お仕置き
| ゚Д゚)ノ 氏



子供だ子供だと思っていた相手に、思わぬ諭され方をした。
彼女と出会うまでに数々渡り歩いてきた女性たちから、幾度となく聞かされた出題。
この世にこれ以上の愚問はなく、それをあえて問うなど、女とは愚かなものだと思っていた。
そう思った自分もまた愚かだった。若気の至りとはいえ、浅はかとしか言い様がない。
彼女達はただ不安だったんだろう、愚問と知りつつ問わずにいられないくらい。
それに思い至れず、思い遣れず、相手を愚かと見下した己の愚かさが呪わしい。
嘘でいいから「君の方が大事だ」と答える、その言葉だけで満足だったんだろう。

「……どっちも特別ということは、私も君にとって特別なんだな」
「当たり前だろ! でなきゃ、こんなこと許すわけない」
「嬉しいよ、昔からいつも君は、妹のことばかり気にかけていたから」
「あ、あんたのことだって、一応は気にしてるんだけどな、これでも」
「そうなのか?」
「なんかさ、軍人って、その、こ、恋人との時間が? 一番の、い、癒し? なんだろ?」
「それは軍人に限らないよ、恋人がいれば当然、君はそうじゃないのかい?」
「いや、その、それはそうなんだけど、あの……いつもはさせないだろ、俺」
「何を?」
「あれだよあれ、……俺もさ、わかってんだ」
「?」
「会うたびに抱かれるべきだって、わかってんだよ、でも飽きられたらって思ったら」
「飽きるわけがないだろうに」
「わかんないじゃん、わかんないだろ、そんなこと」
扇情的な格好で、幼子のようにぶーと膨れてみせる。
性欲とはまた違う本能的な感覚で、そんな彼女をとても愛らしいと思った。
飽きたりしないと言葉にしてやることは簡単だが、それで今の彼女が納得するか。
神にだろうが天にだろうが誓ってみせてもいいが、納得させるのは難しそうだ。
「飽きない」と行動で示すのは困難だが、「愛しい」と伝えるのは左程でもない。
彼女の額に軽く口付け、頬に頬をすりすりと寄せると、髭が痛いと怒られる。
構わず首から胸へと舐めながら移動、時々跡が残らない程度に噛む。
日頃からないないとからかっている胸でも、直に触れればやはり柔らかく、適度に弾む。
ここにも頬と唇をすり寄せて味わっていると、痛いと言いつつ楽し気に笑う。
犬や猫がするように、ひたすら甘えるように舌を動かして肌を堪能した。
笑い声が、やがて艶めいてきた。さっそく唇の動きをそういう愛撫に変え、指も添える。

「あぁ、あ、や、やだ、もう……」
「もう、何だい?」
「充分、だから、あっ は、早く」
「早く?」
「抱けって! 早く!」
「だから、そんな色気のない言い方じゃ聞けないんだよ」
「……やだ、言えない……」
「私のことを好きかい? 好きなら言えると思わないか?」
「すっ そっ そりゃ好きだけど、いや、でも、それとこれとは話がまったく別」
「ああ、そうか、まだ似合わないから言えないんだね」
「え、何が? って、あっ、や、やだ、やだっ! ああぁっ!」

舌と指で存分に、彼女の弱いところを弄ぶ。感度良好、いい乱れぶりだ。
もう準備は万端だと告げるだけあって、面白いほどに感じてくれる。
既に尻から内股はおろか下のシーツまで、ぬらぬらと粘り着いて独特の匂いを放つ。
これを嫌がる男もいるようだが、自分にとっては強力な起爆剤となる。
彼女の股に顔を突っ込んで、舌を盛んに動かしながら、時おり匂いを嗅ぐ。
繰り返し繰り返し、執拗にこれを続ける内に、何度か愛液が飛んできて喉元を濡らした。
そろそろかと顔を上げてみると、彼女はいい具合に仕上がっていた。
ベッドを降りて机に向かい、置いておいた口紅と、新たに手鏡を取り出して戻る。
まだ荒い呼吸をする彼女の顎を上向かせ、くり出した口紅でそっと唇をなぞった。
手で顔に張り付いた髪をすいてやりながら、手鏡を目の前に差し出して見せる。

「ほら、見てごらん、似合うようになった」
「あ……」
「こういう色はね、淑女には似合わない、付ける者を選ぶ色だ」
「……」
「こんな赤が似合う女は、娼婦くらいだ」
「しょ……!」
「そうやって紅潮した顔で、潤んだ目で、赤い唇で、男を誘うのが生業の、ね」
「娼婦って、そんな、俺、そんな女じゃない」
「ああ、君は私の専属だから、誘うのは私だけでいい」
「だから! 誘ったりなんか……!」
「何を言うんだ、鏡を見てごらん、明から様に誘っているじゃないか、私を」
「なっ 何を根拠に」
「全部言おうか? まずその目、そんなに潤ませて悩ましい限りだ」
「あんたのせいだろ」
「唇は真っ赤だし、胸を突き出して、乳首は程よく立ち上がっているね」
「口紅はあんたが塗ったんだし、胸は両手がこんなんなってるからだ」
「そして何より、脚をこんなに開いて、こんなに濡れているところを見せつけて」
「だから、全部あんたがそうさせたんだろ!」
「そうだとも、だから言ってるだろう? 君もその気になりなさい」
「………………そんなに言って欲しいのか?」
「言って欲しいね」
彼女の目が、また妖しい光を帯びる。戸惑いはあるようだが、その気になってきたらしい。
赤い唇に口付けると薄く開き、舌先がちろりと覗くので、舐めて応える。
浅く短く、何度も吸っては離す。その間にも乳房を両手で揉み続けてやる。
乳房を揉んだところで快感は得られないんだと、以前に言われたことがあるが。
これ以上に「女」を自覚させられる行為はない、とも言われた。
明確な快感を与えないよう乳首は刺激せず、乳房を揉み続ける。

「ロイ……欲しい?」
「ああ、言って欲しいね」
「じゃなくて、欲しい? 俺が」
「ああ、もちろん、君が欲しい」
「じゃあ塗って、もう一回、口紅」

その辺に転がっていた口紅を拾って、もう一度彼女の唇をなぞる。
塗り終えて口紅が唇から離れた瞬間、彼女は驚くほど妖艶に笑ってみせた。
さっきまで恥ずかし気に身を捩っていたのが嘘の様だ。
彼女がどの程度、娼婦というものを理解しているのかは謎だが、まるでそのものだった。
恐るべき体現能力、それとも女とはこうも瞬時に男を誘えるものなのか。
思わず、ごくりと生唾を飲み込んでしまった音を聞かれただろうか。

「欲しいな、俺も、あんたが」
「そうかい?」
「うん、…………入れて、ここに、ね?」
「え? 何だい? よく聞こえなかった」
「入れて、ロイ、あんたが欲しい」
「いいとも、好きなだけあげよう」
「ほんと? 嬉しい」
彼女は手を広げて、迎え入れる体勢を取る。手の動きに合わせて、脚も開いた。
布を解こうかと聞いたが、そのまま抱かれてみたいと言うので、そのままにする。
てきる限り素早く避妊具を装着する。どんなに熱に浮かされていたとしても、これは忘れない。
脚の間に入って、自分のものをそこにあてがう。先で花芯を弄ると軽く乱れた。
ゆっくり押し入っていく。ぬかるみを進む音が、耳にも卑猥に届く。
入っていくだけで感じるのか、挿入の動きに合わせて少しずつ声が漏れ出る。
そして全部を収めると、ゆっくり抜き差しを開始した。

「あぅっ! あ、あぁん! はぁん、あっ、あ、いっ、いい」
「気持ちいいかい?」
「うん、あっ あぁっ ロ、ロイ、もっと、もっと、きてぇ」
「ふ……、そんなにいいのか?」
「いい、いい、あっ ロイ、好き、好き、だから、あぁん! 好き、だから……っ!」
「私も、好きだよ」
「だから、心配、で、眠れないことも、んん、あ、ある、だから、」
「何も、そんなに心配することなんか、ない」
「嘘、っあ! あうっ 命、狙われてる って、言った!」
「それは……まあ、軍人は、仕方ない」
「だから! はぁ、あ、だからっ 側にいる、俺が、守る、だから……っ!」
「君が好きだ、だから、軍になど、入れるものか」
「ああぁ! あん、あぅっ あ、も、もう、い、いくぅ ああぁっ!」
「いきなさい、いくらでも ……愛してるよ」
彼女の体が強張り、中は強く蠢く。やがて弛緩した後も、くわえ込んだものを離そうとしない。
荒い呼吸に緩やかな丘陵を描く胸が上下しているのを眺める。
こちらはまだ達していたいが、今は彼女を休ませないと後で泣かれつつ、殴られるか蹴られる。
だが、体勢を整え直して思うままに責め始めた。これはお仕置きだから。
私の気持ちを理解しながら、それでも軍に入ると言ってきかないことに対する。

「あぅっ! あっ、や、やだ、だめっ!」
「軍に入ることを諦めるか?」
「それもいやだ! あぁっ、あ、だめ、やだぁ……」
「知っているか? 捕虜となった女が、どんな目に合うか」
「し……知って、る……あぁぅ、あ、やだ、苦し……」
「いや、知らないよ、君は」
「やだ、やだ……はぁ、あ、やめて……あぁ、あ、あう……」
「何人もに、何度でも、犯されるんだ、拷問として」
「んん、あ、はぁ、い、いや……」
「まだまだ、こんなものではないよ」
「あっ、あうぅ、やだ、やめてぇ……苦し、苦しいよぉ」
「男共が入れ替わり立ち替わり、こうして君を犯す」
「は、はぁ、あ、あぁう、……やだ、やだぁ……」
「これくらいで根を上げるようでは、とても軍入りなど、できないね」
「はぁ、あ、あっ、も、もういや、いやぁ」
「せいぜい2、3人に犯された程度で、機密事項を喋りそうだ」
「……喋ら、ない、絶対、喋らないから……!」
「許さないよ、軍入りなんか、これはお仕置きだ」
「許し、て……あぁっ、あ、だめ、いやっ、い…………っ…………ぁ、はぁ」
彼女の最後は悲鳴さえ上げられず、ただ体をひどく強張らせ、歯を食いしばっていた。
激しい締め付けに耐えられず、中に吐き出してしまう。
何度か腰を動かして最後まで出し切ってから、ゆっくり引き抜くと、湿った音を立てた。
彼女は意識が飛んでいるようなので、まず自分の事後処理を済ませる。
だるい。できることなら、あっさりこのまま眠ってしまいたい。
体はそう訴えるが、この機会に彼女を説得して、何か別の職に就くよう促さなければ。
今は平和なこの国も、いつどうなるか知れたものではない。
もちろん平和を維持するために、できるだけのことはする。だが、軍人になど。
妹が弄くっただけで腹立たしいのに、捕虜として見知らぬ男に陵辱されるかもしれない、など。
想像しただけで卒倒しそうになる。血圧が上がる、心臓に悪い、動悸がする。
横たわる彼女を、そんな思いで見つめていると、ゆっくり目を開けてこちらを見た。

「あんただって、知らないだろ」
「何を?」
「待ってるだけしかできない歯がゆさを」
「……」
「あんたが強いのは知ってる、殺したって死にそうにないのも知ってる」
「おいおい」
「でも! 心配なんだ、怪我してることもあるし、敵はひとりじゃないんだろ?」
「私も、独りではないよ」
「それでも、何もできないのは嫌だ、待ってるだけなんて無理だ」
「君にできるのは、待つことだけか?」
「軍の外に居たんじゃ、できることはそれだけだろ!」
「グレイシアのように、安心して帰れる場所を守ってくれたら、それが一番いい」
「あんたが帰るまで待てって? それで母さんみたいに死んじゃったら……どうするんだよ」
「……」
「そしたら、あんた後悔しない? 親父みたいに、側に居られなかったって」
「それは……」
「俺は後悔する! 這ってでも側に行けば良かったって思う! だから、側にいる」
「軍に入るのは絶対許さん」
「俺の知らないところで俺の知らない風にあんたが死ぬのは、絶対許さない」
「殺しても死なないと言ったのは、君だろう」
「俺だって、犯れるもんなら犯ってみろ、二度と勃たなくしてやるから」

確かに、彼女を無理やり犯そうという場合、一個師団を引っぱり出しても可能かどうか。
弱点を付いて、妹を人質に? そっちの方が、さらに困難を極めそうだ。
大人しく捕虜になどなりそうもないが、心配なものは心配だ。
嘘でいいから、軍には入らないと言ってくれれば安心…………できない。
明らかに嘘とわかる嘘を吐かれて、満足などできるはずがない。
これまでの遍歴に残る女性たちに、そういう嘘を吐かなかったことを、少し誇っていいだろうか。

「……現在、我が国では職業選択の自由が保証されている、好きにしなさい」
「ほんと? じゃ、試験受けていい?」
「君が試験を受けるのは自由だ、それについては何も言わないよ」
「ん? それについては?」
「そういえば、女性の制服はミニスカートになる可能性があるわけだが、いいんだね?」
「み、ミニ……?」
「私の権限で、君にはミニスカートに下着なしで過ごしてもらうかもしれないが、それでも?」
「変態! 変態変態! ど変態! 誰がそんなとこで働くか! って、あ……」
「そう、上司の命令は絶対だ、君には辛い職場だよ」

むぅっと膨れ上がった彼女の頬を撫でる。諦めてくれただろうか。
損ねた機嫌を直してもらうため、手足を繋いでいた布を解いて、跡をさすった。
柔らかい布で縛っていたとはいえ、赤くなっている。風呂でしみるかもしれない。
まったく。もう少し、素直で従順で大人しく淑やかなら、お仕置きなど必要ないのに。
そんな彼女に魅力を感じるかどうかは、また別の次元の問題で。
「とにかく、言ったよな、試験受けてもいいって」
「諦めてないか、……好きにしなさい」
「よーし、見てろよ! 必ず合格するからな!」
「一応言っておくが、そうまでして入るような職場ではないよ」
「あんたが居なきゃ入らねーよ、当たり前じゃん」
「くれぐれも、仕事を増やさないように」
「大丈夫だって、自信あるし!」
「何のだ…………、まあ、君なら合格するだろう」
「だろ?」
「君が、その選択を後悔しないことを祈っているよ」
「しないよ、後悔しないために俺は軍に入るんだから」
「だといいが」
「それに、戦争さえなけりゃ別に軍人やってても嫌じゃないと思う」
「……まあな」
「だったら、戦争しない政務をしてくれよ、あんたならできるだろ?」
「簡単に言ってくれるね」
「頑張ろうな、これから」
「やれやれ、結婚したところで今となんら変わりないだろうに、そんなにしたいのかい?」
「…………なあ、お仕置きが必要なのって、俺じゃなくて、あんたじゃないか?」

何のことか聞き返す間もなく、視界がぐるりと回った。天井が見える。
状況が掴み切れてないうちに、やや座った目をした彼女の顔が視界に入ってきた。
怒らせるようなことを言ったつもりはないが、何が気に入らなかったのやら。
体の上にのしのし乗ってきて、腹の上に座られた。いくら軽くても、やはり息苦しい。
これが彼女のお仕置きなのか? いや、それより何故、お仕置きされねばならないのか。
彼女はいつの間にか例の口紅を手にして、鏡も見ずに自身の唇に塗った。
ベッドの隅にそれを放り、両手を私の胸に押さえるようにあてて、顔を覗き込んでくる。
「あんたがそういう温い心構えでいるから、進展しないんだよ」
「いや、進展と言ってもだな」
「結婚してるのとしてないのとじゃ、全然ちがうだろバカ! 鈍感! 無能!」
「無能は今は関係ないだろう」
「今日こそ泊まっていってもらう! 足腰立たなくしてやるから覚悟しろ!」
「それは君の方だ」
「うるさい! 吸い尽くして絞り切ってやるからな!」
「……もう少し色っぽい表現で頼むよ……」
「えー? うー、そうだな、えっと、あ、朝まで一緒にいて ……で、どう?」







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