『 さくらんぼ 』 7p
幸子を見た瞬間、すっと足の力が抜けて俺はその場に急降下した
そして、痛みが波のように襲ってきた
「いっ!!いってぇええええ!!ちくっしょおおお!!幸子お!てめえ!!」
刺された方の足を手で押さえていたら、幸子の手が近寄り刺さったままの包丁を引っこ抜いた
「いってーーー!!!」
また激しい痛みが俺を襲った
そして、次の瞬間、今度はもう片方の太ももに包丁が突き刺された
次に肩
幸子は立て続けに俺を襲った
「ぎゃああああーーーー!!」
俺は悲鳴をあげ、幸子の手や服は血まみれになった
あちこち刺されて立ち上がる事が出来なくなった俺は、その場でのた打ち回った
激しい痛みと、幸子への怒り
言葉に出来ない俺は唸り声を上げた
今度は逆に幸子が俺を見下げるように、俺の頭の上に立ちすくんでいた
「ター君。私もう後戻り出来ないよ。私ずっとあなたを信じていたの。愛していたの」
幸子はそう言うと、クルリと背を向けて部屋に入っていきステレオの音のボリュームをあげた
“ そういや ヒドイコトもされたし
ヒドイコトも言ったし
中身がいっぱいつまった 甘い甘いものです ”
『さくらんぼ』の曲が爆音になって部屋中に響いた
幸子はまた戻ってきて、俺の両脇を掴んでズルズルと俺を引きずり始めた
道しるべみたいに、俺の血が部屋の中にひかれていく
「や・・・やめろ・・・幸子・・・何するんだ・・・」
そんな俺の声は、音楽にかき消されて幸子に聞こえるわけもない
どうにかして、この場を切り抜けなければ・・・
嘘でもいいから、「俺も愛してる」って言おう。そうだ、そうやってこいつを落ち着けさせれば・・・・
「さっ!幸子ぉ!俺もお前を愛してるよ!本当だ。本当だよ!」
俺は出来るだけデカイ声で幸子に向かって叫んだ
その声は幸子にも聞こえたみたで、ニヤアと笑い、俺の目の前まで顔を近づけた
「嬉しい。ター君嬉しい。私もよ、私ももちろん愛してるよ。私達愛し合ってるね」
「あぁ、そうだ。そうだよ。愛してるよ。だから何もしないでくれ。頼むよ・・・頼むよ・・・・」
窓際に連れていかれた血まみれの俺は、泣きながら幸子の機嫌をとろうと必死になった
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