della Tempesta2



「そーいう訳で、もうおめーはボンゴレ10代目じゃねーんだ、ツナ」
「あーそう」
「随分あっさりしてるな、もっとごねるかと思ったぞ」
「何でだよ?俺は最初っからマフィアのボスになる気なんて、これっぽっちも無かったんだ。
せーせーしてるよ!10代目の座に未練なんて、全く、全然、一切、完璧に無いよ!」
手をひらひらさせて、フンと鼻をならす。
「そーだ、せっかくだから大学受験しよーかなーキャンパスライフとか憧れだったんだよねー!
よし、じゃあ獄寺君に勉強見てもら――」


10代目!


獄寺を思い起こせば、その呼び声を思い出す。

もう自分はそう呼ばれる事はない。

そして、その呼び名を持たない者に獄寺は用が無いだろう。

「ツナ」
「……なに」

今でもやっぱりマフィアのボスになんてなりたくない。
でもリボーンがやってこなければありえなかった日々。仲間たち。
かけがえのない宝物だ。

でも分かってる。

「俺が10代目を辞退すれば、一番丸く納まるんだろ?誰も傷つかずに」
「……」
「だったら、それでいーじゃん」
「すまねえ」
「あ、謝ったりするなよ!別に俺は…」
「それだけじゃダメだ。おめーを自由にする事はできねーんだ」
「え!?」
「ツナが10代目に相応しくねーと思う連中がいるように、あっちの就任に不満な奴らもいるってことだ。
 争いのタネは完全に取りのぞかねーといけねえ」
「ちょっ!…それって、まさか……!」
「ちゃお」
鈍く光る銃口が突き付けられたと思った瞬間、火を吹いて、ツナはその場に崩れた。


すーすーと規則的な寝息をたてるツナの頭をポンと叩いて、リボーンは小さく何かを呟いた。
部屋の戸が開き、人が入って来る。
「来たか、連れてけ」
侵入者はリボーンに軽く会釈すると、ツナを抱きあげ部屋を出ていった。


目が覚めた時、ツナは天蓋付きの大きなベッドに寝かされていた。
「こ、ここどこ?」
キョロキョロ辺りを見回せば、見たこともない部屋だ。
壁や家具の装飾が、映画とかに出てくる明治時代の洋館を思い出させた。
昔のお金持ちのお屋敷みたいだ、とツナは思った。とても古そうだ。
窓から外を覗いてみる。
そこには鬱蒼とした森がひろがっていた。
「ここ、ホントにどこーっ!?」

その時やっとツナはベッドの横のテーブルに手紙が置いてあるのに気付いた。
慌てて手にとると、見覚えのある筆跡で

“しばらく此処にいろ
            リボーン”

「何だよそれ!」

手紙を放り投げる。
嗚呼、どこまで理不尽なんだ!俺の人生!
「もうどーにでもなれ!」
ツナは再びベッドに大の字に寝っころがった。
「好きにすればいい、好きにすればいーよ」
自分に言いきかせるように呟く。
「聞き分けがいいのが、ダメツナの取り柄なんだ」
目を閉じて、やり過ごす、何も感じない。悲しいなんて思ったら遣り切れない。
そうやってずっと過ごしてきた。
ひょっとしたら、自分が今までで一番強く抵抗したのは、マフィアのボスになる事かもしれない。
「だから言ったろ、俺はマフィアになんかならないって…」
その通りになった。
否、マフィアにすら、なれなかった。




それからツナは無気力に日々を過ごした。
ざっと屋敷を見て回り、台所に食料を発見したが、食欲も湧かなかった。何もかも面倒臭かった。
二日目に、これでは消極的な自殺だと気付いて、ポカリスエットやスナック菓子をちびちびと口にした。
リボーンが来る前よりひどいなあ、俺。
そうは思っても、料理をしようとするとビアンキを思い出して、つられて獄寺を思い出す、彼らと過ごした時間を思い出す。
思い出したくないのに。辛くなるばかりだから。
此処に来てから母親や京子や山本、リボーン、親しかった皆を懐かしく思うが、一番思い出すのは何故か獄寺だった。
責任を感じてるのかもしれない、とツナは思った。
ボンゴレでのツナの正式なお披露目の日取りが決まった時、一番喜んでいたのは獄寺だった。

彼の夢はボスの右腕になることだから。

最初はその責任が重かった。
俺には無理だよ、勝手に期待しないで。

でも、

自分はマフィアは好きじゃないけれど、別に他に夢がある訳ではない。
誰かの夢の手助けが出来るなら。
ボスになると決めた理由はそれだけではないけれど、それも理由の一つではあった。

でも、やはり無理だった。
誰かの夢をかなえるなんて、そもそも大それた自惚れだ。
自分にそんな力なんてない。

「ごめんね、獄寺君」
声に出して言ってみると、涙がこぼれた。
                        
広い屋敷にひとりぼっち。
ツナは声を殺して泣いた。


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