おとめの掌におさまりそうな玻璃と黄金の霧吹き一つ。
黒小人の女工がこしらえた細工もの。
盲目(めしい)の主人が手にとり、明目(あきめ)の奴隷のうなじへ近づけ、香水を軽く撒いてから、卓に置くと、効目のほどを嗅いで確かめ、やわらかく微笑む。
「アンググ。ええ匂いや」
荒い息遣いとともに押し殺した沈黙が応じる。
そのまま二人は触れ合わんばかりの間合いで動きを止める。
一方は暗い膚に尖り耳、船乗りらしく逞しい長躯。黒の渡り手。影の国の太守。盲目の船長。
一方は明るい肌に同じかたちの耳、細身ながら武人らしく引き締まった美丈夫。名は暗黒語で牢獄を意味する従僕。
体格で勝る黒い男の腕が、より小柄な白い男を抱き寄せ、無言の促しで両腕を挙げさせると脇の下に生えた柔らかな毛に鼻を寄せる。
「ここもええ匂い」
次いで胴を滑り降りてゆき、臍をくすぐってから屹立する秘具を鼻先でくすぐると、おもむろに唇を開いて、細鎖と輪飾りのつながる桜色の亀頭を咥え込み、舌で転がす。
「ぁっ…」
鈴の響きとともに、堪えきれず奴隷が喘ぎをこぼすと、主人は得たりとばかり左の五指を広げて尻朶を鷲掴みにし、残る右の手を谷間に滑らせて菊座を弄る。
「ひっ…」
すでによく清め香油をたっぷりと含ませた後孔はたやすく侵入を受け入れ、弄うような動きに合わせてきつく窄んで指を食い占める。
「…んふっ…」
盲目の船長は口淫を続けながら、焦点の合わぬめの周りだけで笑い、引き締まった肢体を持つ従僕のそこだけやわらかな臀肉を軽く叩いて力を抜くよう命じると、さらに後ろの孔と前の茎を同時に嬲ると、吐精の手前でまた勢いを緩め、小気味のよい音とともに双丘を打擲する。
「はっ…ぁっ…ぁっ…ご主…人…も…ぉっ」
とうとう懇願を口にするエルフのますらおに、よく似たしかしどこか禍々しげな男は意地の悪い愛撫を止めると、艶めく唇を開いて飴のように楽しんでいた玩具を離し、ぺろりと舌で唇を舐めてから、鼻を蠢かし、あらためて告げる。
「ええ匂いや」
「おねがっ」
「んー…せやけど今日のアンググはまだ素直とちゃうわ。おとーはん風にいこか」
「っ…あれ…はっ…」
「ええやんか」
暗い膚の青年がうながすと、明るい肌の青年は熱い溜息とともにうつむき、求められるがままに台詞を紡ぐ。
「ぅっ…んっ…ご主人…俺の前と…後ろ…いじ…めて……」
いつの間にか主従の周囲には透き通った水の人形が集まり、それぞれに馨しい香油を満たした磁器の小壺や、大小の香木の数珠を差し出す。
「おおきに…ほな。アンググ」
「ひっ…大き…すぎ」
「おとーはんは、ヒカリノカゼにもっときっついの使とったやんか」
「それ…はっ」
「おとーはんとはでけって、ワテとはでけんちゅうの傷つくわ」
「わかっ…たから…」
数珠の片方は一粒一粒が赤児の握り拳ほど、もう片方は葡萄の種ほどの大きさだろうか。どちらも長くうねるように動く。目の見えぬ船乗りは慣れた手つきで過たず柄をとると、たっぷりと香油に浸してから、大きな方を物欲しげにひくつく菊座に、小さな方を雛菊の鈴口にゆっくり埋めてゆく。
「ひっ…ひっ…」
歯を打ち鳴らしながらも、アンググは懸命に声を殺し、粘膜をこする玩具の侵入に耐える。
「無理せんで声出しぃや」
勢いよく引き抜くと薄桃の直腸を裏返しながら、さまざまな花や蜜の芳香をとともに、微妙に大きさや形の不揃いな珠がぬらつきなががらあらわれ、同時に裏返った悲鳴が零れる。
「んぁっ…ぁっ♪ぁあああっ♪」
「その調子」
何度も何度も出し入れを繰り返し、潤滑油に腸液や先走りがまじりあい泡立つまで弄びつつ、絶頂の寸前で手を止め、昂ぶりが退くのを待ち、また再開する。
エルフの男奴隷は身をくの字に折り、のけぞり、長髪を振り乱して、鈴と鎖を鳴らし煌めかせ、甘く匂う煙をたなびかせては、すすり泣きむせんでは、責苦からの解放を乞う。だが魔性の主人は決して許さなかった。
「ほな、アンググの番やで」
美丈夫に薔茎と菊座に数珠を挿したまま、優しく尻を叩いて命じる。
すると妖精の美丈夫は切なげにあえいでから、しかし辛うじて嗚咽をこらえると、震えながらがに股にしゃがみ、眼前に迫る魁偉な逸物に形の良い鼻をこすりつけ、隅々まで匂いを嗅ぐ。
「ええで」
ちろりと舌を伸ばして亀頭の尖端に触れ、はじめはおずおずとやがて熱を込めてねぶってゆく。間近から昇る愛しい雄の匂いに酔いながら、みずからも香木の栓で塞がった雄の印をけなげに硬くする。
「全部アンググのもんや」
「ぁっ…♪」
示唆に従い、細い頤(おとがい)をいっぱいに開き、剛直を根元まで咥え込む。唇をすぼめ、震わせつつ、首を激しく前後させ、太幹をこすらせながら、喉奥の粘膜まで駆使して奉仕する。
「ほわー…っ…むちゃきもちええ…」
「っ…♪…♪」
火照りを冷ませぬのならいっそう燃え立たせようとするかのように、アンググは黒の渡り手の屹立にむしゃぶりつき、教え込まれた技巧のありったけを注ぐ。性器も同然にしあがった口腔は顎の外れそうな好物が暴れるたび、激しい昂ぶりの波を首ら背筋へと奔(はし)らせ、短い喜悦の果てへ導く。
だが前幹と後孔の双方は依然として封じたままで、解放はまだ訪れない。エルフの男奴隷は涙ぐんだ双眸の瞳孔をいっぱいに拡げながら、懸命に上目遣いをする。魔性の主人は微笑んでから、溜息にも似た呻きとともに、したたかに精を放つと、ゆっくりと巨根を引き抜く。
妖精の美丈夫は躾通りにおとがいを大きく開き、舌と歯の間にたまった量の多い白濁を晒し、青臭い匂いをさせてから、許しを得て閉じると、頬を膨らせ、音を立ててじっくりと味わってから嚥下し、身震いする。
「アンググ。えらいわあ」
芸を上手にこなした犬をそうするように、主人が掌で艶やかな髪をなでてやると、奴隷は前後に挿さった玩具をきつく食い締めながら誇らしげに尻を振る。
「ごしゅ…じん…♪」
「なんやろ」
明るい肌の雄は、暗い膚の雄に背を向けると、そこだけ雌のように円かな双臀を高く掲げ、自らの両の指で鷲掴んで広げ、数珠を咥え込んだ肛門を剥き出しにする。獣じみた麝香が匂う。
「抜いて…くれ」 「承知や」
浅黒く長い指が、尻尾のように生えた柄を掴み、勢いよく大小の珠を引きずり出す。粘膜を捲らせながら。
「ぅぁああっ!!あひぃっ♪ひんっ!ひぁああっ!?」
黒の渡り手は、幾度か抜きかけの玩具を戻す意地悪をしながら、もはや声を抑えようともせず悶え狂う奴隷の菊座からねじれのたうつ栓を取り外した。勢いよく香油と薫玉が噴き出すが、すべてが清らかだった。ぽっかりと空いた肉孔は透明な馨しい液体にほとびながら、ひくつき、また弱々しく伸縮する。
アンググの滑らかな体表を覆う蔓草とも焔ともつかぬ紋様は、あらわになったはらわたの内側にまで広がって脈打っていた。
「ぉっ…ぁっ…はぁっ…ぅっ…」
「何や素直とちゃうと思っとたけど、ほんまはちゃんと準備しとったんやな」
「…あたり…まえっ…だ…」
「けなげやわあ…ほな。ご褒美」
盲目の船長は尖り耳のしもべの腰を抱き、背面座位の姿勢をとると、硬杭で柔穴を串刺しにする。
「ぅぐぅっ!?」
「っ…きっつ」
長躯の魔人は妖精の細身を容赦なく膝上へ引き下ろし、根元まで剛直を埋めると、結腸を打ち敲き、捩じり切らんばかりの締め付けを楽しみながら、耳を噛み、秘具に刺さった数珠を休みなく上下させ、鈴口から香油と先走りの混合液を泡噴かせる。
「ぅぅ!!…ぐ…くふぅ!うううう!!」
歯を食いしばり、苦悶と快楽のともどもに翻弄されながらアンググは、鈴音とともに跳ねまたくねり、半身を斜め横に傾けて痙攣すると、腰を抱く黒の渡り手の太腕を爪でひっかき、言葉にならないしゃくりあげをこぼす。
「っ…出し」
玩具が抜けると百合を思わす陽根は勢いよく子種を吐き出す。随分とおあずけを食ったのに量はさほど多くない。上エルフの青年はのけぞり、むせび、余韻にわななきつつ、同族に似て非なる伴侶の胸板に背をもたせる。
「汗もええ匂いや」
尖り耳の後ろ、絹糸のような髪を嗅ぎながら主人は奴隷に囁きかける。腹の奥まで捻じ込んだ屹立はなお硬さを失っていない。
「もう降参なん?」
「…ぁっ…ま…だ…でき…」
盲目の船長はしもべをうつ伏せに這わせると、後ろ髪を掴んで下に散る白濁の飛沫に押しやる。
明るい肌の男はかすかに息を詰めてから、舌を伸ばしてみずから葉の上にこぼした飛沫を丹念に舐って浄める。
「うちの甲板の長は綺麗好きやわ」
暗い膚の男は嗤ってから、後背位をとらせ、また激しく抽送を再開する。
妖精の美丈夫は被虐の歓びに半身を弓なりにしながら、吠え喘ぎ褥(しとね)となった草花を掴み引きちぎり、舌で拭ったばかりの緑の寝床をまた汚す。
さらに別の姿勢に移り、絡み合い、互いにしがみついて、何度達して、何度果てたか。すでに出すものもなくなったアンググは細茎をひくつかせるばかりだが、黒の渡り手はなお太幹から常の域を逸した量の子種を注ぎ続けた。
あいだに短い休息を挟みながら香水入り蝋燭が二本は燃えつきただろうか。さしもの男の体も困憊しきり、奴隷はぐったりと横たわる。主人もまたけだるげに両脚を投げ出して座りながら、腕を伸ばすと伴侶の双臀を手探りでとらえ、軽くつねる。
盲目の船長のうながしに、しもべは仔犬のように鼻を鳴らして大儀そうに這い、相手の股間に頭を埋め、丁寧に欲望の残滓を掃除する。横臥したまま首だけをねじって、最前までおのれのはらわたを掻き回していた凶器を頬張り、舌で隅々まで清める。
船乗りの逞しい掌がそっと細髪をくしけずると、エルフの青年は目を細め、そこだけ円かな尻朶の間から流し込まれた精を噴きこぼしながらも、やわやわとした口淫に耽る。
「んっ…何や気に入ってもらえて…うれしいわ。最初ん時むちゃにらまれたけど」
暗い膚の男が穏やかに語らうと、明るい肌の男は一瞬不機嫌そうにねめあげる。
「こわ」
「…む…あむ…んっ…」
また瞼を半ば伏せて奉仕にいそしむ妖精に、魔人はそっと指で頬をなぞってから告げる。
「ほわー…アンググ赤んぼみたいや」
なるほどお気に入りのおしゃぶりを離さぬ嬰児のように、アンググは黒の渡り手の半ば硬さを失った逸物をいつまでも離そうとせず、また頭をなでてもらいながらとろとろと余韻にひたっていた。
「ほないこ」
盲目の船長はどこからともなく縄をはなってしもべの首に巻きつかせると、散歩に連れてゆくように牽(ひ)いた。鈴を鳴らしながら、庭園の隅にある狼や猫の使う不浄の場に導くと、裸のまましゃがませ、はらわたにたまった欲望の印をすべて吐き出させ、片脚をあげて用も足させる。
「上手や」
暗い膚の男がまた撫でながら褒めると、明るい肌の男は、丈夫としての恥辱と、奴隷としての矜持のないまぜになったようすで、半ば泣きながら半ば笑んで、蹲踞のまま胸をそらし頭をもたげ、弱々しく震える。
魔人は妖精を抱き起すと、かすかな詠唱とともに澄み切った水の渦を呼び寄せ、ともどもに汗と涙と洟とを流し去る。
「ほんま、ええ匂いの…ええ男や…」
もう主人は奴隷を嬲ろうとはせず、ただ両腕の間にとらえて香りを嗅ぎ、息遣いを聞くだけだった。
ゆっくりと透き通った泡の群が膨らんで主従を囲み、仮初の閨(ねや)となって二人分の重みを受け止める。荒淫に消耗しきった黒白の肢体はすぐに微睡に呑まれゆく。
妖精は重さを増す瞼を強いて開き、二度、三度と瞬くと、好き放題した挙句先に寝入りゆく魔人の、あどけなささえうかがわせる横顔を眺めやる。すぐそばから快い雄の匂いが鼻をくすぐり、深くゆるやかな呼吸の音が耳に入る。
「…せ…」
夢現にままやくようすは、いたずらに疲れた頑是ない男児のよう。
「せんせ…いっしょに…また…みんなと…」
ようやく主人に訪れた眠りを破りたくなくて、撫でてやれもせず、奴隷はただ見つめるだけだった。
「オズロウ…」
幸せになるはずだった子。遠くかなたで。