+ Meteor +



**ジャック・オ・ランタンに願いを込めて**

朝も晩もすっかり冷え込むようになって、肌で冬の足音を感じられる。もうすぐハロウィンだ。ダオスさんはアセリアの季節行事になんて一切興味は無いだろうけれど、ハロウィンで飾られるカボチャのジャック・オ・ランタンは魔除けなのだという。ならばこの城にも飾って、魔除けの効果にあやかってもいいじゃないか。そう考えてアルヴァニスタの市場で手に入れた大きなカボチャをせっせと自分でくり抜いて、手作りのこのランタンが出来上がったというわけだ。凛とした真っ直ぐな眼差しに優しさが垣間見える顔つきのカボチャ、誰かに似ているような気がするのはきっと気のせい。

城の入り口に天井からさっとロープを巡らせて、ランタンを吊るす。入り口の構造上、どうしても梯子を不安定な場所に掛けざるを得なかった。こんなことで怪我をしたらきっと怒られる……落ちないようにと気を付けながら作業を進めていく。たったひとつのカボチャでも、醸し出す雰囲気は十分ハロウィンらしい。あまり派手に装飾するのは彼の好みではないから、これくらいが丁度いいのだ。

、姿を見掛けぬと思えば……何をしているのだ?」
「あ、ダオスさんっ」

梯子の上で黙々と作業をしていたから、彼が来ていたことに気付くのが遅れてしまった。床を軽く蹴るだけで、優雅にふわりとマントを靡かせたダオスさんはカボチャの吊るされた高さまであっという間に浮き上がる。これも彼の得意な魔術のひとつなのだと思うけれど、空間転移術と同じくらい便利に違いない。どうすれば宙に浮けるのか、今度訊ねてみたいくらいだ。

「アセリアには"ハロウィン"というお祭りがあるんです。数日前からこうしてカボチャのランタンを飾って、お祭りの当日になると仮装をした子どもたちが家々を回ってお菓子をもらうんです。お菓子をくれない家には悪戯をするんですよ」
「ほう……そういえばカーラーンにも似たような祭事があるな」
「あら、そうなんですか?」

ダオスさんの故郷にもハロウィンに似た行事があるなんて意外だ。よく考えてみれば、大樹の株分けでデリス・カーラーンとアセリアの間には繋がりがあるのだから、似た文化や風習があってもおかしくはないのかもしれない。

「このカボチャはアセリアでは"ジャック・オ・ランタン"って言うんです。悪い精霊から家を守ってくれる魔除けなんですよ。それに幸せを呼び込んでもくれるんです」
「その話は初耳だ……カボチャでランタンを作るとはな」
「ここにこうして吊るしておけばきっと悪い気を遠ざけてくれますよ。それに幸せを呼び込むなら……ダオスさんの夢が早く叶うといいなって」
「ふっ、まじないなどに頼らずとも必ずや実りは手に入れてみせる。だが……験を担ぐのも悪くはあるまい」

初めて見るというジャック・オ・ランタンは彼にとって物珍しいようで、手に取って回したり、中を覗き込んでいる姿はまるで少年のようで可愛らしい。彼の手の中で揺れるカボチャが少しだけ微笑んだ気がする。きっとその夢は叶う、と教えてくれているのだろうか。そうだと良い。

「ふふ、そういえばダオスさんも小さい頃は仮装して宮殿の侍従さんや執事さんにお菓子をおねだりしてたんですか?」

よく買い出しに訪れるアルヴァニスタでは、ハロウィン当日は大勢の仮装した子どもたちで大賑わいになるのだ。大きな帽子を被って魔法使いの仮装をして、お菓子をねだる小さくてあどけない彼を想像すると、あまりの可愛さについ口元が弛んでしまう。

「何を想像している……私は王だ、そんな戯れはせぬ」
「そうなんですか……ざんね、んっ」

可愛らしい小さな王様にお菓子をねだられたら、きっと幾らでもお菓子を渡してしまうだろうな、なんて考えていたら急にぐらりと身体が揺れる。飾り付けを終えて少し気が緩んでしまったようだ。咄嗟に伸ばした手で何とか梯子を掴めたけれど、それより先に背中が暖かいものでしっかりと支えられていた。

、大丈夫か?」
「あっ……ありがとうございます……」
「ふん……妙なものを想像するからだ」
「……だって可愛らしいんですもの。小さなダオスさんが一生懸命お菓子をおねだりする姿」

おねだりされたら絶対に断れないですね、なんて笑っていたから、ぷいとそっぽを向いていたダオスさんが急に腕をとってくるなんて予想もしていなかった。彼の意図が理解できないまま、一方的に手も身体も梯子から外されて、空中で彼の引き締まった腕に抱えられてしまう。

「ではハロウィンとやらの菓子を私もお前に要求するとしよう。この腕の中にある、甘い菓子をな」
「え、ちょっと、待って……」

密着した互いの身体が眩いマナの光で包まれていく。それはダオスさんお得意の空間転移術が発動していることを意味していた。今さら逃げることは許さない、と言わんばかりに強い力で抱えられて、悔しいけれど今回は彼の勝利だ。

「私にねだられたら断れぬ……そう言ったのはお前だろう?」


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しんと静まり返った城の大玄関ホールに、ぽつんとジャック・オ・ランタンが笑っていた。魔を祓い幸運を呼び寄せる為に生まれた彼は早速ひとつ、幸せを呼び込んだらしい――


---END---


クレストリアでもハロウィンイベント来ましたね!
クレス君とミントさんのP勢が出るので頑張って走りたい。
ダオスは季節イベントなぞ全く無縁そうですが…
デリス・カーラーンにも実は似たような行事があったらいいな、という妄想。

Good!(お気に召されたら是非…!)

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