Nine nights of the elven slave Vol.4

影の国の地下宮殿は、もともとは敵を誘い込む迷路のいや奥にある牢獄だった。

入り組んだ回廊の先にあるのは罠と拷問具に満ち、あまたの骸転がる死の気配の濃い闇の淵。

小人の工芸を学んだ新たなる太守、黒の鍛え手によって壮麗な城館と生まれ変わった今も、片隅には往時の面影を留めている。

虜囚を嬲り抜き、心身を屈服させるためのからくりがあまた並ぶ部屋が、確かにあった。

ひとりの乙女が今、柔らかな詰め物をした台の上に仰向けになり、四肢それぞれを枷につないだままわなないていた。何人もの子を産んでずっしりと重みを増した胸毬の芯は、真銀の鍍金を施した輪が貫き、糸のような鎖が伸びて、腕環、足環、首環、臍にはめ込んだ金剛石、陰唇や陰核の輪とつながって、間に吊るした小鈴を揺らしては涼やかな音をさせている。胴には燃え広がる炎のような紋様が躍って、股の間に叢(くさむら)はしとどに濡れそぼり、妖しく煌めいていた。

「私は奴隷…お前は主人…好きにせよとは言ったが…よくも毎晩…」

艶めいた唇を半ば開き、息を弾ませつつも腹立たし気な声音を保ってうそぶく。

「仙女よ。厭わしいならば止めよう」

左腕が右腕より大きく、跛足、傴僂といういびつな青年が側で心配そうに話しかける。

「そうは…言っておらぬ…初めは…驚いたが…」

「予は父上のような美しいかたちを備えておらぬ…工芸を用いるよりほか…どう歓びを与えればよいか皆目見当がつかぬのだ」

「だからといって…極端な…」

「やはり止めるか」

主人の悲しげな眼差しに、奴隷は口ごもり、首を横へ振り、また鈴を鳴らしてからあえぐ。

「よい…お前なりの接し方なら。また今宵も途中で…拒むようなことを口にするかもしれぬが、赴くままになせ」

「そなたの体も少しずつは馴らしてきたゆえ。もうさほど辛いことはないと思いたいが…うむ…」

うなだれる男に、婢(はしため)は熱い吐息をひとつこぼしてから、打って変わった慕わしげな口調で応じる。

「もう…あなた様が好きなだけ、いじめてくださいませ」

「ヒカリノカゼよ…いじめるつもりないのだが…では」

黒の鍛え手は、そっとゆっくり鎖を引いて子産みの孔の周りを広げると、清めと癒しの薬液を滴らせる細い管を引き出し、ヒカリノカゼの尿の孔へと差し入れ、輪飾りとつないで固定する。

「かはっ…ぁっ…」

「世間は不浄というが…ここを清らに保ってこそ、病を防ぎ健やかさをもたらすと…責具拵えは言っていた」

「やら…やれすぅ!やっぱりこれはいやぁ!?」

「やはりか…いや…赴くままに」

続いて産道にもやや太めの管を差し込み、菊座にはもっと大きなものを差し込む。

「ぅうう!!」

「またしばらく出ものが止まらぬかもしれぬが…いつものようにすぐきれいになる…舌を噛まぬよう轡(くつわ)をはめるが、案ずるな。苦しければすぐ外す」

「ふむぅう!?」

溢れだすものが花の香をつけた薬液だけになるまで、繰り返し繰り返し洗浄を行う。続いて透明な油と、大きさの異なる繊細な刷毛(ぶらし)を取り出し、初めはゆっくりと、次第に勢いよく三つの穴を内から磨く。

「むぅう!?」

激しく首を振って鈴を鳴らすヒカリノカゼに、とまどった黒の鍛え手が轡を外してやる。

「苦しいのか?」

「やっ…けれど…こわいのですぅ…不浄の穴ぁ…ますます…ひろがっでえ…ここぢよくでえ…」

「だいぶ径の大きなものも受け入れるようになった。案ずるな。そなたの体がいかに形が変わろうと、指輪の力を閉じればもとに戻る。我が祖父が得意とした狼や蝙蝠への変身術。あるいは小人の飾りや、胴に広がる紋様と同じ」

「ふぇ…」

「だが、辛ければただちに止めるぞ」

「くっ……もぉ…わたくしの体はすべてあなた様のものれすぅ…」

「嬉しいぞヒカリノカゼ」

柔らかく濃(こま)やかな毛でできた器具が大小の不浄の穴と産道を掃き終えると、艶やかな珠を連ねたからくりに取り換える。震えくねりながら、奥まで入り込んで刺激する。

常若の婢(はしため)は嫌々をするように首を振り、手足の指を丸め、伸ばし、歯を鳴らしながら背を弓なりにして裏返った悲鳴をこぼす。だが腰から下はしっかりと帯と枷が支えており、微動だにしない。

「責具拵えの話では、子産みの孔のうち官能を覚えるのは入口の周りのみで、子の宮の門あたりでは痛みしかないと言うが…穏やかに、少しずつ繰り返し接すれば異なるようだ。大小の不浄の孔と同じ。恐らく人も…妖精も…体の部位が本来と別の用途で扱われ続けると、耐え忍ぶため、快さを感じるよう心の方が変わってゆくのだ」

「…ぁうっ…わたくじはぁ…もぉ…っ」

「そなたの花蕾は鮮やかな紅に膨らんであふれる蜜も多い。常と同じくこたびも悦びは得ていると思ったが…だがここまでにしておこう」

さみしげに見つめる男に、女は刹那、恨みがましげなひとにらみをしてから消え入りそうな声音で呟く。

「あなた様の…心ゆくまで…わたくしを…ヒカリノカゼを…こわして…つくりかえて…くださ…いま…せ…」

「あいわかった。父上のようにはゆかぬが…そなたに喜びを与えるできるかぎりの工夫をなす」

「……ぅぅ…」

傴僂の男はすらりとした女の随所を弄り回し、糧を兼ねた混合酒を口にし、あるいは餌付けながら、いささかも休まず働き、伴侶にも眠る暇さえ与えずひたすらに気をやらせ続けた。

何代もの主が毎晩のように施した丹念な躾のために、骨の髄まで被虐に馴(な)れた婢は、今や最後の仕上げを受けて華開き、不浄の孔から澄んだ薬液をこぼすたび、あるいは子産みの孔の奥をそっとうごめかすだけで甘美の果てへ昇り詰め、降りてこられぬままさらに高みへ跳ね上がる。

地の底にあってヒカリノカゼが意図した通り天へ翔ぶたび、黒の鍛え手はおぼつかなげにごつい掌で汗に湿る髪を撫ぜてやった。

「そなたはまことに辛抱強く、鋭敏で繊細な心と体を持つ」

「…ふぅ…ふぅ…もぉ…もぉお…」

「よくこらえた。疲れたであろう。沐浴をして眠りにつくがよい。手伝おう」

「ひゃんとぉ!ひゃんと抱いてくらひゃいまへえ!!」

「予は父上のように美しくない。工芸なしではそなたを喜ばせられぬ」

「からくりでは…なくぅ…あなたさまにぃ…抱かれたいのですぅ!」

「そうか。うむ。ならば、無理を重ねさせて済まぬが…ヒカリノカゼ…予をまた導いてくれ」

暗い膚の青年は、明るい膚の乙女の拘束を解き、からくりの助けを借りてそっと大きな乳母車に移してから、静かに押して廊下へ出る。

滑車が床を進むかすかな振動が伝わるたび、婢はまたのけぞり果てる。主人は労りの眼差しを注ぎながら寝間につくと、発条と歯車のしかけを操作し、柔らかな褥(しとね)にさらに柔らかな肢体を移す。

「ヒカリノカゼ。大事(だいじ)ないか」

「大事…ありますぅっ…!」

「すまぬ」

「だか…らっ…はや…く…」

「今宵は何を望む」

「ふっ…ふっ…」

白い腕が伸びて黒い項(うなじ)に指で触れ、もどかしげに抱き寄せる。

唇と唇が触れ合い、やがて舌と舌とが絡む。傴僂の男は最前の臆病さと打って変わった巧緻さで、直ぐな背を持つ女をついばみ、たやすくまた絶頂へ押し上げた。

「ぁっ…ぅっ…」

銀の糸を引いてやっと接吻が解けると、主は婢に訊ねる。

「次は」

「下も…触れて…奥まで…」

「どちらの腕ならばよい」

「ぁっ…ぁっ…ひだりぃ…!ふといのでえっ!!」

大小の不浄の孔、子産みの孔をごつい指が掻き混ぜると、ヒカリノカゼは涙と洟と涎でぐしゃぐしゃになって黒の鍛え手のいびつな背にしがみつき、もはや癖になったように果てては漏らし、かすれた喉で息も絶え絶えに啼く。

「次は」

「くださ…い…あなた様を…」

左右非対称の雄は、完璧な釣り合いを持つ雌に覆いかぶさり、初めはぎこちなくやがて力強く貫いた。

「あぐう!!?」

「苦しいか…」

「やぁっ!もっどぉ…もっど奥までくださいませぇ!」

「ああ」

破城鎚の連撃のような打ち込みを、細身はわななきながらも受け止める。

「痛みはっ…ないかっ…?」

硬い肉杭が幾度も子宮を敲く衝撃に、乙女は唇を噛み、また大きく開いて息を吐く。

「こつん…こつんてぇっ…ぎもぢっ…っ…」

「まことか…」

「あなた様があ、そぉ変えたからぁっ」

「相解った」

傴僂の男は直ぐな背の女を犯し抜き、無意識に逃れようとする伴侶を抱き潰すようにして胎の芯に暗く重く激しい情熱をぶつけた。何度も何度も。どれほど伴侶が気をやろうとも逃さず、意識を飛ばそうとも尖った耳を噛んで引き戻して。

「ヒカリノカゼ…ヒカリノカゼ…誰よりも…何よりも…愛しきもの…」

「あ…ぅ…」

すでに虚ろになった眼差しで宙を仰ぎながら、奴隷はただ肉の器だけを反応させ、涯てを超えた官能に魂を焦がし続けた。暗黒の底にも似た出口のない歓びの檻の中で。

長い長い交わりが終わった後、黒と白、曲刀と直剣のように重ならぬ雌雄が一つになって、睡みに堕ちていった。いかなる夢を紡いだろう。洞窟に白い蝙蝠が舞い、隻腕の若者が手を差し伸べて追う景色か。あるいはほかの。

「ヒカリノカゼ…予を…まったき闇から…連れ出してくれたこと…忘れぬ」

深い眠りの淵にあってか、あるいは一時の目覚めの浅瀬にか、黒の鍛え手はそっと囁いた。

婢はわななき、片目からだけ涙を流す。

「マーリ…」

導くはずだった子。光の射す方へ。

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