+ Meteor +



**彼氏が寝言で他の娘の名前を呼んだからお仕置きしただけなのにっ!?**

……聞いてしまった。
私の隣で規則正しい寝息を立てているダオスさんがゴロンと寝返りを打ったその時、小さく漏れた声。それはきっと寝言なのだけど、明らかに女性の――そして私の一切知らない――名前だった。

いやいや、彼だってそれなりに女性経験はあるだろう。一度見れば振り返らずにはいられない美しく整った顔立ち、金糸のように眩しく輝く柔らかなウェーブのかかった長い髪、魔術の腕はアセリアの術師が束になってもきっと敵わない。それに加えてスラリとした体躯から繰り出される華麗な体術も並の戦士では手も足も出ないほど強い。誰よりも故郷の星とそこに生きる民を大切に思う王様であり、ひとりの男性として私を抱く時も……決して私が嫌がったり痛がるようなことはしないのが彼だ。私も女だからわかる。こんなに完璧で魅力に溢れた男性を周囲の女性が放っておくわけがない。

寝言で呟いた名前が本当に以前の恋人のものかどうかなんて私にはわからない。もしかしたら友人や親族や、はたまた侍従さんの名前かもしれない。けれどやっぱり夢にまで出てくるような女性って、それなりに深さのある関係だよね、なんて思ってしまう。

「……妬いちゃうな」

以前の恋人たちは、彼のどんな姿を見ていたのだろう?そして今でも彼が忘れられないらしいどんな思い出を刻んできたのだろう?あどけない寝顔を晒す彼には、嫉妬に燃えてしまった私の心なんて知る由もない。

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「ダオスさん、あの、×××って人……前の彼女さんですか?」
「……つまらぬことを訊くのだな」

あくまで落ち着いて淹れたてのコーヒーを静かに飲むダオスさん。けれど彼の手が一瞬止まったのを、私は見逃さなかった。

「……何故その名を知っている?」
「この前ダオスさんが寝言で呟いてるのを聞いちゃいました」
「……そうか」

カップに注がれたコーヒーはもう半分以上減っていた。寝言なのだから本人にとっては不可抗力。喧嘩腰に思われないように、明るくあっけらかんとした声色を意識して話を続ける。

「ふふ、別に何というわけじゃないです。何となく気になって訊いただけですから……お気になさらないでくださいね」

気付けば空になっていた彼のコーヒーカップをそっと下げる。普段よりずっと早く飲み干したように思うけれど、やっぱり動揺してたのだろうか。休憩を終えてすっと席を立つダオスさんを後ろからギュッと捕まえる。ここまで作戦通り。

「……嘘です。ちょっとだけ、嫉妬しちゃいました」

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ぐいとダオスさんの身体をベッドに押し倒す。ふたり分の重みで質素なフレームがギシと悲鳴をあげた。意外にも彼は素直に倒されてくれて、これから何が起こるのか……私を見上げる青い瞳は何となく解っているような気がした。

「私を嫉妬させたので、お仕置きしちゃいます」
「お前がこの私を仕置きか……好きにするがよい」
「あら……余裕、ですね」

一切の抵抗も見せず、まるで私のお仕置きなど効きもしないかのような素振りに俄然やる気が燃えてくる。実はこの時のためにちょっとした"準備"をしてきたのだ。彼には思う存分声をあげてもらおうではないか。

「ではまず……動けないように腕は縛っちゃいましょうね」

ベッドの下に隠しておいた箱から頑丈な紐状の布を取り出す。この箱の中にはアルヴァニスタの大人向け道具屋で調達したお仕置きグッズを入れてあるのだ。手早く彼の手首を頭上にまとめて、布でベッドフレームと固定する。これでもう彼はベッドから逃げられまい。

「縛られてる姿も……美しいですね」
「褒め言葉として受け取っておこう」

そう言いながらもふっと顔を逸らすのはきっと恥ずかしさのせいだろう。滅多に見られない彼のそんな表情をもっと見ていたくて逸した先に私の顔を動かせば、不満げに眉をしかめているのに頬はほんのり赤みが差して……本当に可愛らしい。

「服も邪魔なので脱いじゃいましょう」

体術使いらしく、動きを妨げないよう身体のラインにピタリと密着する彼の衣服をゆっくりとはだけていく。筋骨隆々というよりは細身。けれど鍛えられた筋肉で引き締まり無駄な贅肉のない男性らしい身体。一方その肌は女性と見紛うほど白くきめ細やかで、いつまでも触れていたくなるほど滑らかだ。惚れ惚れするくらい美しい身体付きはまるで偉大な芸術家による彫刻作品のようでさえある。

「本当に綺麗……それにこの香り。私大好きなんですよ」

湯浴みでは私と同じ石鹸を使っているはずなのに、何故かいつも彼からは妖艶な香りがふわりと漂うのだ。それは衣服のせいなのかマントのせいなのか、はたまた彼の身体特有の香りなのかわからないけれど、とにかく私はこの彼の香りが大好きだった。彼のごつごつとした男らしい身体のラインを指でじっくりなぞりながら、その甘美な香りを心ゆくまで堪能する。時折彼の身体がピクリと反応して、指の這うそこが彼にとって"気持ちいい"場所なのを示していた。

「そんなに……そこに触れるでない……」
「ここ好きなんでしょう?我慢しないで気持ちよくなってくださいね」
「ぅッ……!」

硬い筋肉でキュッと締まった胸に、控え目な頂がふたつ。指の腹でこりこりと優しく擦り上げてみれば、そこは女性と同様にゆっくりと存在を主張し始める。指の刺激だけでは飽きさせてしまうだろうから、時折口に含んで、舌の先で転がしてみれば微かだが背も小刻みに浮かせて、感じてくれているのが嬉しい。

「あら、さっきまでは何もなかったのに……こんなところに大きな山が見えますね?」
「くぁッ!?」
「ふふ……これは何でしょうね?」

胸の先端を愛撫していたら、私の胸元に硬くて熱いものがずっと当たっていたから……ついイジメたくなってしまう。

「ダオスさんって、意外と拘束されたりするの……お好きなんですか?」
「そのような訳なかろうッ……!」
「あら……でもいつもよりここ、お元気みたいですよ?」

布越しにスッと擦ってみるだけで、その大きな山はびくりと震え上がって、高さを増していく。焦らすのも何だか可哀想だから、この際遠慮なく取り出して……今度は直接触れてみる。とても熱くて、硬くて太い。我ながらよくこんな立派なものをいつも身体の中に咥え込めてるものだと、つい感心してしまう。

「先っぽが濡れてます……ふふっ、もう我慢できないみたいですね?」

ちらちらと光を反射する怒張が愛おしくて先端にちゅっと口付けると、舌の上にザラつくような苦味が広がった。けれど彼の口から息を押し殺したような喘ぎが漏れたら、そんなこと気にもならない。

「そうそう、今日は興味深いものを用意したんです」

箱の中から瓶入りの薬剤を取り出す。とぷとぷと揺れる透明な中身を彼に見せつけるように、目の前で瓶を振るってみせた。

「これ、気持ち良いところに塗ると……気持ち良さが何倍にも跳ね上がるんですって。あまりの評判に品切れが続いて滅多に手に入らないんですが、ダオスさんの為に待ちに待ってやっと買えたんです。これをこうしてここに塗って……どうなるか楽しみですね」

次の快感が待ち切れなくて露が溢れる先端からくびれの部分、折角なので怒張の根元まで擦り込むように例の薬を塗りつけてみる。使うまで気付かなかったが薬はとろりと粘り気のある質感だから、手淫の際の潤滑剤としても有用そうだ。

「……そのような怪しい薬、私に効くわけ、なッ」
「あら?そういう割には反応が良くなってきたような」
「ちがっ、そん、な、馬鹿なッ……!」

明らかに先程とは反応が違う。根元からくびれ部分をくいっと搾り上げるだけで、短い息を吐きながら彼の背中はびくびくと跳ねて、戦闘中でも汗ひとつ流れない額には大粒の水滴をいくつも浮かび上がらせている。今まで見たこともない、頬を朱に染めて上気した彼の色っぽい表情がますます私の劣情を煽るから、彼の下腹部を上下する手の動きは一層早くなっていく。

「はっ、あっ、こん、な……あり得ぬッ……!」
「ダオスさん……今とっても可愛らしいお顔してますよ、堪らない……」

アセリア全土を恐怖に陥れたあの魔王が、まさか媚薬によってここまで艷やかな姿を晒しているなんて一体誰が想像するだろう。私だけが知っている彼の姿がまたひとつ増えたのが嬉しくて、小さく震える形の整った唇に思わず吸い付いてしまう。

「しっかり気持ち良くなってくださいね……!」

じきに限界を迎えるであろう硬く膨れ上がった怒張を一気に扱き上げながら、舌先で先端への愛撫も忘れない。手と舌で一気に、それも薬によって格段に増した快感を注がれたそこはもう弾けそうな勢いで反り勃っていた。

「くッ……!!」

すらりとした腰は跳ね、更にベッドがギシリと軋む。私の手の中の爆弾がぶるぶると震え、刹那、口の中がどろりとした生々しい男の味でまたたく間に支配されていく。舌を彼の前に突き出して、その表面にぺったりと張り付く白濁した彼の欲望の塊を見せてから……一気に飲み干した。

「……まだ終わりじゃないですよ。これからとっておきの"気持ち良い"を味わってくださいね……?」

戦いを終えても息のひとつさえ切らせることのない彼が、珍しく肩を上下させて必死に酸素を求めている。汗で濡れた皮膚には柔らかな金の髪が張り付いて、彼の身体を艶めかしく飾り付けていた。彼の以前の彼女たちも、こんな彼の姿を見てきたのだろうか?

「このガーゼで先端を優しく……優しく擦るんです。ほら……どんどん気持ち良くなってくる……」
「やめろッ……それはッ……!」
「やめないですよ。せっかくの気持ち良いが台無しになっちゃいます」

既に一度絶頂を迎えたことでより敏感になっている熱い剣の先端を、手にしたガーゼで上下左右くまなく柔らかなタッチで擦り上げる。何度も背をしならせて、きっと彼の全身にはびりびりと痺れるような凄まじい快楽が駆け巡っているに違いない。これほどの激しい快感を彼に注いだ女性は他にいただろうか。もし私が初めてなら……こんなに嬉しいことはない。

「ひッ、やめッ、それ以上はならぬッ……!」
「ふふ……もう一度果てちゃいましょうね?」
「駄目、だッ、やめッ……!」

まるで雷属性の魔術が直撃したように身体を強くしならせて、彼がやや苦しそうにも聞こえる呻き声をあげる。そして先程果てたばかりの怒張の先端から透明な滴がシャワーの如き勢いで噴き出して、シーツを無数の水玉模様によっていやらしく模様付けた。

「男の人は快感が頂点に達すると"潮を吹く"んですって。一度知ったら病みつきになるくらい気持ちが良いみたいですが……」

耳元で、どうでしたか?と囁いてみても、呼吸を整えるのに必死らしい彼は会話もままならないようだ。仕方がないのでそのまま白くて柔らかで、そして私たち人間と同じ丸い形の彼の耳たぶを優しく食んでみると、のぼりつめた熱のせいか耳まで熱くなっていた。

「次はどの玩具にしましょうね?ダオスさんにはもっともっと……気持ちよくなってほしいのです、私じゃなきゃ満たされないくらいに……」

わざと音を立てて、たっぷりのキスを耳たぶに落とす。それからゆっくりと、彼の締まった顔の輪郭、紅潮した頬を唇の先でなぞって、そして長く滑らかな、けれど男らしい筋張った首筋に……いつも彼が私にするのを真似て、紅い花びらを散らしてみた。今の彼は他の誰でもない、私のものだと示すために。

がさごそと音を立てて探らなければいけないくらい、箱の中にはまだまだたくさんの道具が入っている。今回だけじゃない。これからも彼にたくさんの甘い甘い快感を注いでいくつもりで用意したのだ。そして私でなければ満たされないように……してしまいたかった。自分でも驚くほど、私は彼が名前を呟いたかつての恋人に酷く嫉妬してしまっていた。

箱の中を漁りながら、あれも良い、これも悩むと私は優柔不断を発揮していた。つい一瞬、彼から目を離してしまった。

「……この程度で私に勝った気でいるか、甘いな」

だから背後からの予想だにしない力によって、いとも容易く私の身体はベッドに押し付けられていた。いつの間にか、彼が自分で両腕の拘束を解いていたことにも気付かないまま――


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「ちょっ、と……ダオスさんっ、なんで……」
「何故、とは心外だな?ああも生温い拘束、ひとりで抜けぬ様では命が幾つあっても足らぬわ」
「王としての暗殺対策、ですか……」

痛まない程度に強く縛り上げたつもりだったが、彼には甘かったらしい。ちらりと視界の端に映るのは、あっさりと役目を解かれてしまった布が一枚。

「……お仕置きはまだ終わってないです。今度はもっと頑丈に結いますからね?」
「そうか、ならばその前に一つ確かめさせてもらうとしよう……お前の以前の恋人の名前は、***……か?」
「なッ……!どうしてそれを……!?」

ダオスさんからの想定外の、そして見事に的中している問いかけ。図星です、と自ら明かしてしまうような反応しかできない私が情けない。

「お前が寝言で呟いているのを聞いたのでな」

上から私を見下ろすダオスさんの口元には、勝ち誇ったように細く吊り上がった三日月が浮かんでいる。

「……自分は何も寝言を言わぬと思い込んだか?」

私の身体をベッドに縫い付ける彼の腕の力は、さっきよりも格段に強くなっている。非常にマズい。完全に立場が逆転してしまった上、彼の氷蒼の瞳は先程からちらちらと玩具入の箱を見やっているのだから。

「私以外の男の姿がお前の中に……この私の心をどれほど掻き乱したか、お前にはわかるまい」
「ごめんなさいっ……わざとじゃないんです……」

ダオスさんの片方の手は私の両手を束ねて押さえつけ、もう片方の手は私の輪郭を掴んで、そしてゆっくりと確かめるようにそのラインを指先でなぞっていく。

「故意でないと?だが私を激しく嫉妬させた罰は……受けてもらわねばな。お前もそう言って私を仕置きしただろう?」
「ううっ……」

してやったりという顔でダオスさんがくつくつと嗤う。この男、恐らく最初からこの展開を狙って敢えて私のお仕置きを受け入れたのだろう。悔しいけれど、彼の方が何枚も上手だったというわけだ。有無を言わせず私の両腕が頭上に持ち上げられて、さっきまで彼の腕を縛っていたはずの布地は、今度は私の両手首を容赦なく縛り上げていく。私が結った時よりも結び目は遥かに硬く締まっていて、とても自力では解けそうになかった。これも寝込みを襲った暗殺者を捕らえておく為に必要な技なのだろうか。

「動きを封じられた姿が美しいのは……お前の方だろう」

ひと括りにされた両の手に、彼の唇から痺れるような熱がひとつ、またひとつと落とされていく。焦らすように腕の線を指先でなぞられて、堪らず喉から声が出てしまう。

「ああ、服も邪魔だな?この私がわざわざ脱がしてやるのだ……感謝するといい」
「ちょっと、や、駄目ッ……」
「今のお前に拒否権など、あるわけなかろう?」

魔王らしい意地悪な笑みを浮かべた彼の手によって、服の留め具がひとつひとつ、時間をかけて外されていく。身を捩ったところでその動きを止められるはずもなく布地をはだけられ、あっさりと下着が露わになってしまう。完全な裸体ではなく互いの大きく開けられた着衣姿がとても艶めかしくて、より一層情欲をそそる。

「私の香りを好いているようだが……お前も私と同じ香りがするな」
「やっ……匂いなんて嗅がないで……」
「よかろう?私もまたお前の香りが……心地良いのだ」

残念ながらさしてボリュームもない胸の谷間にダオスさんが顔を埋めて、すぅっと大きく息を吸う。確かにさっき私も彼に対して同じことをしたけれど……思っていた以上に羞恥心を刺激されてしまって、かっと顔に熱が集まるのを感じずにはいられなかった。

「ほう……何だ?これは……」

私の用意していた箱を遠慮もなく漁っていた彼の手が止まる。

「お前が用意したものだろう?これは何か、言ってみよ」
「それはっ……ダオスさんに着ける首輪です……」
「装飾もお前が選んだのか?私の服と同じ黒色の革地に、金属の部分は……私の髪と同じ金色か」
「ダオスさんに似合うだろうと思って……選んだんです」

手の中の首輪をしかとよく見やってから、その目線の先がチラリと私に移り……彼の口角がニヤリと歪む。嫌な予感しかしない。

「そうか、そこまで私を想い選び抜いた品とあらば……使わないわけにはゆかぬな?」
「では早速、私が首に巻いて差し上げ……」
「何を言う」

ダオスさんの強い語気が、私の言葉をぴしゃりと遮った。空いたもう片方の手に顎をぐっと押さえつけられて、鋭い双眸に上から容赦なく貫かれる。

「これはお前が嵌めるのだ。首輪のこの色使い……誰がお前の所有者か、一目瞭然だな?」

両手を括られているから抵抗などできるわけもなく、彼によってゆっくりと、そして確実に首に革が巻かれていく。

「ああ……実に愛らしい姿だ、私の

ベッドの上に組み敷かれた私の首を巻く、真新しい黒革の首輪。満足げに彼がその長い指の先でなぞりながら、金具にリードを繋がれてしまえば、私は完全に……彼の所有物と化してしまう。その事実は自分でも驚くほど、私の中をきゅんと甘く締め上げていた。

「お前の全ては私のものだ。そうだろう?……故にこの布地も要らぬな?」
「ひっ、あッ……」

耳の中を彼の甘い低音に震わされながら、耳たぶをかぷりと噛まれる。まるで甘美な毒を注ぎ込まれたように身体の芯を熱くすることしかできない私は、もう彼の思うがままだ。たった1枚で胸元を守っていた胸当てをぐいと押し上げられ、中にしまわれていたふたつの控えめな膨らみは呆気なく外気に晒される。両手で鷲掴みにされて形を変えられる度に、羞恥と、そして何故かそこから生まれくる快感が、私の頭を、身体を、じわじわと侵食していく。

「あぅっ、そこはッ!」
「ここに欲しくて堪らないと……先を尖らせて主張しているようだな?」
「やだっ、違っ……あんッ!」

柔らかくて穏やかな快感の最中、突如走る強い刺激に背中がびくりと浮いた。指先で乳房の先端を弾かれて、摘まれて、口の中で転がされて、今度は歯を立てて甘噛みされる。怒涛の連続攻めに身体は震えて、声を抑えることもできない。こうしてひと通り胸を堪能したのか、彼の指は私を焦らすように身体のラインをゆっくりと辿りながら、どんどんと下へ降りていく。

「拘束されるのが好きなのは……お前の方だろう?」
「違いますッ……そんなことっ……!」
「ほう……普段より遥かに"ここ"を湿らせておいてよく言う」
「ひぁッ!?」

下腹部を覆う薄い布地の隙間から、彼の指は容易く内部に侵入してくる。自分でも何故かわからないが、そこは意志と反して豊かな湿り気を纏い、彼の来訪を悦び受け入れてしまう。

「聞こえるか?この淫靡な音が……私の所有物となって、私の与える快楽に悶え悦ぶお前が生み出した音だ」
「やっ……あッ……言わないで……!」

彼の指が私の中を撫で回すたびに、くちゅくちゅといやらしい音が静かな部屋に響き渡って、あまりの恥ずかしさにそこは更に涎を垂らしてしまう。中を傷めないようにゆっくり、けれど私の好きな場所は確実に。彼の指使いは天使のように優しいのに、悪魔のように抗えない快感を容赦なくこの私に与えてくる。

「ふふ、この薬……お前が私のために手間も厭わず手に入れてくれたというこれを、今のお前に使ったらどうなるだろうな?」

言葉の意味にハッと気付いた時にはもう遅かった。最も渡ってはいけない相手の手に握られた瓶の中になみなみ残された薬剤を、煽るように私の目の前でダオスさんは振るって見せる。

「そんなっ、私なんかに使ったら勿体ないです、からっ」
「気にするでない。使い切ったところで次は私が手に入れてくればよいだけのこと……」

精一杯の遠慮も甲斐なく、ポンッ、と雰囲気に似合わない軽い音を立てて瓶の蓋が開けられる。ダオスさんが中のとろみのある液体を惜しみなく白い指に纏わせて、そして再びゆっくりと私の中に潜らせてゆく。

「ひぃ、ゃぁ……!」
「お前が私にしてくれたように、中も外も念を入れて……薬を擦り込まねばな?」
「あぅッ、駄目、そこはッ!」
「駄目ではなく、好き、だろう?」

耳元には幼い子どもを諭すような優しい声と甘い口付けを落としながら、一方でその手には薬剤を継ぎ足して、外側の核とその周りをしつこく這い回っては容赦なく薬に呑み込ませてゆく。その粘度がちょうどいい潤滑を生み出し、指先で核をくりくりと磨かれればそれだけで腰が跳ねるほどの快感が全身を駆け巡っていく。

「あっ、あっ、なんかッ、身体、が、おかしッ……!」
「……この薬はすこぶる効きが早いな」

じんじんと感じたことのない疼きと熱が、私の下腹部に走っている。触覚の感度が上がることは先の彼の反応からも間違いないが、それにしたって想像を遥かに超える効果だ。これでは少し触れられただけでも果ててしまいかねない。なのに。

「ふふ……お前はこうしてここを責められるのが好きだったな?」
「やッ……!今それっ!駄目ぇ!」

感度が極限まで高まったところでの一撃に成すすべもなく、私は背中を大きくしならせて耐えることしかできない。猛烈な、けれど果てる直前で離れてしまう切ない快感の後は下腹全体を優しく指の腹で撫で回されて、その緩急は私の中の本能を容赦なく揺さぶる。

「次から次へと溢れてくる……もう慣らしも要らぬな?」

箱の中から掴みだされバラバラと、シーツの上に真新しい薄皮の避妊具が散る。

「そんなっ……!」

ゆうに10は超えるその数に、いかに自分が彼の嫉妬心に激しい火をつけてしまったのかを思い知らされる。私を上から覆う恐ろしいほどの気迫に思わず腰を引いてしまったら、ぐいと彼の手で強引に位置を戻されてしまった。

「お前は誰のものか……その身にしかと刻んでやろう」

一度は果て、おまけに潮まで吹いたはずの彼のそれは既に昂りを取り戻しているどころか、さっきよりも更に大きくそそり勃っている。カーラーン人は絶倫なのか。身体の自由を奪われ、逃げることも許されず、あの凶暴にさえ見える彼の剣に……これから彼が満ち足りるまで穿かれ続けることになると言うのに、身体はゾクゾクとその猛烈な愛欲を求めて疼きを止められない。

「あっ、あぁッ、んんっ……!」

両の太腿を閉じられないように押さえつけられて、気付かぬうちに薄皮を纏ったそれがゆっくりと私の中を押し広げ侵入してくる。巨大な灼熱に身体の芯を焼き尽くされるような感覚も、苦しさからあっという間に気持ち良さへと変わっていくのは薬のせいなんかじゃない。そう感じるように私の身体を躾けたのは、紛れもなく彼だった。

「あ、あッ、やんっ、んんッ!」
「身体の自由を奪われるだけでいつになく私を締め上げるのだな……以前の男にもこうして……劣情を唆らせたのか?」

真偽を確かめるように、顎先をくいと捉えられ青い瞳が真っ直ぐに私を見下ろしていた。

「違ッ……そんなこと、してないですっ……!」
「そうか。だが……例え無意識であろうとも、私以外の男の姿がお前の中に残っているのは気に食わぬな」
「ひぁんッ!?」

ゆるゆると繋がり合っていた下半身に、何の前触れもなく甘い一突きが加えられて背中はびくりと跳ね、頭の中には火花が散る。はらりと私の顔にかかった鬱陶しい前髪を、ダオスさんがその長い指でそっと払った。

「……、お前は私のものだ」
「んんっ……んふぅ……」

衝撃の余韻で小刻みに震える唇が、熱を纏った彼の唇によって塞がれる。にゅるりと侵入してくる赤い舌が、私を塗り潰すように口内を弄ってくる。私の中は上から下から、全てが彼のものとして上書きされていく。

「私でしか満たされぬように……私のことしか考えられぬように……お前を私で染め上げてやろう」
「んっ、んぁっ、あッ……!」

淫靡な水音を立てながらゆっくりと結合部が前後に動き出した。逃げ出すことは許さないと言わんばかりに彼の手に腰を強く掴まれて、薬によって増幅された無慈悲な快感は大波のように何度も何度も私の身体を巡っては溶かし尽くしていく。ずんずんと子宮の入り口に熱の塊を繰り返し穿たれて、その度に甘く痺れるような気持ち良さが身体中を走り抜けていった。

「あ、あぅ、だめっ、これ以上突かれた、ら、イッちゃ、うッ……!」
「顔を見せよ、……お前の果てる姿が見たい」

律動はそのままに、彼の手が私の顔の輪郭を優しく捕らえる。見上げた先には切れ長で美しく、そして欲の色をありありと纏った雄の瞳。自らと同じ色彩の首輪を巻いて、自らが注ぐ快楽に抗えず呆気なく果てる私の姿に満足しているのか、口元には薄っすらと笑みが浮かんでいた。

「んッ……あぁっ……イくッ……!」

反り返った私の背中に彼の男らしい鍛えられた腕が回されて、ふたりの身体がぎゅっと密着する。服の隙間から覗く素肌越しに感じる彼の体温は私なんかよりずっと熱い。普段はあんなに澄ました顔をしているくせに、こういう時の彼はずっと雄っぽいと思う。

「はぁっ……ぁ……」
「ふふっ、楽しみはこれから故……」
「ひッ!?あっ……!」

絶頂の余韻に浸ることも許されず、まだ繋がったままのそこが律動を再開する。しかし今度はいつもの奥ではなく、お腹側を擦るような責め方に戸惑いつつも、生じているのは間違いなく快感だった。

「以前からここも馴らしてきたが、此度はあの薬も効いている……お前も"とっておき"を味わうがいい」
「えっ?やッ、なんか、変、な感じッ!」

くりくりと彼の先端で擦られる度に、身体の内側から何かが吹き出しそうになる。そこを湿らせるものとは何かが違う、感じたことのない気分。そういえば女の人も、イッた後に特定の場所を刺激すると潮を吹くということは知識としては知っているけど、まさか……。

「やだッ、なん、かっ、出ちゃ、う……!!」

こりこり、とんとん、くりっくりっと責め方を変えながら止めどなく与えられる気持ち良さと未知の感覚に腰の震えが止められない。理性ではもう歯止めが効かなくて、身体が感じるままに全てを委ねてしまえば次の瞬間、繋がった場所から透明な液体がぴゅうっと弧を描いて吹き出した。

「何これ……うぅっ、見ないで……!」
「せっかくの"とっておき"だ、共に味わう方が良かろう?その様子では……ふふ、私が初めてか」

つまりこれが、艶本なんかで言及される"女の潮吹き"ってものらしい。まるでお漏らしをしてしまったような感覚が酷く恥ずかしくて顔が一気に熱くなってくる。両手を結われていなければ今すぐにでも顔を隠してしまいたいくらいなのに、私のそんな様子を面白がっているのかダオスさんはくくっと笑いながら私の顔を覗き込んでは、頬にたっぷりの甘いキスを落としてくる。

「恥じらう姿も愛くるしいな、……私はもう我慢できそうにない」

未だ私の中に潜んでいる彼の欲望が切なげにびくびくと震え、その質量を増している。私を満足させるためにずっと耐えていてくれたのだろう。

「待って、あの……せっかくだから、そのままのダオスさんが欲しいなって……」
「ふっ、仕置きされる側がそれを言うか……まあよい、お前の望みとあらば」

呆れ半分、けれど満更でもないようで彼の表情がふっと緩む。良いのだな?、と彼らしい念を入れた確認にしっかりと頷きを返した。私は後で薬を飲めばいいし、そのままの方が彼だってずっと気持ち良いはずだ。何より私自身が、彼を直に感じたかったのも事実。とはいえ、こうして必ず私のことを気遣ってくれるところが嬉しくて、そして大好きなところでもある。彼と私を隔てていたたった0.0数ミリの障壁が取り払われて、もう一度彼の灼熱の刃が狭く蠢く私の中を圧迫しながら進んでいく。隙間なくぴったりと彼の形を覆うように包み込めば、その熱さえも今の私にはうっとりするような心地よさを生み出してくれた。

「うぅ……はぁっ、お腹の中が、いっぱい……」

密に絡み合った粘膜と粘膜が、くちゅくちゅと淫らな旋律を奏でながら前後に擦れ合う。全身が蕩けてしまいそうになる甘い快感が切なくて唇をつんと突き出した。かぷっと口先に甘噛みを返されて、それからまた熱い彼の舌に口内をくまなく犯される。私からも舌先で彼を絡みとって吸い上げて、注ぎ込まれる唾液を喉を鳴らして飲み込んだ。

「うっ、ぅ……もぅ駄目、イキそうッ……!」
「はぁっ、くッ……!」

この時を待ち焦がれたと言わんばかりに、いつになく彼の怒張が大きく震える。浮いた背中から再び腕を回されて、熱くなった身体を押し付けるように強く強く抱き締められながら、身体の内側にどくどくと広がる甘いぬくもりを、私はただひたすら受け止めた――――

----------

結局、独占欲が強いのはお互い様だったわけだ。何度昇り詰めて汗だくになっても肌を離すのが惜しくて、ずっと重なったまま今に至る。手首の拘束を解かれても私は彼の男らしい腕の中にすっぽりと収まって、交わした愛の余韻になお浸っていた。

「……
「何でしょう?ダオスさん」

返事をしたらふいにぎゅっと抱き寄せられて、熱の残る彼の呼気に耳の中をくすぐられた。

「これほどに私を執着させた責任は……取ってもらわねばなるまいな?」
「ふふ、そのお言葉はそのままお返ししますね」

やっと自由になった両腕を、私が紅い所有の証で飾り付けた彼の首に回して、今度は私から抱き締めてみる。いつまでもこうしていたいくらい、素肌で直に感じる彼のぬくもりが心地良い。

「……ダオスさん」
「何だ?」

喉元までは簡単に達するのに、声に出すのはいつでも少し照れくさい言葉。けれどちゃんと、伝えておきたいから。

「……愛してます。これまでも、これからも。だからずっと……私のものでいてくださいね?」
「この私をここまで狂わせたのだ、逃げられるなどと思うでない……お前は永遠(とわ)に私のものだ、


---END---


Good!(お気に召されたら是非…!)

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