「もう万引きとかするなよ。勿論、この店に限らずな」 「…うん」 罰のくすぐりを終え、由香は早々と帰り支度をしている。 「とにかく、今日は万引きもしなかったし、何もされなかった。分かってるな?」 由香は素直に頷いたが、弘樹は不安が拭いきれなかった。 (これってもしバレたら、犯罪か…?) 自問し、悩む。 由香は「それじゃ、帰るから…」と そんな弘樹を部屋に残し、サンダルを履いてさっさと帰っていった。 「…いや、犯罪違う。俺は合意の上でくすぐっただけだからな」 声に出して言い、何とか自分を納得させる。 と、その時。箪笥の上に置かれた電話が鳴りだした。 犯罪だの何だのと考えていた為一瞬ぎくりとしたが、当然そんな筈はない。 自分が応対していいものかと迷いつつ、弘樹は結局受話器を手にした。 「もしもし」 「『弘樹君だよね?いや、本当に悪いねぇ。店番頼んじゃって』」 「…叔父さんですか。いや、気にしないで下さい。そう退屈でもありませんでしたよ」 見返りは十二分にあった。 「『そうかい?まぁ、もうすぐに帰るからさ。切るよー』」 「あ、ちょっと」 弘樹は電話を切ろうとする叔父を引き留めた。 早い内にしておきたい話がある。 「『ん?話なら後で聞くけど?』」 「いや、細かい事は後でいいんですけど…店の仕事、たまにでいいんで手伝わせてくれません? 俺にだって店番ぐらいは何とかできますから」 というか、店番以外はやりたくないだけだが。 「『え!?…いいのかい?勿論、僕としては凄くありがたいんだけど』」 「なら是非とも。それじゃ、またあとで」 「『ああ。じゃあね』」 ブツっと通話が切られ、弘樹は受話器を戻した。 「ふぅ…」 深呼吸して、床に寝っころがる。 由香は、ここは万引きされやすい店だと言っていた。 つまりは、今日のようなチャンスが何度もあるという事だ。 (今度はビデオカメラとか用意して…羽ぼうきなんかもいいかもな) 早速色々な考えが浮かんできた。 店番自体は退屈で腐りそうな仕事だが、報酬はそれを補って余りある。 「何にしろ…今年の夏休み、楽しくなりそうだな」 おしまい。