『 さくらんぼ 』 5p
それから1週間
俺はなんとなくアパートの前にずっと幸子がいそうな気がして
シンジの所へ転がり込んでいた
「なんだよ。あのオバンが怖いのか?結構ヘタレだなお前」
そう言ってシンジは笑った
「お前は見てないから言えるんだよ。あの顔・・・あれ普通じゃないぜ・・・」
俺はアパートの前で待ち伏せされてた幸子の顔を思い出す度にぞっとした
1週間、俺が姿を消していれば
いくらんなんでも諦めてくれるかも・・・と俺は期待して姿をくらませた
思春期の若い子供の恋じゃあるまいし
いい歳した大人で、しかも人妻なんだから、いくらなんでもそろそろ脈が無い事に気づいてくれるだろう
俺はこのまま自然消滅してくれる事を願い、1週間シンジの所で過ごした
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しかし、いつまでもこうしている訳にもいかず
意を決して俺はアパートに戻る事にした
シンジには、例のダミーの彼女の事を頼み承諾を得た
アパートに恐る恐る近づいてみると・・・
よかった・・・幸子らしき人物はいない
俺は1週間ぶりに自分の部屋のドアをひねった
!!!!・・・開いている・・・!!!!
まさか泥棒?俺はちゃんと鍵を閉めておいたはずだ!!
なんだか悪い胸騒ぎがしてきた
俺はドアノブを掴んだまま立ちすくんだ
自分の部屋なのに、開けたくない気持ちでいっぱいだ
嫌な胸騒ぎは俺の脈拍を早めた
ドアノブを持つ手のひらにじっとりと汗が浮き上がってくる
その内に、部屋から何か音楽が聞こえてきた
聞こえる
この曲は・・・・
“ 笑顔咲ク 君ととながってたい ”
・・・これは『さくらんぼ』じゃないか。すると・・・その曲をかけている人間がいるんだな・・・
そいつは・・・そいつは・・・やっぱり・・・・
俺はギュウと手に力を込めて、思い切ってドアを引いた
「おかえりなさいっ!!!」
突然、【何か】が俺に抱きついて来た
おもわず俺は「わあああっ!!」と悲鳴をあげ、抱きついて来た【何か】を突き飛ばした
その【何か】は、ゴロンと床に転がった
俺の心臓が口から出そうなくらいに早く動いている
俺は肩で息をする
玄関に立つすくむ俺の足元で、さっき転がった【何か】がモゾモゾと動いた
それは・・・・・・・
やはり、幸子だった
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