「そーいう訳で、もうおめーはボンゴレ10代目じゃねーんだ、ツナ」 「あーそう」 「随分あっさりしてるな、もっとごねるかと思ったぞ」 「何でだよ?俺は最初っからマフィアのボスになる気なんて、これっぽっちも無かったんだ。 せーせーしてるよ!10代目の座に未練なんて、全く、全然、一切、完璧に無いよ!」 手をひらひらさせて、フンと鼻をならす。 「そーだ、せっかくだから大学受験しよーかなーキャンパスライフとか憧れだったんだよねー! よし、じゃあ獄寺君に勉強見てもら――」 10代目! 獄寺を思い起こせば、その呼び声を思い出す。 もう自分はそう呼ばれる事はない。 そして、その呼び名を持たない者に獄寺は用が無いだろう。 「ツナ」 「……なに」 今でもやっぱりマフィアのボスになんてなりたくない。 でもリボーンがやってこなければありえなかった日々。仲間たち。 かけがえのない宝物だ。 でも分かってる。 「俺が10代目を辞退すれば、一番丸く納まるんだろ?誰も傷つかずに」 「……」 「だったら、それでいーじゃん」 「すまねえ」 「あ、謝ったりするなよ!別に俺は…」 「それだけじゃダメだ。おめーを自由にする事はできねーんだ」 「え!?」 「ツナが10代目に相応しくねーと思う連中がいるように、あっちの就任に不満な奴らもいるってことだ。 争いのタネは完全に取りのぞかねーといけねえ」 「ちょっ!…それって、まさか……!」 「ちゃお」 鈍く光る銃口が突き付けられたと思った瞬間、火を吹いて、ツナはその場に崩れた。 すーすーと規則的な寝息をたてるツナの頭をポンと叩いて、リボーンは小さく何かを呟いた。 部屋の戸が開き、人が入って来る。 「来たか、連れてけ」 侵入者はリボーンに軽く会釈すると、ツナを抱きあげ部屋を出ていった。 目が覚めた時、ツナは天蓋付きの大きなベッドに寝かされていた。 「こ、ここどこ?」 キョロキョロ辺りを見回せば、見たこともない部屋だ。 壁や家具の装飾が、映画とかに出てくる明治時代の洋館を思い出させた。 昔のお金持ちのお屋敷みたいだ、とツナは思った。とても古そうだ。 窓から外を覗いてみる。 そこには鬱蒼とした森がひろがっていた。 「ここ、ホントにどこーっ!?」 その時やっとツナはベッドの横のテーブルに手紙が置いてあるのに気付いた。 慌てて手にとると、見覚えのある筆跡で “しばらく此処にいろ リボーン” 「何だよそれ!」 手紙を放り投げる。 嗚呼、どこまで理不尽なんだ!俺の人生! 「もうどーにでもなれ!」 ツナは再びベッドに大の字に寝っころがった。 「好きにすればいい、好きにすればいーよ」 自分に言いきかせるように呟く。 「聞き分けがいいのが、ダメツナの取り柄なんだ」 目を閉じて、やり過ごす、何も感じない。悲しいなんて思ったら遣り切れない。 そうやってずっと過ごしてきた。 ひょっとしたら、自分が今までで一番強く抵抗したのは、マフィアのボスになる事かもしれない。 「だから言ったろ、俺はマフィアになんかならないって…」 その通りになった。 否、マフィアにすら、なれなかった。 それからツナは無気力に日々を過ごした。 ざっと屋敷を見て回り、台所に食料を発見したが、食欲も湧かなかった。何もかも面倒臭かった。 二日目に、これでは消極的な自殺だと気付いて、ポカリスエットやスナック菓子をちびちびと口にした。 リボーンが来る前よりひどいなあ、俺。 そうは思っても、料理をしようとするとビアンキを思い出して、つられて獄寺を思い出す、彼らと過ごした時間を思い出す。 思い出したくないのに。辛くなるばかりだから。 此処に来てから母親や京子や山本、リボーン、親しかった皆を懐かしく思うが、一番思い出すのは何故か獄寺だった。 責任を感じてるのかもしれない、とツナは思った。 ボンゴレでのツナの正式なお披露目の日取りが決まった時、一番喜んでいたのは獄寺だった。 彼の夢はボスの右腕になることだから。 最初はその責任が重かった。 俺には無理だよ、勝手に期待しないで。 でも、 自分はマフィアは好きじゃないけれど、別に他に夢がある訳ではない。 誰かの夢の手助けが出来るなら。 ボスになると決めた理由はそれだけではないけれど、それも理由の一つではあった。 でも、やはり無理だった。 誰かの夢をかなえるなんて、そもそも大それた自惚れだ。 自分にそんな力なんてない。 「ごめんね、獄寺君」 声に出して言ってみると、涙がこぼれた。 広い屋敷にひとりぼっち。 ツナは声を殺して泣いた。 |