5年3組の中でも髄一の仲良しペアである奈々と美月。 2人は今日も、学校の授業が終わるや否や美月の家へと直行していた。 彼女らの手にはゲーム機のコントローラー。 床の上に寝転がって対戦ゲームをプレイする2人の姿は、お世辞にもお行儀がよいとは言えないだろう。 家にゲーム機を所有していない奈々も手馴れたもので、喋りながらでもその指の動きは鈍らない。 「――でね、そしたら将也ったらあたしのスカートめくってきてー」 「あー、あの子そういう悪戯しそうだわ」 ただ今の話題は、奈々の弟である将也について。 あまりにやんちゃな彼の存在こそが、2人が奈々の家では遊ばない最大の理由である。 元気がウリの美月ですら、一度相手をしただけで「やっぱ次から私の家にしよ」と口にせざるをえなかった。 「そんで全っ然謝ろうともしなかったから、もう思いっきり電気あんましてやったの! そしたらあいつ、半泣きで『ごめんなさい』って」 「へー?ホントに?」 美月は訝しげに訊いた。 小学3年生ということを差し引いても、将也は非常に騒がしく腕白な少年であった。 一方、奈々はどちらかといえば運動よりもこうしてゲームをしている方が似合う、 「ぽえーん」といった擬態語で表せるような少女だ。 なので、この話にはある程度の誇張があるのではないかと思ったのだ。 美月にしてみれば、奈々が「電気あんま」などというワイルドな行為をしているというのがそもそも意外である。 「本当だってばぁ!」 質問にこめられた疑念を敏感に察し、奈々は頬を膨らませて抗議する。 「あたしの電気あんま、そりゃもう凄いんだから。例えば…美月ちゃんでも泣いちゃうくらいかも」 「ないないない。それはないわー」 言いながらコントローラーを操作する。 「あー!」 テレビの中で、風船のような生き物が空の彼方へと蹴り飛ばされていった。 そして画面が切り替わり、「GAME SET」の文字が表示される。 「あたしのプリン様が……って、それよりも」 奈々はコントローラーを床に放り出し、体ごと美月に向き直った。 「ね、試してみる?」 「何を?」 「電気あんま」 奈々にしては珍しく、はっきりとした口調であった。 どうやら、その技術に関してはそれなりに自信があるらしい。 「んー……いいけど。面白そうじゃん」 意外な申し出に驚きはしたものの、美月は余裕の表情である。 今までの経験則から、自分が奈々に泣かされることなど有り得ない、と判断したのだ。 「あ。でも服が…」 そういって自分の恰好を見下ろす美月。 黒いTシャツに、ピンクの薄い生地のミニスカート。 Tシャツはともかく、スカートの方は皺がよってしまうだろう。 「脱げばいいじゃん」 「変態め」 「じゃあこれで」 奈々はすぐさま近くのタンスから黒いスパッツを引っぱりだし、美月へと押しつける。 そのスピーディな対応に、美月は思わず吹出してしまった。 「穿きかえるってこと?別にいいけど、そんなにやりたいの?」 「だってだって、信じてないんだもん。 それ、エアロビ教室用に買ったんだけど、まだ使ってないから」 「はいはい」 早く早くと急かされ、美月は立ち上がってスパッツに足を通し、スカートを脱いだ。 奈々はその間にテレビとゲーム機の電源を切る。