+ Meteor +



Short short log -03-

もう随分と夜も深い刻だ。居室の大窓の上から下まで全てが一面の星空で覆われているという幻想的ながら非現実的な光景は、ここが地上ではないということをはっきりと私に認識させてくれる。柔らかな蝋燭の灯りに照らされたローテーブルには、1本のワインボトルとペアのワイングラス。つまみの皿はひと皿。流石にワインだけでは口寂しいだろうと、あり合わせの肉とチーズで作ったものだった。

「……乾杯、
「乾杯、です」

仕立ての良いふたり掛けのソファに腰掛けて、互いの労を労うように、カン、とふたりのグラスが澄んだ音色を奏でる。くるりとグラスの中で踊るワインの深い色を堪能するダオスさんの所作は、如何にも飲み慣れているといった具合だ。そのままじっくりとその芳醇な香りを楽しんでから、繊細な味を確かめるように時間をかけてひと口めを口に含む。上質を知り尽くした彼だからこそ醸し出せる色気には、思わず息を呑んでしまう。

「……お味は如何でしょう?」
「うむ、悪くない。この星にも我が故郷のものに劣らぬ質の良いワインがあるとはな」

私も彼の所作を真似てひと口頂く。私は彼と違ってワインのことは全くの素人だ。それでもこのワインが長い時間をかけて熟成された逸品だということは、舌の上で織り成す絶妙な酸味と甘味のハーモニーを味わえば鮮明に感じ取れた。

「……美味しい。ダオスさんのお口にも合ったみたいで良かった」

私より早く空になる彼のグラスに、そっとボトルからワインを注ぎ足す。彼の様子からしても、評価が世辞でないことに私は一先ずホッと安堵した。先日、鍛錬がてらある小さな村の魔物退治を手伝った際にお礼にと頂いたのがこのワイン。村一番の特産品らしいけれど、これまでも恐らく希少なワインを数多く堪能してきたであろう王族の彼を満足させるのは難しいだろう、と開ける前から勝手に決めつけてしまっていた。村の皆さんごめんなさい。

「お前の作る肴も美味だ。このワインによく合っている」
「残り物のお肉とチーズで申し訳ないのですが……そちらも気に入っていただけたなら嬉しいです」

彼のグラスを空けるペースもさることながら、室内を照らす蝋燭はまだ火を灯す前とさして長さを変えていないというのに、既につまみの皿まで空になりかけている。

「こんなに気に入っていただけたのなら、もっと沢山作れば良かったですね」
「ふっ、気にすることはない。このワインは食前酒、肴は前菜……そして」

ダオスさんの逞しい腕がふいに私の腰を抱き寄せる。今更遠慮するような仲でもないとはいえ、気を遣ってぽっかり握りこぶしひとつ分空いていたふたりの間の空間はあっけなく消滅した。

「……主菜にお前を戴くとしよう」
「……ダオスさん、既に酔ってますか?」
「いや、そんなことはないが」

気持ち良さげに軽やかな笑みを浮かべてそう断言する横顔は、早くも朱が差しはじめている。酔に無自覚なのは本人だけとはよく言うが、本当に自覚がないのか、或いは全て彼の演技なのか……私には到底判別はつきそうにない。それでも

「今宵のお前も愛らしいな、

余裕飄々とした涼しげな表情とは裏腹に、雄の本能が滲む青い瞳に射抜かれて思わず心臓がどきりと鳴る。酒の力で"良い事"を期待してしまうのはどうやらお互い様のようだ。彼の長い指が私の顎を捕らえ、熱を纏った吐息が頬を甘く撫ぜる。ソファの座面がギュッ、と音を立ててふたりの重みを包むように受け止めた。

蝋燭の炎がゆらりと揺れて、熱された蝋がゆっくりと表面を垂れていく。今宵はうんと長い夜になりそうだ――


---END---


ダオスがお酒に強いかどうかは読まれた方のご想像にお任せします(笑)
ダオスは王様ですし質の高いお酒も料理もたくさん味わってきていそうですよね…!

Good!(お気に召されたら是非…!)

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