双子月 キラ編 参

 
     
 



ライトに見られている。
ただそれだけのことが、キラにとっては、何よりも情けなく恥ずかしかった。
「・・・っ」
じわりと、口内に鉄錆の味が広がっていく。
逃れることを許そうとしない執拗な竜崎を歯を立てることで拒絶したのだ。
突然の攻撃にほんの少しだけ、竜崎が怯んだ隙をキラは見逃さなかった。
脇腹を力の限り蹴り上げ、ベッドから飛び起きる。
竜崎はベッドの上で腹部を押さえてうずくまり、追ってくることはできないほどのダメージを受けたようだ。
「見てないで邪魔すればいいだろ」
入口に立ち尽くしたライトの額を小突いて、キラは部屋を出た。
それが、精一杯の強がりだった。
階段を駆け下り、トイレに入ると堪えきれずに跪く。
(気持ち悪い・・・)
液体しか出てこない胃の中身を全て吐き出しても、何かが込み上げてくるのが止まらない。
咳き込むように何度も何度もキラは嘔吐を繰り返す。
全身を震わせ、苦しさに汗が流れ落ちた。
体温と重さと感触が、まだ残っている。
それが、キラをさいなみ続けた。
(嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い・・・)
脳内を駆け巡る嫌悪感。
口の端を零れた嘔吐の名残を袖口で拭い、キラはドアを背に力なく座り込んだ。
身体の震えが止まらない。
「気持ち・・・悪い・・・」
目の前が暗くなるほどの眩暈に襲われ、キラは目を閉じた。



(竜崎さんは、キラのことが・・・)
それは、初めから解り切っていた事実だ。
ただ、あからさまに見せ付けられるとさすがに辛いと知った。
竜崎は身を起こし、口唇に滲む血を指先で拭き取った。
蹴られた腹部に痛みが残るのか、片手でおさえたままである。
ライトは声を掛けることもできずに、竜崎を目で追いかけていた。





 
 

2005/04/05

 
     
   
     
   
     
 

 

 
     
 

 

 
 
     
     
     
     
     
     
     

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