そこは広い部屋だった。 広いだけではない。存在するすべての家具が豪華であり、一目でその値段を窺わせる。 しかし中でも目を引くのは、いかにも寝心地の良さそうな特大のベッド……ではなく。 その上にいる、二人の少女だろう。 一人はベッドの中央に拘束されている。そしてもう一人はその横に腰掛け、彼女を見下ろしていた。 二人は同じの小学校の5年生である。 「ねぇ、美奈ちゃん。私が誰か分かる?」 その言葉に、仰向けに拘束された少女はビクリと身を震わせる。 少女―森口美奈は、目を覚ましたばかりであった。 いつも通りの学校の帰り道で唐突に車に引き込まれ…薬品を嗅がされて意識を失い、気付けばこのような非現実的な状況に陥っていたのだ。 「ねぇってば。聞いてるの?私が誰かわかる?」 二度目の問い掛けに若干の苛立ちが含まれていることに気付き、美奈は慌てて口を開いた。 「……弓塚、さん?」 美奈とは違うクラスだが、確か三組の学級委員をやっていたはずだ。 初対面だが、弓塚有紀は学年の中でのいわゆる「有名人」であったので、美奈はすぐにその名を思い出すことができた。 「そう、大正解。それじゃあ……美奈ちゃんはどうしてこんな目にあってると思う?」 「どっ…」 どうしてと言われても、こんな扱いを受ける理由など考えつく訳がない。 パニックから復帰しきっていない状態では尚更である。 しかし、有紀はそんな美奈の態度が気に食わないようだった。 「へぇー。ホントに分からないんだ?」 含みのある言い方をしつつ、美奈の顔を覗き込む。 「だ…だって、こんなの…」 ありえない。そう言いたげな美奈の表情に、有紀は諦めたように溜め息をついた。 「うちのクラスの飯塚君、覚えてるよね。一昨日美奈ちゃんに告白してフラれちゃった飯塚君」 「えっ!?」 何故、そんなことを? 美奈は確かにその少年からの告白を受けており、それを断っていたのだ。 「飯塚君、すっごく残念そうだったよ。なんで断っちゃったの?」 「だ、だって…付き合うとか、よく分からないし……」 「そんな適当な理由で?そんなので断ったの!?」 「っ…」 有紀の迫力に気圧されて、美奈は息を詰まらせる。 そして同時に、彼女のその剣幕からとある事を確信した。 「弓塚さん……飯塚君のこと、好きなの?」 「うん、大好き」 即答であった。 「おかしいよね。私はいつも飯塚君の気を引こうと頑張ってるのに…それなのに、急に話したこともない子に告白するなんて…」 「で、でもっ…それなら弓塚さんから好きだって言えば…」 「私は好きな人に告白『されたい』の。だから美奈ちゃんが羨ましくて羨ましくて嫉妬して。こんなこと、しちゃった」 「そんなっ…」 大体の事情はなんとか把握できた。 しかし言うまでもなく理不尽な恨みであり、また、普通なら現実に実行できるような事ではない。 だが、有紀の立場は「普通」ではなかった。 「知ってると思うけど、うちのパパね、凄く偉いしお金持ちなんだ。その気になればなんだってできるんだよ 警察の偉い人だって誰だって、みーんな知り合いだし」 そう。たとえば話したこともない同級生を拉致紛いのやり方で自宅に連れ込んだり。そんな事すら不可能ではなかった。 「飯塚君ね、しばらくしたらまた美奈ちゃんに告白したいんだって。だからそれまでに…」 驚きと不安で何も言えずにいる美奈に、ずいっと顔を近付ける有紀。 「美奈ちゃんを、飯塚君が嫌いになるような変な子にしちゃおうと思ったの」 有紀はそう言うと、美奈のおへそのあたりを軽くつついた。 「えっ……!?」 美奈は驚愕の声をあげたが、その理由は有紀の言葉だけではなかった。 無造作に置かれた有紀の指は、自らの地肌に触れている。 と、いうことは――? 美奈は仰向けに固定された不自由な体勢で、ばっと自分の体を見下ろした。