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双子月 キラ編 四 |
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あるいは聞こえないふりをしていたのかもしれない。 竜崎の言葉を信じないようにと自分に言い聞かせたとしても、どうしても心は揺らいでしまう。 階段を下りていく背中を目で追いかけて、ライトは自分の胸を押さえた。 (この痛みは、誰もわからない) 溢れ落ちる感情をぶつけても、何一つ変わらない。 竜崎が見ているのはキラ唯一人で、キラは竜崎を見ようともしない。 キラとライトは、生まれた時から側にいて、誰よりもお互いを理解している。 ずっとそれを疑問にすら思わなかった。 (僕には、キラが竜崎を嫌う理由が理解できない) それは、きっと、キラも同じ事を思っているだろう。 玄関先で母親が竜崎に挨拶している声が、階段の上にまで響いてくる。 見送りに出てこない息子達の代わりに謝りながら、またいつでもおいでくださいね、などと簡単に言う。 竜崎もまた、心にもない社交辞令を口にして母親を喜ばせた。 ライトは、玄関のドアが閉まる音を聞いてから、階段を下りた。 階段を下りてくる足音が聞こえ、キラは意識を取り戻した。 (やっと、帰る・・・) ようやくまともに呼吸ができるようになり、固く握り締めていた拳を解いた。 全身を濡らした汗もすうっと引いていく。 湿ったシャツが肌に張り付いていたが、気にはならなかった。 玄関で母親が何かを話しているのか、甲高い笑い声が響く。 震えだしそうになる身体を自分で抱き締めて、キラはゆっくりと呼吸を繰り返す。 胃液すら出てこない程、空っぽになった胃に、再び負担をかけるようなことは、できる限り避けたかった。 玄関のドアが閉まる音がする。 キラは深呼吸をして、そろそろと立ち上がった。 眩暈もとりあえず治まったようだ。 トイレを出ると母親に見つかった。 「どうしたの?おなかでもこわしたの?」 よほど酷い顔色をしていたのか、キラを見るなり、心配そうな表情を見せる。 「うん。でも大丈夫。痛いのは治まったから」 キラは困ったように笑い、腹部をさすった。 母親にまで、要らぬ心配をかけるわけにはいかないのだ。 「お薬は?飲んだほうがいいじゃないの?」 「いらないよ。もう痛くないし。それに食欲ないから部屋で寝てるよ」 「そう?また酷くなったらちゃんと言いなさいね」 「はいはい」 キラは母親から逃げるように、自室へと戻った。 ライトの姿はなく、ベッドの乱れたシーツが、先刻の出来事を思い出させる。 吐き気はもう起きなかったが、気分は優れない。 キラはベッドに寝転がり、頭から布団を被った。 忘れることさえかなわない。 「死ねばいい・・・」 この世にその存在が無くなれば、 この苦しみからも解放されるに違いないのだ。 続 |
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2005/04/07 |
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