Love Letter  02






 1時間目の数学は睡眠時間に充て、2時間目の倫理はちゃんと話を聞いた。
 3時間目は、体育。

 更衣室に行こうと席を立った時、私はお腹にかすかな痛みを感じた。


 トイレに行って確かめたら、やっぱりそうだった。
 今日は寝不足だし、ちょっと貧血っぽい。



 先生への連絡を菜々に頼んで、ふらふらと保健室に向かう。


 我ながら足取りが、危ない。
 保健室までの道のりが、とても長くて果てしなく感じる。



「大丈夫? 葉山さん」



 突然誰かの声が頭の上から降ってきた。

 驚いて見上げると、私より全然背の高い男の子が立っていた。
 校章を見れば3年生であることはわかる。

 でも誰?
 1学年500人のマンモス校だから、わからないのは当たり前だろうけど。
 でもどうして彼は私の名前を知っているのだろうか?

「顔真っ青だよ」
 そう言うと、彼は私を支えてくれた。

 誰なのかな? なんてぼんやりとした頭で考えたけど、ありがたかったのでそのまま保健室まで付き添ってもらった。





「果歩ー。病人、連れてきた」

 保健室のドアを開けるなり、彼はそう言った。


 保健室の先生は『白石果歩』と言う名前の、若い女の先生だ。
 さっぱりとした性格で気さくで、男女問わず人気がある。
 みんな親しみをこめて、『果歩ちゃん』と呼ぶ。


 でもごく当たり前に果歩ちゃんを呼び捨てにする人はいない。


「こら、夕真。学校では呼び捨てはやめてって、いつも言ってるでしょ」

 果歩ちゃんはそう言って、彼を睨み付けた。



 すごく親しげな感じだ。

 もしかして。



「果歩ちゃんって付き合ってるの? この人と」


 思わず口に出して言ってしまったらしい。

 呆気にとられたと言うような表情で、2人は私を見た。


 それから、果歩ちゃんがぷっと吹き出した。

「まさか。夕真なんてお断り」
「それはこっちの台詞」


「そんなことより里佳ちゃん、顔真っ青よ」


 とりあえずソファに座ったら、果歩ちゃんが私を見た。
「どうしたの? 寝不足?」


「それもあるけど・・・」


 男の子がいる前で『生理』なんて言うのはちょっと…と思って、私はもごもごと口ごもった。

 それで果歩ちゃんは私が言わんとすることをわかってくれたらしい。
「薬は飲んだ? カイロとかは?」
 首を振ると、果歩ちゃんは引き出しの中から貼るタイプのカイロを出して来てくれた。

「教室戻りなさい。もう授業は始まってるのよ、白石くん」
「げーっ。こんな時に先生面すんなよ、果歩」
「だから果歩って呼ぶのは止めなさい!」



「果歩ちゃんの恋人じゃないの??」


 彼が出て行った後、お腹にカイロを当てながらしつこくそう聞くと、果歩ちゃんは苦笑した。


「夕真なんてお断り。夕真の苗字は『白石』なのよ。さて里佳ちゃん。私の苗字はなんだったでしょうか?」
「・・・白石? あ」

「そ、弟なのよ」


 そう言われてみれば、顔立ちも結構似ていたような気がする。


「里佳ちゃん、顔色すごい悪いのに元気なのね・・・」

 呆れたように果歩ちゃんが私をまじまじと見つめる。

「うーん。体も辛いけど好奇心が上回った」


 そう答えると、果歩ちゃんは笑った。

「ちょっと寝てなさい。里佳ちゃん生理痛重いでしょう? 本当に辛くなったらベッドに移ってもいいし」

「4時間目には出たいなぁ」


 そう呟くと、果歩ちゃんは笑った。

「それは里佳ちゃんの体調次第ね」



 自分でも、ムリかなぁと思う。



 私の生理痛は恐ろしく重い。

 1日目は大体1日保健室に居座ることになってしまう。
 そして大体2日目は欠席。


 健康優良児で、無遅刻無欠席を目指していたのに、初潮を迎えてからはそんなのは夢の夢になってしまった。

 1ヶ月に1回くらいは欠席するのだから。



 果歩ちゃんが机に向かったのを切欠に、私は目を閉じた。


 そう言えば、お礼言わなかったな。


 わざわざ保健室まで付き添ってくれた果歩ちゃんの弟。



 今度会ったらお礼、言おう。



 そう思った。






 そして里佳は、少しずつ、彼のことを心のどこかで意識し始める。






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