Love Letter 08
「後で何言われるんだろ･･･」
夕真くんはがっくりと肩を落とした。
小さい頃はよくいじめられていたと言っていたけど、今も口では叶わないらしい。
そう言えば保健室で果歩ちゃんにもやりこめられてたっけ･･･。
「でも誕生日プレゼントのこと、秘密にできてよかったね」
「あーでも知歩鋭いから、意外と気付いているか
夕真くんは苦笑しながら言った。
プレゼント用にラッピングしてもらったその置き時計を、夕真くんは無造作に鞄の中に突っ込んだ。
それから、お礼に何か奢るよ、と言われた。
いいよお礼なんて、と丁重にお断りしたのだが、結局押し切られてしまった。
そして私達は今、小さなレストランで向かい合っていたりする。
私はケーキセット。
夕真くんはコーヒーだけ。
「甘いもの、嫌い？」
「うん、好きではないかな･･･。見てるだけでお腹いっぱいと言うか･･･」
夕真くんはそう言って苦笑した。
「里佳ちゃんは甘いもの好きそうだね」
「うん、意外かもしれないけどすっごい好き。昨日も菜々と近くにできた喫茶店に行ってきたの」
2日連続でこんなもの食べてたら太っちゃうよねと言って、私は首を竦めた。
「里佳ちゃんはもっと太った方がいいと思うけど」
「え！ 最近私太ったんだよ･･･。どちらかと言えばダイエットしなくちゃとか、思ってるんだけど･･･」
とか言いながら結局ダイエットなんてしないんだろうなとは思うけど。
「充分細いのに何言ってるの」
「だから細くないのー！」
細い細くないと延々と言い合ってしまいそうで、私達は自然に違う話題を持ち出した。
「今日はありがとう」
「私こそ。ケーキまでご馳走になっちゃって･･･」
また一昨日と同じ所まで送ってもらった。
学校から考えると、夕真くんの家は私の家より一駅先だ。
だから定期もあるし、と言われて結局押し切られてしまった。
何だか、夕真くんには逆らいがたい何かがあるのだろうか。
いつもいつも、押し切られているような気がする。
「今度は勉強会しようよ」
夕真くんの提案に、私は頷いた。
学年1位の夕真くんと勉強したら、頭がよくなりそうな気がする。
「何教えてもらおっかな？」
「え、俺が教えるの？」
夕真くんは目を見張り、私は頷くことで肯定した。
「･･･考えとく」
私達は顔を見合わせて、それから吹き出した。
「･･･夕真くん、建築志望なら物理とか得意でしょ？ 教えてよー」
「じゃあ里佳ちゃんは古文教えて？ 文学部志望なら得意でしょ」
サクッと切り返されて、反応に困る。
「･･･意地悪」
「人聞き悪いこと言わない。俺は里佳ちゃんと同じこと言っただけだけど？」
言い返す言葉も見つからず、私はむぅ、と膨れることで抗議した。
「あはは。やっぱ可愛いわ、里佳ちゃん」
夕真くんはそう言うなり笑い出した。
「･･･意地悪･･･」
夕真くんといると調子が狂う。
「また明日ね」
「うん。バイバイ」
夕真が里佳の『好きな人』に昇格する日は、きっと近い。
夕真くんに告白されてから早1ケ月。
世の中はクリスマス一色になり、賑わいを見せている。
勿論、受験生には関係のない話題だけれども。
私は、数学の問題集を手に、夕真くんによる特訓を受けていた。
「計算遅い！」
夕真くんは、勉強に関してはかなりスパルタだった。
さすが、学年1位の成績を誇るだけある。
週に1時間、私は大っ嫌いな数学を夕真くんに教えもらっていた。
最初に見てもらった時、私のあまりの数学嫌いっぷりに夕真くんは唖然として、それから毎週勉強を見ることを提案してくれたのだった。
毎週なんて申し訳ないし、何より夕真くんの勉強に支障をきたすのではないかと思ったのだが、夕真くんの第一希望の大学は、A判定。
週に1時間くらいなら何の問題
センターまで、後少し。
「さて・・・と」
夕真くんは教科書を閉じ、私を見た。
「･･･ふぅ･･･」
思わず息をついた私を見て、夕真くんは苦笑した。
「そんなに、数学嫌い？」
「だってわかんないんだもん･･･」
そう言えばもうすぐ2学期の期末試験だ。
3年生は期末に向けた勉強なんて全然していない。
成績には関係ないと聞けば尚更だ。
期末が終われば後は自由登校になる。
学校に行くのは、もう数えるくらいしかないんだなと思うと、何だか少し寂しい。
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