Mama is Darkelf Vol.2

「イヤー!」

甲高く上ずった叫びとともに、菱形をしたダーツが空を走り、的に刺さる。ちょうど円の真ん中の辺り。ほかの四本とごく近くに食い込んでいる。

マンションのリビングルームの壁につけておくには、やや変わった飾りというところ。

とはいえ周りには、砂時計のように二つの丸い膨らみがある青い硝子の水槽だとか、松でも梅でもなさそうな銀の斑つきの葉を茂らせた盆栽だとか、生物図鑑にある粘菌そっくりの橙がかった鉱物標本だとか、いい音がしそうな竹の鳴子だとか、おかしな品がどっさりある。

ほとんどが日本製ではありそうもなく、どこか遠い国から土産として持ってきたに違いなかった。辛うじてインテリアらしくなるよう工夫して置いてあるものの、どうにもまとまりに欠け、午後の暖かな日光が照らす居間の景色は、映画や舞台の小道具をしまう倉庫のようでもあった。

キッチンで踏み台の上に立った行平遥(ゆきひらはるか)は、暇つぶしに放った投げ矢が命中したのにはさほど喜びもせずに、家の中の奇妙な調度類を一つ一つ眺めわたし、大人びた溜息をついた。

「おとーさん、まーだかなー」

振り返って電気調理器の上で煮返したばかりの鍋を覗き込み、ジャガイモをいくつか菜箸でつついてから、透明な蓋を閉じる。次いで菜箸をさっとシンクで洗ってから、布巾でぬぐって水切り籠に入れ、エプロンをはずしてハンガーにかける。

後は床に飛び降りると、猫のように柔らかに着地してから、音を立てず摺り足でリビングまで戻り、テーブルの上にある携帯を軽く撫ぜてロックを解除し、アドレス帳からお父さん、とある番号を呼び出すと、眉間に皺を寄せて、編集ボタンを押し、パパ、に戻して叩く。

“おかけになった電話番号は、現在使われていないか、電波の届かないところにあります”

「んもー」

遥は画面をにらみながら、意味もなく身をくねらせ、しかめ面を作る。だがしばらくするとまた大人びた溜息を吐いて、携帯を放すと、リビングのあちこちをぶらついて回る。

まずは丈の高い水槽に近づき、くびれをそっとなぞると、鯰に似た長い髭の魚が藻を掻き分けてあらわれ、硝子ごしに指に口付けしてくる。

「マツヤさんこんにちわ。ごはんはまーだ」

挨拶をすると、魚は泡をいくつも出して、分かっているよと返事している風だった。

笑みがこぼれて、機嫌はやや直る。続いて盆栽に移ると、銀の斑の入った葉が清々と茂っているのをじっくり観察して、うなずく。朝に水はあげているので、何もしてあげる必要はない。

「フーサンさんこんにちわ」

けれど呼びかけておくと、風もないけれど、盆栽は心なしか枝を揺らし、葉をさやがせて応えたかに思えた。ミントに似た匂いが立ち昇って鼻をくすぐったので、くしゃみをしそうになって、後ずさる。

さらに四角い樹脂のケースに収まっている鉱物標本へと足を運ぶと、そっと小さく手を振る。

「名無しさんこんにちわ」

放射状に伸びたオレンジの紐や糸が、脈打つように煌きかすかに色を変えたかのようだった。

「おとーさん、お土産にみんなの新しい仲間連れて来るかな?あんまり変なのじゃないといいね?」

やや前屈みになり、両膝に手をあて、独りごちるように尋ねる。すると標本は同意の目配せをする風に、昼下がりの光を反射させた。

途端、狙い澄ませたかのようにインターホンが鳴る。

遥はぴょんと跳び上がり、思わず鳴子に目をやった。竹筒を連ねた細工を吊るす糸は、通風孔まで伸びているが、揺れているようすはない。大げさにガッツポーズを作ってから、飛び跳ねつつ下を抜け、とんぼを切って玄関へ辿り着く。後はもどかしげに鍵を開け、扉を押しながら、待ちきれず外へ話しかける。

「おとー…パパお帰り!また鍵なくし…た…の…」

立っていたのは、甲冑だった。

ゲームに出てくるような騎士の格好だ。面頬は顔をすっぽり覆い、丸みを帯びた胸当て、篭手、腰鎧、足甲はすべて墨に漬けたかのような昏さで、昆虫のような光沢を帯びている。

“ドーモ、ハルカ=サン”

錆付いたような金っぽい口上とともに、鎧武者が深々と礼をしたのと、遥が掠れた悲鳴とともに思わずバク転して遁れたのは同時だった。

“む、挨拶はこれでよかったはずだが”

騎士はそのまま三和土(たたき)に上がり込むと、後ろ手にドアを閉めた。腰を落とし、うなじの毛を逆立て、目を皿のように丸くして見つめる遥に、篭手をはめた掌を突き出し、宥めるような仕草をする。

“あいや、待たれよ。妖しいものではない。私はジイラ・メル・ウォルクム。化石の森の主にして黒曜竜の乗り手、古王国を統べし闇妖精(ダークエルフ)最後の裔”

長々と称号を連ねながら、ねじれ角の生えた兜をゆっくりと脱ぐ。濃褐の瑞々しい肌と、鋭い蘇芳の瞳、銀糸のような髪とがあらわになる。

「え、えるふ?えるふナンデ?」

よく意味を解し切れない単語を鸚鵡返しにしながら、遥は華奢な背を丸め、ほとんど四つ足をついたような姿勢になる。ちょうど大型犬に出くわした仔猫そっくりの身構え方で、今にも半ズボンの後ろからは尻尾が、つやのある黒髪のあいだからは尖った耳まで出てきそうな具合だった。

ダークエルフと名乗った女は落ち着いたようすで語句を接いでゆく。

「うむ。ダークエルフである。実はと申せば、ハルカさんのパパと、私は、めおとの契りをしたのでな。故に今日から私が、ママだ」

棍棒の一撃を食らったように、遥は小さく喘ぐと、頭の中で張り詰めていた糸が音を立てて切れるのを感じながら、ゆっくりと気を失った。


ジイラ・メル・ウォルクム。化石の森の主にして黒曜竜の乗り手、古王国を統べし闇妖精最後の裔は、麻の胴着に腰巻という軽装になって、行平家のリビングルームに行儀よく座っていた。いかにも動きやすそうな衣服は、しかしたわわな乳房や、くびれた腰、羚羊のように伸びかな脚を強調してもいた。

しかし向かい合って腰掛ける行平家の一粒種、遥は初めから客人の姿態をよく見もせず、緊張のあまり能面のようになった顔で、婚姻届の提出前コピーと、父からの手紙を読んでいた。

「ジイラ・メル・ウォルクムさんは」

「ママと呼んでくれてよい」

尖った耳と浅黒い肌をした女はわずかに首を傾げつつ、勧める。子供はまたうなじの毛を逆立てたようすでをテーブルの向こうを一瞥してから、男親からの頼りに目を落とす。

「ジイラ・メル・ウォルクムさんは、おとーさんの出張した国にいて、それでおとーさんにあって、け、結婚したんですか」

「結婚は日本でした。コンイントドケ?という契約の書は、東京の都で出した」

「あの、おとーさん、今どこに」

数秒の沈黙のあとで、ジイラは穏やかに返事をした。

「パパは急な追加の仕事が入ったため、すぐには帰れなくなった。そう手紙にしたためてあるのではないかな」

「…はい」

「それで代わりに私がママとして」

「あの!」

少年は素っ頓狂に裏返った声で遮ると、椅子から飛び降りた。

「お、お茶を出、すの、忘れてたから。ちょっと、し、つれいします」

台所に逃げ込み、忙しく働き始める童児を、騎士は目で追ってから、ふと注意を逸らす。盆栽、水槽、鉱物標本をそれぞれに観察してから、玄関に置物のようになっている己の武具にも眼差しを投げる。紅蓮の双眸が、瞳孔を縦長に絞り、厚みのある唇がめくれて、三日月に歪むと、犬歯が剥き出しになる。

「お、お茶入りました」

固い口調で告げながら、少年が戻ってくると、闇妖精の整った造作はまた風のない日の泉の水面のように穏やかに凪ぐ。形の良い鼻がうごめき、長い睫がはためく。

「お茶、であるか」

「お茶、です。お茶請けは、み、水羊羹です。僕が作ったやつだから、ちょっとまずいかも、あ、おいしくないかも、あ、お口に合わないかも、しれないけどですけど」

遥はぎこちなく盆から湯飲みと木の茶托を置き、厚く切った小豆の菓子を載せた皿を並べ、楊枝を添えて出す。ジイラは量感のある乳房を卓上に載せるようにて身を乗り出し、湯気の匂いを嗅いで、ぼんやりした面持ちになってから、茶碗をとりあげる。

「飲み物と、食べ物」

「はい」

お盆を縦にして口元を隠しながら、少年は不安そうに一歩後ずさりする。

「馳走になる」

騎士はつぶやいて、酒盃を持つように茶碗を傾け、澄んだ緑の湯を啜り飲むと、低く唸ってから、すべて乾した。続いて楊枝を無視して手で水羊羹を掴むと、端を齧り取る。

「香りのある葉を煎じた汁。豆に蜜を加えて、何かで固めている。片方は熱く、片方は冷たい」

「はい、あの」

「うむ」

「あの」

「うむ」

「あの」

「もう少し貰っていいか」

頬を赤銅に染め、どこか遠い目でダークエルフが所望すると、人間の子供は小刻みに何度も頷いて、台所へ取って返し、牛乳パックから作った型からまた少しゼリー状の甘味を切り出し、運んでくる。

「あの、お茶もどうぞ」

「うむ。うむ」

猛烈な速さでまた茶と菓子を平らげると、ジイラは再び湯飲みを突き出す。遥は相変わらずしゃちこばりつつ、酌童のようにお茶を足す。

「ハルカさんのパパを伴うべきところ、私だけ押しかけたのに、かたじけない」

急須に三つめの茶を空けたところで、いささか呂律が回らなくなってきた竜の乗り手は、どこか据わった目付きで少年を眺めながら、呟くように話す。

「だ、大丈夫です…僕、えと、おとーさんが帰ってくるまで、ちゃんと。ご飯とかします」

遥は言ってしまってから、唇を噛んでうつむく。ジイラは首を縦に振りながらまた湯飲みを呷った。

「ハルカさんは良い奥方になられるだろう。うむ」

「え?」

怪訝に聞き返す童児の横で、化石樹の森の主だった女は、たわわな胸鞠を自ら押し潰すようにテーブルにのしかかり、呪文のように言葉を唱え続ける。

「ここへ厄介になるのも不思議な巡り合わせだ。私は本当は、私の国で死ぬつもりだったのだ。国のすべてが死につつあったから。一緒に死ぬのがふさわしいと思った。けれど…ハルカさんのパパが止めた」

呻くように語るダークエルフの疲れた面差しに、急須を持ったまま少年は息を呑む。

「灰燼と瘴気にまみれた墓所で、細密画、シャシンを見せてもらったのだ。ハルカさんのパパの持っていたシャシンだった。小さな子供が弾けるように笑っていた」

ジイラは茶碗を置いて両手をテーブルにつき、苦労して半身を起こすと、上目遣いに遥を見遣った。

「私にあんな頃があったか思い出せない。生まれた時には、もう一族はすっかり先細って、同じ世代はいなかったから、周りでほかの誰かがあんな風に笑っていた記憶もない。でも、どうしてかひどく懐かしくなってな。ひとめシャシンの子に会いたくなった…ひとめ…」

いずことも知れぬところからやって来た夜の娘が喋る内容は、人間の子供には、まるで理解が及ばなかった。ただ茜の瞳からあふれ、浅黒い頬を伝った涙が、卓上に一滴、二滴落ちると、瞼の裏が熱くなって同じように雫が零れてしまった。

「あの、ジイラさん」

「ママ、と呼んでくれ。ハルカさんのパパと約束したのだ。私はママになると。友の屍の代わり、新しい命に寄り添う役を果たすと」

「え、でも」

「ママ、と」

少年はぎゅっと目を瞑って深呼吸をすると、やけ気味に囁いた。

「ママ」

「ハルカさん!」

感極まった騎士がばね仕掛けのように立ち上がり、我が子となった相手を抱きしめる。種族の特徴として丈があるとはいえ、女の細身のどこに隠れていたのかという剛力で、背の低い童児の頭を無理やり乳房に埋めさせる。

「無理な願いばかり、叶えてもらってどう礼をしたらいいか」

遥は両腕をばたつかせながら離れようとするが、まるで鉄の箍がはまったかのように動けず、豊かな胸の谷間を探り、鼻を突き出して必死で息をするしかない有様だった。

騎士はうっとりと目尻を下げながら、緩んだ口元からまだ長広舌を振るっている。

「もう一つ願いを叶えてもらえるだろうか。パパはハルカさんをおのこと教えてくれたが、私には、ママにはどうしても得心が行かない。シャシンに描いてあったのは、本当はおなごではないかと」

しなやかな指先が、半ズボンの前をまさぐり、構造を把握すると、ボタンを外し、ジッパーをおろして、内側に滑り込む。

「柔らかくて小さいが、これが人のおのこの御印(みしるし)か。竜とは違うな。ああ、尖ってくるのは発情の印だった」

楽しげに尋ねては、短いしゃっくりをすると、ジイラはもがく遥を抱く腕をおもむろに解いた。だがわずかに二人の距離が開いたところで、今度は頤を掴んで、噛み付くように接吻をする。舌を挿れ、熱い子供の口腔を掻き混ぜながら、唾液を吸い、震えとなって伝わる悲鳴をすら飲み乾す。

同時に幼茎を弄り回す指の勢いを増し、小さな体が受け止め切れない刺激に幾度も痙攣し、絶頂に達すると、わずかな薄い精を掌に受け止める。

人間の仔とダークエルフの女、二つの唇が銀の糸を引いて離れる。初めての口付けと射精を同時に迎えた少年が尻餅を突き、酸欠にかかった金魚のように口を開いたり閉じたりしているのをかたえに、闇妖精は掌にたまった白蜜を舌で伸ばしてうっとりと味わっている。

「竜より薄い。でもとても美味だ。ハルカさんの作ったミズヨーカンよりずっと」

浅ましい宣告を、聞き入れるまいとするかのごとく、震えながら頭を振る幼い獲物。しかし無防備に開いた股のあいだを、長く引き締まった褐色の脚が無慈悲に踏みつける。裸の親指と人差し指のあいだでしなだれた雛菊を器用に捉えると、逃げられないようにしてから、浅黒いしなやかな腕が胴着を引き裂かんばかりの荒っぽさで脱ぎ捨て、釣鐘型の肉鞠を踊らせる。

ダークエルフは恍惚の吐息を漏らすや、少女と紛う顔立ちの息子から盗み取った甘露を、すべて貪り終えると、骨の髄まで酔い痴れた面持ちになって、犬歯を剥き出し嗤う。

「さあ、もっと確かめさせてくれ。ママに。おのこのしるしを」


「なぜだか、ふわふわして、楽しい。昔を、思い、出す。化石樹の森が、灰に埋まる、前に、私の竜と、すごした日を」

若干舌をもつれさせながら、低く掠れた魔性の声音が、歌うように告げる。

「ジイラさ…ゃめ…」

べそを掻きながら問う人間の仔に、闇妖精はすぐには返事をせず、包皮をかぶった土筆のような可愛らしい器官を足の指を巧みにひねり、捏ね上げる。

「ぁぎぃぃい!?」

「ママ、だろう」

「じいらさ…ゃらぁ…ゃめ…ひぐぅ!!?」

「ママだ」

「ひぁあっ!?」

急所を執拗に嫐る足責めに、半狂乱になった少年は、よく鍛え抜かれた騎士の太腿に抱きついて、啜り泣きながら懇願する。

「ままぁ、ひゃめへくでゃひゃぃっ、ひゃめへぇっ」

「ママの、いうことを、ちゃんと聞けるか?」

ジイラは、赫々と燃える双眸の灯を強め、いつしか瞳孔に渦巻く微小な文字を浮かばせては、あやすように訊いた。遥はといえば、無我夢中で何度も頷いてから、ふと相手を仰ぎ見ると、急にまるで磁石に吸い付けられたように引き込まれ、わずかも視線を逸らせなくなる。

「では、このまま続けさせよ。ハルカさんの蕩けた顔をもっと見せて欲しい」

「?!!ひぎっぁ…」

「達して」

「ぁっ…ぁーっ!!」

理も非もない命令におののきながら、真紅の眼差しに囚われた少年は幼茎を再び固くさせ、たちまち床をわずかに粘りを帯びたしぶきで汚す。異界の女は、よくできたと褒めるように手触りのよう子供の髪を撫でながら、足指による玩弄をやめようとせず、細茎に三度、痛々しいほどの勃起を促す。

「ちゃんと、おのこだな。仕方、ない。どんなに、かわいらしくても、雄は、育つ。育つと、気が荒く、なるから、家族に、家族に、する、には、雛のうちに、きちんと、躾けないと」

虚空に台詞を紡ぎながら、琥珀を刻んだ細工物のように精緻な造作をゆるませ、銀髪を垂らした頭を心もとなく揺する。度ごとに、にいささか焦点の合っていない双眸から、紅蓮の焔にも似た光が閃き、尾を引いて右に左にと行ったり来たりする。

眼差しに

「ハルカさん。親子に、なったら、ハルカと、呼ぶのが、正しい、な。ハルカは、本当に、私の竜に、似ている。素直で、おとなしくて、でも、ずっと泣き虫で、感じやすい」

「ちがぁ…ちが…ぁ…ジイラさ…」

「また、間違えたな」

罰とばかりに幼茎を捻り上げると、少年は褐色の脚にしがみついたまま歯をがちがちと鳴らす。

「ぎぃいい!!マ、マぁぁあ!!?!」

「そうだ。ママで、あるぞ」

竜の乗り手たる義母はそう肯っては、酷い風邪を引いたかの如くに震える息子の汗に湿った黒い毛を、蜘蛛のように伸びた指で愛しげに梳り、嫣然と厚みのある唇を歪め、またしても爪先でつまんだ未熟な秘具をひとひねりする。

「ぁぐぅ!!?」

「ハルカは、これから、ママの、ものにする。ママが守り、躾け、乗りこなす。ちゃんと、家族にする」

熱に浮かされたような告白を、耳に入っているのかいないのか、童児は普段は柔和なかんばせを涙と洟と涎に塗れさせて歪め、女親の膝の裏辺りを弱々しくかきむしり、しゃくり上げてはままやく。

「ひっ…ひっ…おと…さ…たす…け」

「ここにパパは、いない。ママ、だけだ」

「やだ…おと…さ…」

騎士は優雅に会釈をするように屈むと、浅黒い縹緻を色白のあどけない容貌に重ね、両手でふっくらした頬をはさみ込むと、舌を伸ばし、睫の下や鼻筋に散る塩辛い滴を丹念になめ取っていく。

「ママだ」

「ママ…や…だ…こわ、い…」

「そう、か。ママでは、だめか」

ダークエルフの美貌が唐突に強張り、親に置き去りにされた幼女のように心細げになる。人間の仔は、惑乱の極みにあって、ふと泌み入るような寂しさを覚え、気づくと相手を慰めるように、震えの止まらない腕に力をこめて、しなやかな脚を強く抱いていた。

「ち、が…だめ…じゃな…ぁれ…わかん…な」

「よかった」

ジイラは、ようやく親指と人差し指のあいだに挟んでいた秘具を離すと、しゃがみ込んで、片腕で遥の肩を抱き、もう片腕を労わるように開いた半ズボンの中に差し込み、陶然とした口調に戻って、濡れた唇に途切れ途切れの呪文を紡がせる。

遥にはまったく理解のできない言葉だったが、凍てつく熱が漣の如く浸透してくるのに喘いだ。まるで別の生き物になったかのように固く勃って臍を鼓つ雛菊から、小鳥の卵のような陰嚢、鼠蹊部から腰のすべて、やがて電流が奔るかのように四肢や首へも広がっていく。

詠唱とともに二人の脳裏に印象が谺し、跳ね返る。主従の契約。雄の竜が女の主に仕え、魂も体も捧げ、ともに翔び、ともに歌い、ともに戦う。滅び行く地に生まれた闇妖精の裔が知る、唯一つの家族の形。

「とこしえに…ハルカ」

ダークエルフの引き締まってなお豊満な肢体に抱かれて、未熟な人間の仔の矮躯は、華奢な背骨を折ってしまいそうなほど弓なりになり、ほとんど宙に浮き上がるかに思えた。

両腿の付け根あたりから、白磁を思わせる肌理の上を臙脂に光る文字が這い広がり、巻いた紐が解けるようにして、子供らしい丸みを帯びた総身を覆ってゆく。輝く渦の中心である股間では幼茎が魁偉な変化を遂げていた。皮膚の色は相変わらず薄桃のまま、形だけは大人の男を上回る巨根へと育ち、太幹には茨のように呪句がからみついて、脈動に合わせて猩々緋に瞬いている。

「ぁ…ぅ…」

爪先から頭の天辺まで、神経を焔となって駆け巡る古い魔法に、少年は両の目をいっぱいに見開き、大きく開いた頤から途切れ途切れの喘ぎをこぼすばかりだった。

「竜にかける魔法、人間の仔には、すこし、強かったか…でも、ここは、たくましくなった」

硬く反り返って、痩せた腹を叩く屹立を、ダークエルフはうっとりと撫ぜて、稚い四肢に細かな痙攣を起こさせる。ややあって肉竿を掴み直し、幾度か試すようにしごいてから、もはや何の抵抗もしない童児の胴を床に横たえた。

後は舌なめずりをしてから、仰向けの獲物に跨ると、がに股になって引き締まった下肢を左右に割り、腰布がずり上がるに任せる。下着は穿いておらず、しとどにそぼる白銀の茂みがあらわになると、麝香に似たきつい匂いをかぐわせた。

ぬらつく秘裂を指で押し拡げ、先走りにてかる剛直の真上に合わせたところで、愛液の滴が零れて敏感になった鈴口を叩き、また声変わり前の喉からかそけき悲鳴を引き出した。騎士は低く含み笑いをしてから、筋肉を蠢かし、ゆっくりと先端から銜え込んでいく。

朱の呪紋が雄幹と雌芯の双方に同時に浮かび上がり、絡み合うと、嬌声の二重唱が起こる。少年と女、ダークエルフと人間、母と子。

ジイラは余裕をかなぐり捨て、張りのある焦茶色の尻を、勢いよく遥の柳腰に叩きつけた。幼い容姿に不釣合いに逞しく変わった秘具を一息に根元まで受け入れる。産道をいっぱいに圧迫し、子宮の入り口を敲く凶器に、歯を食いしばり、睫に涙をためつつ、昂ぶりを吐き出すように吼えた。

「ハルカぁ…っ!」

成熟した黒褐の肢体は、鎖骨の下でたっぷりと量感ある双丘を弾ませながら、荒々しく騎乗を始める。組み敷かれた未発達の矮躯は、白樺の苗木を寄り合わせたかのような四肢をもがかせ、もろげな背に下弦の月の如く弧を描かせた。脱げかけの半ズボンごと下半身が跳ね、のしかかってくる雌肉を抉り返す形になる。

「きゃふっ♪ハルカ…ママ…をもっ…とっ」

闇妖精の手が、ほのかに童児の腹を推し、抑え付けるようにしてから、シャツの内側に滑り込み、わずかに脂肪を置いた胸をなぞって、隠れていた二つの乳首を捉えると、ちぎれよとばかりに捻る。

「ンァーっ!!」

遥は哀悦の啼泣を続けてなお、肺腑にかくも息が残っていたのかと思えるほど高く哭くと、半ば白目を剥いてまた腰を浮かせる。

ジイラは子生みの孔の奥の奥まで杭を打ち込まれる苦しさと快さに、呼吸すら忘れて、瞼をきつく閉じ、全身の血管が脈打つ烈しさにおののき、灼けるような官能の漣が胎内から手足の指の先、鼻の先まで痺れさせるのを味わい、さらに次の波、次の波と、鼓動一つごとに強まりゆく歓びに溺れていく。

「ハルカ、出して」

絶頂の最中に、人ならぬ義母は奇妙なほど落ち着いて命令を呟く。同時に念押しのうに、幼い息子の胸飾りを今度は逆向きに抓り上げると、すっかり馴染みになった戦慄とともに、命の迸りが膣を満たしていく。最前とはまるで違う、たっぷりした量と粘り。

ダークエルフは、お気に入りの玩具のようにいじくっていた子供の乳暈を離すと、下腹に掌を当てて、濃褐の肌に緋文字の渦を踊らせ、好ましい濃い精気の塊が腹に溜まっていくのを確かめる。

「とても、強い、な」

独りごちると、また人間の仔には分からぬ呪句を、節のない歌のように口ずさむ。すると、焦茶をした尻の下で、息を弾ませて伸びていた華奢な姿態がまたわななき、接合部に臙脂が閃く。

消耗しきったかに思えた柳腰は、たちまち電流でも通されたように強張り、ずっしりした雌肉を載せたままもたげられ、汗が水溜りとなった床とのあいだに穹窿を描く。

「もっと、沢山ほしい。ママの、中に」

フローリングの上で力なくもがく少年の白い腕を抑え、互いの十指を恋人のように絡み合わせながら、闇の妖精はとびきりの笑みを綻ばせ、甘えたように訴えた。


とめどもない狂宴のあとには、土下座だけが残った。

美しい土下座だった。

琥珀の膚を汗の珠でおおった裸身。山野に狩する豹や狼も叶わぬほどに鍛え抜いた筋肉を、ほんのりと和らげる女らしい曲線を帯びた輪郭。すべてが小さく縮こまり屈むさまは、わずかの無駄もなく整っていた。

新鮮な果実のように瑞々しく張りのある褐色の双臀は、位置を抑えてきちんと左右の足の裏に載せてある。両腿のあいだで銀に煌く茂みの奥では、濡れそぼった秘裂から時折、逆流した白濁がこぼれたが、深く平伏した姿勢は小揺るぎもしない。

礼、をあますところなく表現しているようだった。

「我が行い、万死に値する」

「あ…の…」

真向かいに、やはり一糸まとわぬ格好で正座した少年は、極度の疲労のために肩から上をぐらつかせながら、どうにか声をかけようとする。

ダークエルフは遮るように、床に向かって悔悟をぶつける。

「パパから後見を任されながら、異国の飲み物、食べ物に酔い痴れ、会ったばかりの息子に狼藉を働くなどと」

「あの…ぼ、僕…ただ、ちょっと…おど…ろい…て…あと…こ、怖くて…でも…」

「かくなれば、この国の作法に則り、セプクして詫びるよりない」

闇妖精は身を起こすと、たわわな胸を惜しげもなく揺すらせてから、傍らに置いてあった長剣を掴む。およそ腹を切るには向かぬげな十束の大物であったが、鞘を払う手つきにためらいはなかった。

「ま、待って…だめ…だめだから…お、おとうさん…が…」

惨事を止めようと、ふらふらと前に乗り出す遥の頼りなさに、ジイラはとっさに得物をしまい、腕をさしのべて抱きとめる。

「ぁっ…」

さんざん嫐り抜かれた少年は、肌と肌が触れ合うだけで、あえかな喘ぎを漏らしてしまう。気づいているのかいないのか、ダークエルフはひしと腕の力を強め、たっぷりした乳房を潰れんばかりに薄い胸に押し付け、接着する面積を増やす。

「済まぬ、済まぬ。ハルカ。だが私は使命を果たせなかった。もはやセプクしか道はない」

「ま、ママ…」

ジイラは肩を強張らせ、かすかに震えた喉からおずおずと問いを漏らした。

「今、なんと」

遥は瞼を閉ざし、少女のような面差しにかたえを向かせながら、泣き果てかすれた声で囁く。

「ママ。さっきのこと、わす、れる…それで、もう一度…やり、直したら…そしたら…」

「ハルカ!」

泪にむせんで我が子の名を呼んだ長躯の騎士は、たやすく壊れてしまいそうにもろげな胴を、しっかりと捉えて離さなかった。

「こんな私に、初めて会ったばかりで、どこまで優しくしてくれるのだ」

「お、とうさん…が…」

「ああ、パパならきっと同じように言うであろうな。お前は素晴らしい息子だ」

「う、うん?マ、マ。ごめ、僕もう、眠くて…んっ!?」

ダークエルフ貪るような接吻を受けて、少年は驚愕に瞳を丸くする。

「ハルカぁ…」

またしてもうっとりとした表情で、闇妖精は人間の仔を押し倒した。臙脂の双眸が再び獣じみた光を帯びて、怯え引きつるあどけない容貌を見下ろす。

「ママは、ハルカのすべてが欲しい」

「アイエエ、ナンデ!!?ママナンデ!!?」

声変わり前の悲鳴は、やがて嬌声と懇願とに変わる。リビングルームの床では黒と白、大と小とが重なり合い、もつれ合って、麝香の香りと汗の珠とを撒き散らしつつ、いつ終わるとも知れぬ親子の交歓、快楽の泥沼に沈んでいった。

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