庭で花火するだけなんだけど。 肩と腕を出した夏用の白いワンピースに着替える。 上品で可愛らしいデザインのそれは、獄寺がツナに買ってきたものだ。 「獄寺君って、たまに乙女ちっく」 何だかくすぐったい気持ちがする。 ふわりと裾をひるがえして、ツナは庭に出た。 「あ、10代目」 先に庭に来ていた獄寺が、水の入ったバケツを持ったまま振り返った。 ツナの姿を見て、その顔がふにゃりと崩れる。 「お似合いです…!」 「あ、ありがと」 やっぱり着替えて良かったとツナは思った。 「花火やると夏ー!って感じするよね」 「そうっすね!」 バチバチ、シューシューと音をたてながら、小ぶりだが鮮やかな花が咲く。 手持ちの小さな花火だが、派手な音を立てて、色とりどりの火花が散る様はやはり美しい。 「これ、つけますよ」 小さな筒状の花火を地面に立てて、獄寺が火をつける。 噴水のように白い火花が拭き上がった。 眩い光に照らされた獄寺の姿に、ツナの胸が一瞬高鳴った。 彼には激しい火花が似合う。 「ていうか…」 綺麗だけど荒々しくて、しかしどこか繊細でもある。 瞬間のきらめきに心奪われて、いつまでも忘れられない。 獄寺君って、花火みたい。 浮かんだ思考に、恥かしくなって、ツナはぶんぶんと頭を振った。 何恥かしい事考えてんだー、オレー! 「10代目、どうしました?」 ツナの隣にやってきた獄寺が、不思議そうにツナの顔を覗き込む。 「あ、う、ううん何でもないから!」 花火の色は白から赤に変わっていた。そうでなければ顔が赤いのがばれてしまっただろう。 「綺麗ですね」 「うん」 「今年も貴方と一緒に花火を見れて嬉しいです」 「うん…」 しかし獄寺の目はツナを見つめたままだ。 「獄寺君?花火見なよ?」 「花火に照らされる貴方が好きなんです」 ぎゃあ 獄寺の甘ったるい台詞に、なかなか慣れないツナだったが、 先程の自分自身の連想と相まって、更に破壊力を増してクリティカルヒットが決まった。 「沢田さんはどんな時でもお美しいですが、 花火の光の中の沢田さんは、また一段と素晴らしいです」 「……」 「俺の見つめていたい沢田さんランキング、ベスト3です!」 「も〜も〜ごくでらくんは〜〜」 ずるい。俺は言えなかったのに。 真っ赤になってツナは腕で顔をおおった。 「あ、隠さないでください〜」 獄寺がじゃれるように軽くツナの腕を引っ張る。 「10代目〜」 「お、俺だって…!」 腕を引かれるまま、ツナは獄寺の方に倒れこんだ。 「す、好きなんだから…!っ……わあ」 「わ」 勢いあまって、二人して倒れこむ。 夏草の混じった芝は、柔らかく二人を受け止めた。 「あ、ごめ…」 慌てて身を起こそうとしたツナを獄寺の腕が捕まえる。 「獄寺く…」 「沢田さん」 獄寺の手がツナの頬をそっと挟んで引き寄せた。 「あ…」 「1位と2位は何だと思います?」 「わかんない…」 何となく予想がついたが、ツナはそう答えた。 「俺を見つめてくださる沢田さんです」 「見てるよ」 ツナも手を伸ばして、獄寺の顔にかかった髪をかきあげた。 美しく整った顔は、眉間の皺の取れた、穏やかな、しかし深い恋情に溢れた熱っぽい表情を浮かべている。 同じ表情でツナも獄寺を見下ろしていた。 獄寺の指がツナの頬からゆっくりと滑り、唇に触れる。 「もう一つも、今から見せてもらえますか?」 柔らかな唇を撫でていた指が、少しだけ口の中に差し込まれ、ツナの歯に当たった。 「いいよ…」 指先をペロリと舐めると、ツナは獄寺の指を咥えた。 花火より眩しいものを見つめあう二人を、星の光だけが照らしていた。 |