「この土手に降りよう」
突然、代官が歩みを止めた
そして、橋のたもとの土手に降り始めた
夜なので、当然だがあたりは真っ暗だ
二人とも、手元の提灯の灯りだけを頼りに土手を降りる事になる
「さぁ、私の手をとりなさい」
土手に片足1歩降りて代官が手を差し出した
差し出された手は越後屋の前にあった
声をかけられただけでも信じられないに、さらにこんな優しい仕草をされて
益々目の前の事が信じられなくなった越後屋であったが
その手に嘘は無いと信じた
ギュウと握り返した代官の手
緊張で汗ばみ、しっとりと湿った肉厚な越後屋の手と比較して
代官の手は冷たく、骨ばっていた
越後屋の手を包み込むように、代官は握り返すと、二人は手を取り合い土手を降りた
橋の下で、二人は腰掛けた
夜の川は真っ黒で、静かだ
ちゃぷちゃぷ、という川の音だけが二人の静寂をさえぎる
提灯のほのかな光の向こうの代官の横顔が見えた
静かで険しい顔をした代官の顔はいつもの表情だ
しかし、何か違う気がする
何か・・・・『寂しさ』を感じる
私に何かを訴えたい・・ように感じる
そう思うのは私の自惚れなのだろうか・・・?
越後屋は、そう思いながらストレートに聞けず
代官から話し掛けてくれるのを待った
「転勤になった」
突然に代官は口を開いた
「え!」
越後屋は少し大きめな声で、驚きの声をあげた
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