姉様プロローグ

「ほんに、良き思い出よな」
「しかし、くうやはものの見事にかなめが教えたのを忘れておったな…」
「まぁ、小さい頃の事ですからね…」
「で、あるか?ふふ、残念そうだなぁ、かなめ」
「わかる、わかるぞ。好きな相手に大事な思い出を忘れられるのはなかなかに…」
なっ……!?
「姉さん、何か勘違いしてませんか……!?私と空也は姉弟ですよ…!?」
姉さんが意地の悪い笑顔を浮かべる。
「ふふん、語るに落ちておるぞ。誰もくうやだとは言うておるまいに…」
あ。
「謀りましたね……姉さん」
ここは一歩踏み込んで避けるのが有効ね…
「確かに私は姉弟として空也を愛しています。でも、男女の愛のレベルではありません」
「ほう。うまくかわしおったな」
「まぁ、今日はこのぐらいにしておくか。先程の狼狽え様が見られただけでも僥倖であるからなぁ」
「姉さんっ……」
「かなめ、我はな……この家の皆に世話を取らせた。だからこそ皆に幸せになってもらいたい」
「無論、お前にもだ」
くっ……そう言われたら…何も言えないじゃないですか…姉さん……
「強引なんですね……姉さん」
「うむ、姉とはえてして強引なものよ」
雛乃姉さんは呵々と笑った。
「では、我は風呂を浴びてくる。かなめ、もう少し思うがままに行動してみるも一興ぞ」
言いたい事を言って姉さんは行ってしまった。
まったく…いつもああなんだから。
こういう事に関しては姉さんは素晴らしく鋭い。


「思うがままに……」
脳裏に昼間の光景が浮かぶ。
犬神帆波。
「育ては育てよ?男に育てたのもワタシだしー」
こういう時は自分の記憶力の良さを呪う。この言葉が頭から離れない。
あの女は敵だ。
あぁ、もぅっ。
空也が沖縄になんて行っていなかったら、私がいただく予定だったと言うのにっ……
もちろん、二重三重に押し倒したくなる策を練っての上で。
恥ずかしい話だけれど、もしかしたら空也がたまには帰ってくるかもしれないなんて淡い夢想の中で考えた事はあった。
お父様は一度言った事は変えない人だからそれは無いだろうとは思っていたけど。
けど、少しの希望にすがったっていいじゃない。
そうしていくうちに。
空也の居ない日常に慣れていく自分が居て。
犬を拾い。
無くし。
空也の面影を持ったあの人に出会い。
また無くし。
もう無くしたくないからココロを凍らせて。
……そして去年。空也が帰ってきた。


綺麗な目をしていた。
癇に障る。
私の心を凍らせる原因を作っておいて自分だけ綺麗なままだなんて。
しかも、あの頃と同じ様に真っ直ぐに私を見ていた。
もう傷つきたくない。
そうして私は……空也を襲った。これで空也は私を避けるだろう。
けれど、その後も空也は私にくっついてきた。
戸惑う。
何故、ああまでされたのに……?
「いるか、海外の未解決事件の弁護……あの依頼受けるから。出発の準備しておきなさい。摩周クンもね」
私は半ば逃げるように仕事を受けた。
異国の地で仕事漬けになれば空也の事も忘れられるし、何か見つけられるかもしれない。
でも、駄目。
どこに居ても、何をしていても、浮かぶのは空也の顔ばかり。
立派になった。男の顔をするようにもなっていた。
空也の事を考える度に胸が熱くなる。
なんだ、やっぱり。
結局私の幸せは空也と共にしかないんだ。
そして……瞬く間に時間が過ぎ…
また、夏。
空也が修行から帰って来た。
「もう少し思うがままに行動してみるも一興ぞ」
頭の中で姉さんの言葉が繰り返される。
えぇ…姉さん。
私も少しだけ……自分の幸せの為に…一歩踏み出して見ようと思います。

(作者・愚弟氏[2004/07/16])


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※2つ前 姉しよSS「影絵三部作・影絵劇場〜我が一撃はツインなり〜


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