ることになっている。
 「旅行はたまに来るから良いんじゃないの」
 「そうなんだけどさ〜…」
 「……そうね、次はあなたと二人だけでのんびり旅行がしたいわね(ボソ」
 「ん? 何か言った? 姉様?」
 「フフフ、なんでもないわ」
 そういうと姉様は自然と俺に顔を近づけてきて、
 「チュッ」
そうなるのが当たり前のように軽い口付けをしてきた。
 「…私はもう寝るわね。お休み、空也」
 「お、…おやすみ…」
 突然不意を突かれたキスだったので、何だか変に驚いて、興奮してしまった。
 部屋に帰って布団に潜っても、その事ばかり頭に浮かんで、その夜はあまり眠れなかった。
 ・・・


 翌朝目が覚めると、摩周さんがいやにさっぱりしてたのでどうしたのか聞くと、
 「朝早くに旅館の方に近くに滝がないか聞いて、早速滝に打たれて来ました。
 まだまだ私も修行が足りないと思ったので…
 昨晩はご迷惑をおかけしたようで、申し訳ないです」
 昨晩姉様といるかちゃんにからかわれて気を失った自分が、よほど悔しかったんだろうなぁ。
 しかしそんな摩周さん、実際に姉様たちと顔を合わせると、
 「あら摩周君、空也、おはよう」
 「お二人とも、おはようございますー」
 「姉様、いるかちゃん、おはよう」
 「おはょぅございます…」
言いながら顔を真っ赤にして、頭をブルブルと横に振っていた。

 食事を済ませた後旅館を出て、早速動物園へ。
 珍しいヤマペンギンのお散歩とあって、姉様の目は終始少女漫画のようにキラキラしていた。

 午後になって摩周さんの運転で一路神奈川へ。
 車が神奈川に入る頃には、もうすでに日が落ちて夜になってしまっていた。
 摩周さんが車をウチの前までつけてくれた。
 「要芽様、お疲れ様でした」
 「私がプロデュースした旅行、楽しんでいただけましたか?」
 「そうね、楽しかったわよ、いるか。」
 「そう言って貰えると、がんばった甲斐がありますー」
 車の窓から顔を覗かせているいるかちゃんは、たいそう満足気だ。
 「それでは二人とも、明日からはまた気合を入れて仕事をするわよ」
 「「はい!」」
 元気のいい返事の後、摩周さんといるかちゃんは車に乗って去っていった。


 「「ただいまー!」」
 玄関の戸を開けると、まるで俺達が帰って来るのがわかってたかのように
ねぇねぇが玄関で俺達の事を迎え入れてくれた。
 「おかえりー! 要芽姉、クーヤ!」
 「どうしたの瀬芦里? 何だかずいぶん機嫌がいいみたいじゃないの?」
 「えへへへへー。それがね、」
 なんでも昨日、親父主催でやったと言うバーベキュー大会がよほど楽しかったらしい。
 その事をうれしそうに話すねぇねぇ。
 「要芽姉達もいたら、もっと楽しかったろうになぁ…。
 所でさ、旅行、どうだったの?」
 「うん、すっごく楽しかったよ。あのメンバーで旅行とか言うのも、珍しいしね」
 「そうね。思ったより楽しめたわ。ヤマペンギンも生で見れたし」
 「フーン…じゃあさ、今度旅行行くときは、家族みんなで行こうよ!」
 「それも良いのだけれど……」
 ねぇねぇの提案を聞いた姉様が、横に立っている俺の事をちらりと見ると、
 「……まずは、ねぇ、空也? …だから皆で行くのはその次になるわね」
 「えっ、何々?クーヤ、要芽姉と何か約束してるの?」
 正直言って俺は何の事だか心当たりが無いが、
なんとなく姉様にあわせておいたほうがよさそうだ。 
 「えっ、俺? あは、そうだったかな? あははははは」
 「フフフ……決まりね」
 姉様は俺の返事を聞くと、意味ありげににやりと笑った。
 なんだったかな? 俺、姉様と何か約束したっけ?
 「要芽ー! 帰ってきたか! パパは待ちかねたぞ!」
 と、空気の読めない親父が俺の思考をさえぎって、
玄関まで大声上げて走りこんできた。
 …これからも退屈しない、騒がしい日々が続きそうだな。


(作者・SSD氏[2006/02/27])


※関連 姉しよSS「クッキング親父
※関連 姉しよSS「D面


楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル