ツナがこの屋敷に来て一週間がたった。 その日、ツナは何となく気が向いて庭を歩いていた。 手入れする者がいなくなって久しいのだろう、茂みは野放図に伸び、芝には雑草が溢れている。 荒れ果てた庭は、かつて美しかったであろう痕跡をあちこちに残し、それがかえって物悲しかった。 雨風に朽ちかけたアーチをくぐり屋敷の裏手に入っていくと、ツナは温室を見つけた。 ぱっと見たところ、入り口が見当たらないので、通り過ぎたが、ふと振りかえると、ビニールに大きな穴が開いていた。 何だか気になってツナは大穴から温室に入ってみた。 穴あきでも温室だけあって、室内は居心地の良い温かさだった。 しかし花木は全滅で、外と変わらずうらぶれている。 バラだろうか、これも立ち枯れて茶色くなったトゲのついた蔓がそこら中にひろがっていた。 ツナは温室の片隅に置かれた白い椅子に腰掛けて、この打ち棄てられた世界をぼんやりと眺めた。 視界はほぼ薄茶色で占められたが、視界のすみに赤いものが入った。 「あ…」 まだ僅かに生き残っていたバラが小さな花を咲かせていた。 「こんなとこに」 ツナは花に詳しくはないが無論嫌いではなかった。 それに生まれて初めて贈られた花は赤いバラだった。 正確には白いバラだったのが、送り主の血で真っ赤に染まって赤いバラになったのだが。 「……」 また思い出した。 ツナはため息をついた。 「獄寺君、どうしてるのかな」 すきま風が枯れ草をなで、カサカサと乾いた音をたてた。 カサカサ カサカサ ガサガサ ガサガサガサーッ 「え!?」 温室の入り口は実は外にまではみ出た蔓が覆って見えにくくなっていたのだと気付いた。 その蔓をかきわけ誰かが入ってこようとしている。 「ひっ!」 ツナは小さく悲鳴をあげた。 よく考えたら、自分は反対派に命を狙われているのではなかろうか。 いやよく考えなくてもそうだった。 大体、ボンゴレと関わってしまった瞬間に、ある種の人間にターゲットされる身の上になってしまったのだ、今更だ。 ど、どーしよ、俺、丸腰だし、リボーンも誰もいないし! ツナが慌てている間にも、侵入者はどんどん近づいてくる。 そして人影は叫びながらツナの前に飛び出した。 「10代目!」 え? 「遅くなって申し訳ありません!ちょっとヤボ用に手間取りまして」 灰色の髪と瞳、整った顔立ち、長い手足のバランスの良い体躯。 その見目麗しさをかなり台無しにする騒々しさ。 ツナはポカンと口を開けて獄寺を見た。 バラの蔓をかきわけて、美しい青年が、忘れられた花園にやって来る。 まるで芝居がお伽話のようだ。 しかしツナはそれどころではなかった。 「ちが…」 「チガ?」 「血がーっ!!ご、獄寺君!手から血がっ!血がっ!血塗れーっ!?」 「や、かすり傷ッス」 「何言ってんだよー!?ちょっ、だ、大丈夫!?獄寺君!?きみ、トゲついてるの素手で掴んだなっ!? もー何考えてんのさー?」 「いや、ちょっと慌ててまして…つか、10代目はどこから入ったんですか?」 「奥に大きい穴が開いてるんだよ」 「なるほど!さすが10代目!」 「いや、さすがって言うかさあ…」 ツナは違和感を感じた。 いつもと変わらぬ会話。 いや、変わらなさ過ぎる。 「獄寺君…」 「はい」 恐る恐るツナは尋ねた。答えを聴くのが恐かった。 「きみ、どうして、此処にいるの?」 獄寺はニカッと笑った。 「やだなあ10代目、俺があなたの傍にいなくてどうするんです」 |