Love Letter 09
そしてあっと言う間に、期末試験が始まる。
1日目は、数学と日本史。
「里佳ちゃん」
1日目の試験を終え、帰ろうとしていた時のこと。トイレに行っていた菜々が、帰って来て私に呟いた。
「里佳ちゃん。今、白石くんが呼び出されて行ったよ」
「え?」
菜々が言っていることがよくわからず、私は首を傾げた。
「誰に?」
「6組の松岡さんって、知ってる?」
松岡さんのことを知っているわけではなかったけど、その後菜々が発した言葉に私は耳を疑った。
「雰囲気からすると、告白するみたいよ」
「え・・・?」
思わずまじまじと菜々の顔を見てしまったら、菜々は吹き出した。
「そんな顔しちゃって。嫌なんでしょ? 白石くんが、誰かと付き合うの」
「そんなこと・・・」
「強がらなくていいよ。気になるんでしょう?」
菜々はにこっと笑った。
「試験終わったら、もう学校行くことなくなるしね。今のうちに告白しようとしたんだろうね」
「菜々・・・何言いたいの・・・」
私の呟きを菜々は聞き取ったらしい。
「うーん。自分の気持ちに正直になればってことかなぁ?」
と、愛らしい笑顔を浮かべてのたまった。
菜々が『今日中にちゃんとカタをつけなさい!』と言い残して先に帰ってしまったので、私は図書室に行って勉強をしていた。
確か、夕真くんは試験中は午後図書室で勉強するのだと言っていた。
今日の数学でわからなかった所を聞きたかったし、ちょうどいいと思った。
「あれ・・・里佳ちゃん」
夕真くんの声がして、私は入口の方を振り返った。
「聞きたいところがあったの」
私の突然のお願いにも嫌な顔をせず、夕真くんは微笑んで私の隣に座った。
「この、2番の問題なんだけどね、(2)がどうしてもわからなかったの」
教科書を開いて、夕真くんに見せる。
「あぁ、この問題は・・・」
夕真くんが自分の鞄の中から計算用紙を取り出した。
夕真くんのシャーペンの動きを追う。
「この公式に当てはめてみて、xの値が出るでしょ? そうしたら、次にこの公式に当てはめるの」
サラサラと難なく問題を解いていく夕真くんに、改めて尊敬の念を抱いた。
「ありがとう」
「どう致しまして」
夕真くんが、私の顔を覗き込んだ。
「どうしたの・・・?」
「え?」
「泣きそうな顔、してる」
自覚はなかったけど、夕真くんが言うんだから私は泣きそうな顔をしていたのだろう。
「松岡さんと、付き合うの・・・?」
勇気を出してそう聞いてみたら、夕真くんは目を丸くした。
「何で知ってるの?」
その質問には答えず、私は黙り込んだ。
夕真くんはため息をついた。
「付き合うわけないでしょ。俺が好きなのは、里佳ちゃんなのに」
「でも」
言いかけたら、隣から手が伸びてきた。
頭をつかまれて、軽く抱き寄せられるような形になる。
「好きでもない人に勉強教えるほど、俺、暇じゃないよ? 里佳ちゃんだから、教えてあげたいって思うんだよ」
コツンと、夕真くんの肩に頭を乗せる形になる。
「私も、夕真くんのことが好きなのかも・・・」
そう呟くと、夕真くんは苦笑した。
「かも、なの? 好き、じゃなくて」
「だってよくわからない。どうして、夕真くんは私みたいなお転婆が好きなの?」
「好きになるのに、理由なんていらないと思わない?」
夕真くんは、穏やかな口調で言った。
「恋はするものじゃなくて、落ちるものなんだって」
「そうなの?」
「何かの本に、書いてあった。それを読んだ時にはなるほど、と思ったよ」
私も、なるほどと思った。
恋に落ちるのに、理由なんていらない。
「夕真くんと一緒にいるのは、楽しい」
「うん」
「一緒にいたいって思う」
「うん」
「それって、好きってことなのかな」
「それは、里佳ちゃんが出すべき結論だよ」
「じゃあ、好き」
私がそう言うと、夕真くんは嬉しそうに笑った。
何もする気が起きなくて、私は夕真くんにもたれたまま、ただただぼんやりとして過ごした。
図書館の閉館のチャイムが鳴った。
試験中は、4時半が最終下校時刻だ。
もうずーっと前から、私達の他に人はいなかった。
「あ。明日のテスト勉強、全然してない」
「そうだね・・・。でも何とかなると思うけど」
「それは夕真くんだけ・・・帰って勉強しなくちゃ」
「じゃあ帰りますか」
私達は教科書をしまって、立ち上がった。
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