そして。
十五分ほどすると、雛子は「そろそろ…いい頃合いですね」と、指を鳴らした。
パチン、と乾いた音が響く。
「はい?」
さくらが頭に疑問符を浮かべていると、突然ドアが開き、二人のスーツ姿の女性が部屋に入ってきた。
一人は紙袋を抱えており、もう一人は高級そうな椅子を担いでいた。
共に無表情であり、冷たい印象を受ける。
二人は荷物を降ろすと、無言のままさくらに近づき、その両腕を掴んだ。
「えっ!?あの、ちょっと!何ですか!?」
反射的に振り払おうとしたが、二人の手は外れない。
彼女らはさくらを立たせて無理矢理に引きずるようにして、運び込んだ椅子に座らせた。
「ひっ、雛子さん…?」
さくらは驚きに目を見開き、呆然と雛子を見つめる。
しかし彼女は反応せず、のんびりと紅茶をすすっていた。
スーツ姿の二人は懐からロープを取り出し、さくらの腰のあたりに回す。
「やめて下さい!いきなり何なんですか!?」
おかしいのはこの展開だけではない。
スーツの二人は、どう考えても素人だ。動作の一つからもそれが分かる。
なのに何故、自分が簡単に押さえ込まれている?
ろくに逆らえず、気付けば腰を椅子の背もたれに縛り付けられていた。
二人は作業を終えると、雛子に一礼してさっさと部屋を出ていく。
「さて…と。これで準備は完了ですわ。ごめんなさいね、さくらさん」
椅子から立ち上がると、雛子はさくらの正面へと移動した。
「座り心地はいかがですか?」
さくらが座っている椅子は手すりこそついていないものの、クッションのよくきいた高級品である。
だが、そんなことは関係がない。
「どういう…つもりですか?」
「えぇ。その、何といいますか…私、さくらさんが気に入ってしまって」
「は?」
意味が分からず、さくらは間の抜けた声をあげた。
予想外の回答に毒気を抜かれてしまう。
「予選でみかけたときからチェックしていたんですよ」
雛子の手のひらが頬に触れ、さくらは思わず身をすくめた。
「あの、まさか…そういう趣味なんですか?」
そう訊かれると、雛子は照れたように口元に手をあてる。
「まぁ、そんなところですね。それでさくらさん…私のモノになってくださいませんか?」
「お断りします」
即答の後、数秒の沈黙。
「そうですかぁ〜」
雛子は困ったような口調で言うが、その表情はむしろ嬉しそうだ。
彼女はさくらの顎の下に指を沿え、くいっと上を向かせる。
「ぇ…」
そして間髪入れずに顔を近づけ、唇を奪った。


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