+ Meteor +



**専属侍従はご主人様を独り占めしたい**

「故郷をご覧になってましたか」

城の最上階。
豪奢な枠に嵌め込まれ、一面に張り巡らされたガラスの大窓から覗く巨星は日を追うごとに緑と青が姿を消し、代わりに乾いた茶褐色がゆっくりと表面を侵食していた。その変化を差し置いて尚、圧倒的な神々しさを放つ彗星デリス・カーラーン――星そのものが膨大なマナによって構成され、全ての存在にマナが必要不可欠なこの星こそ、今まさに滅びの危機に瀕しているというダオスさんの故郷だった。

「これほど土気色が増して……以前は緑と水に溢れた豊かな星だったのだがな」

幾重にも刻まれた傷口に寄り添うように、ガラス越しの彼の手と星の輪郭が重なる。デリス・カーラーンの本来の姿というのを私は見たことがない。けれどそれでも、目の前に静かに浮かぶ星がゆっくりと生命力を失いつつあることは、その痛々しい赤茶けた姿からも容易に想像がついた。生命の息吹が消え、荒廃する一方の故郷を目の当たりにすれば誰だって心を痛めずにはいられないはずだ。彼のように、心から故郷を愛している者にとっては尚更に。

「実りを手に入れれば、きっと何もかも元通りになりますよ。それまでもうしばらく……頑張りましょうね」
「……ああ」
「お疲れが溜まっては果たすべき使命も果たせなくなってしまいます。お飲み物を用意しましたから、少し休憩なさってくださいな」

先程の大広間のすぐ横が、彼の休息の為の部屋となっている。広間とは打って変わってとても王様の部屋とは思えない質素な部屋に据え付けられているのは、広くも簡素な造りの寝台とテーブル、それから2組の椅子だけだ。それでも壁の一面はやはり飾り枠に囲まれたガラス窓となっていて、そこからは広間と同様に故郷のデリス・カーラーンを望むことができた。

「今日は紅茶をお淹れしました。ダオスさんのお口に合うといいのですが……」

手持ちのティーセットをテーブルに置いて、中身が冷めないうちに手早くポットから紅茶を注ぐ。本来ならお茶菓子のひとつでも添えたいところだが、アセリアの食べ物が口に合わない彼にはかえって負担になるから、大抵はこうして飲み物のみの休憩だ。透き通った琥珀色の紅茶で満たされたカップを彼のもとにさっと差し出す。

「……軽やかな味で丁度良いな」
「それは良かったです。まだありますので遠慮なく召し上がってくださいね」

きっと故郷の宮殿では今より遥かに優雅なティータイムを過ごせていたはずだ。大勢の侍従に囲まれて、豪奢なシャンデリアがきらきらと明かりを灯す部屋の中、どれだけ眺めていても飽きることのない繊細で上品な装飾の施されたティーカップがテーブルに惜しみなく並べられて……。

「……どうした?」
「えっ?いえ、その……」

しまった。つい子供の頃、何度も読み返しては空想を膨らませた、お伽話に出てくる王子様やお姫様のような生活を想像していたのがうっかり顔に出てしまったようだ。思いがけず、具合が悪いのか?、と心配そうな表情で見つめられて彼に気を遣わせてしまったことが申し訳なくなる。

「ごめんなさい、それは大丈夫なんですが……つい想像してしまって。ダオスさんがエリュシオンの宮殿でどんな風にお過ごしだったのかなって。長くアセリアにいらっしゃるから、きっとエリュシオンが恋しいでしょう?」
「……そうだな」
「何か故郷を思い出せるようなものをお出しできれば良いのですが……それに宮殿ではたくさんの侍従さんもいらっしゃったのでしょう?好みの見た目をした女性の侍従さんを選べて、その方がダオスさんの身の回りのお世話を全部してて、朝は起こしに来てくれたり、休憩の時間にはお話し相手になってくれたりとか……」

多分に妄想が含まれているとは言え、自分で言っておきながら何だか嫉妬してしまう。彼に近い侍従たちは起床から就寝まで、私の知らない彼の姿をきっとたくさん知っていることだろうことに。

「ふっ、お前は何か妙な物語でも読んだのか?だが確かに……侍従とそのような関係を結ぶ者がいることを否定はしない」
「……そういうことって本当にあるんですね……」
「……」

ダオスさんにもお気に入りの侍従さんがいたのだろうか?彼ほどに美しく気品があり、戦いも強く、それでいて何より故郷とその民を大切に想う優しい王様とあらば、仕えながら密かに恋心を寄せる女性がいてもおかしな話ではないだろう。そう考えるとますます心の奥に嫉妬の炎が燃え上がり、平静を保っているつもりの心がざわざわと掻き乱されてしまう。しかしこの時、カップの陰に隠れて見えなくなっていた彼の薄く形の良い唇の端が僅かに上がったことに、私は全く気付いていなかった――


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あの会話から数日。私の旅鞄には黒いロングワンピースと白いエプロン、白レースの髪留めが入れられていた。これまで見てきた中で、アセリアの富裕層が雇う使用人が着用するお仕着せと言えばこの組み合わせが鉄板だ。エリュシオン宮殿で働く侍従さんの装いとはもしかすると全く異なるのかもしれないけれど、彼が故郷の宮殿に戻った気分を少しでも味わってくれることが大切なのであって衣装の正確さは拘るところではない。全てを身に着け終え、彼が丁度良いと言ってくれた軽やかな味わいの茶葉で再び紅茶を淹れる。案の定、今日も彼は城の最上階で、傷付いた故郷にじっと思いを馳せているようだった。

「そろそろ休憩なさってください。お茶のご用意もできましたから召し上がってくださいな」
「ああ、いただくとしよ、う……?」

普段はその整った表情をあまり大きく変化させることのないダオスさんが、わずかに驚きの表情を見せる。私の姿がいつもと違うことに気付いてくれたのだと、この一瞬の変化だけで十分に判断できる。

「先日、エリュシオンが恋しいと仰ったでしょう?故郷にいらっしゃった頃を思い出していただけるかなと思って、侍従さんらしい装いをしてみたのですが……雰囲気が違ったらごめんなさいね」

彼の視線が、私の全身を一巡して戻ってくる。程良く長い丈のワンピースとエプロンで、宮殿でお仕えするに相応しい上品さを演出したつもりだ。侍従なので華美になりすぎないよう色使いも質素なモノトーンとし、作業の邪魔にならないよう髪はキャップも兼ねた髪飾りでしっかりとまとめておいた。

「そのようなことはない……よく似合っている」
「ふふ、ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。さ、冷めないうちにどうぞ」

椅子を引いて促せば、さすが王様だけあって腰掛ける動作さえ舞台の一場面のように優雅で洗練されている。今日はカップも普段使っている飾り気のない白一色のものは止めて、新たに街の陶器屋で見繕った繊細で華やかな小花の装飾が惜しみなく施されたものを選択してみた。カップの縁も美しく揺れる彼の髪と同じ金色に彩られ、我ながらよく似合っているものを選べたと思う。

「器もこの為に用意したのか?エリュシオンで使っているものとよく似ているな……」
「あら、それは奇遇ですね……ダオスさんらしい美しく輝きを感じるものを選ばせていただきました」

それなりに彼に似合うものを探したとはいえ、実際に使っているものと似ているなんて言われたら思わず表情が緩んでしまう。やっぱり、彼とは何か不思議な縁で結ばれていると感じずにはいられない。

「お前の気遣いに……感謝する」
「とんでもないです。少しでも故郷に帰ったような気持ちになって、元気になってもらえたら嬉しいなって」

気が付けばお互いの顔に笑みが溢れている。何て穏やかで幸せな時間だろう。たったふたりで全世界を相手に戦いを挑んでいることが、この時ばかりはまるで嘘のようにさえ思えてしまう。

「……そうか。確かにこの星では戦いに次ぐ戦いで身に堪えることは多いが……こうしてお前といると、私もまだ戦えると思えるのだ。ふっ、早く実りを得てエリュシオンに戻らねばな、お前を連れて」
「……私も連れて行ってくださるのですか?」

ふいにダオスさんが立ち上がる。そのままくっと腰を抱き寄せられて、当たり前だろう?と私の大好きな彼の色っぽい低音に耳元をくすぐられるだけで、私の胸はいとも簡単にどきどきと高鳴って、身体がかっと熱くなってしまう。その反応をはじめから予測していたように、そのまま私の頬と輪郭をついばむように軽く軽く口付けられて、甘いくすぐったさに思わず吐息が漏れてしまう。

「私が宮殿について語った時、お前は侍従に嫉妬していただろう?」
「……少しだけ」
「嘘だな。強く妬いていただろうに」
「うっ……」
「嘘付きの侍従は再教育だ」

優しく私の腰を抱いていた彼の腕に、逃さないと言わんばかりの力がぐっと込められる。私を見下ろす青の双眸は既に捕食者の色に染まっている。だめ、そんな目で見つめられたら抵抗なんてできるわけない。

髪をまとめたことで露わになっている耳朶を、彼の熱い舌でちゅるりと舐め上げられて、そのまま甘噛みされる。うっとりした刺激と艶めかしい音だけで、微かに背中がしなってしまう。散々彼に色艶を教え込まれた身体は早くも素直に熱を上げ始めてしまっていた。

「んっ……」
「ふふ、嘘付きな上に主を誘う侍従とは……教育し甲斐がある」
「なっ……誘ったわけじゃ」
「ほう?無自覚というわけか……ならば尚更"躾"が必要だな?」

そのまま舌は私の首筋に降りてきて、そこにもたっぷりの甘い熱を落としていく。今日のワンピースは襟元がスタンドカラーになっていて、彼の普段着ほどではないにしても首元を覆い守ってくれている。けれどそんな薄い布地じゃ彼相手には全く意味をなさなくて、器用に指で留め具を外されてしまえば、簡単に隠れた素肌が冷たい空気に晒されてしまう。

「私専属の侍従が、宮殿にいる他の男まで誘惑するのは気に食わぬのでな」
「そんなことっ……しないです……」

彼以外の男性となんて、と必死に否定したところで彼の手は止まらない。そのままずるりと、肩からワンピースとエプロンが降ろされる。大きく開かれた胸元に彼がその人形のように端正な顔を埋めると、びりっとした鋭い痛みが皮膚の上を走った。私が彼のものだということを示す朱い所有印が、そこにしっかりと刻まれていた。

「ああ、外から見える場所でなければ意味を成さぬな?」
「やっ……隠せないところは駄目っ……」
「侍従は主の命令に従うものだ」

有無を言わさず、肉食獣に捕らえられた鹿のように首の横を押さえられ、顔と首の境目すぐ下――普通の服ではまず隠せないであろう位置――にも朱い花弁は連続して散らされていく。ああ、明日からどうやってこの印を隠せばいいだろう。

「無自覚な誘惑癖のある侍従だ、念を入れて印を刻んでおかねばな?」

そのまま彼の手はするすると、遠慮なく私の胸元にも潜り込んでいく。飾り気のない黒い下着の中に隠れた丸い膨らみを捕らえると、その柔らかさとぬくもりを楽しむように丹念に揉みしだかれて、うっとりするような優しい快感が私を包み込んでいく。そしてもう片方の手で下着の留め具がひとつひとつ役目を解かれていき、守るものがなくなって無防備になった肌にまた、血色の花弁が散っていた。

「ふぁ、あ、んんっ……」

気持ちよくてつい半開きになった唇が、ぐっと灼熱で塞がれた。彼の熱い舌はぐいぐいと割って侵入してきて、私の口の中を掻き回して離れようとしない。くちゅ、と激しくも淫靡な音を立てて混ざり合った唾液が銀色の糸を引いて私の鎖骨をぽとり、またぽとりと飾り立てていく。

「ここには印の代わりに……忘れられぬ記憶を刻んでやろう」

彼の手が、私の下顎をぐいと強引に持ち上げる。強制的に上向きにされたことで力の緩んだ唇を押し開いて、再び彼の赤く熱い舌がねじ込まれる。執拗なまでに私を絡め取っては、吸い上げ、時に唇を甘噛みされる。彼の言葉通り、私に彼を刻み付けるような荒々しいキス。今まで幾度となく彼と口付けを交わしてきたけれど、こんなに激しくて、けれどそれだけで身体の芯が蕩けてしまいそうなキスは初めてだった。口の中をめいっぱい犯してるくせに、私の大好きな、彼の大きくて優しい手は慈しむように私の頭を撫ぜている。結わえてキャップで包んだ部分が崩れないように、ちゃんと場所を選んで指先を這わす気遣いが彼らしくて、そんなところも愛おしい。

口内への入念な愛撫を終えて、その口先は私の控え目な両胸を交互に食んでいる。私を痛がらせないためか、歯を立てないで唇のみで横から胸を咥え込み、柔らかさを堪能するように上下からふにふにと刺激されると、何とも言えない暖かな気持ちよさがある。

「ここはいつも触れられるのが待ち切れないようだな」
「あぅッ、んっ……!」

これまで与えられていた穏やかで優しい快感とは打って変わって、頂から伝わる電流のような激しい刺激に思わず背中が反り返る。快感を待ちわびて身を硬くしていた先端が、爪を立てて摘まれていた。立て続けに口の中で転がされたかと思えば、歯を立てて引っ張られ、緩急をつけた快感の波に呑まれて、びくびくと身体は仰け反り、喉の奥からは絶え間なく声が漏れてしまう。

「主が与えるものを素直に受け入れる……利口な侍従だ」

私の身体全てを愛でるように、ゆっくりとダオスさんの愛撫は私の下へと降りていく。エプロンの紐でキュッと締まった腰を通って、黒色の長いワンピースの裾を少しだけ持ち上げる。そっと優しく、けれど迷いなく中にその腕が入り込むと、ワンピースと同じ黒のガーターに覆われた太ももが描くなだらかな曲線を、熱を帯びた指先がゆっくりとなぞりあげていく。じりじりと甘く焦らすような快感がさざ波のように絶え間なく上って、私の芯は更に熱くなっていく。

「見えない部分は意外と大胆な構造をしているのだな」

ダオスさんの指が、太ももでガーターを留めるベルトをくるくると弄んでいる。確かに男性はガーターなんてまず身に着けないだろうから、新鮮に感じられるのかもしれないけれど。

「これも誘惑のためか?」
「違い、ますっ……!」

ワンピースの裾を押し上げられ、肌が露出した太ももに色を纏った熱い吐息がふっと吹き付けられる。そうして口付けられたかと思えば、今日はもう何度目かの印付けで再び朱い花弁が散る。そんなところ、彼以外に見せるわけないのに……。

「ダオスさん以外にこんな格好して見せたりするものですか……だって」
「……だって?」
「……私がお仕えするのはダオスさんだけですもの」
「そうだ、お前は私専属の侍従だからな」

両腕を頭上でまとめられ、ぐい、と強い力で身体がテーブルに押し倒される。さすが体術使いだけあって細身でも腕の力は相当なもの。私の動きではびくともしない。はしたなく胸を晒しスカートを捲りあげた私を見下ろす青い瞳は、欲に取り憑かれた雄の色をありありと纏っていた。

「……これほどに愛らしい侍従を他の男に渡すわけにはゆかぬ」
「んっ……ふっ……」

甘い口づけをもう一度落とされて、いよいよ身体の中はドキドキと高鳴る心臓から発せられる高熱で今にも溶けてしまいそうだった。愛する人に独占欲を剥き出しにされて、嫌な気持ちになる女なんていない。そう、私は身も心も彼にだけお仕えする、彼専属の侍従だ。

「……ああ、お前のここはいつも用意周到だな?」
「あッ、そこは……!」

いつでも彼を受け入れられるように、なんて言えば聞こえは良いが実際はもう彼が欲しくて我慢できず双丘はびっしょりと濡れそぼってしまっていた。たった一枚の薄布が隔てる上を彼の白くも逞しい指が這い回る。感度の高まったそこを執拗なまでに撫ぜられて、これから起こることへの期待感に腰ががくがくと震えてしまうのを止められない。次から次へと溢れ出る涎のせいで布地はじゅくじゅくと湿り気を増していく。

「こうも湿ったものを身につけ続けるのはさぞ気持ち悪かろう?主の私が直々に取り去ってやろう」
「あっ……」

私の羞恥を煽るように、わざと時間をかけてゆっくりと腰を留める細い紐が引っ張られていく。既にこれだけ痴態を晒しておきながら、やっぱり下着を脱がされる瞬間は何時だって恥ずかしくて、つい顔を逸してしまう。

「愛らしいな、耳まで朱に染めて……初めて見せるわけでもあるまいに」
「ッ……何度だって、恥ずかしいですっ……」

耳元に反響する甘い低音も、今の私には熱を昂ぶらせる快感となって身体の芯を震わせる。彼が言うには恥じらいで真っ赤になっているらしい耳たぶに、唇の先でついばむようなキスを何度も落とされて、もう全身はすっかり彼に囚われているようだ。

「こうして蜜を垂らした姿を見られるのもか?」
「やっ、言わない、でッ……ひぁん!」

自分では解っていても、改めて声に出されると羞恥心でますます下腹部はきゅんと締まってしまう。トロトロと滴る粘液を潤滑剤代わりに、触れるか触れないかの絶妙な、それでいてもどかしいタッチで割れ目をつぅっとなぞり上げられる。焦らされているせいで思考は徐々に快楽を注いでもらうことしか考えられなくなってくる。

「腰がよく動く……それほど私が欲しいか」
「ぅあ……欲しい、ですっ……」
「ふふ、素直なところも愛らしいな」

窪みにひっそりと隠れた敏感な突起を見つけ出され、きゅっと指先で摘まれる。刹那、鋭い快感が火花を散らしながら私の全身を駆け巡る。息を詰まらせ、陸に打ち上げられた魚のように背をばたばたとしならせている私を横目に、続け様に指の腹でくりくりと磨くように突起を擦られて、先程とは比べ物にならない強烈な痛気持ちよさに腰も背中ももう震えが止められない。

「主たるもの、専属の侍従についてならば何でも把握しているものでな……お前はこれが好きだということも」
「え……ぁうッ!」

剥き出しの核を容赦なく捻り上げられて、頭の中にバチンと激しい火花が飛び散る。そのまま押し潰すようにぐりぐりと甘い責め苦に晒されて、身体の芯をジワジワと昇りゆく快楽は、絶頂がもうすぐそこだと示していた。

「うぅ……このまま、じゃ……イッちゃい、ま、す……」
「果ててもよいが……その姿も私によく見せよ」

果てる姿も可憐なのだからな、と頬に口付けを落とされて、堪らず大きく背中がしなった。本当にこの人は私を甘やかすのが上手すぎるのだ。彼の導くまま、自分でも初めて出すような甘ったるい嬌声をあげて、私の意識は快感の大波に飲み込まれていった。

「……少し喉が乾いた。紅茶が欲しい」
「えっ?あ……紅茶……淹れますね……」

唐突なティータイムの要求。絶頂の余韻でまだ痺れの取れていない脳は彼の心理を推察する余裕もなく、言われるがままにティーポットに手を伸ばすことしか考えられない。心臓の鼓動だってまだバクバクといつもより早い速度で私の身体を打ち付けているのだ。一先ず空になっているダオスさんのカップに、ポットの紅茶を注ごうとした、その時。

「ひぁッ!?」
「……ふふ、よく見て注がねば溢れるぞ?」

油断した後ろから、彼の手がするりと臀部を這う。指の先端が、どろどろに蕩けきった私の中にゆっくりと入ってくる。待って、そんなの聞いてない。慌てる私のことなどお構いなしに、ぐにぐにと蠢く指は確実に私の感じる場所を攻めてくる。

「だめ……紅、茶が、溢れ、ちゃいま、すっ……」
「茶を淹れる程度、侍従なら容易かろう?」

抗えない快楽に懸命に耐える私の反応を楽しんでいるのか、ダオスさんはクツクツと笑っている。普段よりひたすら慎重に紅茶をカップへ注いでいくしかない。どうかティーポットだけは落とさないように。けれど彼はそれが面白くないようで、下腹部を走る快感は一層執拗かつ強くなっていく。動きの複雑さからして、指の本数も増やされてしまったようだ。中の気持ち良いところをトントンとノックされる度、身体を支えている両脚は何度も崩れそうになる。紅茶が注がれる音と、私の中が掻き回される淫靡な水音が摩訶不思議な音楽となって部屋の中に響いていた。

「ひぁ……ぅ……紅、茶……どうぞっ……」
「……上出来だ。ああ、お前も喉が乾いているだろう?飲むといい」
「えっ……んンッ!?」

またも唐突なキス。けれど今度は普通のキスではなかった。唇が重なった途端、程よい熱さの液体が、彼の口から私の口内へゆっくりと注がれていく。

「んっ、んぅッ……」

一方的に与えられるまま、注がれたものをひたすら飲み込んでいく。ただの紅茶のはずなのに、まるで媚薬を飲まされているような官能的な感覚。最後まで飲み切ったことを確かめるように彼の舌が私の口の中をひと通り巡って、ようやくその唇から解放された。

「お前の淹れる紅茶はいつも美味だが……今回のものは格別だ」
「ありがとう、ございますっ……」

上からも下からもたっぷりの気持ち良いを注がれて、既に頭はぼうっとしてきている。もし本当に彼専属の侍従になったら、毎日こんなに激しく愛されて……嬉しいけれど身体が持つ自信がない。けれどそれは彼も同じなのかもしれないと思う。だって……すごく熱くて硬いものが、ずっと私のお尻に当たっているのだから。

「腰が揺れて……ふっ、気付いているのだろう?」
「……もちろんですとも」

引き出した椅子の上に彼がドンと座る。

「私の膝の上に乗れ、……そうだ、朱い顔がよく見えて良いな。ほら……手で隠すでない」

欲で蕩けた表情を見られるのが恥ずかしくて顔をずっと覆っていた手を握られ、ちゅっ、と甘い音を立てて指先に啄むような優しいキスを幾度となく落とされる。舞踏会に訪れた貴婦人にするような、紳士的でロマンチックなキス。そしてそのまま覆いを解かれてしまったら、何もかもが彼の前にさらけ出されてしまう。

「ああ、実に愛らしいな……これ以上我慢できそうにない」

ぎゅっと腰を寄せられて、熱い熱い欲を溜め込んだ彼自身が押し当てられる。耳にかかる彼の吐息も強い熱を帯びていた。お互い、もう限界が近付いているようだ。

「お薬は後で飲みますから……私の中で気持ち良くなってくださいねっ……」

硬くそそり勃つそれを、自ら位置を合わせて中へ飲み込ませていく。思い返せば、彼と初めて交わった日はその立派さにはひどく驚かされたものだ。実際、あまりの大きさにその時は飲み込ませるだけでも一苦労だったけれど、気付けばすっかり私の中は彼に躾けられて、こうして根元までしっかり咥え込めるようになってしまった。

「熱くて大きくて……お腹がいっぱい、です……」
「……痛みはないか?相変わらずお前の中は……この私を酷く狂わせる」

少し身体を動かすだけで、豊かな湿り気を帯びた結合部からくちゅくちゅと淫らな音が響いて、それがふたりの熱を更に昂ぶらせる。皮膚と皮膚が密に絡み合って生み出される甘美な刺激に堪らず腰をくねらせれば、彼の喉元からもくぐもった声が微かに漏れた。ゆっくりと、腰を上下に動かしていく。けれど最高潮まで高まった興奮のせいでそれはあっという間にペースを上げて、私の子宮口は彼の猛烈な怒張の先端に何度も突き上げられていた。

「ぁうッ、奥に当たっ、て」
「……気持ち良かろう?」
「はぃ……ぁッ……とっても、気持ちぃ……」

与えられる快感に耐えなければと彼の背に回した腕にぎゅっと力が入って、ふたりの上半身がぴたりと密着する。さすがに彼も興奮と運動のせいか身体が熱い。下から私を穿く律動が激しさを増す度、中の膨らみは灼熱を纏ってぐりぐりと敏感な粘膜を擦り上げ、その快楽は今にも果ててしまいそうな私を一思いに飲み込もうと襲いかかってくる。

「我慢せずとも果ててよいのだぞ?」
「それ、はっ、だめ……一緒がいい、ですッ……」
「ふっ……全く、お前らしいッ」

熱を帯びた彼の吐息がとうの昔に荒ぶっていることくらい知っている。お先にどうぞ、なんて言えるほど余裕もないだろうに、そう振る舞うのは王であるというプライドからなのだろうか。けれど余裕がないのは私も同じだ。上り詰めた先で私たちを迎え入れてくれる極上の楽園。早くふたりで、堕ちてしまいたかった。

彼がもっともっと気持ち良くなれるように、限界まで膨らみ満たされた中をきゅっと締め上げる。今度は私が生み出した快楽が、彼の口から熱を帯びた甘い吐息を溢れさせる。その事実に至上の喜びを感じながら、更に追い打ちをかけていく。果たして躾けられているのは私か、それとも彼なのか。私だって、こんなに愛らしい主人を他の女に取られてたまるものか。

「くッ……!」
「私もっ……うぅ!」

私の中が、ゆっくりと広がる熱で侵略されていく。抜かりなく全てを満たし尽くされて、そして彼が外に出るのと同時に、白く濁ったそれはとろりと私の太腿を伝っていく。実に官能的な光景だった。


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「……言っておくが、私には贔屓の侍従などいない」
「えっ、そうなんですか……?」

美しさも強さも優しさも兼ね備えた王様に専属の侍従がいないなんてにわかに信じ難いけれど、彼が嘘を付く理由もないだろう。

「とても意外……ダオスさんのように魅力的な方なら好みの侍従さんを選び放題でしょうに」
「魅力的かどうかなど知らぬが、興味がなかったのでな。だが」

彼の腰に回していた私の手が取られて、再び指先に甘いキスがちゅっ、と音を立てて落とされる。

「初めて専属の侍従が欲しいと思えた。こうも愛らしい侍従が他の者に仕えるなど……我慢ならぬ」

私を見つめる青の眼差しは深い深い情愛に満ち溢れていて、それでいて奥底には……雄の色が確かに潜んでいた。

「私で良ければ喜んで……お仕えさせてくださいな」

握ってくれた温かくて大きな手をそっと握り返して、今度は私から、お伽話で騎士が主に誓いを立てる時にするようなキスを彼の手の甲へ返す。この命が尽きるまで、身も心も全て彼に捧げるという、私から彼への誓いを込めて。

「どうかずっとお傍に置いてくださいね」

当然だ、と彼は微笑んでくれて、私たちはもう一度、互いを求めるように深い口付けを交わしたのだった。


---END---


愛する人にはいつも笑っていてほしいから。
主と侍従、という関係性はそれだけで萌える。

Good!(お気に召されたら是非…!)

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