「だから言ってるじゃないーわからないって」
菜々が何か言おうとした時、ケーキと紅茶が運ばれてきた。
「おいしそうっ!」
しばらくは目の前のケーキに夢中になった私達だった。
次の日、私達は地元に近い駅前のショッピングモールで、お姉さんへの誕生日プレゼントを選んだ。
「どんな方なの?」
「大学3年生、そろそろ就活しなきゃって感じになってきた。果歩に似ているかもしれない」
「まぁ・・・姉妹だからね。可愛い感じ? カッコいい感じ?」
夕真くんは天を仰いで、考え込んだ。
「可愛い感じではないと思う」
「そっか。予算は?」
「上限は3000円かな」
「うーん」
私達はショッピングモールの一角にある雑貨屋さんに来ていた。
シンプルでスタイリッシュな小物が沢山あって、選ぶのに困る。
でもここなら、どんな人にでも合いそうなものがあるような気がする。
私もたまにふらりと立ち寄っては、雑貨を買って帰ったりする。
「置き時計とかは? あ、これとか」
¥2,650と書かれた置き時計。
それから同じメーカーのもので、¥1,500と書かれた写真立てもあった。
何か自分がほしくなってしまう。
「・・・これ、知歩持ってる」
しばらく考え込んだ後、夕真くんは口を開いた。
「え? どれ?」
「この、写真立て」
そう言いながら、夕真くんはグリーンとイエローを基調にした写真立てを指差した。
「じゃあお揃いで買おうかな。予算内だし」
夕真くんは決断が早いらしい。あっと言う間に決めて、時計をレジに持って行った。
プレゼント用に包装してもらっている間、とりとめのない話をした。
「でも、お姉さんもここに立ち寄ることあるのかな? 私、たまに来るんだけど」
「えっと・・・『Harb' Drop』か。今度知歩に聞いてみるよ」
そう言った時、白石くんがふっと目を細めた。
「うわー噂をすれば」
「え?」
「知歩がいる」
私は慌てて、白石くんの視線を追った。
そこで商品を見ていたのは、確かに果歩ちゃんにそっくりな女の人だった。
果歩ちゃんが所謂パステルカラーと言われるような、柔らかなピンクとかオレンジのイメージなら、その人はパステルブルーのイメージだった。
纏う雰囲気は柔らか。それから、パステルブルーの爽やかなイメージ。
「知歩に気付かれないで店出られるといいんだけど・・・」
「それは・・・辛いと思うよ。夕真くん目立ってるもの・・・背も高いし、こう言う雑貨屋さんに男の人がいるのって結構珍しいし」
ひそひそと声を潜める夕真くんにつられて、私も小声になる。
「何不穏な雰囲気漂わせちゃってるのかなー?」
突然後ろから声をかけられて、私達は文字通り飛び上がった。
「知歩!」
「やほー。こんな所で何してんのかなー夕真」
あはは、と豪快に笑うと、知歩さんは私に目を止めた。
「はじめましてー。夕真の姉の白石知歩です。いつも夕真が迷惑かけてすみません」
「あ、葉山里佳です。私こそ、白石くんには色々お世話になってます」
私もぺこりと頭を下げる。
「可愛いー。こんな妹ほしかったわー。ところで夕真、デート?」
知歩さんは結構はっきりものを言うらしい。
「知歩には関係ないだろ」
白石くんはぐいぐいと知歩さんを追いやろうとする。
「お姉さまに向かって態度が随分ねぇ」
「彼女が困ってるだろ!」
知歩さんは私を見て微笑んだ。
「夕真と同じ学校よね? 果歩を知ってるのかしら?」
「あ・・・はい。いつもお世話になってます」
知歩さんは大きく頷いて、私に微笑みかけた。
「今度夕真がいない時に、家に遊びに来てね。じゃあ邪魔者は消えるわねー」
ひらひらと手を振りながら、知歩さんはお店を出て行った。
何だか、嵐のようだった。
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