「て・・・転勤って・・・・いつ?いつ行くんですか?!」
思わず、代官の上着の袖をギュウと握り、声を荒げて問い詰めた
「明日だ。今宵でこの町とは最後だ」
「そっ・・・・そんなぁ・・・・・」
越後屋の首は、ガクウと深くうな垂れた
やっとこうして、この人の傍に居る事が出来たのに・・・
3ヶ月間待って、待って、待ちぬいて、やっと話せたのに・・・
それが、別れの挨拶だったなんて・・・
胸で沸いた感情が、頭の先へ一気に駆け抜けた
爆発するような激しい感情に襲われた後
越後屋は、全身で代官に抱きついた
「そんなあ!あんまりです!ひどいです!
この三月(みつき)の間、あなたをどれ程慕い、お待ち申した事でしょう!
散々焦らされた挙句、この別れですか?!あんまりです!あんまりです!」
越後屋は、大声でオンオンと泣いた
彼の大きな顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった
代官は自分の首に回された越後屋の手をそっと外し
その手を両手で包み込むように、握った
「私は取引として関係した男とは、1回きりの仲にする事に決めてある
だから、おぬしともあれっきりにしたのだ
しかし、あれから・・・おぬしの事が忘れられなかった
正直おぬしから、誘われる度に気持ちが揺れた
しかし・・・これ以上深入りするのが怖かったのだ
今までこのような感情になった事が無かったからだ・・・・」
越後屋は涙が止まり、代官の言葉を静かに聞いた
「本当ならこのまま会わずに行こうと思った
しかし・・・・今宵、偶然おぬしと出会って・・・・咄嗟にああ言ってしまった」
「お・・・お代官様・・・・・」
「私の名は杉田という、名前で呼んでくれればよい」
「す!杉田様あ!」
再度、越後屋は代官に抱きついた
代官もそれに答えるように、越後屋をきつく抱きしめた
二人の想いは一緒だった
二人はきつく抱き合い、どちらかともなく唇を重ねあわせた
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