温かい音がする。 何だろう、これ? ぼんやりと覚醒していない頭で考える。 それは規則正しいリズムを刻んで、ツナを包み込んでいた。 ああこれは心臓の音だ。 もっとよく聴きたくて、身を寄せた。 「10代目、起きたんですか?」 「ん…?」 目を開けると、獄寺の胸が見えた。聞えていたのは、彼の心臓の音で、ツナは獄寺に寄り添って眠っていたのだった。 「あ…、俺、寝てた…?」 「少しだけ」 「そう…」 ツナはまた目をつぶって、獄寺の心臓の音を聴いた。 さっきより少し速い、力強い鼓動。 頬を離して、ツナは獄寺を見上げた。 「雨やんだ?」 「ええ、先程」 ツナの髪を撫でながら、獄寺が答える。 「そっか…。静かだね…」 「そうですね…」 「獄寺君の心臓の音が聞えたよ」 「…何て言ってました?」 「え?えーと、トクントクンとか…かな?」 「違います。よく聞いてください」 「ええっ?」 ツナは慌てて、また獄寺の胸に耳を押し当てた。 「聞えますか?10代目」 「…?」 「俺の心臓は、『貴方を愛してる』って、言ってます」 「な……!」 思わず、獄寺の顔を見ると、蕩けそうな笑みを浮かべていた。 絶句するツナの胸に、ぴたりと獄寺の大きな手のひらが当てられる。 「あ…」 早鐘のような鼓動は、獄寺にすぐに伝わった。 「10代目の心臓も、俺を好きだって言ってくれてます」 「ご…」 「嬉しいです」 「獄寺君って……!」 何恥かしい事言ってんの!?とツッコミたかったが、出来なかった。 確かにそう言ってると、ツナ自身も思ってしまったから。 「10代目…」 濡れたような緑の瞳も、うっとりと自分を呼ぶ唇も声も、髪にからまる指も、 雄弁に、沢田綱吉への愛を叫んでいる。 「獄寺君……」 そして、多分、今、自分も同じ表情をしてるんだろうな、とツナは思った。 「愛してます、10代目」 「うん…」 「沢田さん……………………………………ああっ!!」 「えっ!?な、何っ!?」 「すいません!」 「な、何が?」 「“10代目”って呼ぶなって、おっしゃってましたよね!?スイマセン!つ、つい…!」 「はあ!?」 いやそれ、今更過ぎるだろ……。 というか、以前から度々、10代目呼びに戻ってる時があったが、ツナは別に気にしていなかった。 あれ全部、気付いてなかったのか… 「いや、もういーよ、別に」 「すいません…」 「…んー。ていうかさ…」 ツナは少し俯くと、はにかんで言った。 「君に、“10代目”って呼ばれるの…本当は、結構好きなんだ」 「え……」 「さ、最初はさ、俺、マフィアになんかなりたくなかったし、やだなって思ったりもしたけどさ、でも…」 「…でも?」 「君が、俺を大事に思ってくれてる証だと思ったから…… ボスってだけじゃなくて、色んなものを込めて呼んでくれてるって…何となく解ったから…」 「10代目…」 「君が、俺を呼んでくれると嬉しい…」 獄寺はツナを抱きしめると、真剣な声で言った。 「10代目、実は」 「うん?」 獄寺は重大な秘密を、そっとツナに打ち明けた。 「俺も、10代目に“獄寺君”って呼ばれるのが大好きなんです」 二人、顔を見合わせて、吹き出す。 「何回だって呼びます。俺、10代目のこと、呼ぶのも好きなんです。10代目、じゅーだいめ!」 「うん、うん。あ、でもね、“沢田さん”って呼ばれるのも好きだよ!」 「はい!10代目、10代目、沢田さん、沢田さん!沢田さーん」 「獄寺君、獄寺君、獄寺君、獄寺君、獄寺くーん!」 |