Ape's Delusion Vol.2

ラーミアの化身は真珠の光沢を帯びた肌を火照らせ、周囲に水の羽衣を循環させながら、高い声で歌を響かせていた。快楽と罪悪の入り混じった、詞のない歌を。

八の字に開いた脚のあいだには二つのしなやかな体がうずくまっている。前と後、鏡を合わせたように同じ、銀髪の侍女、黒紐を編んだ革の胴着に、弾けそうな肉を包んで、妖しく腰をくねらせながら、女神の腰から下を好きなように弄んでいる。

「はぁ…はぁ…もうやめて…僕…こんな…」

「ふふ。大きくなってらっしゃいますよ、この”王子様”は」

日に当たらず育った雛菊のような細幹を、魔族の牙が猥らにくすぐる。根元から尖端まで、残酷な接吻が残した紅い痕が散っている。小さな鈴口に露が浮かぶたび、貪欲な唇が逃さず吸い取っては、尿道へ舌をねじ入れる。

「ひぎぃっ!!」

嗜虐心をそそる悲鳴に、責め手は野生味の勝った美貌を嫣然とさせる。すると餅のように柔らかな尻朶のあいだに鼻を埋めていた双子の片割れが、腸液と涎の糸を引いて、菊座から舌を抜いた。

「あらあら、姉にばかり哭かされないで下さいな。ここはもう、こんなにとろとろになっているのにっ♪」

延々と舐り抜き、ぐずぐずに緩くした排泄口に十指を突き入れ、括約筋をありえないほど広げてから、結腸まで覗けそうな大穴に、熱い吐息を吹き込む。

「ひやぁぁぁっ!!」

「ずるいですわぁ。ラーミア様の生まれ変わりは、こんなところまで、綺麗で、ちゅっ、可愛らしくて、ちゅっ、淫らしいんですもの」

「やへてぇ…もぉ…だめだよぉ…おしりがぁ…おしりがばかになるぅ…」

「なって下さい。私たちの果物入れにでも使いますから。ふふ」

「じゅるぅっ…今度は…ねろぉ…妹にばかり…ちゅぐ…反応されて…トンヌラ様って…れろぉ…一度に二つは集中できないんですか?」

「ひ…だっ…あぁっ」

また前後同時に舌攻めが始まり、双生の若君は身をくの字に折った。悪魔の姉が、種付ける力のない精を吸い出す。妹は清い後孔から、潮を噴くように溢れる腸液を一滴も余さず飲み干していく。ただ触れられもしない花芯だけが、とめどなく喜びの滴を地面に落としていた。

異形の王子が頽おれると、たゆたう透明な衣がまとわりついて、震える裸身を覆った。たっぷりと馳走を娯しんだはずの妖猿の化身は、まだ足りぬという表情で、そろって立ち上がる。獲物が大きく股を開いたまま喘ぐのを、愛しげに眺め下ろすと、柔らかくなりかけた可憐な花茎をめがけ、二匹でそれぞれ右と左の長い足指を伸ばして踏み挟み、器用に扱く。

「きゃぅう…」

「とってもぶざまですわぁ」

「だらしなくて、ちっぽけで、みじめで、このまま引っこ抜いて差し上げたくなります」

「ひぃっ…やめ…」

「くすくす…本当はデビル族に大いなる神鳥の血が混じるよう、村の厠の横にくくりつけて、盛った雄が誰でも自由に使えるようにしたかったのですけれど」

「そこだけは止めてと、泣いて頼まれるものですから…ふふ…私ども、トンヌラ様の涙にはとっても弱いのですよ」

「ぁぁ…やめてぇ」

だが双子の内侍は台詞とは裏腹に、泣きじゃくる女神の願いにはいっこう応えず玩弄を続ける。

「お腹が小さくなる暇もないほど、ぼこぼこ猿の仔を産んでいただくはずでしたのに」

「育った金毛の狒々はまた女神様を種付けさせて…」

「代を重ねていくうちに、いつか我が部族も大いなるラーミアに近づけると。でも諦めます」

「ただ愛玩対象として私どもに飼われて頂ければ。不死の神鳥は代々の宝といたします」

トンヌラはいやいやをしながら、また薄い迸りで己の腹を汚す。竜王のために王子を二人、王女を二人を送り出したにしては、まったく線に乱れのないほっそりした胴。凝乳の如き肌は、水の羽衣を透かせて、淡く輝いていた。雌悪魔は羨みと憧れに煌めく視線を注ぎながら、さらに語句を紡ぐ。

「私たちが”王子”の胤を宿せればよろしいのに」

「ええ。力不足が口惜しい」

山吹の髪の乙女、否、若者、否、いずれともなき半陰陽は、苦しげに顔を背ける。

「だめ…僕は…もう…誰とも…」

血を吐くような囁きに、デビルロードの姉妹は顔を見合わせる。片や頬に掌を当て、片や尖った顎を拳に預けて、うっとりとする風情だ。これこれ、こうでなくてはと肯きあって、また優しく歌いかける。

「あら、離縁されてもまだ操を立てたいと仰るのですか?」

「いじらしい方…子供も妃の地位も取り上げられて…城から逐われたというのに」

「…僕が…いけないんだ…僕が…バズズさんの子供を産んじゃったから!」

悲痛に叫ぶトンヌラに、内侍はまたそろって目まぜを交わす。

「もしかして…」

「まだ信じてらっしゃるんですか?あの子が夜這いをしたなんて」

ラーミアの顕現は興奮の余韻から醒め、玲瓏の面を白藍にくすませて嘆息した。

「…だって生まれたのは…」

「あれは私どもが取り替えたのです。ちょうどよく産まれたデビル族の娘と」

「もう戻しておきました」

「ぇええええええええ!!!!!!」

トンヌラが素頓狂な喚きを上げるのを、デビルロードはどちらも愉しげに鑑賞する。

「ででででもバズズさんは、ズィータ様に生きたまま切り刻まれて…」

「必要な犠牲でしたわぁ」

「トンヌラ様をご下賜頂くためなら瑣末な話です」

「ちょ…どうして…どうしてそんな!」

内侍はいずれもそっくりな美貌へ幽かに朱を差して、答え淀む素振りをした。

「それは…」

「ズィータ様を想って苦しむトンヌラ様って最高なんですもの…」

「春の陽だまりのように煖かで呑気な、若い母も素敵ですけれど」

「一転して苦海に堕ちる異形の”王子”って…ああ…萌える…」

「そ、そんな理由で弟さんを!!?」

「バズズなど、どうでもいいではありません?あの子の話ばかりなさっては興醒めですわ」

「そうですよ。それよりいかがですか。もう二度と満たされぬ腰の空閨」

「焦がれた人の種を注がれぬまま常世を生きる地獄…」

「心は揺るがなくても、体は雄を求めてしまうのではなくて?魂と肉の相剋に懊悩なさっているのではなくて?」

「うううううう…ううううう…ひどすぎますぅ」

デビル族の双姫は同時ににんまりすると、また座り込んで、罠に嵌まった神鳥にすり寄る。

「猿になれば…素直に堕ちていただけるかしら」

「試してみましょう。モシャス」

たちまち陶磁の如く滑らかな皮膚に、黄金の下生えが伸び始める。よく手入れされ、つつましやかに秘所を覆うのみだった叢が臍まで登り、さらに肋の継ぎ目に沿って、喉まで達し、首の真下の当たりにふんわりした茂みを作る。乳房の周りも金糸雀色の巻き毛に覆われ、脛も手足の甲も山吹の草地が覆う。しかし著しく濃さを増したのは下腹から腰にかけてだった。

他方、呪文をかけた魔族の雌どもはといえば、人に化けたままのつるりとした姿態で、左右から女神の腿を抱え込み、膝が肩に就くまで上げさせ、鬱蒼とした茂みがよく見えるようにする。

「鏡よ」

大地から石英の板が生えて、捕われの半獣を映し込む。

「ほら、王子の後ろの窄まり、あんなにびっしり。真のデビル族でも叶いませんわね」

「襞の周りも豪奢に黄金で飾って、おまけに雌くさい獣臭が強くて、ひどいものですわ」

「ぁぁ…ぁっ…」

和毛の生えた頬を震わせ、尖った耳を痙攣させながら、トンヌラは己の変わり果てた姿を凝視した。蝙蝠の翼が力なくばたつき、尾が振れる。剛毛に包まれた胸で、かすかに息づく二つの丘だけが滑らかさを保ち、却って淫らさを増していた。あどけない乙女の顔に、砂時計型の胴、不釣合いな長い四肢。透明な裳裾を捲れさせ、淫らに突き出した尻は撲たれ続けたかの如く緋に染まっていた。半ば狒々と化しても雄の印は華奢で、頼りなげにままに屹立している。

「人間でも魔族でもない相の児として、バズズとトンヌラの、もう一人の不倫の子として、城へ上がりましょう。できそこないの躰のせいで、デビル族皆の慰みものにされた下賤として、お目通りを願い、母の代わりに罪を償うと申し出る」

「竜王様は必ず目に止められます。だって中身は最愛の妃なのですから。正体が分からなくてもすぐ恋に堕ちます。でもそんな己が許せなくて、あなたを手ひどく扱いますわ」

「ロンダルキアの冬嵐より恐ろしい嫉妬がすべて注がれる。うふふ。夫の情けを受けたさに、いもしない娘をでっちあげて成り代わり、爪と牙に引き裂かれる母。こちらもふしだらな女…男かしら…ですわね」

「ところが結局、竜王は妃に迎えるでしょう。魅力に勝てず…昔の服も部屋もお与え下さる。子供にも会わせて下さる。でもその度に”トンヌラ”はよくよく見限られたのだと、新たな妃は噛み締めるの」

「愛されながら、優しくされながら、唯一無二の存在として扱われながら、喪失の悼みに耐え続ける。竜王と神鳥の、長しえの寿命が尽き果てる世界の終りまで」

「私どもは、デビル族の娘を腰入れさせたひきで、宮廷に戻り、お側で拝見しますわ。しょぼい弟の命など、この悲劇を鑑賞するなら安いものでしょう?」

「本当にそう。ズィータ様の虐めで憔悴したトンヌラ様の横顔が、毎朝看られるんだもの♥」

暗黒の未来を告げられたサマルトリアの若君は、絶望に打ち震えながら、四本の腕が作る揺籃に揺られ、すすり泣いた。

「哀しがっていても、”王子”は固くなってますわよ?」

「”姫君”も蕩けて…別の涙を流してらっしゃいます」

「想像してしまったんですわね?ドラゴンにずたずたにされる半獣の后を」

「決して許してはもらえぬ、咎負いの妻として罰され続ける余生を」

トンヌラは重く息を吐いて、かすかに顎を引き、恥辱におののきながら同意を示した。


”ウキー!!!!!!!”

夢が最高潮に達したところで、寝ぼけた弟のやかましい喚きに邪魔をされ、双子の姉は憤怒とともに裏拳を放った。頬へのめり込み具合まで正確に対称を成した挟撃に、デビル族の長は再び床に沈む。

”と、途中までは…すごく…よかった気がするが…”

どうせ王妃を穢す都合のいい妄想でも貪っていたのだろう。目を覚ましたのか、ごそごそとうるさい。これ以上、邪魔をさせぬために、二匹のデビルロードは呼吸を合わせてバズズの脛を蹴った。

ようやくと静かになる。当主がまた寝息をさせ始めると、姉妹は音もなく起き上がって、間抜け面を覗き込んだ。

”どうかしら”

”いい考えではあるのだけど…やはりかわいそうだわ”

二匹は声を落として囁きを交わす。

”ええ…御子たちが…”

”フォル様やシドー様、カリーン様に辛すぎるもの”

”でもどうしてこんな夢を見たのかしらね”

姉妹で夢を共有するのはいつもだが、内容は不思議だった。

”…はぁ…でもいい夢だった…”

”続きが見たいわ…”

”やっぱり試してみましょうか?”

”あらだめですよ…今のところはやめておきましょう”

”ええ…今のところは”

魔族の姫はともに嫣然として頷き合うと、再び弟の両隣に横たわり、幸福な眠りに戻っていった。

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