「獄寺君!」 声の聞こえてくる崖の上に向かってツナは叫んだ。 「獄寺くーん!」 声が風にかき消されそうで、必死に叫ぶ。 「10代目っ!?」 ツナが心配することもなく、獄寺はすぐにツナの声に気付いた。 程なく崖の上に獄寺の姿が見えた。 「獄寺君ー!ここだよー!」 思わず手を振りながら立ち上がりかけて、よろけて倒れる。 眼下に座り込んだツナを見つけ、獄寺は顔色を変えた。 ひらりと獄寺の体が、茂みを跳び越える。 「あ!危ない!」 落ちてしまうとツナは慌てたが、獄寺は、すぐに斜面に足をつき、ぬかるんだ土を滑るようにして、 あっという間に崖下まで降りてきた。 「わあ獄寺君すごい…」 つい感心してツナは見惚れた。 「10代目!」 獄寺はツナに駆け寄ると両腕を掴んだ。 「大丈夫ですか!?お怪我は!?どこか痛むところは!?」 「だ、大丈夫!大丈夫だよ!」 「本当ですかっ!?」 「あ、あの、ちょっと、足くじいたけど、大したことないから!」 「何ですって!?どっちですか!?」 「えと、こっち…」 獄寺の手がツナの右足首を掴む。 「…っ!」 「折れてはいないようですね…本当に、他には大丈夫なんですか!?」 「うん、落ちる時、頭はかばったし、平気だよ」 「そうですか……」 獄寺はホッと息をつくと、ツナの前に気が抜けたように座り込み、うなだれた。 「…………」 「ご、獄寺君?」 「何やってんですか!あなたは!」 「ひ!」 いきなり怒鳴られてツナは、ビクっと体を震るわせた。 「雨になるって言ったじゃないですか!」 「え、あ、う、うん」 「森は危ないから、入らないでくださいって言ったでしょう!?」 「う、うん」 そういえば言ってたような。別に入る気も無かったので特に気に留めていなかったが。 「ご、ごめん!ごめんなさい…!」 「10代目の…」 獄寺の声が苦しげに震えた。 「10代目の、姿を崖下に見つけた時、俺…」 「獄寺君…」 「10代目が…いなく、なったら……俺は……」 息がつまったように、声は途切れた。 雨に紛れて気がつかなかったが、獄寺は泣いていた。 「ごめん…」 ツナは手を伸ばし、獄寺の両頬を包んだ。 その冷たさに胸がしめつけられる。 頬を流れる雫を指で拭った。 打ち付けられる水滴を拭いきれはしないけれど。 何度も何度も。 「心配かけてごめんね…」 「じゅうだいめ…」 「いなくなったりしないよ」 「10代目!」 獄寺はツナをきつく抱きしめた。 「10代目10代目」 「あ」 やがてツナの腕も獄寺の背に回り、抱きしめる。 お互いを一片も残さず胸にかき集めるように。 腕の中に閉じ込めて、唇を重ねあう。 「ん…んっ…」 雨の中、二人は、濡れる事も、呼吸する事も忘れて、口付けあった。 |