Love Letter 01
ある日の朝。
私は幼馴染の菜々と一緒に、駅から学校に向けて歩いていた。
昨日、3時まで起きていたから眠くて眠くて仕方がない。
「里佳ちゃん? りーかーちゃんっ!」
ハッと気付くと、私の顔の前で菜々が手を振っていた。
「どうしたの、ぼーっとして」
心配そうに私を見つめる菜々に、笑いかけた。
「何でもないよ。ただ寝不足なだけ・・・」
ふわぁぁと、欠伸をしながら答えたら、語尾がフェードアウトした。
「葉山! お前そんな大きな口開けて大欠伸すんなよ。女捨ててるなー」
クラスメートの松田が、げらげら笑いながら私達の横を通り過ぎる。
「うるさいよ、松田!」
私の文句も軽く受け流して、松田は私の隣を歩く菜々に声をかけた。
「おはよう、有野さん。今日もこんな猛獣のお相手ご苦労様」
「何だって!」
ギロリと睨んでやると、松田は首を竦めて先に歩き出した。
「もう、あの野郎!」
ぶつくさ言っていたら、隣で菜々が笑い出した。
「里佳ちゃん、朝から元気だねぇ。眠気、一気に吹き飛んだんじゃないの?」
そう言いながらクスクスと笑う菜々は、小柄で華奢で、可愛らしい。
本人は嫌がるけれども、天然パーマでくるくるの髪の毛も愛らしい。
菜々はモテる。
菜々本人が鈍くて全然気付いてないけど、多分菜々のこと狙ってる奴は多いと思う。
・・・私も菜々に負けず鈍いから、よく解らないけど。
かく言う私は見ての通りの、男勝りな性格だ。
18にもなって男子と普通に口論するし、女の子として見られているかも怪しい。
身長は170cm、そこらの男と同じくらいある。
これが私の個性だとは思うし、別にコンプレックスだとかそう言うわけではないけれども。
それでも全く女の子扱いされないのは悲しい。
たまには女の子らしくなる必要があるのかな?
隣を歩く菜々を見ながら、そんなことを考えた。
菜々は私の幼馴染。
母親同士が高校時代からの親友で家も近かったから、私達はそれこそ1歳にもならない頃から一緒だった。
4月生まれの私と、3月生まれの菜々。
それはそのまま発達の差と言うものに大きく影響を与えた。
小学校の時から、私は背の順で一番後ろ。
逆に、菜々は一番前。
菜々が小柄で華奢で、私が大きくて女の子らしさの欠片もないと言うのは今も変わらないけど。
それでもずーっと一緒にいるからなのだろうか。
私達は多分、すごく気が合っている。
小学校も一緒、中学校も一緒、高校も一緒。
ある種の『姉妹』のようなものだ。
私には兄貴がいるけれども(私がこんな性格なのは兄貴のせいだ、と思う)
菜々は兄貴なんかより全然近い存在。
こんな穏やかで過ごしやすい日常が、一変する日が近づいている。
高校3年生で、私達は今年受験で。
高校受験より、大学受験の方がはるかに緊張が増すような、そんな気がする。
だから今の時期、多分私達は精神的に不安定で、脆くて崩れやすい。
受験まであと少し。
後から思うと、もしかしたら私は自分が思っているより精神的に参っていたのかもしれない。
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