『 さくらんぼ 』      6p



幸子は床に座りこんだまま、俺を見上げた

クシャクシャで乱れたままの髪は、洗ってないのか、ベタリとした不潔な感じがする
化粧をしていた跡は残ってるが、ほぼ落ちてすっぴんに近い顔だ
マスカラが目の下について、パンダみたいに黒く滲んでいる
顔色は青白い。唇も色が無い
服もヨレヨレだ。シワだらけのTシャツと安っぽいジーンズ

ひどく貧相な幸子がそこに居た

俺と会っていた頃の幸子とは全然違う
あの時の幸子はもう少しマトモだった
今、目の前にいる幸子は年齢よりもずっと老けて見える


そうだ、老婆だ!!


まさに、老婆って感じだ!!


あまりの気持ち悪さに、俺は口が聞けないでいた

代わりに幸子が先に口を開いた

「ター君。全然連絡くれないから、私心配でずっとここで待っていたの。1週間何してたの?」

ここで待ってて・・・・・

それを聞いた時、今まで引いていた全身の血が一気に頭に押し寄せてきた
カァッっと顔が熱くなった

「なんなんだよ!てめぇーわよぉ!どーやってここ入ったんだよ!なんで俺のアパート知ってんだよ!」

そう言いながら、幸子の胸元をつかんで立ち上がらせ、おもいっきり再度突き飛ばした

幸子はまたゴロゴロと転がった

「ごっ・・ごめん。あのね、不動産屋さんに母親です。って嘘ついて鍵開けてもらったの・・・
 場所がわかった理由はね、1回だけター君にこの近所連れてきてもらった事あるでしょう?
 ほら・・・忘れ物したとか言ってアパートに取りに戻ったじゃない・・・・
 あの時、車はアパートの近くに止めなかったけど・・・でも、この付近覚えていたから・・・
 探せば見つかるかなぁ・・て思って自分で探したの。そしたら、アパートにター君が乗っていたバイクがあったから・・・それで・・・
 ここだってわかって・・・・」

「・・・で、この間待ち伏せしてた時・・・・ずっとああやって何時間も立ってたのかよ?」

「う・・・うん・・・・」

「それで、なんでこの部屋だってわかったんだよ。表札ねぇし。俺お前に本名言ってないのに」

「ごめん・・・あの・・・運転免許・・・以前に見ちゃって・・・名前本当かどうか知りたくて・・・
 やっぱり嘘だってわかってちょっとショックだったけど・・・それで不動産屋に名前言って・・・鍵もらったの・・・」

「てめぇ・・・それ犯罪だぞ。わかってんのかよ」

「ごめん。ごめんね!でも、でも!全然連絡くれないからっ!私寂しくって!」

「うるせぇっ!俺はてめぇの事なんて少しも想ってねぇよ!ウザイんだよ!キモイんだよ!」

「ごめんね。ごめんね!!」

「出てけっ!今すぐ出てけっ!てめぇとはとっくに終わってんだよ!出てけよ、くそババァ!」

「出来ないよっ!私もう1週間も家出してるし、仕事も無断欠勤してるし、お金だって全部無いのよぉー!!ター君だけなのぉおお!!!」

「知るかっ!!てめぇの生活がどうなろうと知るかっ!とにかく俺にもう近寄るなっ!
 てめぇはただの金づるだったんだよっ!好きでもなんでもねーよ!自惚れんなババァッ!!」



ドスッ



突然、俺の太ももに何かが突き刺さった


熱い熱い熱い


急に太ももが熱くなっていく


な・・・・なにが・・・起こったんだ・・・・


俺は恐る恐るふとももを見ると、包丁がまっすぐに俺の足に突き刺さっていた
そこから、真っ赤な血がドクドクと溢れ出ている


幸子が震えながら俺の足元にいた






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