della Tempesta




不意に唇が離れて、ツナは目を開けた。
獄寺の肩越し、暗い空に光の亀裂が走る。
「!」
ほとんど差が無く、低い唸りのような音が響いてくる。
「カミナリ?」
「近づいてきました。ここにいたら危ないです」
「う、うん」
「失礼します」
「え?」
ツナが立ちあがろうとする前に、獄寺はツナを抱え上げた。
「え!ちょっ!?」
「今、崖を登るのは無理です。取りあえず、雨をしのげるところに行きましょう」
「そ、それはいいけど、あの、こ、この体勢は…」
さっきまで抱き合っていたくせに、恥ずかしくて、ツナはもごもごと抗議したが、
こういう時の獄寺は、やはり話をきかない。
ツナを抱えたまま、すたすた歩いていく。

「確か、この辺りにあったはずです。…ああ、あそこだ」

崖にぽっかりと穴が空いて、横に空間が広がっていた。

「洞窟…?」
「人工のものですよ」

中に入ると、天井の部分には木を組み合わせた梁が見えた。
確かに、人の手で作られたものらしい。

「多分、防空壕の後かと思うんですけど」
「ボークーゴー?」
「戦争の時の避難場所です。地下シェルターの原始的な奴ッスね」
「ふうん」

獄寺はツナを丁寧に降ろすと、焚き火の準備を始めた。

「よくこんなのあるの知ってたねえ」
「10代目を屋敷にお連れする前に、辺りの地形も調べておこうと思いまして、その時に」
「え…」
ツナは驚いた。
「そっか、色々準備してくれてたんだ…ありがとう」
「あ、いえ、そんな」
獄寺は慌てて頭をふった。
「貴方はここに来るのを望んでなかったのに…礼を言われることじゃありません」
「でも…」

ボウと、火があがる。
その温かさに逆に、ツナは体が冷え切っていたことに気付いて、
ツナはぎゅっと自分の体を抱いた。

「10代目、大丈夫ですか?」
「う、うん」
「あの…」
獄寺が言いよどむ。

「?」
「服、脱がれた方が…」
「え!」
「いえその!びしょ濡れのままじゃ、なかなか温まりませんし!べ、別に疚しい気持ちは!決して!」
「あ!うん!え、そっ、そうだね!」

実際、ツナも濡れた服を着たままでは寒いと思っていたところだった。
季節はもう春になっているが、この天気に濡れたままでは風邪をひくに違いない。

獄寺は焚き火の上の天井にロープを張り、手早くシャツを脱いでそこにひっかけた。
「沢田さん、どうぞ」
そう言ってツナに背を向けて、少し離れた場所に座る。
「あ、うん…」


濡れた布が張り付く感触は不快で、思い切ってジーンズも脱いでしまうと、だいぶ体は楽になった。
焚き火の側に座って、ツナが後ろを振り向くと、獄寺の背中が見えた。
薄暗がりの中に、黄色人種にはありえない白い肌が浮かんでいる。
見るのが恥ずかしくなってツナは慌てて前を向いた。そのまま振り向かずに声をかける。
「あ、あのさ、獄寺君」
「何ですか?」
「そんなとこにいたら寒いでしょ?もっと火の近くに寄りなよ」
「……でも」
「いいから!風邪ひいたら、その方が大変だよ!」
言いよどむ獄寺に、わざと強めに声をかける。
しばらくして、動く気配がして、そっと背後を伺うと、少し離れて背中合わせに獄寺が座っていた。


隣に座ればいいのに。


さっき、あんなに近くにいたのに、また距離が開いてしまった。
焚き火の近くにいたって寒い。さっきの方が温かかった。

「クシュン!」

そんな事を考えたからか、大きなクシャミが出た。

「!大丈夫ですか!?沢田さん!?」
「だ、大丈夫っ!ちょっとクシャミが出ただけだから!」

ツナは慌てて答えた。
昔から、獄寺はツナがクシャミ一つしても大騒ぎする。
マフラーをぐるぐる巻きつけられたり、コートを何枚も重ねられたり、山ほど薬を飲まされそうになったり。
出合った当初の頃に比べれば、多少行動に分別はついたが、騒ぐことに変わりは無い。

うわ失敗したなあ、ここじゃあ何にも出来ないから、ただ心配させちゃうだけだし…

「…失礼します、沢田さん」
「へ?」

ツナは心配されるのを心配するという妙な状態に陥ってしまいそうになった。
しかし、こういう時、獄寺の行動はツナの予想を超えて早い。

「!!??」

気付いた時には、ツナは獄寺の脚の上に座らされて、後ろからしっかりと抱きしめられていた。
ぴったりくっついた背中から、獄寺の胸の体温が伝わってくる。

「えっ…ちょ……え…ええ〜〜〜!?」
「寒くないですか?」

ツナはこくこくと頷いた。言葉が出てこない。


寒くない、寒くないよ、むしろ熱いよ、え?何?何が起こってんの?何この状況?
あーそうだね、こういう時は人肌で温めるのが一番だよね。ドラマとか漫画とかでよくあるよね、
雪山で遭難したりとかね、むしろベタだよね、こんな事ホントにする人いるんだね、
まあ獄寺君らしいっちゃらしいよね……………つか、トートツなんだよ君はああああああああ!!
隣に来て欲しいなあって思ってたけど、こ、ここまでして欲しいとは言ってないいいいいいいい!
やる事極端過ぎるんだよ!!!獄寺くん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!





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