「エーディン!おはよう!これあげるよ!」 こましゃっくれた盗賊が差し出す真珠の髪飾りを、女司祭が鷹揚に受け取る。二人が佇む泉の畔には昇ったばかりの太陽の明るい光が満ち、陽射しに眠りを覚まされた花々の香りが満ち満ちていた。恋の仕掛けにはまさに絶好の舞台だった。 「まぁデューったらこんなものどこで?」 「えへへ。落ちてたんだ」 「またなの?でも素敵な細工ね…ああ…」 ユングヴィの二の姫は穏やかな表情を急に曇らせ、短く嘆息した。少年は後ろ手を組んで口を尖らせると、上目遣いに尋ねかける。 「気に入らなかった?」 「そうじゃないの。生き別れの姉の事を考えていたの。姉はどんな暮らしをしているかしら。どこかのお城で育って何不自由なく過ごしているのかしら…それともこういう、飾り物とは縁のない、厳しい生き方をしているかしら」 「エーディンは本当にお姉さん思いなんだね。生まれてすぐに別れたら、おいらなんてきっと兄弟が居ても気にしないけどな…」 計画していたのとはあらぬ方へ話が転がっていくので、盗賊はがっかりしてうなだれると、草を蹴った。丈高い公女は華奢な銀細工に指をからめたまま、顎を上げ、蒼穹の涯を望んだ。 「自分一人だけだったら、そうだったかもしれない。でも父から託されたイチイバルが訴えるの。姉を…ウルの正統な世継ぎを探さなければと。私の使命は、姉を見つけ出して、幸せにする事。弓だけではなくて、私が受けた過分な幸せの少しでも姉に渡さなければ…」 「…その髪飾りも?」 「あら。これはデューが私に贈ってくれたのでしょ?大切にするわ」 さらりと言ってのけると、エーディンは長衣の裾をつまんで、泉に近付いた。鏡の水面を覗き込みながら、瞼を半ば閉ざし、思案するように呟く。 「いつも考えるの。姉はどんな色が好きでしょう。ユングヴィの若草。ヴェルトマーの臙脂。ヴェルダンの茶褐。名もない町に埋れた黄金?」 「育った場所によるんじゃない?おいらはエーディンの瞳みたいな瑠璃がいいな」 デューは調子を合わせながら、憧れの人を振り返らせようと、お世辞を滑り込ませる。だが姫君は心を深く沈み込ませ、ひたすらに失われた片割れの姿を、泉の上に探していた。 「どんな食べ物が好きかしら。草原の羚羊。朱の羽毛の雀。森の若鹿。人恋しがる仔兎。皆用意しておくわ。姉がどれでも選べるように」 「に、肉食限定なの…?」 「…だって肉は美味しいですもの…きっと姉も好きだわ」 「そ、そうだね…」 訳の分からぬ戦慄を覚えながらも、盗賊はどうにか愛想笑いを絶やさなかった。二人のやりとりがとぎれたせつな、今度は野原の尽きる木立ちの彼方から、やかましい足音が、幾重にも重なって聞こえてくる。 頭巾を巻いた浅黒い肌の青年を先頭に、若草の髪を後ろで束ねた若者が二番手、三番目にはまだ子供の域を抜けきらない少年が、真紅の長衣をたなびかせて続く。 「エーディンおは…あ!デュー!」 「ち…まさかお前に先を越されるとはな」 「ぬ!エーディン様!いけません!こんな所に男と二人っきり…」 「あら、皆さん。おはようございます。朝から元気でいらっしゃいますこと」 口々に喚く男どもを前に、公女はのんびりと笑みを返す。傍らの童児はちろりと舌を出すと、素早く、年上の婦人の背に隠れた。 「こいつ」 ユングヴィの弓騎士は、女と紛う面差しを悔しさに歪め、小さな恋敵に詰め寄ろうとする。しかし森の国の王子がその肩をとらえて、もう抜け駆けはさせまいと引き戻す。物言いたげに足を進めかけた炎の公子も、他の二人のきつい目つきに射竦められて立ち止まった。散々鍔迫り合いを繰り返した挙句、一応の紳士協定が結ばれているらしい。 「デュー!今朝はオイフェに書き取りを見て貰う約束だろ。こんな所で油を売ってていいのか?」 アゼルがやっと都合のいい非難を捻り出してぶつけると、盗賊はつんとして応じた。 「オイフェが起きてこないんだからしょうがないだろ」 「嘘吐くな…あの早起きのオイフェがそんな訳…」 「へへん。じゃぁ自分で確かめてくればいいだろ?」 「朝っぱらからうるさいなお前らは。がき同士の喧嘩はよそでやれ。ほら」 ていよくデューの方へ魔導士を押しやると、ジャムカは真面目くさった態度でエーディンに語りかけた。 「エーディン。少し時間が取れそうだ。一緒にあんたの姉の手がかりを探しに街へ行かないか…噂だとオーガヒルの海賊の中に、恐ろしく腕の立つ弓使いの女がいるらしい…聞いたところでは、年の頃や背格好はちょうどあんたぐらいの…」 「まぁ…本当ですか!?」 「ジャムカ!気安いぞ!」 双眸を期待に輝かせる女主人を前に、遅れをとったと悟ったミデェールが慌てて割って入る。 「これはユングヴィの家中の問題だ。エーディン様。その弓使いについては私も調べました。なんでもオーガヒルの一党をまとめていた首領の娘だそうですが、本当の血のつながりはないとか…ぐぁっ…」 いきなり騎士の頭が大きく後ろへのけぞる。ヴェルダンの王子が恋敵の結った髪を思い切り引っ張ったのだ。 「おい、昨日二人で調べたんだろうが」 「自分一人の手柄にしようとしたのはジャムカの方だろう!」 言い争いを始める弓使いたちの横では、魔導士と盗賊が額を突き合わせんばかりにしてにらみあっている。 「だいたい物で女性の気を惹こうなんてせこいぞ。それにお前、ラケシスさんにだって何か贈ってただろ」 「何だよ。そっちこそティルテュさんといちゃついてるくせに!」 罵りといがみ合いの四重唱に掻き乱され、辺りにはもう静けさの欠片も残っていなかった。ウルの娘は微笑んで崇拝者たちの騒ぎを見守りながらも、遠い昔に捨てた弓を求めて指が疼くのを感じた。 「皆さん。私はそろそろ戻り…」 エーディンが告げかけたところへ、にわかに庭の片隅から黒い光の波が打ち寄せた。 「あっ…」 「ほぇ!?」 「ぬ…」 瘴気の渦がその場にいた全員を巻き込み、次々に四肢から力を奪っていく。 「くっ…何だ…!!」 ヴェルトマーの公子だけは、術にかけられていくのを察しながらも、魔法の源へ走り寄ろうとしたが、わずかに進んだだけで足が挫け、膝をつくよりなかった。 「これ…は…」 呟いた女司祭の声は、最前より低く、太く響いた。ふらついて立ち上がると視野がいつもより広い。驚いて四方を見渡し、次いで己に注意を向けると、異常の理由が分かった。元々婦人としては上背のある方だった体格だが、今は偉丈夫といっていい大きさに変じている。さらには長衣の前を押し上げるようにして、股間のあいだに見覚えのない膨らみが生じていた。 「…今の…サンディマの野郎の…使った術と…似た光…」 「ロプト教団の手の者が…密偵に…」 「はぁ…はぁ…エーディン…おいら…何か変だ…」 「呪い…それも…強力な…んっ…」 男となったエーディンの瞳に映ったのは、引き締まった肢体を苦しげによじらせる褐色の肌の美姫。弓の如くしなやかな長躯をたわませて喘ぐ女騎士。真紅の瞳を潤ませ、息を荒らげる魔道士の身なりの娘。そしておてんばそうな顔立ちをした金髪の少女だった。 「…あらあら…」 「エーディン…何の魔法だか…君なら分か…る…って…ちょっ…何を!?」 ユングヴィの貴人は、破り捨てるようにして長衣を剥ぐと、ヴェルダンの王子や近衛の弓騎士など比べものにならないほど隆々とした筋肉を露にする。冗談のように長大な剣が、秘所があったはずの場所から鎌首をもたげていた。 「うふふふ…皆さん…とっても美味しそう…」 舌なめずりすると、エーディンは獲物の群に向かってにじり寄った。姉と再会する時までに、どの肉を贈るべきか、味見をして置いても構わないだろう。ついでに下拵えもして置いた方が、喜ばれるかもしれないのだ。 「必殺、リジェンダ流星剣!」 暗闇の波動が、昼下りの兵営を乱れ飛ぶ。 「奧義、リジェンダ燕返し!」 遥か空の高みさえ、魔杖の脅威からは逃れられない。 「絶技、リジェンダつるべ打ち!」 漆黒の衣をまとった司祭は、当たるを幸い、所構わず、盲滅法の勢いで竜族の術を振り撒いた。そこかしこに嬌声と悲鳴が入り混じり、肉のぶつかりあう音と、すすり泣き、歓喜の叫びが重なって聞こえた。 ”…お前…幾ら何でも…” 「バルド様。ご覧下さい!煮え切らなかった若人たちが、秘められた愛を解き放つようすを!シアルフィ繁栄の礎は、この私めがアグストリアの地に置きましたぞ!」 ”うむ…期待以上といべきか…” 「杖はあと一回使えるばかりですが…誰か祝福に漏れていないか確認して回りましょう…まずはシレジアの方々ですが…」 空翔ける駿駒が翼を休める傍らで、一組の男女が激しく愛を交わしていた。というより、細身ながら屈強な青年が、華奢な乙女を抱すくめて、片時も離さず犯し抜いていたといった方がいいかもしれない。 「レヴィン様ぁ!レヴィン様ぁ!」 「フュリ…ちょっ…っ…休ませ…ひぁっ!」 「はっ…はっ…はいっ…」 懇願に応じて、天馬騎士は腰のうねりを抑えると、主君の縮れた髪を梳りながら、愛しげに呟く。 「レヴィン様のあそこ…とてもきついです…私を捕まえて離しません…よほど私の子供が欲しいんですね…嬉しいです。レヴィン様にシレジアのお世継ぎを産んでもらえるなんて」 生まれたままの姿に、吟遊詩人の羽根飾りだけを付けた娘は、悪寒と官能におののいて、いやいやをするように首を振った。といって竪琴より重いものを持った覚えのない腕では、とても万力のように締め付ける抱擁から逃れる術はなく、ただ腹を空かせた猫に慈悲を求める小鳥のように歌いかけるしかなかった。 「なっ…もう中は止め…フュリー…妊娠は…」 「いけません。レヴィン様は放っておけばまた風のようにどこかへ行ってしまわれます。身重になれば、シレジアで大人しくして下さるでしょう?」 宿した命によって縛りつけられる未来を予感して、何よりも自由を好むフォルセティの裔はぞっと震えた。だがフュリーは構いつけもせず、うっとりと独り善がりな睦言を連ねる。日頃の慎ましやかで控えめな戦乙女の面影はどこにもなく、性の反転とともに押さえつけていた鬱屈が熱狂となって噴出していた。 「産んだらすぐに次の子を仕込まないといけませんね…レヴィン様は油断も隙もありませんから…それに踊り子や素性の定かならぬ男を誘い入れないように…んっ…そろそろ…」 「頼む…止めろ…止めてくれフュリー…俺はまだやる事が…」 「酒場で歌って踊り子を口説く事ですか!こんな体で怪しい場所に出入りすれば、すぐにシレジア王家に誰とも分からぬ野卑な牡の血が混じる破目になります!そうならないように…私が…しっかり…」 「やっ!やめ…フュリー……ぁっ…あ゛ぁ゛っ!?」 高貴の子を孕むべき胎内に、何度目かの精を注ぎ込みながら、家臣は主君の頬に接吻を浴びせ、塩辛い涙をねぶり、譫言のように許しを乞う声に耳を傾けた。月の巡りさえ合えばすでに種は苗床に着いたはずだ。もう抵抗しても無意味なのに、殿方は、いや婦人というのは、どうして不合理に駄々を捏ねるのだろう。初めに純潔を奪った後の交わりはすべて、楽しみのためにしているに過ぎないのだと、ばらしてしまおうか。いやもう少し放っておいて、主導権を握っていよう。そう考えたとたん、秘具がまた固さを取り戻すのが分かった。 望まぬ子種を受け入れたばかりの乙女が絶望のうめきを漏らすのへ、騎士はからかうように問いかけた。 「どうしてもと仰るなら…こちらを使っては如何でしょう」 すでに繰り返し弄って拡げておいた菊座に、再び指を埋めてやる。レヴィンは青ざめたが、ややあってこくんと頷くと、苦労して尻を上げ、蜜壺から肉刀を引き抜くと、白濁をしたたるに任せたまま肛孔に宛がうと、健気に腰を降ろしていった。 「ひんっ…」 「ふふ…お上手ですレヴィン様…」 腟とは一味異なる直腸の感触を楽しみながら、フュリーは満足げに瞼を閉ざした。シレジアに戻れば冬は長い。雪に閉ざされる無聊を慰める際、伴侶の腹が大きくなって前の穴を使えなくなるだろう。あらかじめ後ろも口も、よく訓練して置くのは、悪くない考えだった。 「よもやシアルフィだけでなく、シレジアの後継問題まで解決してしまうとは。我ながら恐ろしい腕の冴え…」 ”我も少しお前が恐ろしいぞ…” 「はは!過分なお言葉…さて次はエッダ家の方ですが…さすがにあの方に杖を使うのは緊張いたしました」 ”まさかエッダの当主に効くとは我も思わなんだぞ…まるで望んで術にかかったかのような…いやまさか…しかし…” 「クロード公爵には喜んで頂けたようで肩の荷が下りました。うむうむ。ただ花婿は意外な方でしたが…とはいえあの位の年で世継ぎを作られる方も少なくはありませんし…」 ”…ブラギの子めは我らが計画を察知したうえで…いや…ありえぬ” 黄金の髪が広がって、滝のように祭壇の縁から流れ落ちている。グランベルに金髪はあまたあれど、かくも細く、輝かしく、滑らかなものは他にない。シルヴィアは冷たい石造りの台の端に座ったまま、惚れ惚れと魅入っていた。視界いっぱいの黄金の滝は、時折かすかなさざめきを立て、陽光を反射する。 踊り子の膝のあいだでは、さっきまで大好きな神父様、だったはずの女性が、淫らな行いに勤しんでいた。 「ん…んっ…んっ…」 二つの肉の塊で男のものを挟んで揉みながら、先端に唇をかぶせてしゃぶる。シルヴィアが場末の町で働いていた時、母親代わりだった何人かの娼婦が、客に同じような奉仕をしているのを覗いた記憶があった。でも誰もこれほど大きく、しみ一つない乳房を持ってはいなかった。最初に目にした時は、笑ってしまうほど変な遊びだと思ったのに、エッダの公爵のような汚れのない美貌の持ち主がすると、信じられない位いやらしくて、綺麗だった。 「出ちゃいます…クロード様…」 しかも奉仕を受けているのは、シルヴィアのそれ。本来あるはずのない、細くて生白い幼茎なのだ。下腹の辺りからすべてが蕩けてしまいそうな、例えようもない快さに、神父様の綺麗な顔を汚したくないと思っても、我慢ができなかった。 「んっ…ん…」 緑髪の少年が薄い精を放つと、年上の女は一滴残らず口に含んでから、舌を出し、寄せてあげた胸の谷間にこぼすと、左右の乳房を別々にこねくって、全体に塗り拡げた。 「シルヴィア…これでいいですか?」 「はい…すごく…きれいです…クロード様…」 本当だった。生粋の大貴族らしい、真珠のような肌が白濁に穢れててらつく様は、ひどく鮮やかに、シルヴィアの瞳に焼きついた。クロードは嬉しそうに睫を伏せると、未熟な牡の匂いをいっぱいに吸い込んだ。 「次は何をしましょうか…」 「あの…」 「私はシルヴィアが喜ぶ事は何でもしたいのです。教えて下さい」 聖者のような面差しで、てらいもなく告げる公爵に、踊り子は愛しさと気恥ずかしさで真赤になった。どう答えていいか分からず、もじもじと身を揺すって、うつむいてしまう。 「シルヴィア?」 「…私なんか…そんな資格ないです…クロード様の役にも立てないし…」 「いいえ。シルヴィアは私が知らない事を色々知っています。助けられていますよいつも。私こそ、恋人の喜ばせ方一つ知らなくて…こうして教えて貰わないと何もできないのですから」 「あの…私…」 シルヴィアにしても、相手に教え込んだ性戯のうち何一つ実地にやってみた訳ではない。レヴィンに出会うまで、男という男は軽くあしらってきたし、あの吟遊詩人はうわべはいい加減な割に、こういう問題になると固かったのだ。 しかし公爵から寄せられた全幅の信頼は、はねつけるに偲びなかった。できる限り記憶をたどって、子供時代に見聞きした閨の業を忘却の深みから掘り起こす。 「そうだ…」 掌で筒を作って恋人の耳に当てると、小声でこしょこしょと囁きかける。クロードはにっこりして頷くと、聖衣を敷布代わりに広げ、踊り子の軽い体を転がすと、ほとんどでんぐり返しの格好に抱え起こした。 「にぅっ…」 「少しこらえて下さいね…」 女は波打つ金髪を左右へ払って、少年の菊座に舌を這わせる。こうして不浄の穴を清めさせるのを好む客がいたのだ。娼婦らは皆、そういう物好きからはたっぷり金をとった。相場の十倍二十倍はざらだった。尤もエッダ公国を統べる領主は、こうして年下の伴侶の褒め言葉以外は何の見返りもなく尽してくれるが。 「あっ…あっ…」 クロードは直腸粘膜を舌でくすぐり、奥に唾液を流し込みながら、シルヴィアの未熟な性器を扱きたてた。やがて括約筋が完全にほぐれ、菊座が物欲しげに花開く頃には、幼茎も限界を迎え、逆さまになった踊り子本人の目や鼻、口に精を放ってしまう。 「あぶっ…ぅっ…けほっ…けほっ…」 「おや…ごめんなさい…」 公爵は軽々と恋人を引き起こして上下を直すと、向き合った顔を舐め清めていく。仔犬の毛づくろいをする母犬のような情愛のこもった所作で、最前まで排泄口を穿っていた舌だと分かっていても、シルヴィアは胸が熱くなった。 「クロード様ぁ!大好きぃ!」 「私もですシルヴィア…」 年上の女は濡れそぼった割れ目を広げて、三たび固くなった少年の分身を迎え、しっかりと咥え込む。背丈の足りない踊り子は、汚れた乳房に鼻を埋める形になったが、臆せずに舌を伸ばして、自らの精をこそぎ始めた。 「きゃ…シルヴィア…くすぐった…んっ…」 「…クロード様ぁ…クロード様のおっぱい…ふかふかぁ…ぁんっ…!」 「ふふ…んっ…面白いですね……女性の胸は…いつも重そうだと…ぅっ…しか…思わなかった…でも…あんっ…」 公爵はやっと慣れてきたばかりの官能に身を委ねつつ、腟に収まった雛菊を締め付ける動きを試してみる。こればかりは説明も要領を得なかったが、少しづつこつを掴みつつあるという確信があった。 「ぁ゛ぅ゛…クロード様ぁ…ひぁ゛ぁぁん!」 恋人のいっぱいに開いた瞳孔と、ゆるんだ口元が証だった。先ほど味わった菊座にも指を滑りこませると、幼茎が体の内側で緊張を増すのが伝わってくる。 「ひに゛ゃぁ゛っ!…!!あ゛ぁんっ♪あぎゅっ…にぅ゛ぅ゛!!…」 「出して…下さい…私たちの子供の素…」 「ひゃぃ!出しましゅ♪クロードしゃまにぃ!シルヴィアのたねぇ!いっぴゃいいっぴゃい出しましゅぅっ♪」 痙攣しながら、あえなく果てたシルヴィアを、クロードは全身で受け止めた。三度目の絶頂は長く尾を引き、しばらくは二人の乱れた呼吸だけが続いた。 やがて公爵の胸で上下する乳房に、踊り子は半ば無意識に吸い付くと、薄桃の先端に歯を立てる。 「きぅっ…」 「ん♪…私、クロード様の…おっぱい飲みたい…」 「んっ…もう少し待って下さいね…そのうち出るようになりますから」 年上の女は、あやすように恋人の頭を撫でつけながら、説き聞かせる。少年は名残惜しげに舌で乳首を転がしてから、やっと解放して、呟いた。 「うん…クロード様って…お兄さんみたいだと思ったけど…今はお母さんみたい…」 「どちらにしても、私はあなたを守ります…」 「私も…その…夫として…クロード様と、赤ちゃんを守ります!」 「ええ…期待していますよ」 大小二つの体は、ぴったりと肌を重ね、いつまでもいつまでも、幸せな温もりに溺れていた。ブラギの祝福の下、如何なる害意も、一つに結ばれた兄妹、いや姉弟の仲を引き離せはしないようだった。 「シレジアに続いてエッダ家の未来まで救うとは…我ながらなんという鮮やかな手並み」 ”そうだな…我にはもはや…どうなっているのか分からぬが…これは…収拾が…” 「次はバルド様お目当てのイザークの方々ですな」 ”うむ…そうだった…これが肝要なのだぞ…” 「頑張れよ。私は本当に強い奴以外とは子供を作るつもりはないぞ」 肩までかかる黒髪を払い、青年は悠然と告げた。 場所は仄暗い天幕の内側。外では日が天頂にかかり、燦々と陽射しが注いでいるが、武器庫を兼ねた布張りの小屋は、淀んでじめついた薄闇が蟠っている。 さほどゆとりのない空間の真中には、やけに肩幅が広く丈の高い女戦士が二人が陣取り、がっぷり四つに組んで、食いつくような接吻を交わしている。互いの青い双眸は敵愾心に燃え、一つ一つが手毬ほどもある乳房をひしゃげるほど押し付けあい、六つに割れた腹と腹をぶつけて、全力で敵を圧倒しようとしていた。 どちらもほとんど憎しみに近い表情を浮かべているのに、脇や股座から昇る咽せ返るような匂いに当てられでもしたか、双方の陰唇は絶えず熱い滴を落としている。秘所を取り巻く向日葵の黄と、深藍の剛毛はそろって湿りを帯び、それぞれの感じやすい肉襞をこすっては、興奮を掻き立てた。 「よしよしホリンもレックスも好い女だ。もうちょっと楽しませてくれたら仲良く一緒に種付けしてやる。私は娘と息子と一人ずつ欲しいからな。片方はドズルの選良の血を引き、もう片方は月光剣の使い手になる訳だ。お前たちどちらを孕みたい?勿論勝てば二度産ませてやるが」 明かに興奮の度を増して、二匹の牝はいっそう激しく口付けを貪る。少し離れて腰かけた長髪の青年は、めったにない大兵同士の咬み合わせを面白く鑑賞していたが、ちらりと傍らに視線を落として、竜胆の双眸に灯る嗜虐の輝きをいっそう強めた。 「ただし。少しでも退屈になったら約束は反故にして、シャナンの腹を使うとしよう」 そううそぶく青年の右腕には、よく似た面立ちの幼い少女がしがみついて、声もなく息をあえがせている。人形のような白い裸身はじっとり汗ばんで、生まれたばかりの仔鹿のごとくわなないていた。 「アイラぁ…」 すがるように名前を呼ばれると、イザークの王妹いや王弟は、唇の端を釣り上げ、大剣を振るうのに長けた力強い指で、まだ細い筋でしかない割れ目をつねった。 「…ひゃぁぁんっ!!」 「こら。マリクルの子ともあろうものが情けない声を出すな…」 「でもっ…でもぉ…ん…アイラが…止めてくれなっ…ひ゛ぁっ」 「この位は耐えられなくてな。意地悪な夫に巡り合いでもしたら、玩具にされてしまうぞ。私のような、な!あむっ!」 「きゃぅぅっ!」 アイラはシャナンの耳を咥えて引っ張りつつ、空いた左手で桜色の胸飾りをひねくり、右手は包皮に包まれた花蕾を探って、爪をかけた。 「ひにゃぁあああっ!!!!ぁっ…ぁっ…」 いったい何度目の絶頂だろうか。未来の女王となるべき黒髪の娘は、叔母、いや叔父のいたずらに散々狂わされて、とうとう失禁してしまった。木製の長椅子に水溜りが広がっていくのを、羞じらいと恍惚の混じった瞳でぼんやりと眺め、震える息を吐く。 青年は少女の耳の孔に舌を捻じ込んで、か細い悲鳴にも構わずじっくりと舐ってから、光る糸を引いて離し、優しく囁きかけた。 「本当に私の子を産んでくれないか?きっとオードの濃い血を引いた世継ぎが生まれる」 シャナンは身籠るという想像もつかない体験に一瞬、ありありと恐懼の色を浮かべたが、やがて親代わりの剣士に秘所を爪弾かれるまま、甘い歎きを零し、こくんと首を縦に振った。 離れたところで口付けを続けるホリンとレックスが、非難がましい視線を投げるのを、アイラは軽く受け流して、嬉しげに言葉を紡ぐ。 「小さなシャナンのお腹が円く美しく膨らむのが見たいぞ。幾度も満ちては欠ける月のように。私の、私だけの子を産み続けてくれ。あの戦で失われた命の数を取り戻せる位、沢山の娘や息子を授かりたい。どうだ?」 「アイラが…そうしたいなら…」 けなげに答える甥、いや姪の台詞に、微かに苦しげな響きを聞き取ると、イザークの剣士は玲瓏の面に悲しげな笑みを過らせてから、おもむろに語句を継いだ。 「冗談だ。シャナンには立派な王婿を見つけてやる。女王にふさわしい附馬をな…」 「アイラ…でも僕…アイラと…」 「いいんだ。お前の本当の気持ちは分かってる…おい、レックス、ホリン。ほっとしてないでちゃんと続けろ」 叱咤が飛ぶと、傍らで二人の女戦士が慌ててまた体を重ねる。いつのまにか接合を解き、固唾を呑んで会話の行方に聞き耳を立てていたのだ。紫眼の冷たい凝視に急かされて、先ほどと同じくそれぞれの唇を塞ぎ、秘裂を相手の太腿に擦りつけるが、行為はどこかおざなりになっていた。あげくには監視の目を盗んで接吻を中断し、互いの耳元にひそひそ話し掛ける。 「んっ…おい…っ…少し加減しろ…」 「んだよ…今さら…できるか…」 「ドズルのお前には…んっ…どうでも…いいだろうが…俺には…重要な事…ぅぁ…聞けって…んっ…」 「な、何が?…てめぇ…ぁぅっ…ただの…剣闘士じゃ…ふぁあっ!…この…」 「うぐっ…馬鹿力…んむっ…んっ…ぷはっ…シャナン様が…誰と結ばれ…どうして…も…」 「はぁ…はぁ…しつっこい…んだよ…お前の舌…てか…っ…イザークとお前…何の縁が…」 「お前は…知らなくて…ぁひっ!…っ…そこ…噛むなっ…ぁっ……」 「へっ…何が…っ!てめっ…舐め…やめ…うひゃっ…くすぐっ…」 次第に愛撫は再び熱を帯び始める。シアルフィ軍きっての豪傑同士、初めはかなり腕ずくではあったが、半刻も抱き合っているうちに互いの体にもなじんでおり、的確に急所を捕えられるようになっていた。ホリンはネールの裔のくすぐったがりを察して、鎖骨から喉元にかけてに狙いを絞って舌を這わせ、レックスは剣闘士の甘噛みに弱いと察して、狼が兄弟に優位を主張するようにうなじの辺りに歯を立てる。 めまぐるしい攻守の入れ替わりをかたえに、アイラはなおもシャナンを哭かせながら、声を落として語らいを続けていた。 「シャナンはシグルド殿がいいのだろう。正直に答えないとこの豆を摘んでしまうぞ♪」 「んっ!!!?…ちが…違う…」 「そんな事を言って、シグルド殿を見るシャナンの目はいつも憧れで一杯ではないか…シャナンに継ぐべき王国がなければ、シアルフィの閨に上がっても私は止めないのだがな…」 父とも兄とも慕う英雄に抱かれる様を思い描いた途端、少女は陶然となったが、しかし辛うじて理性をつなぐと、大きく頭を振った。そのまま言葉にならない想いを訴えるように、濡れた眼差しで青年を見上げる。 剣士はきょとんとして、涙含むあどけない容貌を覗き込んでから、ややあって合点がいったとばかりに頷いた。 「シャナンはディアドラ様が大好きなのだな…セリスの事も…」 「うん…」 アイラは破顏すると、うしゃうしゃとシャナンの髪を掻き乱した。 「まったく可愛い奴だ。ますます私が貰いたくなるではないか。ん…どうした?ほかにもまだあるのか…」 「…オイフェが…」 「オイフェがどうした?」 少女はしばしためらってから、意を決したように口を開くと、朝方、シグルドの寝所を訪れた際に遭遇した光景を、親族の青年に明かした。 「はは、なるほど…側室の座もとられてしまったか…シャナンはオイフェにまで遠慮しているか。この小さな頭で色々考えているのだな。お前も」 つむじの辺りをかいぐりされて、シャナンは恥ずかしげにうつむく。次いでアイラがそっと差し出した手に、恋人のように指を絡ませ、慰めの口付けを受ける。子供の舌を拙く大人のそれともつれさせ、唾液を交換すると、喉を鳴らして飲み干してから、名残惜しげに唇を離す。 「ん…シャナン…まだ全部じゃないな。吐き出してしまえ」 「うん…オイフェ…ふらふらで…何度もごめんなさいって…少しだけ眠らせてって…でもだめで…でも…ちょっとだけ…幸せそうだった…」 「羨ましかったのか?」 「うん…」 「困ったな…そうだ。セリスはどうだ」 青年がふざけて尋ねると、少女はディアドラの胸に吸い付いていた赤ん坊を思い起こして、目をぱちくりさせた。 「セリス…?」 「あの子だっていずれ大きくなる。少し年は離れているが、きっとシグルド殿に似た立派な騎士になるぞ」 「そう…かな…分かんないや…」 「やれやれ」 愛しげにシャナンを抱き寄せるアイラの視界の隅で、疲れきった二人の女戦士が地面に倒れ込む。 「ああ。忘れていた…」 「はぁ…はぁ…ひゅぅ…ひゅぅ…勝ったぜアイラ…」 「勝ったのは…俺だ…」 「何を…この…」 「分かった分かった。ほら、二人とも腰を上げろ。まとめて面倒を見てやる」 邪険に云いながらも、黒髪の青年は立ち上がると、すっかりこなれた二つの媚肉を満足げに眺めやり、太くはないが長さのある陰茎をもたげて歩み寄っていく。永らくお預けを食っていたホリンとレックスが嬌声を迸らせるまで、さほどはかからなかった。 「うう…ぐすっ…家族の愛とは素晴らしいものですな…」 ”ああ…” 「私も娘を嫁に送り出した時を思い出しましたぞ。アイラ様は普通よりちょっと触れ合いが過剰な感じもいたしますが…」 ”ああ…” 「しかし兎に角めでたい。セリス様はひょっとするとシアルフィ公爵とイザークの副王を兼ねる身分となられるかもしれませんぞ!」 ”ああ…” 「ううむ。シャナン様とセリス様の晴れ姿、是非ともこの老い耄れの目に焼きつけて、死出の土産としたいものですのう…叶わぬ望みかもしれませんが…シャナン様はきっとアイラ様…元のアイラ様に似た黒髪の美姫になられましょうなぁ…純白の花嫁衣裳が映えて、セリス様はシグルド様に似た偉丈夫。かくてグランベルとイザークの怨も解け、天が下の民は等しく平和と繁栄を享すると…う…急に目頭が熱く…」 本当に涙含みながら、司祭はしわんだ拳で目尻の辺りを拭うと、深々と満足げな溜息を吐いた。想いはありし日のバイロン卿の婚礼にまで遡り、ブラギの神殿での壮麗な華燭の典を反芻する。 姿なき神は、ひどく俗っぽい咳払いをしてしもべの注意を促した。 ”しかし、結果としてシャナンは身籠らなかった訳だが” 「いや、あのお年ではいささか早い。オイフェぐらいの年ならまあ、ざらにおりますが。さすがにお体に差し支えましょう」 ”つまりお前は我の話はまったく聞いていなかったのだな…バルムンクの使い手を…” 「そうそう。アイラ様も中々丈夫そうな花嫁を二人得られて、子孫は末広がりでしょうな。片やドズルの選良の血、かたや…ええ…まぁ健康そうな御方ですわい…どちらもちと大柄ではありますが美貌は美貌。お子もさぞや麗しい…」 ”…もう良い…すべてはお前を選んだ我のしくじりであった…杖を戻せ…” 「は?まだノディオンのご一統のようすを確かめておりませんぞ!不幸にもエルトシャン様とシグルド様は望まぬ対立をしておりますが、なぁにラケシス姫…いやラケシス王子がこちらにおられる以上は、いずれ蟠りも解けましょう」 ”…勘弁してくれぬか…” 「ささ、参りますぞ!」 人や建物の影が長く伸び始める頃。シアルフィ軍の糧秣備蓄所は、眠けを誘う温もりにすっぽりと包まれ、警備の兵らも欠伸を抑えられず、油断すると落ちてくる瞼を頻繁に瞬かせては、槍を持つ手を直し、交代の時を待っていた。 だが積み重なった麻袋の迷路の奥、外へ音の届かぬ深奥には、およそ午後の気怠さとは無縁の狂宴が繰り広げられていた。 いかにも線の細い、柳の若木のような体付きの貴公子が、象牙の肌を剥き出しにして、労働の跡のない優美な腕を上げては、激しく乗馬鞭を振るっているのだった。 「まったくっ!エルト兄様ったら!私にっ!こんなっ!野卑な!傭兵をっ!!」 「むぉ゛ぉお゛っ!!むぐぅ゛ぅう゛っ!むぅう゛う゛う゛っ!」 折檻を受けているのは、若者よりも一回りは大きな、年上の女だった。金髪を振り乱し、はみを嵌められた口から涎とともに悲痛な呻きを放っては、鍛え抜かれた四肢を拘束具の中でもがかせている。尻といわず背といわず、そこかしこに真紅のみみず腫れが走っている。だが濃い毛に覆われた腿の間からは、ぽたぽたと歓喜を示す汁が垂れていた。 「はぁ…はぁ…またそんなに…粗相をして…ベオウルフが…こんな…はしたない人だとは思わかなった…」 「んぐぅっ!…んっ…むぅう゛う゛う゛!!!」 「皆あなたとエルト兄様が悪いのです…何ですか。腰をくねらせて…ああ、ここに鞭が欲しいのですね…しようのない色狂い」 嘲りながら、しなやかな革の凶器を、叢深くに隠れた紅華に当ててやると、傭兵は両の瞳をいっぱいまで見開いて、めちゃくちゃに暴れた。 「んっぐぅ゛!!!ん゛ん゛ん゛ん!!!!」 「分かりません…イーヴ。口を利かせてあげなさい」 「はいラケシス様」 主の名に従い、一糸まとわぬ赤髪の女騎士が歩み出ると、傭兵が咥えている金属の棒を外した。涎のべっとりついた馬具を嫌がる風もなく、そのまま恭しく捧げ持ちながら、静かに退く。 ノディオンの王子は偽りの慈悲の込もる眼差しで、変わり果てた護衛役を眺めやると、しごく穏やかに問い掛ける。 「で?何を言いたいのです?」 訊きながらも、鞭は愛液を捏ねながら、肉襞の内側を突つく。 「やめ…やめろラケシス…こんな事して何に…」 「こんな事?例えばこうですか?」 しなる切先が、軽く花芯を撲つ。途端につんざくような悲鳴が迸り、備蓄所の分厚い糧秣の壁に吸い込まれて消えた。ラケシスは、ベオウルフの開ききった瞳孔や、惚けたよう唇を観察しながら、秘具がどうしようもなく硬くなるのを覚えた。 「まぁ。軽く撫でただけですよ。ベオウルフは弱いのね。こんなだらしなくては、エルト兄様の友達にふさわしくないわ」 「ラケ…シス…」 「うるさい!」 若者は妖精のような顔立ちに黒々とした鬱憤を表して、鞭をひねる。またしても甲高い叫びが上がるのを、遊戯の伴奏のように聴き入りながら、左右に手首を回して、肉でできた楽器の音量を大きくしていく。 「きぁっ…ああああ!!」 「…悔しい。おかしな術のせいで、私は決して兄様と結ばれる事のない体になってしまった…なのにあなたは…」 「っ……泣くなよ…」 「…泣いてない!」 かっとしてまた容赦なく急所を撲ってから、痙攣する獲物から飛び退るようにニ、三歩下がり、華奢な手で顔を拭う。大きく呼吸をして、波立つ心を静め、再び傭兵へ視線を戻すと、肉付きのいい長躯がなおも衝撃の余波にのたうち、乳房を躍らせているのが認められた。 紅潮した頬を凹ませ、歯を食い縛って声を殺すベオウルフの横顔を眺めているうち、戦場でラケシスの脇を守っていた時の、忍耐強い表情が重なる。 「…ベオウルフ…私の側を離れると誓いなさい」 「はっ…はっ…んっ…」 「誓ったら枷を外してあげます。どこへでも行けばいいでしょう。クロスナイツに加わって、エルト兄様の側へでも…」 「…」 「そう!」 鞭を振るう手を強めながら、ノディオンの若君は嫣然と笑った。一打ちごとに金毛が千切れて宙に舞い、内股の柔らかい肉が真紅に彩られていくのを、うっとりと見つめながら、敏感な部分めがけていっそうきつい責めを浴びせる。痛めつければ痛めつけるほど、柘榴のように熟れた秘裂は蜜を滴らせ、重量感のある双臀は官能に震えた。 「ぎゃぅっ!!!ぎゃぅっ!あぐ!あお゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛っ!!!!」 背をあえりえない角度まで反らせ、女傭兵は慎みの欠片もない声でおらぶ。赤痣にまみれた肉孔から盛大に潮を噴くと、がっしりした体は緊張を失い、拘束具に支えられて辛うじて倒れるのを留まった。 「面白い体。ベオウ…ベオ?まだ起きているでしょう…私の側を離れると誓う?」 いささかうわずった王子の質問に、護衛役は無言で答えた。 「そこまでして私の側を離れようとしないのは、兄様に言われたから?痛みを与えられて嬉しいから?それとも…」 ヘズルの裔はぐるりと生贄の周りを巡って、正面に立つと、屈みこんで、快楽と苦痛に歪む顔に魅入った。 「私を愛しているから?」 金髪の自由騎士は、焦点の合わぬ双眸を向けたると、普段の抑制をかなぐり捨てて激しく頷いた。白皙の貴公子は背筋を走るおののきを気取られまいと、唇を咬んでから、さらに問いを投げる。 「私がエルト兄様に似ているから?」 図星だったらしい。粗削りながら整った顔立ちが茹だったかの如くに赤くなった。ラケシスは不意に悟った。なぜベオウルフが側にいると苛立つのかを。傭兵はいつも、自分を通して獅子王を見ているのだ。決して結ばれ得ない想い人を。 「だったら…私もあなたを愛します…ベオ」 そう告げると、出し抜けに、自由騎士は明るい笑みを閃かせた。随分嬲られたというのに、愛していると聞かされただけで有頂天らしい。いつも気どっている割に意外なほど単純な気性なのだ。ノディオンの若君は笑みを返しながら、いきなり鞭で乳首を叩いた。 「ひぁっ!!」 「勘違いしないで。エルト兄様への気持ちとは違います。あなたを愛するのは忠実で賢い馬や、見事な家具を慈しむのと同じです…だから…」 年上の女の耳に唇をあてて、若者は意地悪く囁きと甘咬みの混じった責めを仕掛ける。 「な…そんな事言える訳…ないだろ…」 「そう?でも今日だけでベオの事はすっかり分かってしまったんだけど…」 「はっ…世間知らずの宮様が…」 「きちんと言えたら毎日可愛がってあげます」 「…下らない…いいから…そろそろ外せ…」 「正直になってくれなければ、一生を共にはできない」 「一生…」 ベオウルフは迷いに満ちた眼差しを鞭の先端と、ラケシスの双眸に行き交わせてから、ややあって唾を呑むと、口の中でなにごとか短く呟いた。 「聞こえません」 「くっ…このベオウルフ!ノディオンのラケシス殿下に生涯騎士として仕え、如何なる忠誠の求めにも従い、決して背かず…う、浮気もいたしません…誓いに背いた場合は、喜んで鞭を頂戴します!これでいい…だろ!」 「いいでしょう。褒美を取らせます」 若者が合図すると、ノディオンの赤髪の三姉妹が進み出て、傭兵の拘束を解いた。いずれも裸身に打ち傷のための油薬を塗り込んでおり、やわやわといたぶられた体に擦り付けては、傷を癒していく。 「…イーヴ、エヴァ、アルバ…隅々まで塗ってあげなさい…その後は…その後は…」 ひしめく女体の群を前にしたラケシスは、しばし悠然とした態度を繕っていたが、やがて身震いをすると、鞭を放り捨てて、中へ飛び込んでいった。 「愛にも色々な形があるという訳ですな」 ”…” 諺めいたまとめを付けながら、独りうなずく老家令に、見えざる神は中々答えようとしなかった。しかし臨時の司祭は気にした風もなく、さらに語句を継いでいく 「ラケシス様はたおやかな花のようでいながら、炎のような気性を秘めた姫君…いや若君でいらっしゃいますな…相手の方は、いささか信用できませんがなぁ…」 ”もう良いな…” 「バルド様?何やらお疲れのようですが」 ”激務であったが故な…しかも不毛な…” 「次はいよいよ」 ”次…だ…と…?” 「レンスターのご一家です」 ”どう考えても円満ではないか” 「何を仰いますやら。いかにシアルフィの華とはいえ、キュアン様がエスリン様ばかりを愛でられるとあれば、ノヴァの血筋を危うくさせる一大事。側室の必要はバルド様が仰られたのですぞ」 ”あれはティルフィングがだな…” 「うむむ。杖はあと使えて一回。慎重にやらねば。ですがキュアン様は何やらシグルド様と大事が話がおありのようす…ふふ…なぁにそこを」 ”…お前、先祖にロプトの血は入っておらぬだろうな” 「またまたご冗談を。この老骨は高貴の出ではありませんが、生粋のシアルフィ産でございますぞ。それよりも、いざ参りましょう聖戦の完結へ!」 ”…もはやなるようになるしかないか…” シアルフィ軍の総大将は、疲れきった足を引き摺って、寝所を出た。威厳を損なわぬよう軍装を整えてはいたが、いつも着替えを世話する従士が困憊しきっているために、ところどころの乱れは隠しようもなかった。普段、軍内を見回る際のきびきびした歩みはなく、瑠璃の双眸もいささか虚ろで、精悍さを欠いていた。 「おかしい…何かが…おかしい…」 黄色い太陽を仰ぎながら、だるい腰を無理に動かして外へ向かう。今日は執務を休みにし、配下には休養を言い渡したが、何故そうしたのか振り返ってみてもよく分からない。釦を掛け違えたように、どこかで犯した間違いがそのまま続いて、すべてに違和感を生じさせていた。 「…杖…術…そうだ…オイフェは…」 うながれて独りごちると、記憶が脳裏に閃く。蚊に刺されたような口付けの痕で覆われた軍師の白い裸身。ほとんど体中が空になるほど精を注いだのに、側室のしどけない寝姿を思うとまた血がたぎった。 「違う…待て…」 「どうしたシグルド?」 ぎくりとして頭をあげると、そこに友の笑みがあった。レンスターの王子が、股肱の臣たる若き槍騎士を連れて、にこやかに近付いてくる。どちらも血色がよく、髪は汗のなごりに煌めいている。丁度、訓練を終えてきたところのようだ。主従は本営を覆う爛れた空気にはいささかも毒された風なく、快活に振る舞っていた。 「…キュアン…」 「お前らしくないなシグルド。今日はなぜまたこんな休みを作った」 「ああ…いや…そうだな…」 「まあいい。エルトシャンを向こうに回しては気が進まないのも分かるが。しかし大将がそれでは士気に障る…というのは私が君に言う台詞でもないな!はは」 キュアンに勢いよく肩をどやしつけられたシグルドは、目の覚める想いで、すぐに背筋を伸ばし、明るい表情を取り戻した。 「ありがとうキュアン」 「おいおい何で礼を言うんだ…そうだ…ところで…聞いた話が」 レンスターの王子は声を落とすと、軽く手真似で合図をする。側に控えていたフィンは、心得たようすで内緒話を邪魔しない距離に引き下がった。 シアルフィの公子は、おおげさな、というように首を振ったが、親友は真剣な面持ちで囁きかける。 「アルヴィスがお忍びでここを訪れるらしいぞ」 「何?どうして知った?」 「まぁこちらにも色々なつてはあるのさ。フィラート卿は何も?」 「ああ…」 シグルドの眉が顰められる。付き合い長いキュアンには、すぐに気持ちが読み取れた。今やグランベルの剣とも呼ばれる聖騎士は、同じく聖王国の盾と称される赤公爵が苦手なのだ。ヴェルトマー家の弟の方は可愛がっているくせに、峻厳な兄にはどうも腰が引けるらしい。諸国の宮廷では剣も盾も似たような堅物として知られているのだが。 「何の用だろうな…私はあの方が来ると妙に緊張させられる」 「シアルフィ軍は連戦連勝だし、ヴェルダンやノディオンの手勢を加えて膨らんでいる。バーハラも戦に疎いフィラート卿だけでは真価を計りきれぬと践んだのではないか」 「そうかな…それだけのために近衛指揮官殿がわざわざ…まだアゼルが心配になったという方がまだ信じられる。あの方は表に出さないが弟思いだから」 「ふっ…君は相変わらずだな」 やはり同じ堅物でも、シグルドにはアルヴィスにないおおらかさがある。キュアンはそういう友の弱みともいえる部分を気に入っていた。戦乱の時代に数多の家臣の命運を負う君侯としては瑕になるのかもしれないが、こういう男だからこそ仕えるにせよ、朋輩とするにせよ、己のすべてを預けられるのだ。 「まぁ、新妻と子でも連れて出迎えてやればいい。君の家族を前にすれば向こうも権柄ずくはやりにくいものだ」 「そうだな。ただディアドラが何というか…」 「すっかり奥方に頭が上がらないようだな。私も人の事は言えないが。ところでアルヴィス卿というのはどんな男だ。聖騎士の叙勲で一度、直接会って話をしたのだろう」 「ああ。その前にも一度…向こうは覚えていないだろうが」 「本当か?初耳だぞ」 「士官学校時代にな…」 聖騎士はちょっと恥じ入るように目を伏せてから、怪訝そうなレンスターの王子に向かって、共に過ごした学生時代の記憶を揺り起こすよう言葉を紡いだ。 「覚えているだろう。新入生で成績の良いものが上級生と会食する催しがあったのを。といっても学生のあいだの伝統というようなものだったが」 「ああ!だがあの時の首席はエルトシャンだろう?」 「エルトシャンは、ノディオンの王子がバーハラの慰み者になる曰われはないとか怒って招待を蹴ったのだ。次席の私に役目が回ってきた」 「何が気に入らなかったんだ?」 「キュアンはまるで興味がなかったからな。要するに会食のあとの学生の舞踏会で上級生と踊るのが嫌だったらしい。婦人の歩調を踏まされたからな」 「それは…気位の高いあいつには無理だな」 キュアンが吹き出すと、シグルドも高らかに和す。二人とも、アグストリアとグランベルが敵同士となってからも、獅子王との絆は変わらないつもりでいた。 「で、結局踊ったのか?赤公爵殿と?」 「それが…よく覚えていない…覚えているのは会食の場面だけだ」 思い出しても冷汗が出た。料理の味も分からないほど緊張し、学校一の秀才と差し向かいの席についていた時の事は。 あれはバーハラの貴族のために、粋を凝らした料理店の一室だった。王室御用の職人を呼ばせたと噂のある瀟洒な卓や椅子、壁にかかる骨董の綴れ織り、故郷ではとうてい口にできない佳肴の数々も、少年のシグルドにはまるで意味をなさなかった。いささかでも礼法に違う真似はすまいとただそれだけに集中して皿を睨みながら、恐ろしいほどのろのろと過ぎていく刻を呪い、沈黙に息を詰まらせていた。 ナイフの使い方から酒の注文まで、さほど年の離れていないのに、素晴らしく落ち着いた態度でこなしながら、上級生はじっとちびの新入生に視線を注いでいた。まるで押し付けられた荷物を一晩どう扱ったものかと思案しているようだった。 ”シグルド公子” 発せられたのは大人びたというより、ほとんど完全に大人の、ずしりと響く声だった。 ”食事は楽しまれているかな?” ”はい!” シアルフィの公子は、教師を前にした生徒のように勢い良く答えてから、せっかく会話の端緒を与えられたのに、何か付け加えなければ非礼にあたると感じて、必死に台詞を探した。 ”どれも故郷では食べた事のないものばかりで…驚きました。ここの司厨はさぞかし多くの料理を知っているのでしょうね” ”ああ。口の傲ったバーハラの大貴族どもを満足させるために” ぎょっとするほど辛辣な舌を振るってから、ヴェルトマーの公子は静かに布巾で口元を拭い、葡萄酒を杯に満たした。給仕を横に置かず、万事を手ずから済ませるのは、士官学校風だった。 ”シアルフィは質素を尊ぶ土地柄と聞く。公子にすればバーハラの奢侈は異様に映るだろう” ”いえ” ”そうかな?まあいい。頽廃も平和の一面だと私は思う。都の豊かさは王国の安定の印。六公家の絆の揺るぎなさを示している” まるで父バイロンや老スサール卿のような語り口に、シグルドは圧倒されてただ相槌を打つよりなかった。アルヴィスは真紅を満たした銀杯を、指で弾いて告げる。 ”例えばこの酒はシアルフィから届いたものだ。公子が先ほど口にした麺麭の小麦はユングヴィから。私が持つ杯はドズルの細工だ” 目を丸くする新入生を、上級生はちらりと一瞥して続けた。 ”それぞれ特徴がある。例えばこの赤が出せるのはシアルフィの決まった村だけだ…卿も一口いかがか” ”それは…ですが私はまだ…” ”故郷の民が額に汗して作ったものを領主がいくらかなりと知っておくのも悪くはないだろう” そう勧めを受けて断れもせず、呑んだ葡萄酒は、ほろ苦く、果実の風味の中に確かにシアルフィの土の香りがするようだった。 あとになって考えてみれば、無愛想で名高い炎の貴公子が示した、破格の気遣いだったかもしれない。いずれは六公家を継ぐ身分同士、交誼を深めておこうとしたのか、しかしその後、向こうから親しく話し掛けられた覚えもない。 過去から現へ帰ったシグルドは、こめかみを掌で抑えて、溜息を吐いた。今日はあまり頭がはっきりしない。キュアンが心配そうに見ているのに気付いて、苦笑を返す。 「済まない。どうも調子が悪いようだ」 「大将がそれでは困るぞ。城に戻ってディアドラとセリスの顔でも見てくるといい」 「ああ。そうするとしよう」 「フィン。待たせたな。行こう」 主君の呼びかけに、槍騎士はすぐに早足で歩み寄ってくる。 シアルフィの公子は兄弟のように仲の良い主従を眺め、ほんのり笑みを浮かべていたが、いきなり背筋に冷たいものが走り、両目をかっと見開いた。 「フィン!」 漆黒の波動が襲い掛かるせつな、シグルドとキュアンがほぼ同時に若者を庇う。 「うあっ!」 「ぬっ…」 胸が張り、股間が燃えるように熱くなるのを感じながらも、シグルドは起き上がって周囲を見渡す。木蔭に消えようとする黒衣の端を捉えると、逃すまいと駆け出した。途中、地面に転がる杖に蹴躓きそうになりながらも、戦場で大将首を追う時の猛烈な気迫で、突撃していく。 残されたフィンは事態が把握できぬまま、胸にかかる柔らかな重みに目を白黒させていた。 「…あの…キュアン様…今のは…」 「んっ…フィン…ちょっと待て…何か…体が…」 視線を落としたとたん、主君の変わり果てた姿、服の上からでも分かるたわわな乳房に釘付けになる。 「キュアン様、そ、それは…」 「あれ?なんだこれ…」 両手で見慣れぬ膨らみを鷲掴んでから、レンスターの世継ぎは覚えずあえかな吐息を漏らしてしまった。急いで指を引き剥がすと、かえって肉鞠は飛び跳ねて、ますます若い槍騎士の視線を集める結果になった。 「…はぁ…はぁ…フィン…見るな…こんな…ふざけた…」 「キュ…キュアン様…キュアン様…キュアン様ぁあああああ!!」 フィンはしゃにむに主君を押し倒すと、豊かな両胸にむしゃぶりつく。キュアンの抗議の叫びは、間もなく歓喜の歌に変わった。 「不味い事に…なりましたぞ!!」 ”驕れる者久しからず、ただ春の夜の夢の如し” 「シ、シグルド様が…こちらに…気付くとは!…二回目は…まずかった…はぁはぁ…」 ”猛き人もついに滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ” 「うわわ…追いつかれます!」 ”落ち着け。奴が本調子であればすでに捕まっておる。振り返って良く見よ” 省みれば成程、聖騎士は冗談のように膨らんだ胸を抱えてひどく走り難そうなうえ、両腿のあいだに大きな染みを作っており、息も荒い。瞳は怒りに爛々と輝いているとはいえ、確かに興奮に潤んでいた。 「…しかし、私にはシグルド様を組み敷くなどとても!いやちょっとは…しかし!」 ”誰もそんな無謀な企ては勧めておらぬ。焦らずとも逃げ切れると言っているのだ” 「ええ!!?左様な後ろ向きな。シアルフィの男子たるもの、戦に当たってはやはり正面から受けて立つべきでは」 ”仮にも主君を前にして…お前という奴は…” 漫才じみたやりとりのあいだに、シアルフィ軍の総大将は一気に間合いを詰めると、イザークの剣士も顔負けの跳躍で、司祭に飛び掛かってくる。 「ぎゃあああ!!」 だが騎士の手が黒衣の袖に触れる寸前、闇色の稲光が縦横に閃いて、辺りを無明のうちに閉ざす。 老家令は腸のよじれる痛みと共に、どこかへ引っ張られていくのを意識した。全身が薄く引き延ばされ、ほとんど平面になったかのような錯覚のあとで、今度は逆に圧し縮められるような感じがして、出し抜けに光が戻った。 瞬きすると、そこはシアルフィ城の寝室だった。辺りには鬼の形相を浮かべた麗しのシグルド公女も、明るいアグストリアの野もない。ただ毛織布のかかった石壁ばかりがぐるりと取り巻いている。 「夢?」 ”そうとも…すべては夢だったのだ…シアルフィの世継ぎを案じるばかりにお前が考え出した幻だったのだ” 「それにしては最後に見たシグルド様のお胸はいやに重量感があり、くっきりと目に焼きついておりますが…」 ”…かつての聖戦でも…お前のような者があと数人いれば、ロプト帝国は勝利していたかもしれぬな…” 「はは、それほどでも」 ”良いから眠るのだ。眠れ。目覚めたあと、お前はすべてを忘れる…リジェンダの杖も…待て。杖はどうした…” 「むにゃむにゃ…シグルド様のお胸…たっぷり揉んでさしあげますぞ…むにゃ…ぐぅ…」 ”ぬぉおおおおおおお!竜族の至宝が!我が教団の計画の要が!起きよ!思い出すのだ!あの杖をどうした!どこへ置いてきた!” 「むふふ…こう見えて村祭りの乳搾り大会では三年連続の優勝…妻もそれはそれは…」 老家令は快い疲れに身を任せながら寝床の上に丸くなった。夢とも現とも定かならぬ冒険のあとで、歳月を刻んだ顔は不思議に若やぎ、青春の色艶を取り戻したかのようだった。 翁が幸福な睡みに沈んだあと、春も半ばのシアルフィ城にはただ、バルドを騙った邪教の高僧の、声なき悲嘆だけが、いつまでも、いつまでも続いた。 暗黒魔法でずたずたに裂けた衣服を掻き合わせながら、シグルドは疼く女陰に伸びようとする指を懸命に抑えていた。一度快楽に溺れてしまえば、止め処がなくなると苦い経験から学んでいたのだ。 「く…何とか…何とかしなくては…我が軍は…崩壊する…まず、クロード様に…」 半ば己に言い聞かせるように独白しながら、剥き出しの尻をもたげて、這うようにして進む。膝に砂利が食い込むたび、痛みが官能の刺激となって神経を伝う。血のにじむ擦り傷や、青い痣さえ、欲望の火を鎮めるどころか煽り立てていた。 「すまないディアドラ…オイフェ…私は自分がこんなに弱いとは…」 四足を突いたままうなだれる聖騎士の頭上に、不意に影が差した。 「そこなご婦人。いったいどうされたのだ」 聞き覚えのある声にぞっとして、首をもたげると、真紅の長衣をまとい、炎の髪をなびかせた魔道士が、怜悧な面差しに憐れみを浮かべて立っている。 「…あ、アルヴィス卿」 「私の名を知っているのか。ならば益々捨て置けぬ」 臙脂に金の刺繍が入った天鴛絨の外套を脱ぐと、震える裸身に着せ掛け、凍えるような憤りに満ちた眼差しをほど近いシアルフィ軍の本営に向ける。 「よもや。あそこに屯する騎士団の仕業ではあるまいな」 「とんでもない!!!あなたはシアルフィ軍を鬼畜の集まりとでも言われるか!」 思わず激しく反駁するシグルドに、アルヴィスは驚いた眼差しを向ける。 「ふむ。よく見れば貴族…シアルフィの顔立ちだな…シグルド公子と縁の方か」 「う…シグルーンと申します…シグルド公子とは遠縁に当たる…」 術をかけられた本人だと告げるのは、一軍の将として誇りが許さなかった。いや、さほど矜持や外面にこだわりのないシグルドではあったが、アルヴィスにだけは弱みを見せたくなかった。考えてみれば士官学校時代から、万事に長じたヴェルトマーの秀才に対してずっと引け目を残していたのかもしれない。兎に角、後先よりも羞恥と屈辱の想いが聖騎士に似合わぬ嘘を云わせたのだった。 「いずれにせよ。本営のそばで斯様な狼藉を許すとは、あってはならぬ怠慢だ。私がシグルド公子の元へお連れしよう」 「え!!?」 「ヴェルトマーの炎の紋章にかけて、このアルヴィス、しばしの間、貴女の騎士として安全を守ると約束する」 「いや…それはまずい…」 |
どう説明すればいいのだ。シグルド、否、シグルーンは恐慌を起こしかけながら、配下が陣を張る道の先と、アルヴィスの真摯な顔付きを見比べた。 魔道士は白皙の額に微かな皺を作り、唇を噛んだ。もしや疑いを持たれたのかと聖騎士が肩を強ばらせた横で、右に左に歩きながら、長い指を尖った顎にかけ、考えに耽るようだった。 「なるほど…正直に打ち明けては下さらないようだ」 「あぅっ…」 「いいでしょう。貴女がシグルド公子を庇う気持ちを汲んで、これ以上は尋ねない。しかし貴女を傷付けた犬共の住処まで連れて行くような真似もすまい。シアルフィ軍には後で私から直に償いをさせましょう…さぁ…立てますかな」 「…結構です」 「分からぬ方だな」 細身のどこにそんな力があるのか、アルヴィスは眉一つ動かさずにシグルーンを抱え起こすと、肩を支え、背を押すように歩き始めた。男の匂いを嗅いだ女の体は、たちまち強い反応を示す。 「…はっ…離れて…アルヴィス卿…」 「向こうに馬があります。少し辛抱して頂こう」 「頼む…離れてくれ…私の体は…今…」 切なげな懇願に、真紅の瞳が細められ、ちらりと傍らの乙女を一瞥する。 「かなり強力な暗黒の業だな。案ずるな。私は解術にもいささか心得がある」 「げ…」 シグルーンとて元の性に戻りたいのは山々だが、アルヴィスの前で正体をばらされる瞬間を想像するだけで怖気を振るわずにはいられなかった。 「アルヴィス卿…頼む…本当に…」 魔道士は咳払いして、足を急がせた。心なしか顔が赤らんでいる。 「術のせいとは分かっているが、あまりそのような声を出されるな。私とて木石ではない」 聖騎士は絶望の篭もった眼差しを遥か彼方へ、妻子の待つアグスティ城へ向けたが、やがて本能に負けて、青い髪を紅衣の肩へもたせた。 ヴェルトマーの公子は我知らず早鐘を打ち始めた胸に戸惑いながら、低くぼやいた。 「まったく…シアルフィ軍はどうなっている。アゼルが辺境の悪習に染まっていなければいいが…」 「アゼ…アゼル!わた、私恐いっ…恐いよ…」 「はぅっ…ぅんっ…大丈夫だよ…ティルテュ…僕が…動くから…」 紫髪の少年の膝で、赤髪の少女が妖しく踊る。ファラとトードの、炎と雷の契りは、初々しく激しく、艶やかだった。 「素敵…」 互いを捧げあう二人を、少し離れてウルの裔たる青年がにこやかに見守っていた。広げた脚のあいだには、ヴェルダンの森の姫、ユングヴィの女騎士、可憐な盗賊の娘が頭を並べ、競って魁偉な逸物を頬張ろうとしている。 「喧嘩は駄目ですよ」 エーディンは三匹の牝を平等に撫でてやりながらも、無言のうちに淫らな争いをけしかけていた。結局勝ったのはジャムカで、喉の粘膜まで使って剛直を扱き、涙含みながらも、射精をすべて受け止める。 「独り占めも駄目ですよ」 褐色の弓使いは野太い肉筒から唇を外すと、隣でふてているミデェールに喰らいつき、ありついたご馳走をお裾分けしてやる。次いで悲しげに指を咥えるデューを引き込むと、すぐに三つの舌が愛しい男の精を捏ね、それぞれの唾液と混ぜて交換を始めた。 「いい子たちですね。姉妹のように仲良くして下さい」 どうやらヴェルダンの姫がお姉さん役らしい。始終二人を先導しており、三つ巴の接吻をしながらも、ユングヴィの女騎士と盗賊の娘の秘裂に指を滑り込ませて、短時間で使い込まれたそこを巧みに弄っている。金髪の少女はすっかりされるがままに喘ぎを零し、聞き分けのよい妹とというところ。緑髪の乙女はまだ対抗意識が残っているようだが、体は愛撫に懐いて、ぴったりと白い肌と浅黒の肌を重ねていた。 「それではジャムカ。二人をよく躾ておいて下さいね」 「ああ…お前ら挨拶しろ」 「ひゃんっ…エーディン、あとでまたおいらと、いっぱいしてねっ…」 「エーディン様…はぅっ…私も待っています…」 「はいはい」 青年は長衣を軽く巻きつけ、波打つ金髪を肩へ撥ねると、すたすたと泉の側を離れる。代わる代わる四人、いやフリージの少年を含めれば五人をつまみ食いしたというのに、まるで朝起きたばかりのように闊達だった。 「…さてと…他に誰か…」 物色しながら歩いていくと、道端に見慣れない杖が落ちている。拾い上げると、微かにロプトの邪悪な魔力が手に伝わってきた。 「あらあら」 「あの…あなたは…」 後ろからおずおずと声をかけられて、振り返ると、ほっそりした金髪の若者が立っている。裸身にノディオンの紋章が入った外套を胸に巻き付けているだけの、あられもない格好だが、侵しがたい気品を漂わせていた。 「…ラケシスさんの…ご親戚?」 「いえ…もしかしたら…エーディンさんの…」 「あら」 「まぁ」 二人は己の体験に照らして、何が起きたのかを悟った。どちらともなく笑い出して、すっかり変わった体付きを観察しあった。 「この体も悪い事ばかりではありませんわね」 「ええ。でも…エルト兄様が見たら何と言うか…」 「私もブリギットお姉様と再会した時を想うと…でもね。さっきここで拾ったのですけど、ほら」 黒く脈打つ杖を差し出して、エーディンはにっこりする。ラケシスはそっと手を伸ばして触れ、瞼を閉ざすと、指先で刻まれた文字をたどる。 「多分これが…もう力を失ってるけど…」 「分かります?修理すれば使えますわ。それほど高位の杖の技を必要としないようですし。ラケシスさんにも」 「え?」 「ふふ。私、お姉様の花婿候補を四…三人ほど側に置いているんですけど、どれも花嫁候補になってしまって…でも考えてみたら、姉様がお兄様になってくれればちっとも問題ないでしょう?」 「え…じゃぁ…あの」 「同じように獅子王が、獅子女王になっても威厳は損なわれませんわ。それに杖を使ったあとはその、とても殿方を受け容れやすくなるようですし…」 「…エルト兄…姉様を…私が…はぁはぁ…」 「エルトシャン様は奥方が居られるようですけど、女王になってしまえばもう関係ありませんわね」 「つまり…エルト姉様が私の…私のものに…」 「もちろん、ラケシス様が、エルトシャン様が他人の夫であり続けたとしても、雄々しい兄様でいて欲しいというなら…それはそれで」 「いえ全然!ぜんっぜん!…素晴らしい、素晴らしい考えですエーディンさん」 若者らしい妄想で頭を一杯にしながら、ノディオンの王子は鼻息も荒く、ユングヴィの公子の機略を賛えた。相手は穏やかな微笑みを浮かべたまま、小さく頷く。 「私、他にも考えがあるのです。あの少し聞き分けのないアンドレイも、女になって色々身をもって味わえば、世間も広がるでしょう。それから…シャガール王とか、ランゴバルド公とか、レプトール公とか、厄介の種になっている方は皆…ふふふふ…」 「ああ、エルト姉様。待っていてくださいね…姉様なら、きっとラケシスとのあいだに可愛い子供ができますから…」 うっとりとロプトの凶器を撫でる二人の杖使いに、暁の太陽は不承不承、祝福するような黄金の輝きを投げかけていた。 |
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