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お帰りなさい |
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夕暮れが、街を紅く染める頃。 家々の窓に明かりがともる。 ライトはベランダからそんな街の様子を眺めながら、 洗濯物をとりこんだ。 乾燥機を使えばいいとLに言われているものの、 天気のよい日はどうしても外に干したくなる。 それは、昔、母親が同じことをしていたからだ。 そして、太陽で乾かされた洗濯物は、 ひなたのにおいがする。 ライトは、それがとても好きだった。 二人分の洗濯物は、 タオルやシーツを毎日洗ったとしても、 たいした量にはならない。 乾いた洗濯物をたたんで、片付けて、 ライトは台所に立った。 冷蔵庫を開け、昼間のうちに考えていた 夕食を作る為の材料を取り出す。 ポークソテーに付け合せはにんじんのグラッセとマッシュポテト。 ブロッコリーのサラダとコーンスープ。 コーンスープは、ホワイトソースから作る。 にんじんのグラッセは、Lが喜ぶので甘めに味付けをする。 手際よく調理をしていくライトは、 Lが食べることしか考えていない。 甘いものが好きなだけに、 意外と子供向けの料理を喜んで食べる。 そして、意外と好き嫌いの多いLにできるだけ、 野菜を食べさせるメニューを選ぶ。 最初の頃に比べれば、Lの不満は減ってきた。 無理矢理食べさせるよりも、味や調理方法を工夫した方が、 うまくいくことを覚えたライトが、努力した結果である。 なべやフライパンからうまれる、 食欲をそそる香りが部屋中に漂う頃。 見計らったように、インターホンがなった。 「はーい」 ライトはテーブルに皿を並べながら、 相手に聞こえないのに返事をして、 ライトは玄関のドアを開けた。 朝と変わらぬ格好で、Lが立っている。 「お帰りなさい」 にっこり笑いかけると、 Lも穏やかな表情になった。 「ただいまかえりました」 Lが差し出した鞄をライトは受け取る。 「ごはんにする?それともお風呂?」 定番の質問にLはネクタイをはずしながら答えた。 「ごはんにします」 ライトの質問には、冗談は含まれない。 以前に、Lが「ライトくんがほしいです」と答えたばっかりに、 寝室に閉じ込められたうえに、 夕食も翌日の朝食もなかったことがあるのだ。 ライトは本当に容赦がない。 「ちょうど、できたてだよ」 リビングのダイニングテーブルには、 湯気の上がった料理が並んでいる。 「おいしそうですね」 Lがイスに座るのを見て、 ライトはコーンスープを盛った。 「上等なワインをいただいたから」 コーンスープをLに渡して、 ライトは冷蔵庫から昼間届いたばかりのワインの瓶をとりだした。 「誰からですか?」 見覚えのないワインに、 わざとらしく眉間にしわを寄せるLをライトが笑う。 思ったより機嫌を損ねずに済んだのは、 甘いにんじんのグラッセのおかげかもしれない。 「知ってるくせに」 2つのグラスにそそいで、ライトも席についた。 「困ったやつですね」 溜息とともに、ふたつめのにんじんのグラッセを口に運ぶ。 「またそんな風に言って。案外気に入っているくせに」 「ライトくんもでしょう?」 「僕にはひとりしかいないから」 ライトはグラスを傾けて、困ったように笑った。 「私は幸せ者ですね」 そのグラスにLがグラスを合わせた。 カチン、と澄んだ音が響く。 「それは、僕の台詞だよ」 目を見合わせて、笑う。 おいしいワインにおいしい食事。 それは、目の前にLがいるからに他ならない。 今日も無事に一緒に居ることができる。 ライトはそのことに安堵して、グラスの中身を飲み干した。 終 |
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2006/10/31 |
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団地妻で10のお題。 |
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