放課後。午後の授業を惰性で切り抜けた二人は、ランドセルを背負って駆け足で体育館へと向かった。 そして靴を脱いで靴下になると、正面ではなく裏門からこっそりと中に入る。 「ね、加奈ちゃん。ここ入る時って見つからないかドキドキしない?」 「するする〜」 本来は放課後に部活以外で体育館を使うのは禁止で、二カ所の入口のドアには鍵がかかっている。 だが、裏口のドアは建付けが悪く、コツをつかんで上手く揺さ振ると簡単に外れてしまうのだ。 三組の女子がたまたまそれを知り、それ以降体育館はプロレスごっこの会場として使われていた。 体育館を使うクラブの活動日については、学級委員の生徒がしっかりと把握している。 早苗がカーテンをきちんと閉め、パチっと館内の一部の電気を付けた。 「走ってきたから一番のりだね」 体育館は広いので、普段プロレスごっこは何組かに別れて行っているのである。 「え?あ、そうだね」 加奈は自然に流したが、実は彼女が学級委員に 「みんなには『今日は体育館は部活で使われる』って言って」と頼んだのだ。 今日加奈が用意した「作戦」は、ギャラリーがいない方がやりやすい。 早苗はうきうきと、加奈は内心バレないかと冷汗をかきながらマットの準備をした。 あくまで遊びなので、怪我をしない為の配慮だ。 用意が終わると二人は体操服に着替え、靴下も脱いで裸足になった。 お互いに適当にストレッチを済ませ、マットに上がる。 「時間無制限で、ギブか立てないぐらいになっちゃったら負け。 あとマットから出たらすぐ戻る。それでいいよね?」 ルールはその時々で適当に調整される。 三秒のフォールで勝ちという場合もあれば、転んだら負けなどという場合もある。 「で、あとは大体何でもあり、と。前と同じだね…オッケー。始めよっか」 ゴングの代わりは携帯電話。早苗は二分後にアラームをセットし、マットの外に置く。 加奈はその間に、運動の邪魔になるロングへアーをポニーテールに纏めた。 ちなみに早苗は肩までのセミロングなので、特に手を加える必要はない。 二人は向き合い、アラームが鳴る瞬間を待った。