della Tempesta




ツナは闇雲に走り続けた。
どこに行くかなんて考えていない。ただ走って、走って――

「だっ!」

思い切り転んで、やっと止まった。

「あ…つう〜痛…」
足元を見れば、大木の根。これに躓いたらしい。
ツナは森の中に居た。
「あれ、いつの間に…」
あの屋敷は周囲をぐるりと森に囲まれていたから、走り続ければ森に入り込むのは必然のことだが。
どちらかといえば、こんな足場の悪い所を今まで走っていられたのが不思議だ。
しかも、蝶を追いかけて慌てて出たので、サンダル履きだ。
そのサンダルも右しかない。
「転んだ時、脱げてどっかに飛んでっちゃったのかなあ」
ため息をついて辺りを見回す。
すると、更に森の奥側の木の枝に何かが引っかかっているのが見えた。
「あ!あんなとこに」
ツナはサンダルを履いた方の足でピョンピョン跳ねながら、そちらに向かった。
木の下にまでたどり着いた、と思った時、ツナの体は、がくっとバランスを崩した。

「えっ!?」
踏みしめるはずの地面が無い。

木の根元の茂みの隠れて解らなかったが、そこから急な坂になっていたのだ。

「うわああああああー!」

とっさの事に対応しきれず、ツナはゴロゴロと斜面を転げ落ちていった。


「い……たあ…」
やっと下まで落ちきってツナは目を開けた。
落ちてきた坂を見上げれば、ほとんど崖で、3階くらいの高さがある。
修行で登った崖に比べれば大したことは無いスケールだが、素手で登るのはちょっと大変そうだ。
「の、登れるかな?」
立ち上がろうとすると、右足首に激痛が走り、ツナはしゃがみこんだ。
「やばっ…くじいた?」
ツナはそのまま地面にぺったりと座り込んだ。
「何やってんだろ、オレ…」
思わず天を見上げると、鼻の頭にポツリと水滴が落ちてきた。
「え……」
朝、あれだけ青かった空は、今はどんよりとした灰色の雲に覆われ、水滴を落としている。
ポツポツと降り出した雨は、あっという間にどしゃぶりになった。
「そういえば雨降るって言ってたっけ…」
半ば呆然としながら、ツナは動かなかった。
雨は更に勢いを増し、辺りの景色が見えにくいくらいになってくる。
服は水を吸ってすっかり重くなって、体にはりついてきた。

ホント、何やってんのかな…

もう一度、崖を見上げる。

グローブがあれば、あっという間に登れるんだけどな…

むしろ空だって飛べる。
でも今の自分は、惨めに地べたにへたりこんでいるだけだ。
そう思って、ツナは、そんな風に考えている自分がおかしくなった。

ダメツナには今の状況の方が本来相応しいじゃないか。
マフィアなんて嫌だって言いながら、オレは、いいとこだけは取ろうとしてる。

そんな甘えた考えだから――全部、失うんだ。
残ったと思ったものも、全部…。


「獄寺く…」

喉がつまって最後まで声にならなかった。

頬を伝う、雨に涙が混じった。
嗚咽は雨音にかき消される。


雨音は激しくて、強くなった風は木立を揺らしていて、ツナはすぐには気付かなかった。
最初、空耳かと思った。
だが、すぐにそうではないと解った。
聞こえる。必死で自分を呼ぶ声が。

そうだ、彼は来てしまうのだ。こんな嵐の中なのに。だからこそ。


「10代目ー!どこですか10代目ー!」



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