+ Meteor +

クレストリアのキャラクターボイスから着想を得たネタです。
未プレイでもお楽しみいただけます。


**好きなもの、愛おしいもの**

繊細に形造られた金の豪奢な窓枠に切り取られた夜空が、天然の絵画となって今夜もこの寝室を美しく飾ってくれる。時折ちらちらと瞬く星々の間で、ふたつの月が競い合うように一段と輝きを放っていた。

「……何か見えたのか?

そっと寝室の扉を開けた彼が、肩に流れる柔らかな金色の髪を揺らしてこちらへやって来る。

「あっ、ダオスさん。いえ、少し星空を眺めていただけです」
「そうか」

そのまま私の隣で、彼も同じように窓から星空を眺める。彼は背がうんと高いから、この至近距離で顔を覗こうとするとどうしても見上げる形になってしまう。幻想的な青い月明かりに照らされたその人形のように端正な顔は、とても世界中で魔王と恐れられている人物とは思えないほど、優しい。

「ふふ、実は昔のことを思い出していたんです。私がまだダオスさんとお話しするようになってすぐの頃、私がダオスさんに"好きなものは何か"とお訊ねしたら、ダオスさんは"つまらぬことを訊くな"って仰って……結局教えてくれなかったこと。覚えておいでですか?」
「……ふっ、そんなこともあったな」

形の良い彼の薄い唇が、微かに弧を描く。あれからもう数年が経ち、今では誰よりも深く心を通い合わせる仲になるなんて……もし私に彼のような時を渡る能力があったとして、時間を遡って当時の自分に伝えたならば、驚きのあまり卒倒してしまうに違いないだろう。

「あの日もこんな月夜でした」

窓の外に浮かぶふたつの月をもう一度見上げる。あの時と同じように、月たちはじっと、私たちをただ静かに見守っていた。

「そうだったな」
「ふふ、私、こう見えて結構落ち込んだのですよ」

今となってはすっかり笑い話だけれど、当時は本当に年甲斐もなく生娘のように肩を落としたものだ。彼があまり自らのことを明かさない性質であることを認識できるようになるまで、それから数ヶ月の月日を要したことも覚えている。

「……些細な自己開示であっても、時にそれが致命傷となり得る。それが国の長という立場だ」
「ええ、もちろん理解しておりますわ」
「……それに私はもう、他者の力は借りぬと決めていたのだ……その時はな」
「このアセリアに来て間もない頃、いろいろあったとお聞きしたのは、その後ですものね」

彼と少しずつ言葉を交わすようになり、同じ場所で同じ時間を共にすることが増えて……ゆっくりではあったけれど、私は、彼との距離が近付いていくことが何よりも嬉しかった。そして彼のこと、彼がこのアセリアに渡ってからこれまでの歩み、そして彼の思いを知れば知るほど、彼の力になりたいと強く願わずにはいられなかった。本格的に戦闘技の自主鍛錬を始め、知識を得るためにエルフの著した魔術書を開くようになったのもこの頃だったと、もう随分と昔に感じられる記憶を私は懐かしんでいた。

「だが既に……お前に自らを秘匿する理由も無いな」
「あら?では……ダオスさんのお好きなもの、今なら教えていただけますか?」

見上げれば、彼の目線は遠い星海に向けられたまま。彼の見やるその先に、彼が守ろうとしている故郷の星があるのだろうか。けれどその目尻はふっと緩んでいて

「……お前ならば、とうの昔に解したものと思っていたがな?」

不意に腰を抱き寄せられて、彼の細身でありながらも無駄なく鍛えられた逞しい身体にぴたりと密着してしまう。ふわりと宙を靡く橙色のマント、彼の纏う高貴で妖艶な香がすかさず私を包み込む。そしてその白くて長い、けれど男性らしく骨張った指に顎を取られて、ふたりの視線は重なった。

「……好きなものは、この腕の中に収まっているものだ」

真っ直ぐでひとつの濁りもない青い瞳に射抜かれて、一瞬が永遠のようにさえ思えた。彼が自慢の魔術で時間を止めた?いや、触れ合った互いの身体はこの瞬間もじんじんと熱を高め、心臓の鼓動が猛烈な速度で私を内側から叩きつけていた。時間は何も止まっていないようだ。

「ダオスさん、このタイミングでそれは……反則ですわっ」

普段の彼が滅多に直接的な物言いをしないことは、彼と短くない時間を共にしてきたからよく知っている。だからこそ、今の言葉は彼にとってきっと言葉以上の想いが詰まっているに違いない。

「お前が思いのほか鈍感であったからな」
「……もうっ」

そう思うと心の底から彼が可愛らしくて、愛おしくて……私は自然と両腕を彼の身体に回してギュッと抱き締めていた。

「でも……ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。私の大好きなものも、この腕の中にありますもの」

誰よりも大切なもの、愛おしいもの。互いが互いのそんな存在になっているという事実を改めて認識して、尽きることのない幸福感で心がいっぱいになる。


「ダオスさ、んっ」

名を呼ばれて顔を上にあげたら、待ってましたと言わんばかりに唇を奪われてしまった。甘いキスに思わず脱力すれば、すかさず熱い舌が割り入れられて私の舌は簡単に捕らえられてしまう。けれど私だってやられてばかりじゃない。

「んっ……」

彼を喰らい尽くすように、私からも積極的に彼を捕らえて離さない。彼の力になると決めたのだ。例えそれが修羅の道であろうとも、どこまでも傍にいると私は誓ったのだから。そうしているうちに切なく唇が離れると、何故だか分からないけれど笑みが零れてしまうのだった。

「ふふっ……それにしても、食べ物とか趣味とか、好きなものってそういう答えを予想していたのに」
「お前とも随分長い付き合いになったが、未だ私のことが気になるとは……お前はつくづく物好きだな」

愛おしい人のことは何だって知りたいと願うのは自然なこと、と彼に答えれば呆れたようにククッと笑われてしまったけれど、その瞳は満更でもなさそうだった。そして一段強く身体を抱き寄せられて、耳元で私の大好きな甘い低音をねっとりと反響させた。

「……では望み通り、これからしかと"私"を教えてやろう」

――月たちは今宵も、静かに私たちを見守っていた。


---END---


Good!(お気に召されたら是非…!)

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